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第94話 救出作戦

 久々に自由な時間を手に入れた俺は、帝都バベルのクドー魔道具店の工房で、新しい魔道具の構想を練っていた。


「うーん。これだと強度が足りないか。金属の使用量を増やせば……重くなりすぎるな。それに原価が高くなって敬遠される。これは駄目だな。思いきって材質を変えるか……」


 冒険者用の野営道具の開発を進めているのだが、冒険者用の道具はとかく軽さが重要視されるため、強度を保ったままどこまで軽量化できるかが腕の見せ所なのだ。


「代用出来そうな素材と言えばブルークラブの殻……、フュージトータスの甲羅……、くらいしか思い浮かばん。どっちもちょっと値が張るな」


 いいアイデアが浮かばない。

 気分転換がてら店の様子でも見てこようと立ち上がった時、腕のブレスレットが震え出した。

 緊急連絡のサインだ。発信者はシャドウゼロ。シャドウの諜報部長アンジェロだ。


「こちらストレイカー。シャドウゼロ、何があった?」

『シャドウ3から救助要請。追手に追われて逃走中のようじゃが、通信がすぐに切れたため詳細は不明』


 シャドウ3と言えばセントース聖王国に潜入中の諜報員ステファンのコードネームだ。

 彼の置かれている状況は不明だが、まずは救助要員を現場に急行させる必要がある。


「聖王国内の他の諜報員へシャドウ3の位置を知らせて、可能であれば救出に向かうよう指示を出せ。こちらからも救出に向かうが到着まで時間が掛かる。救助活動を最優先し、全力で救出に当たれ!」

『了解じゃ。すぐに手配する』


 俺はケルビムを呼び出した。


「ケルビム、サラマンダー緊急発進! シャドウ3のいる現場に急行させろ!」

『了解』


 エデンの空中フリゲート艦サラマンダーはホルス王国との戦いで大きく損傷したが、現在は大規模改修も完了し現役復帰を果たしている。

 大改修で生まれ変わったサラマンダーは、小規模ながら空挺能力を獲得している。二個小隊八機のバトルロイドを搭載し上空から空挺降下させられるようになったのだ。


 通信先を切り替えシャドウ3を呼び出す。だがシャドウ3からの応答はない。

 どうやらこちらのコールを受けられない状況のようだ。


「ケルビム。シャドウ3の状況を教えてくれ」


 シャドウのメンバーにはシャドウ専用のブレスレットを支給している。

 このブレスレットはシャドウメンバー間の通信が主な機能だが、実際は他にもいろいろと機能を組み込んである。

 その一つが人口知能である。諜報員に危機が迫った場合や、諜報員が潜入工作中などの理由で通信に出られない場合、本人に代わり状況を報告してくれる。

 ケルビムがシャドウ3の人工知能から受け取った情報を俺に伝える。


『シャドウ3は情報収集のためセントース聖王国シャーラ大聖堂に潜入。何か重要な情報を掴んだようですが、警備の聖騎士に発見され手傷を負わされ逃走。現在は聖都の街中に身を隠していますが、このままだと確実に捕捉されるでしょう』

