閑話 アンブローズ・フォン・エストリエ伯爵閣下のモノローグ
「ダンジョンボスになったら、強い冒険者とたくさん戦えるし、魔石もダイヤの原石も取り放題で、質のいい魔力が味わえるわよ。」
はるか昔、そう言って女神は私たちを深くて暗い地下に押し込めた。
押し込められたとは言っても、封印されたわけではなく、一定の期間内は自由にダンジョンから出ることも可能だった。
脳筋で歴戦の猛者と戦うことが何よりも好きな黒龍ニーズヘッグは嬉々としてそれに応じ、不平不満を言いながらも九尾の妲己はダンジョン内部のモンスターたちを掌握して女王として金銀財宝を貢がせて悦に入っていた。
私――アンブローズ・フォン・エストリエ伯爵――は、暇つぶしに惰眠を貪り、配下のアンデッドたちを操って冒険者たちの魔力を奪って糧にした。
***
ダンジョン地下、最深部とは思えない、豪華絢爛な部屋で妲己はしどけない姿で人化したニーズヘッグと杯を酌み交わしていた。
しかし、ニーズヘッグはにわかに立ち上がると、ニヤリと口元を歪めた。
そんなニーズヘッグを一瞥して妲己も立ち上がった。
「お化粧直して、ハヤト様とケント様のお出迎えの準備をしなくちゃ!」
尻尾をゆらゆらと揺らして上機嫌だ。
どうやら二人とも、我が愛しのショータとその配下の者である勇者と大賢者たちがこの最深部にたどり着いたことに気づいたらしい。
「お待ちください。」
「何よぉ。」
「何だ?」
「今、扉の色は真紅。つまり、出迎えは私の役目。」
「はぁ~ちゃっちゃとやられておしまい。」
「はあ、こういう時、女神が定めた法に縛られるのはじれったいものだな。まあいい、英気を養っておくか。」
「先陣は、この若輩者にお任せ下さい。」
私はそう言うと、年長者である二人に礼儀正しく一礼してから自分のテリトリーに転移した。
今回は初めて感じる若くて良質で美味そうな魔力の者が何人か混じっているから楽しみだ。
私は扉が開く瞬間を今か今かと待ち構えた。
「・・・・・・」
隠し部屋にいた神剣フェネクスはもういないし、邪魔な祭壇も台座も消して扉がすぐ目に入りやすくなっているというのに、ショータがなかなか扉を開けてくれない。
――もしかして、今日はスルー?
千里眼で扉の向こうの隠し部屋も様子は丸見えで、ショータが率いる大人たちはヒソヒソと話し合い、子供たちが楽しそうにキャンプの準備をしている。
「・・・明日の朝、早く来るつもりですか?」
そうだ、移動の疲れを取ってからに違いない!
――それにしても、みんな美味そうですね。
子供たちは全員、高魔力保持者で、古の勇者の血統らしく、滲み出ている魔力の色も美しい。
この子供たちの魔力はどんな味がするのでしょう?
甘露のように上品で甘やかな味でしょうか?
それともスパイシーで刺激的な味?
私は子供たちをじっくりと観察した。
しかし、その中に、白く丸々としたモノが見え隠れした。
キュートではあるが、好みではない体型をしている。
ぽっちゃりしすぎて美しくないから、この子供は却下だな。
あと、黒髪の娘は歪なモノに憑りつかれているな。
娘の背後のモノは得体が知れないし、危険な気配もするからその宿主っぽい娘も却下だ。
――さわらぬ神にたたりなし、って昔ショータが言っていましたね。
ショータは見た目も魔力も極上だ。
ショータの魔力を毎日貰えるなら、どんなことでもするからと膝をついて願ったこともあったが、勇者と大賢者に消されそうになって諦めた。
仕方ないので、年に何度か訪れるショータの孫のジャンを揶揄って遊んでいる。
ジャンは感情が駄々洩れで揶揄うと面白いし、ショータには劣るが魔力も極上だ。
ただ異界の悪魔を異形な剣に封じて使役しているから、気をつけないとこちらが喰われる。
まあ、その命掛けの駆け引きも楽しいのだけれど。
――残りの三人は甲乙つけがたいですが、色違いの双子はニーズヘッグと妲己の好みでしょうから残しておかないと煩そうですね。となりますと・・・槍使いですか・・・
美形ではあるが、子供たちの中では一番大きくて筋肉量も多そうだ。
――惜しいですね。もう少しスリムな方が好みなのですが・・・まあ、今回は仕方ありませんね。
**おまけ オスカー君とアンディ君(背後に同担拒否の聖剣の精霊憑き)**
「クシュンッ」
「オスカー、風邪か?」
「いや、何か悪寒が・・・」
「ああ、何か毒々しい色の扉だもんな。真紅の扉は吸血鬼だっけ?」
「吸血鬼より黒龍と戦いたいよな。」
「俺は九尾を見て見たいな。」
そう言ってニヤニヤするアンディの背後で目を座らせるミセリコルデことルディの様子に、オスカーは更に悪寒を募らせた。
「・・・まあ、ランダムらしいけど、同じ扉は続けて出ないらしいし、次に期待しようぜ。」
「妲己ってさ、ボンキュッボンのお色気ムンムンの美女だってショータ様が言ってたんだけど、オスカーはそういう感じ好き?」
「いや、俺は見た目より中身だな。」
「そうなんだ? 俺はシャルルの母上か、マリーのように綺麗で可愛くて奥ゆかしいのがタイプなんだよな。でも、目の保養にボンキュッボンのお色気ムンムンの美女も見てみたいよな。」
「アンディって時々おっさんみたいな事を言うよな・・・」
「俺は大人の男だからな。」
「はぁ・・・シャルルの母上はわかるけど、マリーって誰?」
「俺の母親の愛称。」
「お袋さんを名前で呼んでるのか?」
「ああ、だってうちのマリーは見た目が若くて可愛いから、母上って感じじゃないしな。」
「・・・マザコン・・・?」
「かもな。今のところ、世界で一番大事な女はマリーだけだし。でも、いつか、気立てが良くて料理上手な可愛いお嫁さんをみつけるんだ。」
「へぇ・・・ソウナンダ・・・」
オスカーはアンディの背後で嫉妬でムキ―ッとなっているルディを複雑そうな眼差しで見やった。
お互い苦労するよな? とでも言うかのように。
――アンディの恋愛対象が女子固定なのがなぁ・・・でも、諦めないけど・・・
オスカーは溜息をつきつつも、アンディと一緒にいられる時間を無駄にせず、アンディのことをもっと知ろうと彼女の他愛ない話に耳を傾けるのだった。
アンディ君は前世シスコン、今世はマザコンなのですよ。




