第10話 寄宿舎のガイダンス
オスカー君に寄宿舎の前まで送って貰ったあとは一旦部屋に戻り、今日の護衛担当のケント様と合流してから一緒にガイダンスが行われる共有スペースへ向かった。
ガイダンスは身分ごとに分かれて行なわれることになっているんだ。
学園は身分に関係なく平等に学べる場ではあるけれど、無礼講が許されているわけではないんだよ。
だから、身分ごとにマナーやルールの説明が入るんだ。
平民と貴族、そして王族という身分の間にある大きな隔たり――価値観の違いは一朝一夕で擦り合わせることはできないからこそ、最低限のマナーとルールは覚えなければいけないんだ。
僕のような、護衛付きで学園生活を送る王侯貴族に不用意に近づいたら痛い目に合うからね。
学園内での生徒間のトラブルや、不測の事態が生じた場合、身分に関係なくペナルティが課せられるんだ。
最悪、退学もあるし、過去には問題を起こして身分を失った王侯貴族もいたらしいよ。
――身分を失うほどの問題行動って、一体・・・
なんとなく、乙女ゲームの逆ざまぁバージョンを思い出しちゃった。
悪役令嬢が断罪劇をひっくり返して、ヒドインと攻略対象者たちに「ざまぁ」するやつ。
まあ、でも僕はこうして魔法学園にいるから、フルール王国が舞台の「桃色♥狂詩曲(仮)」とはもう、無関係だよね?
***
ひととおり学園でのマナーやルールの説明が終わったあと、寄宿舎の王侯貴族向けのフロアの舎監を務めるエクター先生の指示で一人ずつ自己紹介をした。
同級生には大公家の一族の人が一人もいないし、僕がいるフロアは高位貴族の子息にプラスして他国からの王侯貴族の留学生ばかりだから、クラスの男子たちのような気安さがあんまりなくて、緊張するなぁ。
――アンディ君がいればなぁ・・・
心細くなって、ついそんな事を思ってしまった。
あ、でも、同じ学園にいたとしても、寄宿舎は男女で分かれるから、どっちにしろ今と同じだよね。
でも、もしもアンディ君が男子だったら、一緒の寄宿舎に入れるし、もしかしたら護衛枠で一緒の部屋で寝起きとかできたのかな?
オスカー君には悪いけれど、アンディ君が男子になったらちょっと嬉しいかも。
アンディ君が男子だったら、偽装婚約とか留学する手間もなくてずっと一緒にいられたかもしれないもんね。
そんなことを思いながら、僕は自己紹介の後から、なんとなくチラチラと僕を盗み見ている他国からの留学生たちの視線を受け流して気づかない振りをした。
教皇国の大公家の一族から代々勇者の称号持ちが生まれやすいから、教皇国の国民的に「勇者」という存在は物珍しくはないんだけれど、他国からするとそうではないんだよね。
実は僕と同じ新入生の中には、アンディ君に執着しているアゼルスタン王国の第二王子様がいて、さっきから僕をチラチラ見てる留学生数人の中にその王子様――ジェラール殿下がいるんだよね。
入学式で本物の「勇者」の姿を見て、「勇者」からの祝辞とか聞いたはずなのに、ただ「勇者」の子供というだけの僕に対する興味津々な視線がわかりやすくて居心地が悪い。
それにプラスして、アンディ君の本当の婚約者が僕たち兄弟の中の誰なのかも気になってるんだろうな。
最初の頃、アンディ君は公の場ではランス兄上と一緒にいることが多かったけれど、今はアンディ君の影武者となったオートクレールとアロンがべったり兄たち二人にくっついているし、本物は魔法学園に入学しなかったから、アゼルスタン王家の密偵たちが影武者たちを見て混乱してるんだよね。
「どっちがホンモノなんだ――!!」
ってね。
どっちもニセモノなんだけどね。
密偵の人たちはホンモノに気づくことなく、神出鬼没な影武者二人に翻弄されているみたい。
アンディ君はアゼルスタンに住んでた頃はきちんと令嬢してたようだから、男装してフルール王国の学園の騎士科に通ってるなんて、密偵さんたちも王子様たちも思ってもみないみたい。
そして影武者たち――オートクレールとアロンは実体化した影響なのか、お洒落に目覚めてしまって、アンディ君のお母様と僕の母様と一緒にドレスやアクセサリーを作って、キャッキャウフフと仲良く過ごしているんだよね。
ホンモノのアンディ君は、学園では性別を隠しているわけではないけれど、今のところ女子だとバレることなくフルール王国の王立学園の騎士科で学んでいる。
そしてアンディ君は、残念メイクも霞むストイックな男前全開で、女子からの人気が出始めているらしい。
***
「・・・部屋に戻ったら時間割や年間予定表をきちんと見て、明日からの授業の準備をして下さい。護衛や従者は教室内には入れませんので、何もかも従者任せにせず、自分の事は自分でできるように心がけて下さい。宿舎や学園のことで困ったことや何かわからないことがある場合は舎監である私か、寄宿舎専属の執事に声をかけるように。以上、解散。」
ガイダンスが終わった後、王子様たちから声をかけられる前にケント様にパッと横抱きにされて、ササっと部屋に戻された。
「触らぬ神に祟りなし」って言うし、「王子様」にはあんまりいい思い出が無いから関わらない方が無難だと思っていたからナイスタイミングだった。
ジェラール殿下って、俺様な空気というか、雰囲気がギルバート君に似ているような感じがするから、できればお近づきにはなりたくなかったんだ。
アンディ君からも関わらない方がいい、って注意されていたもんね。
だからケント様のお陰で逃げ切れて本当に良かった。
ジェラール殿下とは同じ学年だけど、向こうはAクラスだし、僕の所属するEクラスとは結構距離が離れているからよほどのことが無い限りニアミスもなさそう。




