episode 111
身の丈は、優に3メートルを越えている。
秋希を背負いながら険しい坂道を上がって来ても、全くびくともしなかった肉体は、人間の予想しうる能力の限界を遥かに上回っていた。
「こいつは……相当な強敵だな」
何とか立ち上がった春都は、バッテリーが残り少ない為、ギリギリまで我慢していたイマージングを行った。
「……戦う前に、一ついいか」
巨大コアラから目を離さずに、ケビンは黒フードの影に問い掛けた。
「何故、自分の娘の身体を使っているのだ?……拝島!」
「ほう……なかなか知恵が回るボウズじゃないか」
拝島と呼ばれた影は、ニヤリと笑いながら覆っていたフードを取った。
中に隠されていたのは北野鍾子の顔をした少女であったが、歪に捻じ曲がった笑顔は、中年男性のいやらしいそれである。
「何故、鍾子が娘だと分かった?」
「あんたの研究室で、写真を見つけたんでね」
若き日の拝島に手を置かれた肩をチラリと見て、ぎこちなく微笑んでいる10歳位の少女。
どこかで見た気がしたのは、彼女の面影が今の北野鍾子に色濃く残っていたからだ。
「それに、彼女だけクローンが異常に多かった。特進クラス、学年一位という理由だけにしてはね」
「そいつは、少し違うな」
ここまで黙って聞いていた拝島は、かぶりを振る。
「貴様の話だと、自分の娘だから目を掛けている様な言い方だが、生憎そんな感情は全く無い。それに……」
彼は当然のように言った。
「鍾子はただの成功例だ。わたしはその『イレモノ』を利用しているに過ぎないよ」
「言ったな!!」
カッとなって飛び込もうとしたケビンの前に、巨大コアラが立ち塞がる。
「ビッグサム、遠慮はいらん。そいつをぶち殺してしまえ!!」
秋希を抱き抱えた拝島が命を下すと、激しい咆哮をあげたビッグサムが両腕を振り下ろして来た。
「くっ!!」
ケビンは咄嗟に、横っ飛びで避けた。
彼の後ろにあった灌木が、紙の様に切り刻まれていく。
それを見て、ケビンの体温はスッと下がった。
だが、ここで弱気になる訳にいかない。
ヨガを応用した自己催眠で正気を取り戻した彼は、左腕をシュッと突き出した。
「スターバック!!」
放物線を描いて飛んでいくエネルギー体は、自らとケビンを結んだ直線上に怪物が来た時点でピタッと止まる。
「Back!!」
瞬時にビッグサムに向かって真っすぐ突き進んでいった光の刃は、彼の表面に届く直前で弾き飛ばされた。
「何ッ?!
『オレニ……ソンナモノハ……キカナイ』
思わずぞっとするほど機械的な音声で、ビッグサムは答えた。
(成る程……強力なバリアーか)
人獣に対する構えを崩さずに、ケビンが呟く。
レーザー等を遮断するバリアーが相手では、エネルギー体の塊である『スターバック』は通用しない。
更に、『エアーハンド』などエアー系の武器も、彼の身体には当たるのだが全く効いていなかった。
「くそっ、どうすれば……」
焦っているケビンとは対照的に、ビッグサムは余裕の表情をもって近付いて来た。
胸の前で両手の指をコキコキと鳴らしている。
彼が放つ一撃はあまりにも強烈過ぎて、特殊バリヤードフェルトでも全てを吸収することは出来ない。
万策が尽きたケビンは、捨て身の戦法から何とか活路を見出そうと腰を低く落とした。




