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第97話 エデンの真実(1)

 ギルベルト王たちにエデンの秘密を見せると約束した翌朝。

 俺はエデンが新開発したシャトルに帝国宰相と三大臣を乗せ、帝都バベルからアルビナ王国の王宮へとやって来た。

 ここでギルベルト王とライザーを拾いカナン島に向かうためだ。


 アルビナ王宮の広い敷地には、帝国が駐機場として借り受けている一角がある。

 その駐機場にシャトルを降ろすと、俺は機外へと降り立った。

 ギルベルト王とライザーが俺を出迎える。


「おはようございます。皇帝陛下」


 俺はその挨拶を無視してギルベルト王へと詰め寄った。


「なあ、ギルベルトよ。俺は聞いたよなぁ。『秘密を守る覚悟はあるか?』って」

「ええと、それは、あの、その……」


 王の窮地を救おうと、ライザーが助け船を出す。


「陛下、皇帝陛下。お待ちください、これには訳が……」


 俺はその言葉を遮りライザーを睨みつけた。


「なあ、ライザーよ。お前にも聞いたはずだよな? 『秘密を守る覚悟はあるか?』って」

「はい、その通りです」

「で、何で秘密だって言ってるのに、ここに部外者がいるんだよ?」


 俺は王の隣に立っている二人の娘に指を突きつけた。


 アルビナ王国王姉アレクシア、そしてアルビナ王国宰相フォルマーの娘であるクリスティンの二人である。


 ギルベルト王とライザーを詰問する俺の前に、笑顔を浮かべたアレクシアが進み出た。

 軽くドレスの裾を摘まんで俺に挨拶をする。


「皇帝陛下。ご機嫌麗しゅうございます」

「ああ、久しぶりだな。アレクシア。すまないが今日は重要な用件があって、ギルベルト王とライザーを連れに来た。積もる話はまた時間がある時に……」


 アレクシアが一歩前へと進み出た。


「陛下。昨晩ギルベルト王とライザーが話をしているところに、たまたま出くわしました。何でも今日、陛下が二人にエデンの真実の姿を見せるとか。でしたら私どもも同行をお許しいただきたく存じます」


 ギルベルト王とライザーを睨みつけるが、二人とも俺から目を逸らしやがった。

 機密の会話を不用意に人前でしてたとは、秘密を明かすというのが不安になってきたよ。

 俺はアレクシアに向き直る。


「悪いが、君たちを連れていく理由がない」

「ギルベルト王にはまだ妻も子もおりません。王に何かあれば王位継承権第一位のこの私が、女王としてアルビナ王国を担っていくことになります。今後のエデン帝国とアルビナ王国の関係を思えば、ここで黙って見送る訳には参りません」


 俺はアレクシアを見つめた。正直言って俺はこの娘が苦手だ。

 彼女は生真面目で責任感の強い性格で、俺のようないいかげんな性格の人間からすると、いささか固過ぎるのだ。


 俺が思案に暮れているとクリスティンが俺に聞こえるように小声で言った。


「ああ、前は力ずくでアレクシア様や私を攫っていったというのに、さんざん私たちを弄んでおきながら、もう私たちに飽きてしまわれたのですね。ああ、なんて悲しいことでしょうか。しくしく」

「こら! 人聞きの悪い事を言うな! 確かに攫った覚えはあるが弄んだ覚えは無い!」

「おいしい食事にデザート、それに豪華浴場で私たちを篭絡しておきながら、まあよくおっしゃいますわ」


 以前、アルビナ王城を攻めた時に一時的な人質としてアレクシアやクリスティンをエデンの屋敷に連れていった。

 クリスティンは人質の立場を忘れ、毎日デザートを満喫し浴場に入り浸るなど、人質生活を存分に満喫していたはずだ。

 勝手に堕落しておいて弄んだとは言い掛かりも甚だしい。


「君たちは自分が何を言っているか分かっているのか? エデンの秘密を共有するのなら、君たちにもそれなりの制約を課すことになる。秘密厳守はもちろん、帝国の手駒として動いてもらう事も出てくる。そこは理解しているか?」


 アレクシアは即答した。


「もとより覚悟のうえです。アルビナ王国の発展のためにはエデン帝国の助力は必須です。ギルベルト王はアルビナを第一に考えなければならない立場ですが、今の私の立場ならアルビナとエデンの両国の橋渡し役として皇帝陛下のお役に立てるはずです。どうかご同行の許可を」


