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料理控えめです。一応恋愛ジャンルなので、そちら方面も入れないと、ということで・・・。
よろしくお願いいたします。
今日の夕食は牛バラ肉の煮込みだ。今日の煮込みは赤ワイン煮にして、デミグラスソースは使わない。昨日の夕食がデミグラスソースを使った煮込みハンバーグだったからだ。
ダニアは丁寧にあく取りをしていたが、ワインのアルコールにやられていた。夕食の片付けと明日の朝食用の仕込みを終えた後も、ダニアはほんのり赤い顔をしている。
「ダニア、アルコールに弱いのか?酔っているように見えるが。」
マシュー料理長は、まるで娘の心配する父親のように、ふらふらとするダニアを気遣った。
「すみません、今日の赤ワイン、いつも使っているワインよりアルコール度数が高かったんですかね。こんなふうになったの、初めてです。」
「今日はもう上がれ。転んで怪我をするかもしれない。誰か一緒に寮の方に行く奴がいるといいんだが。」
「あ、それじゃ僕が寮の入り口まで送りますよ。女性使用人寮の方ですよね?」
「いいんですか、レックスさん。すみません。」
ザカリーの病人食の件以来、医務部のレックスは時々食堂で食事をするようになっていた。医務部の食堂に飽きると、こちらに来るようにしているらしい。
「じゃあ、僕、送っていきますね。」
「おう、頼むよ。」
マシュー料理長はエヴァンの姿を探したが、あいにく食堂にはいないようだ。レックスならまあ大丈夫だろうと判断した。ダニアは更衣室で何とか着替えると、フラフラと食堂の外に出た。曇り空で月が見えない、暗い夜だ。
「レックスさんお待たせしました。ごめんなさいね、遠回りさせてしまうのに。」
「いいんですよ、いつもおいしいものを食べさせてもらっていますからね、お礼代わりですよ。」
暗い夜道を、ランプを頼りに寮の方へ歩いて行く。足取りがおぼつかないダニアを、レックスは気遣うようにゆっくり歩いてくれる。
「ダニアさん、ちょっと僕の話を聞いてもらってもいいですか?」
「あ、ええ。」
いつもと違うレックスに違和感を覚えながら、ダニアはレックスの顔を見た。
「僕ね、ずっと考えてきたことがあるんですよ。」
「何ですか?」
あまり頭が働かないが、なんとか1人で歩こうとするダニアに、レックスが身を寄せた。
「どうしてこの国って、こんな閉鎖的なのかな、権威主義なのかな、って思ったことありませんか?」
「まあ、ないとは言いませんよ。私が王都で就職できなかったのは、師匠が王宮から追放された人間だったのが理由ですからね。」
うまく話せていないような気がする。そういえば、今日のレックスからはいつもと違う、何か香水のような匂いがする気がするが、はっきりとは分からない。何かに躓いて転びそうになったところを、レックスが支えてくれた。
「ありがとう、ございます。」
あれ、何を話していたんだったかなあ?
「僕もね、本当の姿のままだったら爪弾きなんですよ。どうしてだと思います?」
「どうして?」
レックスはダニアを抱き寄せるようにしてその耳にささやいた。
「僕が『ハティ』の血を継いでいるからだよ。」
突然レックスの口調が変わった。ぼんやりとレックスを見上げたダニアは、舌足らずに尋ねた。
「ハティ?」
「ああ、庶民のあんたには分からないだろうね。この国を作ったシグルズが滅ぼした国が『ハティ』だよ。『ハティ』の民は賤民として扱われて、どんなに能力があってもこの国では下働き程度にしかなれない。子どもの時に血統検査があるだろ?あれで、『ハティ』かどうかふるい分けされるんだ。」
それは確か、「金の瞳」を探すものでもあったはずだとダニアはぼんやり考えた。
「僕の両親は移民だった。だから、この国で『ハティ』の血を持つことがどういうことか分からなかった。僕が生まれて、3歳になったら血統検査に全員行くんだと言われて行った検査で、僕は『ハティ』と判定された。移民だと分かった所で両親も強制的に血統検査を受けさせられ、母が『ハティ』の血統だと分かった。父は『ハティ』だと分かった母と僕を庇おうとしたが、この国では『ハティ』がどんな扱いを受けるかを知って、母と僕を捨てたんだよ。
