第1話 新しいメニュー
まったり学園生活をエンジョイしている今日この頃。
学食に新メニューができたということで、夕食はみんなで新メニューを食べることになったんだ。
何故かというと、この新メニューのレシピを考案したのが先代の教皇様だからなんだよ。
先代様のおうちの「おふくろの味」を再現したものなんだって。
メニュー名は「エミちゃんの素敵なハンバーグ定食」
ええとね、「素敵な」はステーキとかけていて、親父ギャグと言うか、駄洒落らしい。
「えみちゃん」は先代様のお母様の名前なんだって。
「えみちゃん」から始まるメニューは定食の他に丼物も何種類かあって、どれも育ち盛りの男子に大人気。
そして、テイクアウト用の総菜パンのラインナップには「ワタルくん特製」という名前がついているものがあるんだ。
ベスト5は、
ワタルくん特製カツサンド
ワタルくん特製焼きそばパン
ワタルくん特製唐揚げドック・タルタルソース仕立て
ワタルくん特製コロッケパン
ワタルくん特製メンチカツバーガー・からしマヨネーズ仕立て
「ワタルくん特製」も先代様が再現したメニューで、「ワタルくん」は先代様のお父様の名前なんだ。
えみちゃんとワタルくんは、喫茶店と手作りのパン屋さんを経営していたんだって。
ハヤト様とケント様は先代様の御両親のパン屋さんの総菜パンと喫茶店の日替わりランチメニューが大好物で、お二人と先代様は、先代様のご両親のレシピと高校時代に好きだった総菜パンをこの世界でも食べてみたくて、再現を頑張ったんだって。
そして今日は特別に先代様が厨房でハンバーグ定食を作ってくれているんだ。
先代様は、たまにこっそり学園の厨房でコックさんを臨時ですることがあるんだって。
もちろん正体を隠して、ただの臨時アルバイトのベテランコックさんとしてだから、ナイショね。
給仕スタッフさんが人数分の定食の他に、「ワタルくん特製」のテイクアウト用の総菜パンを大量に運んで来た。
ハヤト様とケント様は、その大量の「ワタルくん特製」の総菜パンたちをサッと亜空間収納の中にしまい込んだ。
「大人買いだ・・・」
思わずそう呟くと、ハヤト様が僕の頭をそっと撫でてくれた。
今日、僕の両隣は兄たちではなく、ケント様とハヤト様に埋められているんだ。
「近いうちに遠征があるから、非常食なんだよ。」
「遠征があるんですか?」
「ああ。スタンピード抑制の為に、ジャンが様子見しつつ狩ってるダンジョンで事件があったんだ。」
「事件?」
「冒険者チーム内での暗殺事件なんだ。とある冒険者チームのメンバーの一人が実は貴族の後継者で、その後継者を消したい親族が他のメンバーを買収して、後継者を暗殺しようとして失敗したんだ。」
「もしかして聖騎士案件になったんですか?」
「ああ、その後継者、黒豹の獣人だったんだよ。しかもアゼルスタンの伯爵家の後継。」
「え、それって・・・」
「何年か前に、君たちが小規模スタンピードで救った獣人族の村にいた子だよ。」
――え、もしかしてヒロイン君?
「まだ、命狙ってる人がいたんですか? それに伯爵家から廃嫡とか除籍になっていなかったんですか?」
思わずそう聞くとケント様が溜め息交じりに答えてくれた。
「伯爵家の当主が廃嫡も除籍もしてなかったんだよ。だから黒幕は前回と同じ。あの女、平民になったはずなのに協力者がいたみたいでね。2回目だし、今回はきちんとアゼルスタンの方で処分されたよ。」
ケント様が笑顔でそう言ったんだけど・・・処分って、つまり・・・処刑ってことだよね?
「あれ、でも、アゼルスタンって獣人差別が凄い国なのに、貴族の後継が獣人なのは大丈夫なんですか?」
「あの国、豹だけは特別なんだよ。アゼルスタンの建国神話の神獣でシンボルは豹だからね。他種族の獣人は差別対象だけど、豹獣人だけは差別されていないんだ。だから、神獣の化身でもある豹獣人、しかも貴族の子供を二度も殺そうとしたから、いくら元貴族でも許されなかったのさ。」
「ダブルスタンダード、ってことですか?」
「そういうこと。でもアゼルスタンが特別視しているのは豹獣人だけだから、フルール王国みたいに雑多に獣人との混血が進んでいる国を酷く嫌っているんだよね。」
「じゃあ、僕たちの教皇国も混血が多いから、嫌われているの?」
「意外にそうでもないよ。何せ、大公家は勇者の家系だし、アゼルスタンは勇者が大好きな国だからね。」
「そこもダブルスタンダードなんですね。」
「そうそう。それで、暗殺されそうになった子息をジャンが保護することになったんだ。本当はBランク冒険者だから保護する必要は無かったんだけどな。でも、その子息が神剣の持ち主になってしまったのと、ジャンに懐いてしまって離れなくなってね。そのせいでジャンが好き勝手に動けなくなったから、代打で神剣が無くなったダンジョンの調査に駆り出されることになったんだ。神器が無くなったことで変化があるかもしれないからな。そういうわけで・・・」
ケント様はそこまで言うと微笑んで僕たちの顔を見回した。
「いい機会だし、君たちも遠征に組み込んでおいたから。」
「ダンジョンに行けるんですか!?」
「俺とハヤトが引率だよ。」
――勇者様と大賢者様の引率でダンジョン!
僕のテンションは爆上がりだ!
「ルルはまだダンジョン未経験だもんな。」
「「炎のダンジョンはアンデッド系の階層があるから経験を積むには絶好の場所だよね。」」
オスカー君と兄たちの言葉に僕は笑顔で何度もウンウンと頷いたのだった。
あ、
お話に夢中になっていて、まだハンバーグを一口も食べてなかった。
アツアツだったのがちょっと冷めてしまったけれど、猫舌の僕には丁度いい温度になっていた。
ナイフとフォークで真ん中から切り分けると、肉汁が溢れて美味しそう!
一口大に切り分けて口の中に運んでゆっくり味わうように咀嚼した。
「美味しい・・・」
なんだかとても懐かしい気持ちになって、涙が出ちゃった。
「ルル、どうした?」
「とっても美味しくて、懐かしい味がして、感動しちゃった。」
「そうか。」
ケント様が僕の涙をハンカチで優しく拭いてくれた。
「冷めないうちに食べよう。」
「はい!」
**とある夫婦サイド**
「ハンバーグ、久しぶりだね。」
「うん、なんか急に作りたくなって。」
「聖もだけど、聖太君も好物だったよね。」
「うん。今頃、天国で聖と二人でハンバーグ作って食べてそう。」
「勇人君と賢人君も一緒に食べてそうだよね。」
「あの双子たち、聖太にいつもくっついてたからね。まさか修学旅行中に事故で三人一緒に死んじゃうなんて思いもしなかったよね。」
「あの三人が一緒にいてくれたら、天国で聖も面白おかしく暮らせてるよ。」
「そうだといいなぁ・・・」
「きっとそうだよ。」
「うん。・・・あ・・・」
「どうしたの?」
「破水したっぽい。」
「ええ!どどどどどうしよう???」
「パパはタクシー呼んで。私は産婦人科に電話するから。」
「了解です!」