「今の情報を他の諜報員にも伝達しろ。……まずい状況だな」


 いざとなればサラマンダー配備のバトルロイド隊を地上に降下させ、シャドウ3を強硬救出すればいいと考えていた。

 だがバトルロイドの青い甲冑姿は、帝国の重騎士隊として有名になりつつある。

 そんな帝国の重騎士が聖王国内で、それも聖騎士の前で諜報員の救出など行えば、帝国のスパイ行為を公然と認めるようなものだ。

 セントース聖王国の外交使節団に対し『友好的な関係を築いていきたい』と明言した手前、バトルロイドを使った救助は問題がある。


「シャドウ3の負傷の具合は?」

『不明です』

「エデンは今どこにいる?」

『アルビナ王国上空を東に向け飛行中。セントース聖王国の聖都から百八十キロの地点です』

「テスト中の新型試作偵察機はすぐ出せるか?」

『武装は外してあり使用出来ません。魔導エンジンも調整が終わっておらず戦闘機動が出来ません』

「光学迷彩は?」

『使用可能です』

「なら問題ない。新型試作偵察機にブルー1……じゃなかった、ホワイト1を乗せて発進させろ! シャドウ3の救出に向かえ」

『了解』


 我がエデンのバトルロイドたちは、そのほとんどが青い甲冑の同型の機体である。

 レッド隊とかイエロー隊とかカラー名を小隊名として付けてはいるが、実際は全機が濃い青色なのだ。

 そんなバトルロイドたちの中に、一機だけ白のバトルロイドが存在する。

 元ブルー隊の隊長機ブルー1。現在はホワイト1と改名され、外装は白を基調とした人間らしさを感じさせるデザインへと改修されている。

 ホワイト1ならセントース聖王国で暴れさせても、知らぬ存ぜぬで押し切れる。


 ケルビムに指示を出し終えると、俺はクドー魔道具店の裏口から店舗へと駆け込んだ。

 店番をしていたテレーゼが、俺の様子を見て驚いた顔をしている。


「すまんテレーゼ。急用でちょっと出かける。流星号は連れて行くよ。いつ帰れるか分からんが、連絡は入れるから心配するな」

「わかりました。お気をつけて」


 テレーゼが俺の頭を引き寄せると、そっとキスをした。

 思わず抱き返したくなったが、今はそんな事をしている時では無い。

 店舗を出てガレージに駆け込む。


「流星号、セントースの聖都まで大至急だ!」

『ラジャー』


 俺を乗せた流星号が空へと舞い上がり、徐々にスピードを上げていく。


「流星号、ブースターを使え。偵察機より先に聖都に着けるはずだ」

『ラジャー。キャノピーを閉鎖』


 流星号のキャノピーが閉まっていく。


『キャノピー閉鎖完了。ブースター準備よし。衝撃に備え! 三……、二……、一……、点火!』


 流星号は空に一筋の雲を引きながら大空を突き進んでいく。



 ◇◇◇



 エデン帝国の秘密諜報組織シャドウ。

 その諜報員であるシャドウ3ことステファンは、この一ヵ月ほどセントース聖王国の聖都に潜入し、聖王国のエデン帝国に対する動きを探っていた。


 これまで大陸のこの地方は、隣り合うセントース聖王国、アルビナ王国、ホルス王国の三国が三竦み状態で国勢のバランスを取ってきた。

 そんな中、アルビナ王国とホルス王国の間で突如として戦争が勃発した。

 戦争自体はすぐに終結したが、アルビナ王国の国境地帯に突如として現れたエデン帝国が、建国と同時にアルビナ王国、ホルス王国を傘下に収めてしまったのだ。


 セントース聖王国はパニックに襲われた。どう考えてもエデン帝国の次の標的はセントース聖王国である。

 今まで三国間で軍事バランスを保っていたのに、それがいきなり三対一になったのだ。戦争になれば勝ち目など無い。


 だがエデン帝国は建国して以降、一度もセントース聖王国に接触して来ていない。

 もし帝国がセントース聖王国を支配下に置こうとすれば、セントース聖王国に逆らう術はない。にも関わらず帝国は聖王国に何も要求して来ない。


 セントース聖王国は帝国の真意を知るために、多数の密偵をエデン帝国の帝都バベルへと送り込んだのだ。


 そのあたりの状況は、シャドウの諜報員たちの調査によって既に明らかになっていた。

 セントース聖王国は現在の状況を憂いてはいるが、帝国に害を成すつもりはない。


 だがセントース聖王国がエデン帝国に使者を送った頃から風向きが変わって来た。

 ガルヴァーニ教皇は国内各地の枢機卿を聖都に集め、頻繁に何かの会議を開き始めたのだ。


 そしてエデン帝国に派遣した外交使節団の帰国が、セントース聖王国に何か重大な決意を促した。使節団の帰国後、聖王国の帝国に対する態度が明らかに変わったのだ。

 表だって敵対する訳ではないが、決して心は許さない。そんな雰囲気なのだ。

 ステファンがどれだけ探っても、聖王国が態度を変えた理由は掴めなかった。


 ここは例えリスクを負ってでも、教皇と枢機卿の企みを知る必要がある。

 そう判断したステファンは、セントース聖王国の本拠地であるシャーラ大聖堂へと潜り込んだのだ。

 大聖堂は教皇と枢機卿が頻繁に会議を開く場所である。ここを探れば重要な情報が得られると踏んでのことだった。


 ステファンは聖職者に扮装しシャーラ大聖堂の奥の院へと侵入した。

 そこで彼は聖王国で進行中の極秘計画の入手に成功したのだが、脱出の際に警護の聖騎士に見つかり切りつけられてしまったのだ。

 その場は何とか切り抜け大聖堂からの脱出には成功したが、手傷を負わされ動くのもままならない。

 捜索の聖騎士が街のあちこちを巡回しており、このままでは見つかるのも時間の問題だ。

 ステファンは自力での逃走は無理と判断し、街に隠れシャドウ本部に救助要請を送った。



 ◇◇◇



「こちらシャドウ1。シャドウ3を発見した。ギリー商店横の路地で馬車の荷車の下に隠れてる。負傷して動けないようだが、近くに衛兵がいて荷車に近寄れない」

『ストレイカーだ。シャドウ1、シャドウ3の救出は可能か?』

「衛兵二人が近くで歩哨に立ってる。通りを行き交う人を監視しているようで、その場から動く気配がない。彼らがいる限り荷車には近づけない。それにシャドウ3は自分で動けないようだ。馬車でも持ってこないと救出は難しい」

