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第95話 セントースの陰謀

 新型試作偵察機はステファンとセドリックを収容すると上昇を始めた。

 偵察機は十分な高度を取ると、光学迷彩を解除し大きな翼を広げ水平飛行に移った。

 今度の新型偵察機は機動性を高めるため、機体に大きな翼を取り付けてあり、飛翔するその姿はとても優美だ。


 この偵察機は性能テスト中の機体を無理に引っ張り出して来たものだ。

 機体に不調をきたす恐れがあるため、アルビナに辿り着くまでは流星号でのエスコートが必要だろう。


 現行のエデン偵察機は小型無人タイプで偵察性能はピカイチなのだが、偵察能力にしか着目せずに設計したため、偵察しか出来ない機体になってしまった。

 偵察機が偵察しか出来ないのは至極当然の事なのだが、俺はどうしても満足出来なかった。


 この現行型の偵察機は、以前クラレンス商会の行商隊が盗賊に襲われているのを探知し、エデンに急報するという大手柄を立てている。

 だが商隊にいたテレーゼが盗賊に追われていても、非武装故に見ていることしか出来なかった。機銃の一つでも付いていれば、あるいは人を乗せられればテレーゼは恐ろしい目に合わずに済んだはずなのだ。


 そこで俺は新型の偵察機の開発に取り掛かった。

 コンセプトは『自ら偵察活動を行え、人や荷物も運べる戦闘偵察機』である。


 結構無茶な要求であったため設計にはかなり時間を要したが、何とか試作まで漕ぎつけた。

 偵察能力は現行機を引き継ぎ、速力や機動性に優れ、レーザーで武装し、人や物を運べ、光学迷彩で姿を隠せる。我ながらよく出来たものだと感心する位の出来栄えである。

 欠点は機能てんこ盛りにしたため機体が想定外に大きくなってしまったこと。


 今回の救出作戦で新型偵察機の有用性は証明されたが、もう少し小型化しないと街中での着陸に支障をきたす。これは設計と試作をもう一度行う必要がありそうだ。


 そんな事を考えつつ流星号から偵察機を眺めているとシャドウ3、ステファンから通信が入った。


『ストレーカー司令官。セントースのやつら、勇者を召喚しやがった!』

「シャドウ3。いきなり何だ? 体は大丈夫なのか?」

『体は駄目ですが口は動きます。報告を済ませないうちは死んでも死に切れません』

「せっかく助けたんだ。簡単に死ぬとか言うな! まあいい、報告を聞こう」

『ガルヴァーニ教皇が各地の枢機卿を集めて度々会議を開いているのは以前に報告しましたよね。その会議の目的が分かりました。魔王です。復活した魔王への対処方法を話し合ってたんです。教皇は枢機卿を集めて魔王を倒す方法を議論させたけど、魔王に勝つ方法なんて全く見つからなかった。そこで勇者を召喚して魔王にぶつけることにしたんです』

「待て待て、落ち着け。順番にいこう。まず魔王って何だ? 俺はおとぎ話に出てくる存在だって聞いた気がするんだが」

『そうですよ。おとぎ話の存在で誰も本気で魔王なんて信じてません。ですがセントース聖王国は実在すると思っています。最近アルビナ王国内でも魔王が復活したって話はよく話題に上がってます。海の向こうに謎の火柱が立って一晩中光ってたとか、魔王の住む空の島が地上に災厄を撒き散らしてるとか、魔王の使い魔が空をすごい勢いで飛び回ってるとか。他にも大雨で川の氾濫が相次いでるとか、日照りが続いて作物が実らなくなったとか』


 何だろう? どこかで聞いた事があるような話が多いな。


「思うとことは多々あるが、今は報告を続けてくれ」

『教皇は復活した魔王を倒すのは教会の使命だと思ってるようです。それで過去の伝承を元に勇者を召喚して魔王を倒させる事に決めたんです』

「過去に勇者を召喚して魔王を倒したなんて事例があるのか?」

『そこまで調査していません。何にしてもやつらは召喚の儀式を行い、実際に勇者を召喚したようです。その辺りの詳細は掴めていませんが、召喚直後の勇者の力は一般人レベルで経験を積まないと魔王と戦えないらしいです。今は聖騎士団が戦闘訓練を施しているようです』


 何だろうね。このテンプレ展開は……。

 この世界に迷い込んだ時は、俺が勇者で魔王を倒す為に異世界に呼ばれたのかと思ったが、俺は剣も魔法も使えない凡人だったし、そもそもこの世界に魔王なんていなかった。

 それがここにきて急に魔王だの勇者だのと言われてもなぁ。


「その勇者召喚は本当に行われたのか? どこかからそれっぽい人を連れて来て勇者だって名乗りをあげさせている可能性は?」

『そこまでは分かりませんが、召喚の儀式はちゃんと行ったようです。大聖堂に高位の聖職者が多数集められたみたいです』

「それで、その復活したっていう魔王はどこにいるんだ?」

『何を言ってるんですか? 司令官、……いえ、皇帝陛下。あなたが魔王です』



 何と言えばいいのか。

 見ず知らずの女にいきなり『あなたがお腹の子の父親です』って言われた気分だ。

 いや、そんなセリフ実際に言われた事は無いんだけどね……。


「衝撃の事実だな。そうか、俺は魔王だったのか」

『司令官。シャドー1です。私からも報告があるのですが』

「聞こうか」

『私が調べていたペッキア子爵ですが、どうやら彼には裏の顔があるようです。教会内では『賢者ペッキア』と呼ばれていて、いくつもの高レベルの魔法や特殊なスキルが使えるようです。魔法やスキルの詳細はまだ掴めていませんが、鑑定系の能力を持っているのは確実です。彼が外交官として各国に派遣されているのは、その能力を最大限に活用して相手国の秘密を探るためです』

