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第90話 魔道具店の陰謀

 クドー魔道具店の店舗裏にある工房の一室。

 俺はテーブルに置いた大きな布袋をテーブルの反対側に座る女へと押しやった。


「約束のブツだ。受け取るがいい」


 女は、袋の中を覗いて中身を確認している。


「確かに。しかし驚きでしたわね。あんな小芝居で皆あっさり財布の紐を開くとは」

「何を言うか、あれは全て俺の思惑通りだ。数量限定と謳えば人はもう手に入らぬと心を揺さぶられる。その数量限定品が目の前で次々と数を減らしていくのを見れば、誰もが焦って俺の商品を買い求める。俺は何も無理強いなどしていない。客の背中をほんの少し押してやっただけだ」

「ふふふ。そういう事にしておきましょうか。では次回はいつになりますか?」

「続けて何度もやれば怪しまれる。近いうちの声を掛けるからそれを待て」

「あら、心配性ですわね。私たちがそう簡単にボロを出すとでも?」


 俺と女は視線を交わした。どちらからともなく忍び笑いが漏れ出した。


「ふっふっふっふ。タイス屋、そちも悪よのー」

「ほーっほっほ。何をおっしゃいますか、タツヤ様ほどでは」


 そんな俺たちのやり取りを後ろで見ていた小柄な女がポツリと言った。


「ねえ、それいつまで続くの? やってて面白い?」


 俺は顔をしかめて言い返した。


「おい、ノーラ。ノリが悪いぞ。ここからが盛り上がる所だったのに」

「そうですよ。せっかく悪代官の雰囲気が出てたのに、ぶち壊しじゃないですか」


 横でやり取りを聞いていたオスカーが、ソフィーの言葉を聞いて天を仰いでいる。


「あの純真だったソフィーが、こんなおかしな性格になっちゃうとは……。タイス村の親御さんが見たら泣いちゃうよな。ああ、都会って本当に怖いよ」


 まあバレバレだったかもしれないが、店の前で俺が商品を売り込んでいたのは、若き冒険者パーティー、タイスの剣のオスカー、ソフィー、ノーラの三人だ。

 この三人には、俺の魔道具やその他諸々の物資提供と引き換えに、サクラ役を頼んでおいたのだ。


 現在、帝都バベルは城壁の建設中であり、魔物が簡単に街に入り込める状態である。

 そこでバベルの冒険者ギルドは魔物討伐の依頼を大量に出し、帝都周辺の魔物を狩り尽くして街の安全性を高めようとしているのだ。

 通常より少し色を付けた報酬に惹かれ、冒険者たちが各地から帝都バベルに集まってきている。


 俺は彼ら三人とは時々通信用ブレスレットで連絡を取り合っており、拠点を帝都に移したらどうかと熱心に勧めておいたのだ。

 俺の勧誘の甲斐あって彼らはフォラントの街からバベルの街へと拠点を移したという訳だ。


「じゃあノーラ、銃の点検と魔石の交換をしておくよ。そろそろカートリッジも無くなる頃だろ」

「うん。銃の出番が多くてカートリッジの減りが速いんだ。ゴメンね、タツヤさん」

「命を守る武器なんだから撃つのを躊躇するな。補充のカートリッジは多目に渡しておくよ」


 彼女の使う銃は俺からの貸与品だ。銃の使用レポート提出と引き換えにメンテナンスと消耗品の補充をこちらで負担している。

 最初は彼女に銃を与えるための方便としてレポート提出を義務付けたのだが、意外とノーラの指摘は的を得たものが多く、銃の性能向上に大きく貢献している。


 俺はノーラから受け取った銃の点検をしながらオスカーに尋ねた。


「オスカーは、変身ベルト使ってる?」

「使ってますよ。仕留めた獲物が重すぎて持てないような時に役立ってます。でもオートモードは一度も使ってません。あれはちょっと……」


 戦闘において特殊スーツのオートモードは装着者を狂戦士へと変貌させ敵を圧倒するのだが、使った後には七転八倒の苦しみが待っている。そう簡単には使えない。

 だが特殊スーツはオートモードさえ使わなければ、単なる筋力増強スーツでしかない。

 重たい物を持ったり早く走ったりするだけなら極めて有用なスーツである。


「この変身ベルト、便利は便利なんですけど大きすぎて何かと邪魔なんです。もう少し小さくできませんか?」


 オスカーは上着を脱いで腰のベルトを俺に見せた。

 幅広の赤いベルトに風車の内蔵された銀の大きなバックル。

