episode 118
戦いは終わった。
数十メートル四方の狭い公園内に、幾つもの獣の屍が転がっている。
動いているのは、ただ一人であった。
ようやくイマージングが解除となった春都は、少し離れた所に位置する休憩所へと近付いて行く。
軒下に設置されたベンチをそっと覗き込むと、秋希がすやすやと安らかな寝息をたてて眠っていた。
ひとまず胸を撫で下ろした春都は、思い出したかの様に通信機をオンにする。
「ナタリー」
『……ハイ』
呼び掛けから一拍置いて、聞きなれた電子音声が返ってくる。
「帰ったら、説教だぞ」
『……ハァイ』
ナタリーは、悪戯っぽく笑った。
「……遅いのう」
大谷は、偽装された商業バンのハンドルを握りしめたまま、さっきから何十回目となる言葉を吐いた。
春都と蔵敷の二人が潜入してはや5時間、空もだんだんと白み始めている。
『もし夜が明けても戻らない場合、俺たちはもうこの世にはいないものと思って下さい』
別れ際に春都が残した言葉が耳に残っている彼は、助手席に置いていた猟銃をぐっと握り締めた。
「今こそ、大旦那様への長年の恩をお返しする時!」
そう決意してドアを開けようとした瞬間、違和感を覚えた大谷は動きを止めた。
静寂に包まれた早朝の空気に混じって、微かな排気音を耳にした様な気がしたからだ。
その音は、だんだんと近付いてくる。
彼は、モノレールに沿って走っている道路に油断無く眼を光らせていた。
やがて、高幡不動方面から現れたのは、その風景に全く溶け込んでいない大きな黒塗りの高級外車であった。
かなりのスピードで飛ばしていたそれは、何故か動物園の前を通り過ぎる瞬間だけ、極端にスピードを落として行った。
気配を消した大谷がスモークガラス越しに見つめる中、外車の後部ウィンドウが半分程下がり、サングラスを掛けた白いスーツ姿の女性が姿を見せた。
しかし、車は停止することなく、やがてウィンドウが閉じられると同時に再び急激な加速による強烈なエンジン音を伴い、八王子方面へと消えて行った。
「……なんだ、ありゃあ?」
思わず車外に出てその不審車が去った方向を見送った彼は、本来の目的を思い出して踵を返した。
次の瞬間、彼の動きが止まり、口元が自然と綻んでくる。
「……また、派手にやられましたねえ」
「ん、まあね」
「ただいま、大谷さん」
動物園の正門から戻ってきた人物……少し足を引き摺った蔵敷と、ぐったりとした秋希を背負っている春都は、大谷の言う通り全身ボロボロになっていた。




