第6話 ダンジョン始めました 5
ダンジョン二日目は、昨日の疲れが残っていて少し怠かったけれど、昨日と同じくらいのモンスターを倒すことができたんだ。
筋肉痛とか、初めてだから、その怠さや痛みも新鮮だった。
これに慣れたら体力も少し増えるだろうし、筋肉もつくかな?
夢の細マッチョに少しだけ近づけたと思うだけで、楽しい。
「先代様の妖刀、受け継いでいないんですね。」
僕の戦い方を見て、ぽつりとそう呟いたのは、僕の曽祖父の大賢者ケント様を慕う魔法騎士団長のニコラウスさんだ。
「おじいちゃまの妖刀はジャン叔父上が受け継いでますから。それに僕には魔剣とか妖刀の類は無理ですよ?」
「先代様は普通に触っていたから、次代様も平気じゃないのですか?」
「触るのは、平気ですけど、重くて持てません。腕力無いので。」
「身体強化はできないんですか?」
「まだ修行中で、お勉強することが多くて、身体強化まではできてないんです。普通の短剣を30分以上持って振り回しても大丈夫になったら教えてもらう予定です。」
「あ~、基礎体力や武術の基礎ができていないと、身体強化を解除した後の反動に耐えられないかもしれないですからね。体力も武術の基礎も、身に着けるまでの過程は個人差がありますから、一朝一夕にはできないですよね。」
「そうなんですよ。僕、小さい頃は魔力が詰まっていたせいで魔力の放出がうまくできなくて、そのせいで体が重くて思うように動けないでいたので、同じ年頃の子たちより体力が無くって・・・」
「魔力詰まり、ということは、魔力過多症だったんですか?」
「そうなんです。」
「あれは、辛いしキツイですよね。私も魔力過多で詰まり気味だったので、家族総出で魔力の通りが良くなるように助けてもらいました。」
「魔法騎士団長さんも?」
「はい。次代様、私のことはどうぞニコルと呼んで下さい。」
「じゃあ、ニコル君、僕の方もシャルルって名前で呼んで下さい。」
「君呼びは、なんだか新鮮ですね。」
「あ、すみません。聖騎士団では団員の皆さんたちのことを君付けで呼んでいるので、つい・・・」
「ふふふ、君付けで大丈夫ですよ。私もシャルル君、って呼んでもいいですか?」
「はい!」
ニコル君とは仲良しさんになれたっぽい。
ニコル君は魔法騎士さんなせいか、ケント様やジャン叔父上のような雰囲気があって、団長さんたちの中で一番親しみやすいかも。
僕は僧侶として冒険者活動をしているんだけれど、僧侶は武力もある程度必要だから魔法騎士とは共通点が多いんだよね。
日替わりでやって来る各騎士団の団長さんたちは、おじいちゃまに言われた通り、黙って僕らの活動を見守ってくれた。
毎日一緒に移動している騎士団の事務官の二人とその護衛で付き添っている騎士団員の二人とも挨拶や雑談を交わせるようになったんだ。
事務官の二人はメラニーさんとフォルカーさん。
メラニーさんは多分、僕の母さまくらいの年代かな? 騎士団の事務次官で騎士団では団長さんの補佐役をしているそう。
フォルカーさんはメラニーさんの部下で、「危険回避」という防御系の特殊スキル持ちなので、騎士団の遠征やダンジョンでの活動時の事務方として同行することが多いそう。年はギリギリ20代だって言ってた。
護衛の二人はヨアヒムさんとロベルトさん。
ヨアヒムさんは騎士団の第一分隊の隊長さんで、40代くらいの渋いイケオジなんだ。
ロベルトさんは新人さんなのでまだ18歳なんだ。「探知」のスキル持ちで、斥候や調査向きということで、経験を積むために抜擢されたんだって。
「入隊したばかりの新人なのに、こうして大ベテランの勇者様のパーティーと一緒に行動できるなんて夢のようです!」
ロベルトさんは最初は緊張しててカチコチしてたけれど、今はすっかり慣れて僕たち子供チームはもちろん、おじいちゃまたちにも話しかけられるようになったんだ。
ヨアヒムさんとロベルトさんは朝と休憩時のハヤトさまのトレーニングに加わり、メラニーさんとフォルカーさんはおじいちゃまとケント様と一緒にダンジョン内マップに変化が無いかとか、エンカウントするモンスターに異常が無いかを確認しながらボールペンでメモを取っていた。
この世界の文房具は前世の世界のものに似ている、というか、同じものが結構あるんだよね。
ボールペンの他には、万年筆、つけペン、鉛筆、消しゴム、ノートやバインダーもあるんだよ。
そういえば前世の僕はお手頃な値段の万年筆を何本か持ってたんだよね。
定番の黒やブルーブラックと赤の他に、ピンクとか紫とか青、黄色、緑のインクカートリッジもあって、カラフルで、ボールペンほど力をこめなくてもスラスラ書けるのが良かったんだ。
握力とか、筆圧とか、弱かったからね。
流石にこの世界ではインクカートリッジは無くて、インクを軸の方にスポイトで入れるアイドロップ式の万年筆が多いんだ。
さすがにスケルトン素材のペン軸はまだないから、ボールペンも万年筆もインクの交換とか補充のタイミングが分かりにくいんだよね。
誰か、スケルトン素材の万年筆、作ってくれないかな?
紙の方は、植物製のものと羊皮紙が混在しているんだ。
羊皮紙は高級品で長期保存ができるから、契約書とか、証明書とか、公的文書なんかに使われているんだ。
今回の調査でメラニーさんとフォルカーさんはクリップボードにメモ帳を挟んで、細々と色んなことを書き込んでいた。
どんな些細なことでも、後で振り返った時に何かと繋がることがあるんだって。
「騎士団の事務さんって奥が深いんですね。」
「現場での事を見知ってないと正確な書類はできないですから。だから事務とはいえ、私たちも自分の身は自分で守れるくらいの実力はありますし、訓練も受けているのですよ。」
「まあ、でも、調査中は背後に目が届かないから、こうして護衛がつくわけでしてね。」
「安心して背中を任せられる仲間がいるのは心強いものです。」
「ロベルトは新人でまだ頼りないけどな。」
「ええ、酷い!」
「今回はハヤト様やケント様がいるから、ロベルトも安心して護衛の何たるかを学べという上からの期待だよ。」
「そうでした! 騎士団の未来は俺の双肩にかかっている!!」
「調子に乗って、期待外れにならないようにな。」
「肝に銘じます!」
余談
最近、作者は文房具沼に片足を突っ込んでしまったので、シャルルの前世の聖くんを沼のお供にしてみました。