『シャドウ1、五分後に近くで騒ぎを起こす。衛兵の注意が逸れたらシャドウ3を引っ張り出して、商店の裏の通りまで連れて来てくれ。そこに迎えを用意する』

「了解」


 シャドウ1ことシャドウの諜報員セドリックは、歩き疲れて休んでいる体を装い通り沿いの商店の店先に腰を降ろした。ここからならシャドウ3のステファンと衛兵たちの両方を監視できる。


 やがてどこかで爆発音がした。衛兵たちは顔を見合わせていたが、すぐに衛兵の一人が音の方向へと走り出した。


(ちくしょう、一人残ったか! どうする?)


 しばらく様子を見ていたが、残った衛兵の動く気配はない。

 早くステファンを商店の裏通りまで連れていかないと、回収を断念されるかもしれない。

 セドリックは覚悟を決めた。

 爆発音に驚いて見に行く野次馬を装い、さり気なく衛兵に近づく。

 衛兵がセドリックを見た。目が合った。


 セドリックはそのまま素知らぬ顔をして衛兵の脇を通り過ぎる。

 そしてすれ違う瞬間、素早く衛兵の顔にパンチを見舞った。


「ぐおっ」


 衛兵が顔を押さえてうずくまる。セドリックはその背後から後頭部に蹴りを入れた。

 衛兵は地面に大の字に倒れ込んだ。どうやら気を失ったようだ。

 数人の通行人がこの一瞬の凶行を目にしていたが、関わりを恐れたのか騒ぎ立てる者は誰もいない。


(すまん!)


 セドリックは倒した衛兵に心の中で詫びを入れると、ステファンの潜む荷車に駆け寄った。

 荷車の下には血だまりが出来ている。ステファンの意識はない。


「しっかりするんだ! すぐに助けてやる!」


 セドリックはステファンを荷車の下から引っ張り出すと、背中に担ぎ商店の裏通りへと歩いていった。


 セドリックは周囲を警戒しなから裏通りに出た。だが裏通りには誰もいなかった。

 セドリックは顔が青ざめていくのを感じた。


「くそっ! 迎えがいない! もう引き揚げたのか?」


 セドリックは背中のステファンを降ろすと腕のブレスレットに呼びかけた。


「こちらシャドウ1。シャドウ3を連れて来た。迎えはどこだ? 早く迎えを寄越してくれ!」

『落ち着けシャドウ1。迎えはもういる。前をよく見ろ』


 セドリックは前を見た。だが裏通りには誰もいない。

 ……いや、何かおかしい。目の前の空間が陽炎のように揺らいでいる。


 その時、目の前で扉が開いた。何も無かったはずの空間に扉が開いたのだ。


 扉の中から白い鎧の騎士が現れた。

 白い鎧の騎士は横たわるステファンを抱きかかえると、扉の中に戻っていった。

 それを茫然と見つめるセドリックに、扉の中から白い鎧の騎士が言った。


「早く乗って下さい。すぐに出発します」


 セドリックが恐る恐る扉の中を覗き込むと、そこは馬車の内部のような小さな部屋になっていた。

 二つの長いベンチが向かい合わせに置かれ、片方にはステファンが横たわっている。

 通信機から催促の指示が飛ぶ。


『光学迷彩で外から見えないようにしているだけだ。いいからさっさと乗れ。追手が近づいている』


 セドリックは慌てて扉の内部に足を踏み入れた。背後で扉の閉まる音がした。


「そこに座って」


 白い鎧の騎士はそう指示すると、室内の物入から小瓶を取り出してセドリックに渡した。


「ポーションです。これを飲ませて下さい」


 そうだった。早く処置しないとステファンが危ない。

 セドリックはステファンの口にポーションを少しずつ流し込んでいく。

 ステファンも口に入れられたポーションを無意識に飲み干しているようだ。


『シャドー1。シャドー3の様子はどうだ?』

「出血は止まったようですが、ちゃんとした治療が必要です」

『了解だ。その機はアルビナ王都の教会に向かっている。連絡は入れてあるから到着したらシャドー3は教会の者に引き渡せ』


 ステファンが目を覚ました。傷の痛みに耐えかねて呻いている。


「……シャドー1、ここは何処だ? 俺は助かったのか?」

「ああ、もう大丈夫だ。今はアルビナ王国へ帰投中だ」

「そうか……、助かったのか。ありがとう、シャドー1」


 安心したステファンが目を閉じた。……と思ったら、目を大きく見開いた。


「セドリック、大変だ! 急いで陛下に連絡を! セントースのやつら、勇者を召喚しやがった!」

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