 どうやらアレクシアは本気のようだ。

 クリスティンに目を向けると、彼女は腕にはめたブレスレットを俺に見せた。


「私も覚悟は出来ていますわ。それにずっと秘密は守ってますし、陛下の頼みはいつも黙って聞いているつもりです」


 クリスティンには俺との連絡用に通信用ブレスレットを渡してある。

 他の者よりエデンの秘密に触れる機会は多かったはずだが、彼女はそれを公言してはいない。

 俺が以前、惨劇の街から救い出した赤ん坊の世話を頼んだ際も、彼女は精力的に動いて俺を助けてくれた。


「そうだな。確かに君たちにもエデンの秘密を目にする資格はある。二人ともシャトルに乗るがいい」




 エデン帝国の宰相と三大臣、それにアルビナ王国の四人を乗せたシャトルが大空を舞う。

 乗客たちは皆、窓に顔を押し当て地上の姿を食い入るように見ている。


 軍務大臣のバジルが地上を見下ろしながら言う。


「こうして空を飛べるってのは、戦いにおいて圧倒的に有利な立場に立てますね。敵の軍の動きなんて一目瞭然だし、空から石でも落とせばそれだけで敵を倒せる。街や城を攻めるにしても、城壁なんて何の意味も無い」


 軍務大臣だけあって、空を飛んでいる感動より軍事的な思考が優先されるようだ。

 財務大臣のリオは深くため息を付いている。


「空を飛べばこれまで一か月は掛かっていた人や物資の輸送が一日で出来きそうだ。道中の魔物や盗賊の心配も不要となれば、交易の常識が大きく変わる。いや世界が変わる。世界にどんな影響が出るのか想像もつかない」


 ギルベルト王も興奮気味だ。


「上から見ると地上の地形が手に取るように分かる。どこの国でも詳細な地図は機密扱いで国外への持ち出しを禁じているけど、空を飛べる者にとってはまるで意味がないな」


 アレクシアたちは純粋に風景に見惚れている。


「素晴らしいです。あんなに遠くの山々まで一望できるなんて。ああ、なんて素敵な光景なのかしら」

「アレクシア様、ご覧ください。あの向こうは海みたいですよ。ああ、海を見るとエデンのお屋敷で出て来たおいしいお魚料理を思い出しますわね。お屋敷と言えばセシリアさんの作るスイーツ、また食べたいですわ。今日はまたお屋敷に呼んでいただけるのかしら?」


 どうやらクリスティンの純粋さは風景ではなく、おいしい食べ物に向けられているようだ。


 皆がそれぞれの感想を抱いて地上を見下ろしているうちに、シャトルは空挺母艦アルバトロスの待つ高度に到達した。


「空飛ぶ船、あれが陛下の力の源ですか。ホルス特殊部隊が満を持して乗り込んだはいいが、あっさり返り討ちにあったと言う」


 宰相ブラッドの言葉に、ライザーが首を振った。


「あの船はサラマンダーじゃない。形が違うしこっち船の方が大きいんじゃないか?」

「その通り。この艦はエデンの空挺母艦アルバトロス。エデンの重騎士隊を多数搭乗させ、城や砦や都市の上空から重騎士を地上に降下させるための艦だ。バジルもさっき言ってただろ。空から近づけば城壁に意味は無いって。正解だよ。この艦があれば重騎士隊を城壁の内側に送り込める。エデンの重騎士が本気で戦えば雑兵の十や二十、軽くひねり潰せる。ちなみにホルス軍と戦ったのはエデンの空中フリゲート艦サラマンダーだ。サラマンダーはセントース聖王国の上空で情報収集にあたってるから、残念ながら今日は皆には披露できない」


 そんな説明をしている間にシャトルはアルバトロスの艦内デッキに着艦した。


「さあ、外へ出ようか」


 シャトルから機外に出ると、バトルロイドたちがシャトルの前に整列して俺たちを迎える。

 バトルロイドの数は増産により以前の倍に増えている。デッキを埋め尽くすバトルロイドの隊列は壮観だ。


「俺の直属の重騎士隊は最近人前に姿を見せる事が多いから、君たちも良く知ってるだろ。だけどいつも兜のバイザーをおろしているからその素顔を見た者はいない。彼らの正体を教えてやろう。彼らは俺の作ったロボット、つまり機械で出来た騎士だ。ゴーレムと言えば分かりやすいか」

「陛下、そんなはずはありません。彼らとは何度も言葉を交わしています。ゴーレムは会話などできません」

「帝国のゴーレムは言葉を交わせる。ゴーレムだけじゃない。エデンの魔道具は自ら考え行動できるものが多いぞ。さっき乗って来たシャトルだって、呼びかければ会話は可能だ。まあいい。そこは追々説明するよ」


