episode 102
ケビンは今、アフリカ園の半分を占めるライオンの檻を見下ろしていた。
普段は一般公開として、敷地内をライオンバスが巡回しており、彼等の生態を間近で観察する事が出来る。
バスの発着所でもあるモスク風の建物を眺めた彼は、ふと玉ねぎのような形をした塔の先端に、影が立っている事に気付いた。
目を細めて確認しようとしたが、すぐ側から聞こえてきた唸り声に気づき、視線を戻す。
彼は、いつの間にか前後を2頭、計4頭の獣に挟まれていた。
前はチーター、後ろはサーバルという種類だろう。
皆、真紅に染まった瞳をケビンに向け、獲物に飛び掛かる瞬間を狙っている。
「操られた動物か」
ゆっくりとそれらを見回したケビンは、コキッと指を鳴らして言った。
「まあ、ウォーミングアップには丁度いい」
その声が合図だったか、一頭のサーバルがシャアッという声を上げて飛び掛かって来た。
軽く横に流した彼は、右拳を握りしめる。
「エアーハンド!」
着地点を予想して放った気弾は、横腹に命中し、サーバルはもんどりうって倒れた。
間髪入れずに飛び込んで来たチーターの顔面に、手刀をたたき込む。
圧縮空気の爆発を受けたそれは、一回転して落下した。
同様に残る2体を片づけたケビンは、エアーランの出力を最大にして跳び上がった。
影のいる隣の塔に着地し、そちらに向き直る。
「あまり無駄な殺生はしたくない。この場所は、あんたを倒せば全て終わりそうだ」
『ふむ、いかにも』
影はゆっくりと立ち上がった。
月明かりの中、その姿が徐々に判明していく。
『ただし、我を倒せたらの話だ』
二本足で立った雄ライオンが、不敵な笑いを見せて言った。
『我が名はダーハ』
ライオンは胸を張って言った。
『このシマを取り仕切っている』
(ボスって事が……)
ケビンは理解した。
百獣の王と呼ばれる獣達の中のナンバーワン、実力は充分にある筈だ。
『因みに貴様が落ちたら、下で待つ同志達の夜食になる事が決まっている』
そう言われて下を覗き込んだケビンは、暗闇の中幾つかの紅い光がこちらを見上げている気配に気がついた。
「戦う前に、一つだけいいか?」
『ん、何だ?』
攻撃の構えを緩めないまま、ダーハは続きを促す。
ケビンは、真面目な顔で問い掛けた。
「篠原秋希は、何処に居る?」
「……誰だ、そいつは」
一瞬動きを止めたダーハだったが、やがて返事代わりに唸るような右ストレートを放った。