 やっぱりかっこいいよな。

 特にオスカーのようなイケメンが着けるとカッコ良さ倍増だ。


「やっぱりそう思うか。俺も最初は格好良さに惹かれて腰に巻いてたんだが、だんだん邪魔臭くなってきて、ブレスレットタイプに変えちゃった」


 俺は点検中の銃を机に置き立ち上がると、腕のブレスレットを胸の前にかざした。


「変身!」


 瞬時に変身は完了し、俺の体に特殊スーツが装着された。


 俺のスーツはもう以前の騎士風の鎧ではない。

 丈夫でしなやかな特殊素材を使用したボディスーツ形状の新型スーツだ。

 黒いボディースーツにブーツ、グローブ、ベルト、そして黒マントと黒ヘルメットのその姿は科学の力で無双する鳥風忍者集団の黒バージョンと言えば分かるだろうか。


 オスカーが俺の姿を見て呟いた。


「僕のスーツと違う……」

「これは新型スーツだよ。俺はガチの戦闘なんてしないから、防御力より機動力を優先させたんだ。何かあったらさっさと逃げ出せるようにね。魔物と戦うオスカーには今の鎧タイプの方が合ってると思うよ」


 初代は玩具を改造したバッタ風スーツ、二代目はパワーと防御力に優れた鎧風スーツ、そして三代目は動きやすく機動力に優れる鳥風スーツと、エデン製のスーツは順調に進化を続けているのだ。


 ノーラが俺の鳥風ボディースーツをペタペタと触って、素材のしなやかさを確かめている。

 ソフィーも興味ありげに俺のスーツをじっと見ている。


「見せたかったのは新型スーツじゃなくて、ブレスレットにも仕込めるって方だよ。オスカーもブレスレットタイプにしようか? ブレスレット以外にも剣とかに組み込む事もできるけど、常に身に付けておけるものの方がいいと思うぞ」

「じゃあ僕もブレスレットでお願いします」

「明日までにやっておくから、変身ベルトとブレスレットを置いていけ」

「いつもありがとうございます」

「お代は労働で返してもらうから気にするな。また店の宣伝が必要になったら呼ぶから手伝ってくれよ」


 変身を解こうとしたら、俺をじっと見ているソフィーと目が合った。


「私にもそのスーツ着れますか?」

「え? ソフィーが? ソフィーって魔術師だし後衛だろ。格闘戦なんてしないだろ」

「魔術師だって魔力が無くなれば逃げるしか出来ませんよ。素早く逃げるのに使えるかなって……。前々からオスカーのスーツを見て考えてはいたんですが、さすがにあの鎧スーツはゴツすぎるし、前のバッタスーツは嫌だし。でもこのスーツなら私でも着れそうだなって……」

「はい、はい、はーい! そういう事なら私も着てみたい」


 ノーラはパーティー内では斥候役も受け持っている。そんな彼女こそ素早い動きが可能となるこのスーツが必要かもしれない。

 オートモード機能を外してしまえば、無茶な動きで体を痛めることもないだろう。


「なら一度、俺のスーツを着てみるか? サイズは調整できるから問題はないはずだ。実際に扱えそうなら女性用スーツの製造も検討してみるよ。でも俺も忙しいから作るとしてもすぐには無理だぞ」

「タツヤさんのそのスーツは、いつ使わせてもらえますか?」

「後日連絡する。……そんな顔しても駄目だってば。俺だって忙しいんだよ!」


 明日から数日は皇帝としての仕事があって工房には出られない。

 気が乗らない仕事だけど、すっぽかすとブラッド宰相に叱られるからな。



 ◇◇◇



 帝都バベル内はまだ整地が終わり、道路や上下水道の建設が始まったばかりだ。

 きれいに均された広大な土地の真ん中に、ポツンと立つひときわ大きな建物がある。


『エデン皇帝府』。帝都バベルの中央組織が入る建物である。


 そしてここはその皇帝府の会議室。

 会議室内にはロの字型にテーブルが並べられており、俺は一番奥の豪華な椅子に座っている。

 俺の右隣には宰相のブラッドが、そして俺の左隣にはいつも通り秘書役のアリスが座っている。


 俺の対面の席では、建設部門の責任者が帝都建設の報告を終えたところだ。


「ありがとう、よく分かった。城壁の資材調達の問題についてはこちらで対策を立よう。作業員の増員については各地で募集をかけているが、これ以上まとまった数は集まりそうにない。募集は継続するが増員は当てにしないでくれ。スケジュール遅延は容認するから、しばらく現状のまま頑張ってくれ」

