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読みに来てくださってありがとうございます。
誤字報告、ブックマーク、ありがとうございます。料理は少しです。
よろしくお願いいたします。
未知の生物に襲われた村は悲惨なまでの壊滅状態にあった。原形を留めた建物はなく、横から物理的になぎ払われたように思われるものが多い。畑は踏み荒らされており、全ての農作物がだらんとただ横倒しになっていた。足跡が発見されたが、足だけで子どもの背丈ほどもある。これほどの大型生物がいることは、これまでに確認されていない。
逃げ延びた村人によると、とにかく巨大だったと言う者、黒い肌だったと言う者、角があったと言う者、みんなバラバラで、似せ絵を描くがどれを見ても誰もが違うという。
ロンは他の騎士団から来ている騎士たちとも話し合い、周辺を探ることにした。食欲が以前のように湧かない。ダニアに餌付けされて、もう普通の食事が美味しくないと思うようになってしまっていたのだ。食べられないと、体が維持できない。無理矢理飲み込むようにして食べる。アルテューマ騎士団の5人だけが顔をしかめて食事するのを見て、サルミス騎士団のフィルという男が声を掛けてきた。
「どうしてお前たち、そんなまずそうに食うの?」
フィルとは初対面ではない。あの震災の時に救助に駆けつけた騎士の中にフィルもいて、被害調査をまとめるチームで一緒に仕事をした間柄だった。
「アルテューマ騎士団には、女神がいるんですよ。」
アルテューマ騎士団から一緒に来ているマークがぼそりと言った。
「食の女神ですよ。早く帰ってダニアさんの飯が食いたい!」
「ああ、俺もだよ!」
隣で糧食のビスケットをかじっていたギルバートも同意した。
「あの震災の時に、一番被害がひどかった町があっただろう?そこで料理の修業をしていた娘がいてな。親も師匠も亡くしたから王都に行ったんだが、師匠が王宮勤めから追放された人物だったらしくて、どこの料理屋も雇ってくれなかったそうだ。俺たちはあの町から王都に行く間、ダニアに食事の用意を手伝ってもらって、同じ素材なのにびっくりするくらいうまくなるって知ったんだ。だから、あの町に帰すくらいなら一緒に来てくれって言って、アルテューマに連れて行ったんだよ。今は騎士団の食堂で働いているが、みんな外で食べなくなった。そのくらい、ダニアの料理はうまいんだ。」
「へえ。」
「具なしでいいからコンソメスープが飲みたい!」
「俺はタルタルソース乗せてあれば何でもいい!」
口々にアルテューマ騎士団の騎士たちが言うのを、フィルはふんふんと頷きながら聞いていた。
「じゃさあ、来てもらったら?」
「は?」
「本部で食事作ってもらえば、みんな元気になるんだろう?」
「こんな危険なところに連れて来いって言うのか?」
ロンの殺気に気圧されそうに形ながらも、フィルは言った。
「お前たち5人が出す負のオーラが、士気を下げるんだよ。」
ロンははっとした。
「そんなに、か?」
「ああ。今のお前たち、足手まといにしかならねえよ。」
ロンは自分が公私の別をきちんと使い分けられる人間だと思っていた。それなのに・・・。
「まあ、食欲は人間の基本的な欲求だ。それが満たされなきゃ不満は募るだろう。だったら来てもらえばいい。危険な任務だがうまい飯にありつけるって思えば、他の騎士団の連中だって悪くは思わないはずだ。」
「ありがとう、フィル。本部長に相談する。」
すぐに本部に行ったロンの後ろ姿を見ながら、マークとギルバートは顔を見合わせた。
「なあ、そのダニアって子、もしかしてお前たちの副団長と何かあるのか?」
「副団長のお気に入りですよ。」
「虫除けに必死ですからね。」
「へえ。」
面白いことを聞いた。フィルの中で何かがカチッとはまった音がした。
「じゃ、俺は戻るよ。」
あの方に早速報告だ。
一方、見慣れぬ生物が少し離れた岩陰から騎士たちの様子を見ていた。人語を理解するこの生き物は、騎士たちが凶暴な姿になった時の自分を殺しに来たのだと知っている。確かに、やりすぎた。でも、あの騎士たちの中から懐かしい匂いがする。近づきたいが、怖い。
オナカガ スイタ。アルジハ ドコニ イルノ?
