幕間 ヒロイン(♂)とおじさんとおじいちゃま
「じいちゃん、いる? 俺だけど~」
ジャンがそう言いながら修道院の扉を叩くと、扉の向こう側から聖太の応答があった。
『俺、ってどこの俺さん?』
扉を開けもせずにそう言う聖太にジャンはムッとしながら
「俺だよ! あんたの孫のジャンだってば!」
と、少し乱暴な口調で叫ぶように言った。
すると扉の向こう側から聖太が負けずに大きな声で受け応え、二人の扉越しの会話はヒートアップしていった。
『ジャンは今頃はダンジョンにいるはず!』
「急用でスクロール使って転移して来たんだけど!!」
『オレオレ詐欺じゃなくて、本物なら合言葉を言いなさい!』
「は? あのこっ恥ずかしい科白を言えと? ちょっとドア開けて顔を確認すればいいだろうが!」
『僕と双子コーデできる年代に戻って~言ってくれないと~ドアを開ける勇気がでないなぁ~』
「ぐぬぅ・・・」
『さあさあ、早く変幻して~言っておくれよ~』
――クソジジイ!
ジャンは心の中で悪態をついた。
言葉にしないのは、そう言ったら最後、もう一人の祖父と大伯父にあたる大賢者と最年長勇者の怒りを買いかねないからだ。
――そうなったら最後、正座で何時間も説教を受ける羽目になるし、最悪、双子コーデとかで俺だけ女装させられる。
ジャンは最悪のパターンを想像してしまい、深呼吸して覚悟を決めた。
「師匠?」
心配そうにジャンを見つめるマリウスが視界に入る。
今から言う科白を聞かれたくないし、変幻する姿も見られたくないが、仕方ない。
「この修道院の院長は変人なんだ。しかし、多分、お前の力になってくれる実力者でもある。だから、俺が今から見せる姿とか、言葉とか、できれば忘れて欲しい。」
「はあ?」
ジャンは妖刀ムラマサの柄を握ると、大量の魔力をムラマサに注いだ。
すると、ジャンの姿が消え、ジャンがいたはずの場所には10代前半位の少年が立っていた。
「――!!」
マリウスは少年の姿を見て驚きのあまり言葉に詰まった。
そして、少年の視線に合わせるように跪き、涙を流した。
「・・・そんなに似ているのか?」
子供から、大人の、ジャンの声がしたが、マリウスは気にすることなく何度も頷いた。
「俺は、お前のルル様じゃないぞ。」
「ルル様にも似てるけど、それ以上に・・・」
「?」
「ひじり・・・」
「ひじり?」
「え、もしかして記憶持ちなのか?」
いつの間にか扉を開けて外に出ていた聖太が、若返ったジャンを羽交い絞めするような格好で後ろから抱き着いていた。
「じいちゃん!」
「ノンノン、おじいちゃま、だろ?」
「・・・おじいちゃま、神剣フェネクスの契約者のマリウスを保護しました。」
「ようこそ、マリウス君。それとも、千影君、って呼んだ方がいいのかな?」
「え?」
聖太の言葉に、マリウスはジャンの肩越しに聖太の顔をマジマジと見つめた。
「バザーの売り子の聖者のおじいさん? 何で、俺の名前知って・・・」
「・・・二度目まして、僕は宇佐美聖太。この世界に召喚された勇者のオマケで、一応、先代の教皇。そしてジャンの祖父で、千影君と縁があった百瀬聖の叔父だよ。」
「聖の叔父さん?」
「僕は聖くんの母親の実弟なんだよ。聖くんが産まれた直後に異世界――こっちの世界に連れて来られて、60年程経ってる。」
「え、じゃあ、師匠は聖の従兄弟の子供?」
「そういうこと。ジャンの顔が聖くんに似ているのは、親戚だから。」
「聖の・・・親戚・・・」
マリウスは地面に膝をついて座り込み、更にボタボタと涙を流した。
「・・・ごめん、なさい・・・俺、聖の分も生きて医者になろうと・・・でも・・・殺されてしまって・・・」
「・・・・・・」
泣きじゃくるマリウスをジャンと聖太はそっと抱き寄せた。
「聖、ごめん・・・最後に酷いこと言って・・・ごめん・・・」
ジャンは聖に似ているだけで聖ではないけれど、マリウスは聖に似ているジャンを通して疑似的に謝ることで心の中に残っていた「千影の後悔」を少しだけ晴らすことができた。
聖太はマリウスがこうなることをわかってジャンに無理難題を言ったわけではなかった。
ただ、ジャンの少年時代が聖にソックリだから、その姿を見たマリウスの様子を見て、マリウスが前世――千影の記憶を継承しているのかどうかを確かめたかった。
――結果オーライ・・・かな?
