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第96話 対策会議

 俺はバベル城に戻ると、すぐに招集した面々を前にシャドー3が入手したセントース聖王国の情報を伝えた。

 聖王国の情報とは俺が魔王認定されたこと。そしてその魔王討伐の為に勇者が召喚されたことである。


「……というのが、俺の掴んだ情報だ。非常にまずい状況になってる気がする。そこでこのメンバーで状況を整理し、今後の方針を検討したい」


 バベル城の会議室には豪華な顔ぶれが集結している。


 ロの字型のテーブルの上座には、俺と秘書役のメイドのアリスが座っている。

 ここは城内なのでいつもの護衛のバトルロイドはいない。


 俺の右手には宰相ブラッド。そして外務大臣ノルベルト、財務大臣リオ、軍務大臣バジルの三大臣。

 俺が帝国四天王と呼ぶこの帝国の事実上の中枢だ。彼ら四天王抜きに帝国は回らない。

 正直言って彼らには感謝しかない。この四人を鞭打って働かせているおかげで、俺は魔道具商に精出す事が出来るのだ。


 そして俺の左手にはゲストメンバーが二人。

 アルビナ王国の国王ギルベルトと騎士見習いのライザーである。

 今回はエデン、アルビナ、ホルスの三国で事に当たる必要があるため、シャドー3をアルビナ王都に届けたついでに、アルビナ王国代表として王宮から拉致してきたのだ。


「皇帝陛下、ホルス王国の代表者がいませんが、良かったのですか?」


 この場には帝国とアルビナ王国の代表しかいない。ギルベルト王が素直に疑問を口にした。

 俺はギルベルト王を見た。


「いい機会だから伝えておく。ホルス王国の国王ルートヴィヒだが、俺は奴に王たる資質は無いと思っている。奴は国の金を湯水のように使い軍備を整え、自国国民に重税を課したあげくアルビナに戦争を仕掛け大勢の国民を死に追いやった。そしてアルビナ王国のティトの街の虐殺。あれを直接指示したのは軍を率いていたロジェ将軍と分かっているが、同時に国王が黙認したという事実も判明している。奴はいずれ国王の座から降ろす」


 ティトの街の虐殺についてはアルビナ国王であるギルベルトが一番心を砕いている事だ。

 虐殺の首謀者であるロジェ将軍はその罪を問われ処刑された。

 関与の度合いの低かったルーベック将軍、クロフ将軍は未決囚として投獄されている。

 虐殺や残虐行為に加わった数百人のホルス兵は、処刑または戦争奴隷としてアルビナ王国の鉱山に送られた。

 そして最大の責任者である国王ルートヴィヒは、何の責任も問われていない。

 ホルス王国の戦後の混乱収拾には、どうしても国王が必要だったからだ。


 奴は許されたと思っているのだろうが、俺は奴を許さない。ただ猶予を与えただけだ。

 あの街の惨劇を目にした俺には、許すなどという行為こそ許されない。


「今は王位継承者の中から次期国王に相応しい者の選定を慎重に進めている。それが終わるまでは奴が国王だ。だが国政に関与させるつもりもない。ホルス王国にはこの会議の結果を通達して従わせるだけだ」


 俺の怒りの感情のせいで、会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。

 宰相たちの固く強張った顔を見て、俺は自分の未熟さを痛感した。

 感情のまま怒りを露わにする主君など無能の極みだ。


 俺は重い空気を払うように、努めて明るい口調で言った。


「アリス、喉が渇いた。皆にお茶を出してくれ。それとセシリアの焼いたケーキがあっただろ。あれも出してくれ」


 暗くなった雰囲気を和ませるには甘い物で釣るに限る。

 案の定、メイドのセシリアが焼いたケーキの味を知っているギルベルトとライザーの顔がほころんだ。スイーツ男子は素直に釣られてくれるので助かる。


 一旦部屋を出て行ったメイドのアリスが、同じくメイドのセシリアとワゴンを押して入室してきた。二人でお茶とケーキを配膳して回っている。

 今日のケーキはシンプルなチョコレートケーキだ。


「食べながらで構わない。会議を進めよう。説明した通り、セントース聖王国は俺を魔王と認定して勇者を差し向けるつもりだ。肝心の勇者はまだ使い物にならないようだから、乗り込んでくるまでには時間の猶予はある。そこで諸君の意見を聞きたい」