「増員不可の件は了解しました。スケジュール調整で対応します。資材調達に関しては他の工程にも影響が出ますので、なるべく早く対策をお願いいたします」

「了解した。苦労を掛けてすまんな」


 建設部門の責任者が退出すると、俺は椅子の上で伸びをした。


 こういった報告の場では、俺は皇帝ではなく単なる仕事上の上司として振る舞うようにしている。

 皇帝の立場を強調すれば、報告者は処罰を怖れて問題を過少申告したり、不具合を隠蔽したりして保身に走ってしまう。

 そこで組織内の者たちには、事あるごとに報告・連絡・相談の重要性を説き続け、風通しのいい組織作りに腐心してきたのだ。

 今では現場からの意見要望も遠慮なく伝えてくるようになり、俺としては非常に満足している。

 当初ブラッド宰相は俺のこの方針に対し『皇帝としての威厳が』とか言って反対していたが、会議などがスムーズに進むようになったのを見てからは何も言わなくなった。


「さてと。次は何の報告だ?」


 隣の席に座っていたアリスが答える。


「外務大臣からの報告です。セントース聖王国の件と伺っています」

「分かった。入れてくれ」


 隣室で待っていた外務大臣が会議室に呼ばれ報告を始める。


「皇帝陛下、セントース聖王国から親書を携えた使者が来ています。陛下へのお目通りを願い出ていますが、いかがいたしましょうか?」

「親書には何と?」

「我が帝国と友誼を結びたいとのことです。親交を深めるための外交使節団を派遣するので受け入れを願いたいと」


 外務大臣が親書を差し出す。アリスが親書を受け取り俺のところに運んできた。

 親書を読むと確かに外務大臣の報告通りの内容が書かれている。


「……ふむ。外務大臣はこれをどう見る?」

「そうですね。帝国の存在を世に公表してから既に一ヵ月以上過ぎています。聖王国としてもアルビナ・ホルスを傘下に収めた帝国は決して無視できない存在です。これまで静観を決め込んでいたのは、帝国の情報を集めつつ我々からの連絡を待っていたのでしょう。ところが帝国から何の連絡も来ないので、痺れを切らして様子を探りに来たのだと思います」

「やはり大臣もそう見たか」

「で、いかがしますか? 帝国の威光を見せつけ高圧的に振る舞うか、それとも新参者として友好的に振る舞うか。どちらを取るかで外交方針がガラリと変わりますが」


 ブラッド宰相は帝国宰相の職に就くなり、財務、外務、軍務の三つの部門を立ち上げた。

 三部門のトップである大臣には、ブラッド宰相が自ら勧誘し連れて来た優秀な人材を任用している。


 この外務大臣は就任一週間ほどで俺の性格を把握し、それ以降はこうやって俺好みの単刀直入な話し方をするようになった。さすが宰相のお勧めの人物だ。


「俺にそんな選択を迫るとはうちの外務大臣はなかなか物騒だね。そんな大臣を俺に推挙した宰相の意見は?」

「セントース聖王国は我が帝国を非常に恐れています。いつアルビナやホルスのように属国化されるかと戦々恐々としているのですよ。友誼を結びたいと言うのは表向きの理由で、実際は使節団と称する工作員を送り込んで帝国の内情を探るつもりでしょう。ここは高圧的な態度で馬鹿な真似はするなと釘を刺すべきかと」

「それってブラッド宰相の推測じゃない?」

「建設作業員に紛れてセントース聖王国の密偵が帝都へ潜入しています。相手国に密偵を送り込むのは諜報の基本ですが、見つけただけでも密偵はかなりの数に及びます。全体で何人潜り込んでいるのやら、とても友誼を結ぼうとする国の態度には見えませんね」

「ふーむ。そんなに密偵を放ってきているのか……」


(セントース聖王国に送り込んだシャドウの諜報員の報告とも一致するな。ふーむ、密偵を何人か捕えて二重スパイに仕立てておくか。偽情報を掴ませるチャンスだ)


「密偵の存在だけでは使者を邪険には出来ん。まずはその使者に会おう。使者とは外交使節団を受け入れる方向で話を進める予定だ。……言っておくが、友好的にだぞ。使者はいいとしても、使節団を迎える謁見用の施設が必要だな。彼らをギナンやバベルの街中に泊めるのも問題があるし。ああっ、使節団受け入れって結構面倒だな。今後も外国の客を迎える事は多いだろ。いっそ城でも建てるか?」

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