episode 101
春都の取ったルートは、一見したところ一番危険なルートに思えた。
しかし、結果としてそれが敵の心理を逆についた事になる。
改装中である昆虫館を難なくパスした彼は、アフリカ園へと続くゲートを登った。
夜間の動物園に、明かりは殆ど無い。
赤外線スコープの機能によって視界は良好なのだが、底知れぬ闇は人間の恐怖心を誘い、神経を確実にすり減らしていく。
春都は、睡眠学習により会得した上級ヨガの呼吸法により、精神安定を図っていた。
(獣祠道は、昆虫には通じないんだな……)
受け入れる脳の側に問題があるのだろうか、などと考えながら、彼はアフリカ園の敷地に降り立った。
(さあ、ここから本番だ)
彼は、左手に装着された無線通信機を見た。
電波の受信状態は三本柱である。
(インベンションモード、オン!)
思考下でコマンド入力した彼の手首で、通信機の画面がぼうっと光る。
(ナタリー、AA戦闘装備でイマージングだ)
『リョウカイ』
数秒後、春都の身体が虹色の光に包まれていく様子を、鉄柵に止まったワライカワセミがじいっと眺めていた。
秋希は、深い眠りから目を覚ました。
しばらく意識を無造作に漂わせていた彼女だったが、数分後、ようやく周囲の輪郭がはっきりしてくる。
「……ここは、どこ?」
薄暗い辺りを見回した秋希は初めて、自分が一糸纏わぬ姿でベッドに寝かされている事に気がついた。
「やだっ!」
真っ赤になった彼女は起き上がり、足元にあった白衣を手早く着込んだ。
目が慣れて来たのか、まわりの状況がだんだんと分かってくる。
そこは、6畳ほどの小さな部屋だった。
四方をコンクリートに囲まれ、上のほうに明かり取りの小窓が一つあるのみだ。
気のせいか、そこから漏れてくる不思議な匂いが、彼女の鼻に妙に引っ掛かった。
(何か、野性的な感じ……)
そこで、彼女はベッドの上に登り、爪先立ちで小窓を覗き込んでみた。
しかし、そこから見えたのは、窓枠一杯に広がったグレーの絨毯らしきものであった。
おそらく、外の風景を見せないため意図的に被せているのであろう。
意地になった彼女は、強引にそれを引き剝がそうと手を掛けた。
「えっ?!」
ぐにゅっ、という妙な音と感触に、その絨毯がブルブルと震えはじめる。
秋希が慌てて手を離したことで一瞬視界が開けたが、次の瞬間、窓枠一杯に大きな瞳がヌッと広がった。
「!」
いきなり現れた異様な光景に言葉を失った彼女は、再び意識の底へと落ちて行った。