 俺たちはデッキを後にし艦橋へと移動した。


「わあ!」


 あちこちで同様の歓声が上がる。

 アルバトロスの艦橋は艦底部にあり、壁面と床部の大部分がガラス張りになっている。

 そのため地上の展望が素晴らしく良いのだ。

 シャトルの小窓から覗くのとは視界の広さが全く違う。

 高所恐怖症の者なら耐えられない景色なのだが、このメンバーにはそんな者はいないようだ。


 空の景色を十分に堪能させ、落ち着いたところで皆を艦内の部屋に集めた。

 テーブルを囲んで座るメンバーを前に俺は言った。


「しばらく移動の時間となる。その時間で俺の正体を明かしておこう。少し長い話になるが……」


 八人の目が俺に集中する。


「最初に言っておくが実は俺はこの世界の人間じゃない。千三百年前の世界から刻を超えてやって来た」


 俺の言葉に何か言いかけた者が何人かいたが、それを手で制しとりあえず最後まで聞くようにと言い聞かせ説明を続けていく。


 俺がこの世界の人間ではなく、千三百年の過去の世界からやってきたこと。

 この世界に迷い込み、アルビナ王国のレマーンの街で冒険者を始めたこと。

 魔力操作のスキルを持っていたため、アルビナ王国に追われたこと。

 アルビナ王国の追手から逃げる最中に、過去の遺跡である地下工場を見つけたこと。

 地下工場を復活させ、探査機を作ってこの大陸の調査を始めたこと。

 海の向こうに大きな島を見つけ、工場を島に移転させたこと。

 島に埋蔵されていた大量の浮遊石を見つけたこと。

 地中の浮遊石を活性化させ、地面ごと空に浮かせたこと。

 戦力保持の必要性を感じ、空中艦を数隻建造したこと。


「どうだい。これが俺の秘密だ。俺が秘密にしていた訳は理解して貰えたと思う」


 あちこちから呟くような言葉が聞こえてくる。


「陛下が過去の文明を引き継ぐ者……。滅び去った機械文明……」

「伝説の浮遊石がそんなに大量にあるなんて」

「サラマンダー、アルバトロス、バトルロイド。これだけ揃っていれば大陸制覇も可能では」


 物騒な話も聞こえてきたが、聞こえなかったことにしよう。


「ここから先は、当事者もいるから知ってる話も多いと思う」


 俺は話を続けた。

 アルビナ王国に浮遊石の存在を知られ捕えられたこと。

 アルビナ国王に殺されそうになり、武力を以って王城を制圧したこと。

 和解を申し入れたが暗殺されそうになったため、アルビナ王城を破壊し降伏へと追い込んだこと。


「こんないきさつで、アルビナ王国は俺の軍門に降った。元々エデン帝国はアルビナ王国の上に立つために便宜上作った帝国だったんだよ」


 ギルベルト王がしみじみと言葉を継ぐ。


「前王が馬鹿な真似をしなければエデン帝国の建国は無かった。我が父の愚かさが新しい歴史を作り出したという訳か。そして当人は希代の愚王として歴史に名を残すことになる」

「いや、アルビナ前王は凡庸な王だった。だが浮遊石に過剰な欲を出して身を滅ぼした。ただそれだけだよ」


 浮遊石なんて代物が無ければ、いや、そもそも俺という存在がいなければ、帝国なんて生まれることも無く、アルビナ王国が帝国の属国にされる事も無かった。

 俺の存在がギルベルトやアレクシアの運命を捻じ曲げた。


 俺はアレクシアを見た。彼女は俺を恨んでいるのだろうか?


「まあ、この後は皆も知っての通りだ。ホルス王国のアルビナ王国への侵攻。俺はアルビナ王国を支援するためサラマンダーで出撃したが、俺の出現を予知していたホルス軍の特殊部隊に艦を乗っ取られそうになった。何とかこれは撃退したが、危機感を感じた俺は早期戦争終結を目指し、ホルス王城に巨大ロボットで迫り王を捕獲し降伏に追い込んだ。そして現在に至るという訳だ」


 俺の長い話は終わった。

 もう質問して貰っても構わないのだが、誰も口を開こうとしない。

 話の内容が重過ぎて、何から聞いていいのか分からなくなってしまったのだろう。


「そろそろ着くころかな」


 俺が部屋の壁に手をかざすと、そこにアルバトロスの前方の風景が映し出された。

 青く広がる大海原の中に広大な島が見えている。


「あれがエデン帝国最大の拠点であるカナン島だ。周辺海域には大型の魔物が多数生息していて、船ではこの島に近づけない。そのおかげでこの島は大陸の人間には存在を知られていない。面積はアルビナ王国やホルス王国より一回り大きい程度だ」

「これだけ広ければ、もう島と言うより国じゃないですか。ここが帝国の本土なのですか?」

「ああそうだ。この島には採掘場、製錬プラント、化学工場、生産工場、造船ドック、その他にも帝国を支えるための施設がある。もう少ししたらカナン島に降りるからその目で見るがいい」


 俺たちは再びシャトルに乗り込むと、カナンの地へと降り立った。

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