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第7話 ステータス鑑定

 俺は今、教会に来ている。

 テレーゼに頼んで連れてきて貰ったのだ。


 教会に来た理由など言うまでもない。

 俺に秘められた魔法の力を調べてもらうためだ。


 教会には人の持つ能力や魔法適性、特殊なスキルなどを鑑定する魔道具があり、子供が成人を迎えた時に無料でステータスを鑑定してくれるという。


 将来有望そうな人物を早めに見つけ出して、教会で囲い込んでしまおうという思惑があるらしいのだが、それでも無料で鑑定してくれるという事で街の住人には喜ばれているようだ。

 ちなみにこの世界、十五で成人だそうだ。


 通常鑑定は有料でそれなりの額のお布施を要求される。


「すいません。ステータスの鑑定をお願いしたいのですが」


 教会の入口に立っていた温和そうな年配シスターに声を掛けた。


「鑑定にはお布施として銀貨二枚をいただきますが、よろしいですか?」

「はい。これを」


 俺は銀貨を取り出しシスターに渡す。


「こちらへどうぞ」


 ステータス鑑定に掛かる時間は十分程度という話だったので、テレーゼには待っててもらう事にした。


「テレーゼさん、申し訳ない。少しここで待ってて貰っていいかな?」

「はい、お待ちしています。どんな結果が出るか楽しみですね」


 シスターの案内で小部屋に通された。

 部屋には机と椅子が置いてあり、机の上には木箱と紙とペンが置いてある。

 シスターは木箱の蓋を開け、中に入っていた大きな水晶玉を取り出した。


 でかっ! ボーリングの玉くらいの大きさがある。

 どうやら、あれがステータスを調べる魔道具らしい。


「この水晶玉に手を置いてください。水晶玉の中にあなたのステータスが見えてきますから、それをこちらの紙に書き写してください。字は書けますよね?」

「ええ、大丈夫です」


 うむむむ。これはもしかしてお約束のイベントなのか?

 これは俺が水晶玉に触れると秘められた膨大な魔力に耐えきれず水晶玉が破裂して大騒ぎになるパターンだ。


 教会は能力のある人物を囲い込むらしいから、下手を打つと無事に帰してもらえなくなるような気がする。

『高価な水晶玉を壊した!』とか言って、巨額な賠償を要求されるかも知れないし。


 いつでも逃げ出せる準備をしておいた方がいいかな。


「つかぬ事をお伺いますが、これ壊れたりしませんよね?」

「触ったくらいで壊れませんよ。思いきり床にぶつければ話は別ですけど」


 よし! 俺の質問の意図は伝わらなかったようだが、確かに言質は取った。

 触って壊れたとしても俺の責任ではない!


「水晶に表示されたステータスは一定時間で消えますから、書き写すのにあまり時間を掛けないように注意してくださいね。書き写すのが不安でしたら代筆者を用意できますが、どうしますか?」

「いえ、代筆は不要です」

「では、しばらく席を外しますから始めてください」


 あれ? シスターが部屋を出て行ったぞ。

 横でステータスを見てて、能力が高い者を囲い込むんじゃなかったっけ?


 ……ああそうか。それは成人になった時の無料鑑定限定だな。

 さすがに大人相手にお金を取っておきながら囲い込みなんてしないか。


 シスターが部屋から出たのを確認し水晶玉にそっと手を置く。

 水晶玉が全体に淡く光り出した。水晶玉の内部に光る文字が浮かび上がってる。


 おお! かっこいい! すごいぞ魔道具! どんな仕組みだよ。


 水晶を覗き込んで、映し出された内容を見る。思ったより表示されている項目が少ない。


 おっと、時間制限があるからのんびりできない。

 ペンを握り、机に置かれた紙にステータスを日本語で書き込んでいく。

 もしシスターに盗み見られたとしても日本語ならステータスは秘匿できる。


 目にしたステータスに気になる部分があったが考えるのは後だ。まずは書き写してしまおう。


 無心にペンを走らせステータスを写し終えた。

 やがて水晶玉に表示されていた文字が暗くなりそっと消えた。


 水晶玉の破裂イベントは最後まで起きなかった。実を言えばちょっとだけ期待してたのに、残念だ……。


 改めて紙に書き取ったステータスを見る。


  名前  :タツヤ

  種族  :人間

  職業  :無職

  年齢  :21(49)

  HP  :325/325

  MP  :-/-

  魔法適性:-

  スキル :異世界言語:MAX、魔力操作:1


 ええと、これはどう評価すればいいんだろうか?