「そういう事か。やつの魔力量が桁違いに多いのはその能力ゆえか」


 シャドー1の言葉をシャドー3が引き取った。


『そのペッキア子爵が教皇に『皇帝陛下が魔王だ』って報告したんです』

「鑑定能力で俺の何かを見たってことか……。変だな、俺のステータスはHPがいくらか高いくらいで他は人並のはずだ。確かにスキルはあるが魔王呼ばわりされるスキルじゃない」


 俺のスキルは『異世界言語』と『魔力操作』の二しかない。魔王とは無縁のスキルだ。

 魔力は膨大にあるが、ステータスにはMPは表示されなかった。


 もしかしてペッキア子爵は俺のMPを読み取って魔王と判断したのか?

 だとしたら俺にもその数値を教えて貰いたいものだ。俺は自分のMPを知らないからな。


『ペッキア子爵は最初に使者として陛下に会った時に魔王だと確信したようです。その後の外交使節団の中に鑑定能力を持つ者を二名紛れ込ませ、陛下との謁見の場に同席させています。その二人も陛下を魔王と判断したとのことで、セントース聖王国は皇帝陛下を魔王認定したようです』

「魔力が多いだけで魔王認定されたのか。魔法が使えない魔王に何が出来るってんだよ」


 状況は理解した。

 エデン帝国はセントース聖王国と友好的な関係を築くと約束した。

 だがセントース聖王国はエデン帝国の友好を信用しなかった。

 いつかは聖王国に牙をむき襲い掛かると思ったのだろう。

 やられる前にやれ。それが彼らの出した答えなのだ。


 セントースは宗教国家であって軍事国家などではない。

 エデン帝国、アルビナ王国、ホルス王国。この三国を相手に戦うのは絶対に無理だ。

 そのことはセントース聖王国が一番良く知っている。だから切り札を切った。

 勇者という切り札を。


 だが勇者は戦争の道具ではない。勇者を召喚するには大義名分が必要だ。

 その大義名分がこの俺だ。

 アルビナ王国、ホルス王国を魔の力で制圧し支配下に収めた、極悪非道の悪の魔王タツヤ様だ。


「シャドー3、良くやった。貴重な情報に感謝する。もうすぐアルビナに到着するから教会で治療を受けてゆっくり休め。アルビナ王都の教会はエデン帝国が掌握している。セントースとのつながりを心配する必要はないから安心して治療を受けろ」

『了解です。伝える事伝えたら何だが急に眠くなってきました。すいません、もう……』


 通信機ごしに寝息が聞こえてきた。彼はよくやった。後で何か褒美でも出すとしよう。


「シャドー1は聖都に戻って勇者についての情報を集めてくれ。……いや、駄目だな。お前は衛兵に顔を見られてる。聖都に戻るのは危険だ。勇者の情報収集は他の者にやらせるから、シャドー3を教会に預けたら聖都には戻らずシャドー本部に出頭しろ。以後はシャドーゼロの指示を仰げ」

『了解しました』


 通信を切ると、思わず愚痴が零れた。


「はあ、何だよこれは。セントースとは仲良くしたかったのにな。魔王呼ばわりするほど敵視されてたとは、全く悲しくなってきたよ」


 その愚痴に流星号が応える。


『まあ完全な冤罪とは言えないんじゃないか? 世間で噂になってる『海の向こうの火柱』ってイフリートがレールキャノン撃った時の火山の火柱だろ。『魔王の住む空の島』なんてまんまだし。『空を飛ぶ魔王の使い魔』って俺やエデンの輸送機のことだろ。魔王呼ばわりされても文句は言えないと思うけどな』

「いやいや、確かにそれは俺の仕業だけど、それと俺とを結びつける要因なんてどこにも無いはずだ」

『マスターの顔が魔王っぽかったんじゃないか?』

「そんな訳ないだろ。聖王国の連中の前ではマスクで顔を隠してたんだぞ」

『素顔を見せない怪しい奴だからこそ魔王って疑われたんだろ』

「……そうかも」


 また戦争になるのかと思うと憂鬱になってくるな。


『それで、これからどうするんだ?』

「どうもこうもない。まだ聖王国に宣戦布告された訳じゃないから、表立っては何も出来ん」

『宣戦布告? そんなの来ないだろ。勇者が魔王を倒しにやって来るだけだ』

「え?」

『いやさ、冒険者が魔物を討伐するのと同じで、勇者が魔王を討伐するって話なんだろ』

「ええ?」

『勇者が魔王討伐軍を率いて魔王城に攻め込むのは、あくまで魔王討伐であって国同士の戦争じゃないと思うぜ。国際問題にはならんだろ』

「!!」


 確かにそうだ。

 セントース聖王国は復活した魔王を討伐するため勇者を召喚し、勇者が魔王を倒せるよう支援をするに過ぎない。

 セントース聖王国がエデン帝国に戦いを挑むのではない。勇者が魔王に戦いを挑むのだ。


 はっきり言って屁理屈というものだが、これを主張されるとこちらは窮地に立たされる。

 これは非常にまずい事態ではなかろうか。


「ケルビム。聞こえるか?」

『はい、マスター。ケルビムです』

「シャドー3たちをアルビナに送り届けたらすぐに帝都に戻る。バベル城に首脳陣を集めておいてくれ。今後のセントース聖王国への対応を協議したい」

『了解しました』


 平和主義者のこの俺を魔王呼ばわりとは。セントース聖王国め、どうしてくれようか!

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