第4話 ダンジョン始めました 3
一時間もしないうちに大人たちの話し合いが終わって、ようやくダンジョンの中に入ることができた。
先行――前衛はオスカー君とランス兄上、その後ろは僕を真ん中にアンディ君とメルク兄さまが両脇を固めてくれた。
僕らの後方は騎士団の事務官さんとその護衛役の騎士さんが二人ずつで、最後尾はおじいちゃまたちと今日のシフトを勝ち取った近衛騎士団長のハインリッヒさん。
ハインリッヒさんはハヤト様のファンらしく、ハヤト様の横顔をうっとりと見つめながら器用に歩いているんだ。
ダンジョンの序盤は、レベルが低いモンスターが出るはずなんだけれど、みんな蜘蛛の子を散らすように逃げたり隠れたりで戦闘にならなかった。
「何も襲い掛かってこないね・・・」
「勇者と大賢者がいるから、本能でヤバイってわかってるんだろうね。」
「なるほど・・・」
「でも、これじゃあルル坊の訓練にならないなぁ・・・勇人、賢人、殺気を仕舞ってよ。」
「「だが・・・」」
「過保護すぎ!」
「「・・・仕方ないな・・・」」
不意にハヤト様とケント様の気配が消えた。
側にちゃんといるんだけれどね。
そしてお二人の気配が無くなっただけで、さっきまで逃げたり隠れたりしていたモンスターたちとエンカウントするようになったんだ。
「ゴブリンだな。」
ゴブリンは緑色の肌をした小鬼で、群れになるとダンジョンの中に村みたいなのを作ってどんどん繁殖してしまうから厄介なモンスターなんだよね。
その生態は蜂とか蟻に似ていて、メス一人の逆ハーレムみたいな形態なんだ。
だからゴブリンの巣を見つけたら必ずメス――女王を退治するのが定石なんだって。
「一匹だけだし、シャルルが退治するか?」
前衛のオスカー君が声をかけてくれた。
今日の聖騎士のリーダー役はオスカー君なんだ。
明日はアンディ君がする予定で、兄たちと四人で一日交替制なんだ。
「はい!」
僕はカドケウスを構えて呪文を唱えた。
「Obiex! |Ignis sacer《聖なる炎》!」
僕はゴブリンを結界の中に閉じこめて聖属性の浄化を混ぜた炎の魔法で焼き尽くした。
一瞬で燃え上がらせて灰になるまでほんの数秒だから、この魔法で退治されたモンスターは熱も痛みも苦しみも味わうことはないんだって。
この複合的な魔法は聖属性の魔法のランクがA以上でないと使えないし覚えられない魔法で、アンデッドモンスターに対してものすごく効果がある魔法なんだよ。
ただ、物凄く燃費が悪くて、初級の炎魔法のファイヤーボールで消費する魔力量が10だとすると、|Ignis sacer《聖なる炎》はその50倍の500もの魔力量が必要になるんだ。
ただ「聖者」や「聖女」以上の称号があれば、レベル次第で魔力の必要量が半分以下になる特典があるんだ。
僕の場合は「教皇」の称号の特典で消費魔力が50くらいで使えるんだ。
ショータおじいちゃまは称号にプラスしてレベルが高いから25くらい。
ジャン叔父上は「魔力吸収」の特殊スキルも持っているから、アンデッド系で魔力をたくさん持っているレイス系を素手で殴って魔力を根こそぎ奪ってから燃やしているんだって。
だからプラマイゼロで使い放題にできるらしいよ。
そんなことを思ったからなのか、ゴブリンの次に現れたのはレイスだった。
レイスは簡単に説明すると「幽霊」とか「悪霊」の類で、実体を持っていない。
でも魔力をたくさん持っていて、魔石とか魔核をドロップすることがあるんだ。
叔父上は、少し前はこのレイスをたくさん狩ってドロップした魔石や魔核を恋人の魔女さんに貢いでいて、見かねたバーナードさんにいつもお説教されてたんだよね。