僕たちは『ハティ』の居住区で生活したが、働かないのだからと食べ物はギリギリ生きられるだけの分しか与えられなかった。働かない、ではなく、働かせてくれない、なのにさ。それだけじゃない、『ハティ』に学問は不要だと学校にも行かせてもらえなかった。
母は隣国で薬師をしていた人間だ。エリートだったんだよ。それがこの国に来たせいであんな扱いを受けて・・・それでも僕に読み書きや薬師の知識・技術を教えてくれた。母の知識のおかげで、僕たちのいた『ハティ』の居住区の死亡率が減った。そうしたら、この国はどうしたと思う?食糧を減らし始めたんだ。『ハティ』を減らすために。」
「そんな・・・ひどい・・・。」
「そう。この国はひどい国だ。だから、僕たちは立ち上がった。死んだふりをして居住区から少しずつ逃げ出して、隣国で戸籍を作って、正式にこの国に入国した。この国を根底から変えるために僕たちは動いている。だから、ダニア、あんたも手伝ってくれないか?」
「私?」
「そう。騎士団が弱体化すれば、僕たちが活動しやすくなる。実際、あんたの料理が食べられなくなった出張中のアルテューマ騎士団員は、糧食に文句を言うわ力が出ないわで、評判悪いよ。」
「え・・・。」
思いがけない言葉に、ただでさえ回らない頭が思考を止めてしまう。
「ダニア、あんたは・・・うまい飯で餌付けして、アルテューマ騎士団を弱体化させたんだよ。素晴らしい働きだ。だから、僕たちの仲間になって、あちこちの騎士団を堕落させてよ。」
おいしいものを作ることは、食べた人の幸せに繋がると信じていた。自分の仕事に自信と誇りを持っていた。それなのに、ダニアは人を不幸にしていると言うのか?ロンも大変な目に遭っているのだろうか?
ダニアの足に力が入らなくなった。遠くで火事を知らせる鐘が鳴っている。
「あ、合図だ。さあ、行こうか。」
レックスが体の自由を失ったダニアを抱き上げた。まるで煙のように、レックスとダニアの姿が消えた。レックスとダニアが持っていた2つのランプが、ぽつんと暗がりに残されていた。
・・・・・・・・・・
「諸君、今回の騒動は無事に解決した。命の保証ができない任務ということで心苦しかったが、諸君を誰1人欠くことなく任務の完了を宣言できることをうれしく思う。」
ヴァストーク騎士団の団長が騎士全員を招集してこう語り出した時、サルミス騎士団の騎士フィルは何が起きているか分からず、呆然とした。ヴァストーク騎士団の騎士団長が続けて、アルテューマ騎士団の副団長ロンが始祖にまつわる伝説上の生物だったファフニールと契約したこと、ファフニールが既に村人たちに謝罪したこと、そしてファフニールがロンに従っている所を見て、これは本当に契約したのだと思い知らされた。心拍数が上がる。冷や汗が背中を伝う。誰にも気づかれないようにと自分を抑えるのに精一杯だ。
まずい。既に計画は動き始めているのに。
全騎士に特別任務からの解散が宣言されてしまった。ファフニールを連れたロンたちアルテューマ騎士団のメンバーは、せっせと撤去作業に入っている。未知の生物による襲撃事件は解決したということで、早いところは今日、それぞれの本拠地に戻っていくことになる。アルテューマ騎士団のメンバーは、ダニアという女の料理を食べたいからと帰還を急ぐだろう。アルテューマに戻れば・・・いや、場合によってはアルテューマに到着する前に、ロンに知らせが行くに違いない。その時、ロンとファフニールはどんな行動に出るだろうか。
フィルはサルミス騎士団から一緒に来ていた上官の騎士に、これまで一度も取ったことのない休暇を取りたいと申し出た。上官の騎士はその場で2週間の休暇を許可した。単独行動になったフィルは1人馬を走らせた。計画を練り直さないと、全滅したら元も子もない。疲れ切った馬を宿場町で乗り換えていく。元々愛馬でもないので、同等の馬が用意されればそれでいい。ひたすら彼の地へ急ぐ。雪がちらつき始めた街道を、フィルはひたすらに進んでいった。
読んでくださってありがとうございました。
自分のやって来たことが否定されたダニア、どうなるのでしょう。
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