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第8話 お父さんの仕事探し

 昨日に引き続き、今日もこの街で暮らしていくのに必要な諸々の知識をパトリックから引き出していた。


「……とまあ、こんな感じですかね。これで私から教えられそうなことは、だいたいお教えしたつもりです。他に何か知りたいことはありますか?」

「ありがとう、パトリック。他に知りたいことは……すぐには出てこないから、とりあえずは大丈夫。いろいろ教えて貰ったおかげで、この国で生きていく自信が付いたよ」

「そう言ってもらえると、こちらも頑張った甲斐があります」


 パトリックは、俺の答えに満足そうに微笑んでいる。


「これは質問じゃなくて、相談なんだけど……」

「何でしょう。私に答えられることなら何でもご相談にのりますよ」

「俺は放浪者で過去の記憶が無いんだ。今までどんな仕事をしていたのか全く思い出せない。こんな俺でもこの街で出来る仕事って何かあるかな? 短期のお手伝いとかじゃなくて、ちゃんと生計を立てるための職業のことね」


 パトリックは、人差し指でおでこを押さえながら考え込んでいる。


「そうですね。鍛冶屋とか大工のような技術職は、小さい頃から丁稚奉公で親方から技術を学ぶ職種なので、あなたの歳では難しいですね。うちのような商会も商取引の知識や経験が必要ですし、農家も収穫期の単純労働くらいしか仕事はないと思います。……タツヤさん、あなた魔法は使えますか?」

「昨日教会で調べたら魔法適性なしだった」


 パトリックが難しい顔をしている。


「そうですか。そうなると……」

「そうなると?」

「そうなると、手っ取り早く就ける職は、冒険者くらいしか思い付きませんね。冒険者をまともな職業と言うかどうかは、いささか疑問ですが」


 冒険者の主な仕事は魔物討伐や、薬草や希少な植物の採取などだが、中には迷子の猫の捜索や子供のお守りまであり、その実態は「何でも屋」だ。


 毎日一定の収入が得られるわけでもなく、業務形態は「日雇い労働者」だ。

 特別な技能が無くても出来る半面、収入は不安定で命の保証など全く無い。


 冒険者とは、まともな仕事に就けない者がたどり着く最後の砦なのだ。


 そんな冒険者でも、経験を積み高ランクに昇格すれば世間からは英雄視され、世の冒険者のイメージを押し上げる事になる。

 そのおかげで、地道で手堅い職業を嫌い冒険者を志す若者が後を絶たない。


「冒険者か。俺、魔物と戦う自信無いなぁ」

「別に魔物を倒さなくても、薬草採集の依頼もあります。まあ、小遣い程度の稼ぎにしかなりませんが、数をこなせば生活費にはなりますよ」


 いくら異世界物の定番職とはいえ、やっぱり俺にはブルーカラーのお仕事は無理な気がする。


「そうそう、冒険者登録するとギルドカードが発行されます。身分証明に使えますから、登録だけでもしてみてはどうですか? 私は商業ギルド発行のギルドカードを持っていて、これがあると国の内外を問わず、街の出入りがスムーズに出来ます。冒険者のギルドカードもほとんど同じ役割を持ってますよ」


 パトリックは胸元からチェーンで結ばれた小さな金属製のカードを引っ張り出した。

 見た目はカードというよりタグのような感じだ。

 ギルドカードには、パトリックの名前や職業、所属組織などの情報が記載されている。


「どの町でも同じですが、例え自分の住む街であっても身分証明がないと、街に入る際に税を徴収されます。ですので、街の出入りが多い職業の人は、どこかのギルドに所属してカードを作るのが一般的ですね」

「冒険者ギルドと商業ギルド以外にもカード発行してる所があるの?」

「鍛冶ギルドとか錬金ギルドとか、職業ギルドならどこでもカード発行していますよ。ですがギルドに加入するのに厳しい条件があるのが普通です。ほぼ無条件で入れるのは冒険者ギルドくらいですよ」

「そういう事なら、冒険者ギルドで登録だけでもしておくかな」



 ◇◇◇



 午前のパトリックの授業を終え、クラレンス、ベティ夫妻との昼食のテーブルに着く。

 クラレンス商会の食事は、毎回美味いものばかりで、この世界における最大の楽しみになっている。


「タツヤさん。パトリックの講義はいかがですか?」

「昨日と今日で、かなりの情報を詰め込んで貰いました。彼は本当に博識ですね。どんな質問をしても打てば響くように答えが返ってくる」

「はっはっは。満足して頂いているようで、私も鼻が高いです」


 商会内では何人か若い従業員を見かけていたが、パトリックは他の者達より一回り歳が上で、彼がこの商会のナンバー2のようだ。見た目も正に番頭さんといった感じだ。


「午後はまたテレーゼさんに街を案内して貰いたいんですがいいですか?」

「元々午後はタツヤさんに付ける予定でしたから、問題ありませんよ」

「ありがとうございます」

「今日はどちらに行かれる予定ですか?」

「冒険者ギルドに行って冒険者登録をしようかと」


 冒険者という言葉を聞いてベティが心配そうな顔をして聞いてきた。


「タツヤさんは、冒険者をなさるの?」

「別に冒険者で食べていこうと思ってる訳じゃないですよ。パトリックに『冒険者ギルドでギルドカードを作っておくと便利』と言われたもので」

「冒険者って危険なお仕事だから何だか心配だわ」


 俺はベティに笑顔で答えた。


「大丈夫ですよ。俺は頭脳労働派なんで、肉体労働の仕事には就くつもりはないですよ」

「だったらいいんだけど……。本当に危険なお仕事は駄目ですからね」


 やっぱり、この人はいい人だな。他人の仕事に、そこまで心配してくれるなんて。この人にあまり心配を掛けさせてはいけないな。早く真っ当な仕事を探そう。

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