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第82話 尋問

 俺がサラマンダー艦内への侵入者をいたぶって悦に入っていた間………いや違った、捕虜にすべく奮闘していた間、他の対応は全てケルビムに任せきりにしていた。


 侵入者への対応がひと段落ついたため、俺はその間の出来事の報告をケルビムから受けることにした。


 まずは回収待ちになっていたバトルロイドたちと三人の捕虜の状況だ。

 少し前にエデンから呼び寄せた輸送機がこの地に到着したが、俺は手が離せなくて対応を丸投げしたのだ。


「ケルビム、ブルー隊と捕虜の収容状況は?」

『バトルロイド四機と捕虜三名の輸送機への収容は無事完了し、現在は上空にて待機中です』

「捕虜たちの様子はどう?」

『ルーベック将軍と魔術師二人は、口に猿轡をはめて手足を拘束しいますから大人しいものです』

「よし、輸送機のブルー隊と三人の捕虜をサラマンダーに移乗させてくれ。輸送機が空になったらあの街へ向かわせろ」


 あの街とは、平原の南に位置する住民の虐殺されたあの街のことだ。

 街には生存者捜索のためにレッド隊の四機のバトルロイドを残してある。


「生存者の捜索状況は?」

『街の全域を調査しましたが生存者は見つかりませんでした。どうしますか? このまま捜索を続行しますか?』


 バトルロイドが念入りに全域を調査したのだ。これ以上生存者がいる可能性は低いだろう。


「生存者は結局一人だけか……。仕方がない。輸送機が到着したら捜索は終了でいい。レッド隊を収容してこっちに連れて来てくれ。サラマンダーの戦力が全く足りていない」

『了解しました』


 かわいそうだが、殺された人数が多すぎてすぐには住民たちを弔ってやれない。

 ギルベルト王にも街の惨劇は伝えてあるが、向こうも国境の防衛に掛かりきりで、こちらに人手を割く余裕はないはずだ。

 俺に出来ることがあるとすれば、この戦争を早急に終結させることだけだ。


「ホルス軍の状況は?」

『サラマンダーの攻撃で四千まで数を減らしています。どうやら部隊の再編を行っているようで、兵士が活発に動き回っています』

「対地レーザー砲への動力供給は無理そうか?」

『ここでは応急処置も出来ません。ドック入りさせて修理が必要です。艦への墜落のダメージは深刻で、他にも異常が発生する可能性が高いです。これ以上の戦闘継続は難しいですね』


 グレース平原におけるホルス軍とサラマンダーとの戦いは膠着状態に陥っていた。

 サラマンダーは地上への攻撃手段を失っており、ホルス軍に対して手が出せない状態だ。

 一方ホルス軍は空高く浮上したサラマンダーに対し、何の攻撃手段も持ち合わせていない。


 ホルス軍はサラマンダーが対地攻撃力を失ったのを見抜いているようで、こちらの存在を気にもかけず部隊の再編を急がせている。

 再編が完了したら王都に向かうつもりなのだろう。


「ケルビム。アルバトロスをここに呼び寄せろ。もう大丈夫とは思うが高度は五千以下に下げるなよ」

『了解しました』

「それから、カナン島の()()の整備は終わっているか?」

『いつでも出撃可能です』

「パイロットは?」

『コクピットで待機中です』

「よし、輸送機に牽引させてホルス王都に向かわせろ。到着したら王都上空で待機させておけ。これも高度五千以下は厳禁だ」

『了解しました』


 思い付く指示は全て出した。何か忘れていることはないだろうか?


「そういえば流星号はどうした?」

『既にサラマンダーに到着しています。艦底部のハッチが使えないため甲板上で待機中です』


 となると、後は空挺母艦アルバトロスの到着を待つだけだ。


「それじゃあ、今のうちに捕虜の尋問をしておこうか」



 ◇◇◇



 捕えた()()()の捕虜は別々の船室に放り込み、扉をロックして拘束してある。

 閉鎖されたハッチを開けてしまうような魔術師がいる以上、電子ロックにどれほどの意味があるのか、いささか疑問ではあるが『もし魔法を使って扉を開けたら捕虜全員の安全は保障しない』と脅してあるので、下手な真似はしないだろう。


 俺はその船室の一つで侵入者たちの隊長カーティスの尋問を行っていた。

 尋問といっても、直接姿は見せずに声だけでの尋問である。

 カーティスは抵抗する素振りも見せず、俺の質問に素直に答えている。


『……では、そのロジェ将軍というのが、この軍勢の司令官か?』

「ああそうだ。遠征軍は三つの大隊から編成されている。第一大隊はルーベック将軍、第二大隊はロジェ将軍、第三大隊はクロフ将軍が率いている。ロジェ将軍は三人の中で最も経験豊かな老練だ。だから遠征軍の総大将にも任じられている」