 ドアを開け外に出ると、シスターが待っていた。


「あのー。ちょっとお尋ねしたいんですけど」

「はい、なんでしょうか?」

「このステータスなんですけど『MP』ってマジックポイントで合ってますか?」

「そうですよ。その数値が多ければ多い程たくさん魔法が使えますよ」

「MP欄に何も数値が出てないんですけど……」

「MPが無いですって? ……残念ながら魔法は使えないですね。普通は魔法が使えない人でも10や20はあるんですけどねえ。あなた位の歳でMP0は初めて聞きますね」


「魔法適性の欄も何も出てないんですけど……」

「どの属性の魔法にも適性が無いということですねえ。まあどれか適性があったとしてもMPが0では……」


「スキル欄に『魔力操作』ってのがあるんですが、これ何?」

「魔力操作ですって!?」


 それまで残念な人でも見るような憐れみの目を向けていたシスターが、初めて驚愕の声を上げた。


「素晴らしいわ! 魔力操作は過去にあまり例のないレアなスキルですよ。このスキルを持っていると、少ない魔力で効果の高い魔法を行使できるようになるそうです。噂の域を出ませんが、魔力操作を極めると無詠唱で魔法が使えたり、異空間に物を収納できる魔法が使えるようになるとか」

「でも俺、魔法使えないんだよね? このスキルに意味あるの?」

「…………」


 気の毒そうな顔をしたシスターに見送られて、俺はテレーゼと一緒に教会を後にした。


「ガッデーーーーーム!」



 ◇◇◇



 俺の魔術師デビューは儚い夢と消えた。


 どういう事だ? チート能力は転移者全員プレゼントじゃないのか?

 だいたいさっき調べた俺のステータス、突っ込みどころが満載じゃないか。


 名前、種族、職業はまあいい。


 年齢欄は見方が分からない。

 俺は四十九才だから括弧内の数字が年齢だろう。では括弧の前の二十一とは何の数字だ?

 後でシスターに聞こうと思っていたのだが、魔法が使えないという衝撃の事実に打ちのめされて、聞きそびれてしまったのだ。


 HPは数字が二つある。

 これは単純にHPの現在値、最大値で間違いないだろう。値はどちらも325。

 この世界の標準的な数値が分からないのだが、たぶん一般人の平均値くらいはあると思う。


 問題はMPだ。

「-/-」とあるが何だか変だ。MPが無いのであれば、普通は「0/0」という表記になるのではないか?

 これはMP量が0なのではなく、MPという概念自体が俺には無いという事ではないのか?

 だとすれば、例えどれだけ努力してもMPは増えないのでは?


 魔法適性は最悪だ。

 魔法の適性があれば『火属性』とか『水属性』とか使える属性が表示されるらしい。

 何も出てないという事は、例えMPがあったとしても魔法は使えないという事だよな。悲しい……。


 スキルも問題だらけだ。


 一つ目のスキル、異世界言語。

 これのおかげで俺はこの世界で会話したり文字の読み書きができるのだろう。

 このスキルを与えてくれた神だか仏だかには、素直に感謝の意を表そう。

 だけど頭に『異世界』なんてワードが付いてるスキル、怖くて存在を人に話せないよ。


 そして二つ目のスキル、魔力操作。

 魔法が使えないこの俺に、魔力操作とは何の嫌がらせだ!

