episode 104
サバンナ地区を突っ切った春都は、イマージングを解除すると、アジア園に続く山道を歩いていた。
ダーハが後を追ってくるかと思ったが、今のところその気配はない。
どうやら、念のため彼がわざと残したダミーの足跡に上手く引っ掛かってくれたらしい。
手首から、携帯端末のバッテリーを取り出して交換する。
予備のバッテリーはあと5個。
榊原燕鼠との決戦に備え、イマージングは慎重に行わなければならない。
頭の中で園内の地図を広げた春都は、次回は猛禽舎あたりで人獣との対決になると踏んでいた。
だが、いきなり前方に開けた場所が出て来たので、彼は思わず面食らった。
「……何だ、ここは?!」
その時、頭の片隅に引っ掛かっていた画像がふと蘇った。
それは、正門の券売機近くに貼ってあったポスターで、こう書かれてあった。
『チンパンジー園、新規OPEN』
(そうか、ここが)
そう思った彼は、再び目の前のスペースに目を凝らした。
木々を組み合わせて、アスレチックコースのようになったスペースに、無数の赤い光が宿っている。
その全てに強烈な敵意を感じた春都は、戦闘態勢を取ろうと端末を覗き込んだ……瞬間、全身に戦慄が走った。
電波の受信状態を示すアンテナが、一本も立っていなかったのだ。
「……なんてこった」
次第に包囲網を狭めてくる黒い影の群れを前に、春都は背中に冷や汗を感じながらも何とか身構えた。
キイッという声をあげ、黒い塊が飛び掛かって来る。
良く見ると、それは4、5頭の猿が固まったものであった。
「はあっ!」
横っ飛びに躱した春都の背中に、数十頭の牙が襲いかかる。
右手の気弾でそれを退けた彼は、改めて現在の不利な状況を痛感していた。
彼の装備は、イマージングしなければ使用出来ないものが殆どであった。
使えるものは、エアーランと右手のドライバーズグローブに仕込んだエアーハンド程度。
端末が圏外である現在、イマージングは全く出来ない事になる。
電波妨害を予測して、局地用特殊アンテナを準備していたのだが、エルビスの方に、何らかのトラブルがあったのだろうか。
現在戦っている猿軍団の中に、人獣が混じっていないのが唯一の幸いだが、状況が悪い事には変わりなかった。
(落ち着け……考えるんだ)
春都は周囲に目を配りながら、必殺の方法を考え出そうとした。
一方の猿達も、エアーハンドの威力を目の当たりにしたのか、少し距離を置いたまま彼を取り囲んでいる。
暫く膠着状態が続いた後、不意に春都の頭の中で何かが閃いた。
「よし!」
エアーハンドを強引に発射して包囲網の一角に穴をあけた彼は、坂道を一気に駆け上がった。
虚を突かれた猿達だったが、すぐに激しい叫び声と共に後を追い掛け始める。
まともに走っていては、獣に敵わない。
春都は、エアーランの出力をマックスに入れ、まさに宙を飛ぶ様な姿勢でアジア園へのゲートを通過した。
目的地まで、あと200メートル。