 軍務大臣のバジルがケーキにフォークを突き立てながら発言した。


「これは面倒な事になりそうですね。もしセントース聖王国が……いや、この場合はルーン教の教会か。教会が陛下を魔王と認定したとなると、大陸中の国家が陛下の敵になりかねません。アルビナ、ホルスの国民の中にもルーン教の信者は多いですから、陛下に弓引く者が出てくるかもしれません。それに両国ともエデン帝国の支配下に入る際、いろいろと有力貴族たちと軋轢を生んでいます。今は力で抑え込んでいますが、魔王討伐なんて大義名分を与えると、貴族たちがセントース聖王国と組んで帝国に攻め込みかねません。対応を誤ると周りの者全てが敵になります」


 早くもケーキを食べ終わり、物欲しそうな顔でセシリアを見ていた財務大臣のリオが続ける。


「敵の城に乗り込んで降伏するまで脅しつけるのが皇帝陛下の十八番。だが今回はこの手は使えない。もし聖都に乗り込んでセントースの中枢シャーラ大聖堂を破壊しても、相手が魔王となれば聖職者も信者も降伏より死を選ぶはず。それにシャーラ大聖堂を破壊しても、ルーン教の教会は国の内外に多数ある。本拠地を別に移されるだけだ」


 セシリアからケーキの追加をせしめたライザーが嬉しそうに言った。


「まあ皇帝陛下ならシャーラ大聖堂とルーン教の教会を根こそぎ破壊できそうだけど、そんな事をすれば魔王の名が一段と世に広まって、諸外国から敵視されるのがオチだろうな」


 セシリアからケーキの余りはもう無いと告げられたギルベルト王が、悲しそうな顔で俺に質問した。


「皇帝陛下。確認なんですが、陛下は本当に魔王じゃないんですよね? 陛下の力は強大です。実は魔王だって言われたら僕は納得しますよ」

「その質問に答える前にこちらも聞きたいんだが、『魔王』って何だ? 何を以て魔王って言うんだ? 俺は人よりは魔力が多い。それを以て魔王と称するのなら確かに俺は魔王かもしれん。だがそれ以外は剣も魔法も使えない只の凡人だぞ。確かに強大な戦力を持ってはいるが、それは単に力を保有しているだけであって、俺の能力という訳ではない」


 宰相ブラッドが俺の疑問に答える。


「確かに魔王の定義はあいまいです。所詮はおとぎ話の存在ですから『魔族の王』、『魔物の王』、もしくは『悪の象徴的存在』と言ったところでしょう」

「俺は魔族も魔物も従えていない。まあ確かにホルスとの戦いでは人を大勢死なせているが、極悪非道と言われるような戦いはしていない。俺は魔王なんて存在じゃないはずだ」


 ギルベルト王は俺の回答に満足したのか大きく頷いた。


「まあセントース聖王国の陛下に対する魔王認定が、勇者召喚の言い訳なのは明らかです。勇者に関してはアルビナ王国でも探ってみます。もう少し情報を集めないと議論も出来ません」

「助かる。そうなると今出来る事は何があるかな?」


 軍務大臣のバジルが手を挙げた。


「セントース聖王国との国境を封鎖しましょう。勇者や魔王討伐軍を帝国に入れなければいいだけの話です」


 財務大臣のリオが続ける。


「私も賛成です。この帝都バベルはアルビナ、ホルス、セントースの貿易の要衝です。国境封鎖してセントースとの通商を止めてしまえば、セントース聖王国が一番損害を被るはずです。経済的圧迫を加えて魔王認定を取り下げさせましょう」


 国境封鎖は確かにセントース聖王国に圧力を加えられるだろう。

 だが圧力の匙加減を間違えると戦争へとまっしぐらだ。


 それまで会話に加わらずケーキに夢中になっていた外務大臣のノルベルトがニヤリと笑って俺を見た。


「皇帝陛下。セントース聖王国はまだ公式に陛下が魔王だと公表していません。勇者を鍛え魔王討伐の準備が整うまで公表を控えているのでしょう。という事は、エデン帝国とセントース聖王国は未だに友好を約束した盟友という訳です」


 ノルベルトの顔が更ににやけて来た。こいつ何か悪い事を考えてるな。


「陛下。セントース聖王国との友好を深めるため、こちらからも親善使節団を訪問させてはいかがですか? 何もこそこそ諜報員を送り込まなくても、堂々と訪問して見聞させてもらえばいいんですよ」


 ノルベルトめ。親友の振りをして相手を訪問し、盛大なもてなしをさせた上で隠している秘密を暴くだなんて、何て魅惑的な提案なんだ。


「聖都の重要施設に親善訪問して情報収集するも良し。こちらが勇者の存在を知っていると匂わせて反応を探るのも良し。陛下はセントースの外交使節団に使ったような諜報道具をたくさんお持ちでしょう。それを使わせて貰えば情報収集なんて楽勝だと思いますよ」