生き物はそっと森の奥に身を潜めた。
・・・・・・・・・・
未知の生物の捜索が始まってから1ヶ月。その生物が少し前までいた痕跡は見つかるが、未だに本体には遭遇できずにいた。討伐部隊の上層部も、未知の生物は思ったよりも知能が高いのではないかという判断をすることになった。知能が高いと言うことは、厄介と言うことでもある。ロンたちはこれが長期戦になる可能性を覚悟しなければならなかった。
「これじゃアルテューマにはなかなか帰れそうにないですね。」
マークもギルもげんなりした様子でつぶやいた。
「真剣にダニアさんの派遣を要請したいですよ。」
「そういうわけにはいかない。本部長からも、自分の身を守れない者を入れるわけにはいかないと拒否されてしまったんだから。」
ロンは1人離れた所に行って、座り込んだ。疲労が溜まっている。
雲が厚く空を覆い、肌寒い日だ。こんな日に、ダニアだったら何を食べさせてくれるだろうか。
「そういえば、ニンニクとトマトが疲労回復にはいいって言っていたなあ。肉に少しニンニクつけるだけでいいんだけどなぁ。」
自分の思考がダニアに寄ってきたような気がして、ロンは苦笑した。その時だ。
『ニンニク オイシイ?』
感じたことのない異様な気配に振り返ったロンは、そこにあり得ないはずの、小さな姿をした伝説上の生き物を見つけた。
『ネエ、ニンニク オイシイ?』
「あ、ああ、うまいぞ。」
『ボク タベタイ!』
「すまん、ここにはない。」
『ナニカ オイシイ ナイ?』
「今か?今あるのは、これだけだ。」
それほど驚かず、こうして対峙している自分に驚きつつも、ロンは手を伸ばして支給された固いクッキーを差し出した。その生物は小さな手を伸ばして受け取った。そして、カリカリと食べ始めた。
『オイシイ!ウレシイ!』
小さな生き物がクルクルと回る。微笑ましいその姿に、ロンは思わずクスッと笑った。
『オイシイ クレルヒト イイヒト!』
「ああ、そうだな。俺も、美味しいものを食べさせてくれるダニアが好きだ。」
『オイシイ ツクル ヒト?』
「ああ、そうだ。」
『ボクニ オイシイ クレル?』
「俺がか?」
生き物はこくんと頷いた。
『オイシイ クレル?』
小さな生き物は2歩近づいた。
「お前は誰なんだ?初めて会うと思うんだが。」
『ハジメテジャ ナイヨ。ズットズット マエカラ シッテイルヨ。』
「知っている・・・?」
『ソノ 瞳 ダヨ。ボクガ アゲタ キンイロノ 瞳!』
「まさか、初代と契約したっていう・・・」
『ソウダヨ!キンイロノ 瞳ハ ヤクソクノ 証。ボクヲ ソノメデ ヨクミテ!』
ロンはその小さな生き物を金色の瞳で見た。弱点は・・・契約者?能力は・・・契約者の守護?
「どういうことだ?」
『ボクハ 1000年 ネムッテイタノニ メザメタ。メザメタッテコトハ ボクガ ヒツヨウトサレテイルッテコト。ダカラ ボクハ アルジヲ サガシテイタンダ。』
「金の瞳を持つ者は、俺以外にもいるぞ?」
『ボクニ オイシイ クレタカラ。』
「そんなことでいいのか?」
『ボクト イチバンニ アエルコトモ ウンメイダト オモワナイ?』
「・・・お前がいいなら、力を貸してほしい。」
『イイヨ。』
「で、お前は何者なんだ?」
『ボクハ ファフニール。』
「ファフニールだと?」
ロンは目の前の生き物に、というよりも、その言葉に警戒した。ファフニールは巨大なドラゴンの姿を取る伝説上の生き物。人を襲い、金に執着すると伝えられている。確か、ファフニールはこの国の英雄であった始祖が使役し、その死に際して封印されたはず。だが、ロンの金の瞳が示すのは、このファフニールだと名乗ったものの凶悪性ではなく、有益性である。
『ボクニ イロンナデンセツガ アルコトハ シッテイルヨ。ムカシノ ボクハ ワルイヤツダッタ。デモ アルジガ ボクヲ タスケテクレタ。オイシイ クレタ。ダカラ ボクハ アルジニ シソンヲマモルト ケイヤクシタ。』
「だから、俺を守ってくれると?」
『ソウ。ボクニ ナマエヲ ツケテ。ソウスレバ ボクヲ カンゼンニ シエキデキル。』
ロンは少し考えた。
「お前の名前は・・・フィーニスだ。」
自らをファフニールだと言った小さな生き物が突然光り出した。
『ファフニール【フィーニス】はシグルズの子孫ローンヴァルドと契約する。この契約は、ローンヴァルドの子孫に及ぶ。』
巨大なドラゴンとなったフィーニスが、ロンの前に跪礼を取った。離れていた所にいた騎士たちが慌てて剣を取って駆け寄るが、その異様な光景に誰もが戸惑っている。
「いいだろう。フィーニス、俺に従うと誓えるか?」
『誓う。』
「では、フィーニス、先ほどの姿に戻れ。」
巨大なドラゴンが消え、小さな黒いドラゴンがポスンとロンの腕の中に収まった。
「副団長、そ、それって・・・。」
マークとギルバートがそろそろと近づいてきた。
