閑話 恋のからまわり
**ギルバート君サイド**
フルール王国の王立学園の寄宿舎の一室で第二王子フロリアンは、第三王子で弟であるギルバートの泣き言を聞かされ、呆れていた。
「なんで仔ブタと婚約できないんだよぉ~」
「お前が素直じゃないからだろ?」
「だって、」
「好き、って一言言えばいいだけの話だろ。」
「あいつの顔見ると緊張して自分で何いってるのかわけがわからなくなるんだもん。」
「シャルル殿の何処に緊張する要素があるのさ? ほんわか癒し系だとは思うけどさ。」
「丸くてぷにぷにしてて、笑顔が可愛いじゃん!」
「僕の好みじゃ無いからなぁ...」
フロリアンは溜息をついた。
「こじらせすぎだろ・・・」
ギルバートは、実はシャルルに一目ぼれをしていた。
初めて会ったお茶会の日、小さくてぽっちゃりしているが、可愛らしい笑顔でニコニコしているシャルルが気になって気になって仕方なかった。
憧れの勇者の息子と聞いて、さらにギルバートの思いは燃え上がったが、双子の兄たちとの仲睦まじい様子に嫉妬し、思いがヘンな方向に爆発してしまっただけだった。
「実力も無いのに、自分をランスロット殿とメリクリウス殿以上に強く大きく見せようとしてさ、バカだよね。」
「うぐぅ・・・」
「ギルは自分の見た目に胡坐かきすぎなんだよ。外側だけじゃなく、内面も磨かないと、シャルル殿は見向きもしてくれないよ。」
「ううっ・・・」
「頭でっかちもダメだからね。柔軟に紳士的に、間違ってもバーナード叔父上のようになっちゃダメだからね。」
「でも叔父上、恋人いるよね?」
「あれは悪い見本。相手の方は腐れ縁だと思ってるみたいだし、完全に片思いなんだよね。」
「そうなのか?」
「叔父上の特殊スキルの弊害もあるけれど、強制というか、強要はダメなんだよ。」
「じゃあ、どうしたら・・・」
「とりあえず、シャルル殿の前では、怒鳴らない、威張らない、嫉妬しないこと。」
「うん、気を付ける。」
「本当に、気を付けるんだよ?」
そう言ってフロリアンはため息をついた。
――このやりとり、何回目だろう・・・
何年もの間、何度も何度も繰り返し注意してきた。
けれど、一向に改善されないシャルルに対するギルバードの態度にフロリアンは呆れ切っていた。
――何も、ヘンなものに呪われてないのが不思議だ。
ここまでくると何かに呪われているのではないかと、とことん調べてみたが、何も出てこなかった。
弟の不器用すぎる空回り具合にフロリアンは深いため息をついたのだった。
***
入学式が終わって数日後、分厚い黒縁眼鏡をかけた、やけに姿勢のいい騎士科の新入生とすれ違った時、フロリアンは何とも言いようのない違和感に首を傾げた。
短く刈り揃えた黒髪、琥珀色の瞳。
背は年の割には高めで、腰には細身の短剣を佩いていた。
騎士科の生徒は学内での帯剣を許されているが、刃先を潰した全長50cm以内の短剣であることが規定だった。
思わず振り返ってその後ろ姿を見ると、その新入生の背後にうっすらと白い影が見えた。
――聖剣所持者か?
フロリアンは、聖者でありフルール王国の冒険者ギルドの長でもある叔父のバーナードから師事を受け、神官として学んでいる。
その為、生まれつき持っていた特殊スキルである「真贋」の影響で妖精や精霊の存在を感じることができた。
聖具の保持者でもなく、真贋のレベルも足りないため、はっきりと見たり、意志の疎通はまだできていない。
新入生に聖剣の所持者――聖騎士がいることは聞き及んでいたから、同じ教会関係者として親睦を深められたら、と思っていた。
――折を見て生徒会のお茶会に誘ってみよう。
しかし、そのお茶会が新たな火種を生むことになることは、今のフロリアンには予想もつかないことであった。