「ノルベルト! お前は何て悪い奴なんだ。すぐにセントース聖王国に使者を送れ! 帝国は聖王国の使節団をあれだけ歓迎してやったんだ。まさかこっちの親善使節団を拒否するなんて非礼は出来んだろ」

「了解しました。すぐに親書を用意しますから署名をお願いしますね」


 やはりこうして首脳陣を集めて議論すると、いいアイデアが出てくるから嬉しいな。


「魔王様が聖都を訪問するんだ。教皇はどんな顔して出迎えてくれるのかな? これは楽しみだな」

「えっ? 陛下も行くつもりですか?」

「当たり前だろ。魔王様が行かなくてどうする」

「危険すぎます! 敵の本拠地に行くんですよ」

「万全の準備を整えるから大丈夫だ」


 ブラッド宰相が椅子から立ち上がった。

 何だか険しい顔をしている。


「皇帝陛下。陛下にお願いがございます」

「何だ。そんな改まって」

「私は陛下に忠誠を誓っております。ですが陛下はいつまで経っても私を信用しては下さらない」


 ブラッドの真剣な眼差しに、俺も真面目に答える。


「そんな事はない。ちゃんと信用しているよ。信用しているからこそ、国政を預けて安心していられるんだ」

「先ほど、陛下はセントース聖王国に自ら出向くとおっしゃられた。万全の準備を整えるから問題ないと。ですが陛下は私たちにその万全の準備がどんなものか、いつも教えてくださらない。私は陛下がどんな力をお持ちか知りません。だからいつも不安なのです。陛下の言われるまま、ただ従っていればいいのか。陛下と言えど何か見落としがあるのかもしれない。ですが陛下のお心が分からなくては、私は何を心配すればいいかも分からないのです。お願いです。もう少し私たちを信頼してはいただけませんか」


 俺の心にブラッドの思いが痛い程伝わって来た。

 ブラッドは俺との間に立ちふさがる厚い壁に、ずっと心を痛めてきたのだろう。

 前にエデン皇帝府の建物を勝手に建てた時にも、同じことを言われた。

 自分たちを信用してくれと。


 俺はあの時、自分の独断を反省し二度と同じ過ちは繰り返さないと心に誓った。

 それなのにこの様だ。俺は本当に駄目な人間だ。自分の馬鹿さ加減に腹が立つ。


 部屋の中に沈黙が訪れていた。

 部屋中の者が息を飲んで俺と宰相のやり取りを見守っている。

 俺は椅子から立ち上がった。そしてブラッドに頭を下げた。


「返す言葉がない。不甲斐無い主君ですまん」

「陛下! 何をなさいます!」

「俺は帝国皇帝だ。だが皇帝だからと言って人徳者って訳じゃ無い。たくさん過ちを犯すし、調子に乗って失敗する事も多い。確かに俺には隠している秘密が多い。けどその秘密が人をこんなに不安にさせているなんて思っていなかったんだ。本当にすまなかった」

「いえ、臣下としてあるまじき振る舞いをしてしまいました。今言った事は忘れて下さい」

「俺の過ちを気付かせてくれたのに、忘れる事なんてできないよ」


 俺は部屋の中を見回した。


「宰相ブラッド、外務大臣ノルベルト、財務大臣リオ、軍務大臣バジル。帝国の柱である君たちには俺の秘密を明かすべきだろう。そうすれば俺の言動にいちいち不安を覚えなくて済むはずだ。アルビナ国王ギルベルト、アルビナ王国騎士見習いライザー、君たちも俺の秘密を知りたいか? 知りたければ教えてやるよ」

「ちょっと待て!」

「どうした、ライザー」

「ギルベルト王と俺はアルビナ王国の人間だぞ。何で俺たちにまでエデン帝国の秘密を明かすんだ。まさか秘密を知ったからには生かして返さないとか言い出すんじゃないだろうな?」

「何でそうなる! お前たちにはこれまでにも随分俺の秘密を見せているはずだ。エデンの屋敷や流星号や輸送機。ライザーなんてサラマンダーにも乗せてやっただろ」

「そう言われればそうだな」

「とは言え、秘密を知るにはそれなりの覚悟は必要だ。エデンの本当の姿を知れば得るものも多いが、余計な苦労も背負い込むことになる。秘密厳守は当然だし、故意に秘密を洩らせばそれなりの制裁を課す」


 俺は全員の顔を見まわした。


「秘密を知りたくない者、秘密を守る自信の無い者はこの場を去れ」


 誰も動こうとはしない。俺はもう一度全員の顔を見た。


「無理にとは言わん。お前たちにエデンの秘密に触れる覚悟はあるか?」


 全員が頷いた。


「よかろう。全てを見せてやろう。エデンの真実をその目に焼き付けるがいい」

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