「ああ、ファフニールだってよ。フィーニス、そういえばお前どうして村を壊した?」
『お腹が空いたから何か食べさせてくれって言ったのに、みんな僕を殺そうとしたんだ。だから、大きくなって暴れちゃった。』
「それはいいことか?」
『ごめんなさい。』
「お前は善きファフニールなんだろう?ならば、お前が全部直さなくてはならないな?」
『分かった!』
騎士たちの前で、フィーニスの金色の魔力が村を覆い尽くす。金色の光が消えた時、建物も、農作物も、全てが元通りになっていた。ファフニールと言えば、金を守る為にドラゴンになった神だと言われている。その魔力も金色というのは、納得がいく。
『壊す前に時間を戻したよ。』
「よし、それでは村人に謝るぞ。」
『うう・・・分かった。』
フィーニスを抱えたロンが歩くと、騎士たちが道を空ける。モーゼの海割りの状態だ。アルテューマ騎士団の他の4人が慌てて着いてくる。5人で馬に乗って本部に戻り、本部長であるヴァストークの騎士団長の所に向かった。
「アルテューマ騎士団副団長ロン、入ります!」
ヴァストークの騎士団長は、ロンを、いやフィーニスを一目見るやいなや抜刀できる状態に構えて、ロンが連れている小さな黒いドラゴンを凝視した。
「それは何だ?」
「今回の騒動の原因となった未知の生物です。ファフニールでした。」
「で、何故お前がそのファフニールを連れているのだ?」
「契約しました。」
「契約?」
「はい。俺の支配下に置きましたので、凶暴化することはありません。失われた命は戻せませんが、村も元の状態に戻っています。それから、こいつも村人に謝罪したいそうです。」
「しゃ、謝罪?」
『謝りたいので、会わせてください!』
「しゃ、しゃべった?」
「ということなので、本部長。確認の上、あの村から避難している人たちに謝罪の場を設けてください。」
「1つだけ確認させろ。そのファフニールは、本当にお前の支配下にあるのだな?」
『契約したから、ロンの命令に従うよ。』
「そ、そうか・・・ならば、話をしなければならないな。うん、お前たちは一度下がっていろ。準備ができたら連絡する。」
「はっ。」
ロンはフィーニスを連れてアルテューマ騎士団用のテントに入った。
「副団長、本当にそれファフニールなんですか?」
「ああ、そうらしい。巨大なドラゴンの姿は見えたのか?」
「みんなあれが未知の生物に違いないって飛びだしたんです。そうしたら、ドラゴンが跪礼なんかしているし、おいおいなんだよってなりましたよ。」
「いろいろ事情があって契約することになった。これからアルテューマ騎士団を支える存在になってくれるだろう。」
『頑張ります!』
「そういえばフィーニス、どうして言葉のレベルが上がったんだ?最初は片言だったのに。」
『契約したからですよ。契約した者どうしで意思の疎通がうまくいかなかったら困るでしょう?』
「副団長、俺たちも名前を呼んでいいんでしょうか?」
直接の会話をためらうマークたちにフィーニスが答えた。
『名前はいいよ。でも命令は聞けない。頼み事も駄目。それができるのは主だけだ。』
マークたちは頷いた。
「さて、俺たちは少し休もう。どうせ今は動けないんだし。」
いつもの飄々としたロン副団長に戻って、ごろりと横になる。寝息が聞こえ始めた。
「副団長、疲れていたんだな。」
「ああ、2人ずつ交代で見張りをしよう。」
「じゃ、俺たち先に少し寝るよ。」
「2時間で起こすからな。」
「おう、頼んだぜ。」
ファフニールのフィーニスは、ロンの傍に寄り添っている。
また会えるなんて思っていなかった。それと同時に、自分が覚醒したことが気になる。1000年前、この国の始祖たる英雄アロイシウスと出会った時と同じ嫌な臭いをフィーニスは感じ取っていた。
ロンが寝ている。始祖シグルズとそっくりのその顔に、フィーニスは心の中で呼びかけた。
まさか、同じ名前を付けるなんて思わなかったよ、と。
・・・・・・・・・・
その頃、アルテューマに数人の見慣れぬ黒衣の集団が隠れ家に集まっていた。既に手に入れた騎士団内の配置図を元に、作戦を検討する。
「あの男を排除する。そのためなら何でもせよ、というのが指令だ。いいな。」
見慣れぬ姿の者たちが1人、2人と消えていく。最後の1人が部屋から姿を消した。その瞬間、それまで見慣れぬ姿の者たちがいた建物が燃え始めた。
「火事だ、火事だ!」
周辺の人々が騒ぎ出す。騎士団に応援要請に行った者もいるようだ。その様子を、最後に姿を消した男が、近くの建物の屋根からじっと見下ろしていた。
読んでくださってありがとうございました。
さあ、何が起きるんでしょう。
ロンの本名がさらっと出て参りました。フィーニスには分かるんです。
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