千影の記憶がなければマリウスは「敵」になる可能性が高かった。
けれど、記憶があるのなら、マリウスは「敵」にはならない。
聖太は「漆黒の輪舞」のストーリーと今現在確認できるだけの未来の映像を照らし合わせた。
*アゼルスタン滅亡の黒幕である「悪魔シトリー」は、ジャンの魔剣である・妖刀ムラマサに自ら封印され、今は先住者で妖刀の核となっている同族の悪魔フラウロスと主導権を争っている。
*シトリーの幇助でクーデターから戦争を引き起こし、教皇暗殺を企てた魔王の器の一人、聖女マリアンヌは存在していない。
*マリアンヌの立ち位置にいるのはマリウスと言う名の少年で、シャルルと前世で関わりがある。
悪魔シトリーは、魔王の器であるジャンの側にいられるなら、マリウスにはちょっかいをかけることはないだろうし、マリウスはきっと《《教皇》》を逆恨みで殺そうなんて思いもしない筈だ。
――これだけ流れが変われば、未来で教皇になったルル坊は暗殺されないはずだ。ルル坊には生きて天寿を全うしてもらわなくてはいけない。俺たちが生まれ育った世界――未来での繰り返しを防いで世界を安定させるために・・・
*****
妖刀ムラマサの中で、悪魔であるフラウロスとシトリーの主導権争いは、話し合いの末、半日交代のシフト制に落ち着いていた。
「フラウロス、お前、いつ妖刀なんかになったんだ?」
「我が君の祖父殿のショータが面白いやつでさ、猫に憑依しながらあちこち放浪してる時に出会って意気投合したんだよな。一緒に旅をすることになったらさ、猫の姿じゃ宿に泊れないからって、代わりの器兼寝床として妖刀を用意してくれたんだよ。妖刀の中には下位の怨念とか怨霊の類がいたんだけどさ、美味しく戴きました。んで、こういう剣に宿ってるとさ、餌に困らないんだよな。三食昼寝付きで居心地が良くてさ、だらだらまったりしてたら、なんとショータの孫として我が君が誕生されてさ、俺ってば、すげぇ幸運!!」
「つまり、我が君の御生誕の砌から一緒にいた?」
「そうそう!」
「ズルイ!」
「猫に憑依するの嫌だ、って選り好みするからだろう? あの時素直に猫に憑依して、俺と一緒にだらだら旅してたら、生まれた時から傍にいられたんだぞ?」
「ぐぬぬぬ・・・」
「そう言えばさ、オズはどこにいるんだ? お前、オズと一緒にいたんじゃなかったっけ?」
「オズは随分昔に番を見つけたと言って、受肉して人間の中に紛れたよ。縁があれば子孫なり生まれ変わりに会えるかもな。そう言えば我が君が拾った子供、オズの子孫かもしれないぞ。」
「ああ、黒いもんな。」
「ん? 我が君が大量に魔力をこちらに送ってきたが、何をしているんだ?」
「ああ、我が君は魔力で見た目を盛ってるから、大量に魔力を消費するとその維持ができなくなって少し幼い見た目に戻るんだよ。ショータと我が君とルル坊の三人が揃ったら、俺たちみたいな色違いの三つ子になるぞ。」
「ああ、我が君の魔力が心地よくて美味しい・・・」
「今回の分は全部お前にやるよ。」
「いいの?」
「ああ、俺、何十年も毎日貰ってたし。」
「ズルイ!! お前、何十年か寝てろよ!!!」
2026/09/13(日) のランキング04-07時更新にて「仔ブタ令息」が初めて注目度100位以内に入りました。
注目度 - すべて 94 位
注目度 - 連載中 39 位
「小説家になろう」「小説を読もう!」の方で「仔ブタ令息」初めてのランクインになりました。
閲覧&応援ありがとうございます!!




