episode 103
そのスピードは、ケビンが予想していたより数段早かった。
咄嗟に庇った両腕の上から、強烈な衝撃を受け、彼の身体は大きく傾いでいく。
「やべっ!」
右足を伸ばして、かろうじて壁面を引っ掛ける。
靴底のエアーランが起動して、彼は何とか別の塔に取りつく事が出来た。
『不便なものだな、何かに触れないと跳べないのか?』
にやりと笑うダーハは、嘲る様に言った。
「さあ、どうかな?」
表情を崩さずにとぼけるケビン。
だが、足場が悪いこの場所で戦うことは不利と判断し、道路へと跳躍しようとした。
『逃がさん!』
驚異的なスピードで彼の跳躍に追いついたダーハは、強烈なミドルキックで再びケビンを塔壁に叩きつけた。
「ぐわッ!!」
吸収しきれなかった衝撃が、ケビンの身体を軋ませる。
一瞬気が遠くなったが、ヨガの呼吸法を駆使して必死に意識を取り戻す。
(こいつ……強ぇ)
ライオンは、もともと攻撃力・敏捷性ともに高いものを有している。
これに人間並みの知能が加われば、まさに数十倍の戦闘能力を持つ事となる。
事実、ダーハの外見はライオンのそれと殆ど変わらない。
前回対戦したオーガの寄せ集め体型と比べて、非常にシンプルだ。
(これが、獣祠道の生み出す怪物の完成型って訳か)
再び不安定な足場に降り立ったケビンは、手元の通信端末を見た。
イマージングの強制解除まで、あと3分弱。
「そろそろ決着をつけないとヤバイな」
彼は背中に手を回し、そこに仕込んであった30センチ位の棒をスラリと抜いた。
片方の先を左手首に装着すると、ブウンという音と共に青白く発光する。
『小刀か、面白い』
ダーハは、挑戦的な態度を見せて言った。
『その刀がワシのはらわたを抉るのが早いか、ワシの牙が貴様の喉笛に噛みつくのが早いか、勝負と参ろう』
「望むところ」
ケビンは、スターブレードを前に構え、右拳は気弾を溜めながら飛び掛かって行った。
『遅い!』
一気に切りかかって来たケビンの身体をかわしたダーハは、鋭い爪を持った前足で殴りつけた。
「そりゃどうも!」
右手に仕込んだ気弾を手元に展開して、楯の様にそれを受ける。
着地したダーハは、おやという表情を見せながらも、やがてにやりと笑った。
『やるな、小童』
「オッサンもな」
『だが、燕鼠様の命により、お前をこの先に行かせる訳にはいかない』
(この先……ね)
ダーハの言葉に、春都は考えた。
(つまり、秋希ちゃんはここには居ないという事だな)
「悪いオッサン、俺降りるわ」
『なッ?!』
拍子を狂わされたダーハの目の前に、ケビンはすかさず圧縮空気の壁を展開する。
目の前の視界が奪われて怯んだ彼を置いて、ケビンは一気に塔を降りてダッシュした。
『おのれ、卑怯な!!』
ようやく目が慣れて来たダーハは、怒りで顔を真っ赤に染めて叫んだ。




