episode 107
マレーバクが、一直線に鋭く突っ込んで来た。
鞄を抱えたままスウェイしてかわした蔵敷は、レイガンを発射する。
命中したかに見えたが、軽快なステップで巧みに避けられた。
『ふふっ、そんなチンケな小火器じゃあ、このマフー様は倒せないぜ!』
人獣マフーはそう言うと、鼻先からびゅっと水滴を飛ばした。
「溶解液か?!」
蔵敷は、手元にあった鉢植えを投げ付ける。
空中で液体に当たった瞬間、それはジュッと音をたてて蒸発した。
(まじーな、強いわこいつ)
先程数千匹の小動物を相手にした時よりも強い戦慄が、彼の身体を走り抜けた。
(さあて、どうすっかな)
『えるびす、いまーじんぐシタラ?』
突然ナタリーが出現したことで、蔵敷は驚いた。
「ナタリー、お前ケビンのバックアップはいいのか?」
『今ントコ大丈夫ミタイ。ソレヨリコッチガ不安ダモン』
「悪かったな」
蔵敷は少し不貞腐れたが、すぐに気を取り直して聞き返す。
「それよりイマージングだって? 俺も出来るのか」
『とりあえず予備の回線が開いてるの、そこから送信は可能よ』
「あとは受け手の問題か」
蔵敷は手元を見た。
一応特殊バリアードフェルトの発生装置は装着しているのだが、データを受信する通信機能が付属していない。
まごまごしているうちに、マフーが飛び掛かって来た。
慌てて躱した彼だったが、右足が残ってしまう。
マフーの身体に引っ掛けられた蔵敷は、地面の上を十数メートル吹っ飛んだ。
仰向けに倒れ込んだ彼の目に、園内案内図が飛び込んでくる。
それを見た蔵敷は、ふと名案が浮かんだ。
「よっしゃァ!」
勢い良く立ち上がり、道路を一気に突っ切る。
前方には動物の資料関係が展示してある『ウォッチングセンター』があった。
逃げ出したと思ったマフーは、勝負を決める為間髪入れずに後を追った。
レイガンで正面ドアを焼き切った蔵敷は、漆黒の闇に包まれた建物内に侵入する。
暫く辺りを見回した彼は、探していたものを見つけて、ニッと笑った。
それから数十秒後、けたたましい音と共にマフーが飛び込んで来た。
鋭い目つきで周囲に目を光らせる。
『何処に行った!!』
姿の見えない蔵敷に業を煮やしたのか、マフーは周囲の器物をダンダンと破壊し始める。
その時、通路の横手から呼びかける声がした。
「バークちゃん、ここだよー」
『ぶっ殺す!!』
蔵敷の小馬鹿にしたような言い方に、全身の血がカッとのぼったマフーは、声のする方向に走り出した。
次の瞬間、彼の耳に風切り音が響いてくる。
『危ねえッ!!』
本能でかわした彼の背中を掠めて、細長い物体が通り過ぎて行った。
そのまま走っていたら、上半身と下半身が生き別れていただろう。
『なかなか良い奇襲だったが、失敗だ。もう観念しろ』
油断無く構えたマフーが、奥の暗がりに向けて呼び掛ける。
すると、のっそりと黒い影が現れて口を開いた。
「いやー、あっさりと躱しちゃったのか。まいったなぁ」
次の瞬間、マフーは先程の攻撃以上の衝撃を受ける事になった。