「俺もジャンみたいに魔力吸収あれば殴れるのになぁ・・・残念だ。」
ハヤト様が本当に残念そうにそう呟いて恨めしそうにレイスを見つめていた。
勇者様にも苦手な属性があるんだね。
まあ、一人で何でもかんでも倒せるならパーティーメンバーとかいらないもんね。
得手不得手を補い合って協力し合ってのパーティーだもんね。
「これもルル坊が一人で倒せるやつだね。」
「はい、頑張ります!」
僕はカドケウスを振りかぶってレイスに向かって振り落とした。
「汝の在るべき場所に返れ――Reditus ad Caelum!」
レイスはカドケウスに触れると、一瞬だけ激しく光って燃え尽きて消え去った。
床にはレイスの紅い魔核が一つだけ落ちていた。
「レイスも無事に成仏したし、一対一は合格だね。後は複数同時にどのくらいの範囲でできるのか確かめたいね。」
「この辺はまだ浅いから、集団化しないで単独の奴ばっかりだからな。」
「いきなりは可哀そうじゃないか? ゾンビの群れに囲まれたらルルが怯えるかもしれないし。」
「あ~確かに・・・一対一なら耐えられる見た目でも、集団化したのに囲まれたら気持ち悪いよな。」
「やはり、いきなりよりは地道に一層ずつ下って行くのがいいんじゃないか?」
「そうだね。少しずつ慣れさせないと。」
「それもそうだが、本人の意見は?」
「ああ、それが一番大事!」
「ルル坊はどう思う?」
「いきなりたくさんは自信が無いから、少しずつ、地道にお願いしたいです。」
「OKOK」
初日は一人で15匹くらい倒したところで地下5階の安全地帯の隠し部屋でキャンプすることになった。
15匹も倒したのは初めてだし、いっぱい歩いたからクタクタになっちゃった。
みんな学園にいる時のように僕を抱っこしようとしてたんだけど、おじいちゃまに怒られてしまったんだよね。
「お前ら全員、何考えてんだ? ルル坊の体力があんまり上がらない原因はお前らじゃないか!」
「「「「「でも・・・」」」」」
「でもじゃない! ルル坊の護衛から全員外すぞ?」
「は?」
「え?」
「うそ!」
「マジ?」
「「ええぇ・・・」」
「ルル坊、大変だろうけど抱っこ禁止な。」
「はい! 僕、一人で歩けるし、頑張ります!」
「でも、体力が少ないのは事実だから無理はするんじゃないぞ? もしもの時は僕が抱っこするからね。」
「はい、おじいちゃま!」
「今日はもうこれで終わりだし、いっぱい歩いたから、仕方ないから僕が抱っこしてあげるよ。」
仕方ない、と言いながらおじいちゃまはニコニコとご機嫌な様子で僕を抱き上げた。
「重くないですか?」
「大丈夫、重くないよ。まあ、重かったとしても、僕、身体強化できるし、楽勝!」
本当にクタクタで歩くのも億劫になっていたから、このタイミングでの抱っこは正直、助かったんだ。
いつもは、特に疲れてもいないのに、みんなが競うように抱っこしに来てて、その迫力に押されて断り難かったんだよね・・・
夕飯はハヤト様とケント様が大人買いしてたワタルくん特製焼きそばパンを食べたんだ。
お腹ペコペコだったから、あっという間に食べ終わってた。
お腹がいっぱいになると眠くなるよね。
ウトウトしていたら、おじいちゃまからの指示でアンディ君が僕をテントの中の寝袋の中に運んでくれた。
「明日もたくさんモンスターを倒せるように頑張ろうな。」
「うん・・・ありがと・・・アンディ君。」
「お休み。」
「おやしゅみなしゃい・・・」
ちゅって、なにか柔らかくて優しい感触がおでこにあったんだけど、それがなんだったのかわからないまま僕は深い眠りについた。