 このスキルを与えてくれた神だか仏だかには、素直に罵声を浴びせよう。


 はあ。期待していた魔法はどうやら使えそうもない。

 結局まともに使えるチートスキルは異世界言語のみだ。


 やっぱり俺は異世界では役立たずだな。

 厳しい現実を目の当たりにして心が折れそうだ。

 悲しくなるとなぜか家族の顔が思い浮かんでくる。


(娘よ。せっかく異世界に来たのに、お父さんは魔法使いになれなかったよ。三十まで童貞を守らないと魔法使いになれないという、あの噂は真実だったのかな?)


 俺の落ち込んだ姿のせいで、テレーゼには心配を掛けさせてしまったようだ。

 商会への帰り道、並んで歩くテレーゼが困ったような顔でそっと俺の腕に手を添えている。

 若い女の子を不安にさせてしまうとは、いい歳をした大人として情けない。

 強張った顔をほぐしつつ、教会で記録したステータスについてテレーゼに聞いてみた。


「テレーゼさんもステータスの鑑定はしてるんですよね?」

「ええ。十五になった時に教会で見てもらいました」

「ちょっと聞きたいんだけど、年齢欄に数字が二つ出てて、一つは俺の年齢なんだけど、もう一つが何の数字か分からないんだ。何か知ってる?」

「年齢は一つしか出ないはずですけど……。どんな数字だったんですか?」

「最初に二十一。この数字が何か分からない。続けてカッコの内に四十九。これは俺の歳だな」


 テレーゼが不意に立ち止まった。


「え? 四十九? タツヤさんって、エルフだったんですか?」

「何言ってんの? 俺は人間だよ」

「だって、だって、どう見てもタツヤさん、私と同年代かちょっと上くらいじゃないですか!」

「???」


 俺がエルフ? エルフって耳が長くて森に住んでて長寿命で美形と言われるあのエルフの事か?

 この人、何言ってんのかな?


 俺は耳に手をやり、ぐにぐに触ってみた。普通の耳だ。

 ポケットからスマホを取り出し、カメラの自撮りモードで自分の耳を映す。

 やっぱり耳は長くない。俺はエルフじゃないぞ。


 次いで顔全体を映す。悲しい事に美形ではない。


 ……あれ? あれ? あれれ?


 スマホの画面には、顔のシワと頬の弛みが消え引き締まった顔付きの俺がいる。

 そして何故だか髪が真っ黒だ。俺の髪は半分以上が白かったはずなのに……。

 

「若くなってるのか?」


 随分若くなってるようだ。見た目はニ十代前半といったところか。


「テレーゼさん。放浪者の話の中で、転移で若返ったという話は聞いた事ないですか?」

「聞いた事はないです。放浪者の話は口伝えのおとぎ話なので、話し手によって内容は少しずつ違いますし」

「そうですか……」

「タツヤさん。記憶が無いせいでご自分の歳を勘違いされてるのでは?」

「いや、そこははっきり覚えてる。俺は確かに四十九だ。それに間違いなく人間だよ」


 衝撃の事実が発覚した。

 俺は転移の影響で若返ったみたいだ。全く気が付いてなかった。

 どうやらステータスの年齢欄に出ていた二十一とは、俺の肉体年齢のようだ。

 そういえば若返りも異世界のテンプレだな。この若返りに何か意味はあるんだろうか?


 どうしよう。すごく複雑な気分だ。俺の体、ずっとこのままなのかな?

 日本に帰った時に二十一のままだったら、みんな驚くだろうな。


 妻はどう思うかな。若々しい夫が帰ってきて喜ぶかな?

 いや、あいつは『自分も若返りたいから異世界に連れてけ』とか言い出しそうだな。


 娘はどうだ? 自分と同じような年代の若いお父さんをどう思うかな?

 まさか『お父さん、キモい!』とか言わないよな。


「テレーゼさん。俺の本当の歳は内緒にしておいてくれないかな? 別に秘密にする程の事でもないんだけど、人に説明するのが面倒そうだ」

「分かりました。……でも、本当に四十九なんですか?」

「ああ、転移した時に二十一才まで体が若返ったみたいだ。理由は分からん」


 テレーゼが何とも言えない表情で俺の顔を見ている。

 四十九と聞いてドン引きされたかな?

 まさかテレーゼまで『キモい!』とか言わないよね。

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