『遠征軍を降伏させるには、ロジェ将軍を捕えるか殺すかすればいい訳か』

「ロジェ将軍を殺しても、遠征軍は降伏はしない」

『なぜ? 三人目の将軍クロフも捕えないと駄目か?』


 カーティスは首を左右に振っている。


「そういう意味じゃない。俺たち遠征軍はいわゆる死兵なんだよ。敵地の真っただ中で援軍も無ければ後退する先も無い。生き残るにはアルビナ王都を落としてこの戦いに勝利するしかないんだ」

『よく分からんな。それは負けられない理由ではあるが、降伏を拒否する理由にはならんと思うが』

「遠征軍は街を襲って住人を皆殺しにした。その所業が明らかになれば、アルビナ王国は俺たちを許さないだろう。降伏しても断罪されて殺されるだけだ」


 確かにそれは言えるな。

 俺だってサラマンダーの武装が無事だったなら、ホルス軍を殲滅しているはずだ。


『確かにな……。ところでお前たちは、どうやって平原の南の森まで来たんだ? ホルス王国からあの森までの侵入ルートがどうしても分からんのだが』

「転移魔法を使った。魔術師がホルス王国の郊外と南の森を転移門で繋いだんだ」


 数年前にホルス王国の王都に他国から流れて来た魔術師がやってきた。

 魔術師はいくつもの異質の魔法知識を持っており、莫大な褒賞と引き換えにそれをホルス王国に伝授した。

 転移門を作り出す魔法も、その魔術師からもたらされた魔法のひとつである。


 ホルス王国はアルビナに至る転移門を開こうとした。

 だが転移門の魔法は何かと制約が多く、アルビナ王国内で転移門を出現させられる場所は、グレース平原の南の森しかないと判明した。

 また転移門は月と星々の巡り合わせにも関係しており、門が使えるのは特定期間の特定時間帯のみである。


 ホルス王国は転移門が使える日時に合わせ、ホルス王都近郊に遠征軍を終結させた。

 某日某時刻、十六名から成る魔術師集団が一斉に呪文詠唱を開始した。

 彼らの目の前に光り輝く巨大な魔法陣が出現した。

 それがホルス王国とアルビナ王国を繋ぐ転移門であった。

 そしてそれと同じ魔法陣が、遠く離れたアルビナ王国の森にも出現していた。


 初日は騎乗した千名の騎士が転移門を潜った。

 グレース平原の南の森に転移した騎士たちは、自分たちの存在を隠匿するため近くの街を包囲し略奪と殺戮を行った。


 二日目からは兵士や大量の輜重品が転移門で送り込まれた。

 五日間かけて累計五千人が南の森に送り込まれた。

 そこで転移門は使えなくなった。

 もうホルス王国には帰れない。アルビナ王都を落とさない限りは……。


 五千の遠征軍は森の中で密かに待機を続け、アルビナ王都に潜む間者からの連絡を待った。

 二日後、王都の騎士団の大多数が国境に向かったとの知らせが遠征軍に届けられた。

 かくて遠征軍のアルビナ王都への進軍は開始された。


『ちょっと待て。よく分からんな。カーティスの部隊はこの船に侵入して俺を殺すために編成されたんだろ。王都を目指す遠征軍とは目的が違うのか? そもそも何で俺がここに来ると分かったんだ?』

「半年ほど前に誰かが予知をしたらしい。グレース平原に空飛ぶ船が現れるってな」


 半ば予想していたことだが、やはり俺の出現は予知されていたようだ。

 その予知者は過去に何度も重要な予知を的中させており、ホルス王国の上層部から絶大な信頼を得ているらしい。

 その予知者のお告げとはこんな内容だったようだ。


 グレース平原に空飛ぶ船が現れる。

 その船に乗っているのはたった一人。エデン帝国皇帝を名乗る黒目黒髪の男。

 空飛ぶ船は反浮遊魔法により地へと落ち、戦う力のほとんどを失う。

 ホルスの兵士たちが船の扉を開き内部へと侵入する。


 ホルス王国はその予知を聞き、空飛ぶ船を手に入れようと決めたらしい。

 空飛ぶ船が手に入れば隣国のアルビナ王国やセントース聖王国はもちろん、大陸全土に覇を唱えられる。

 反浮遊魔法で空飛ぶ船を落とせることも、兵士たちが船の内部への侵入に成功することも予知がしっかり保証してくれているのだ。実行に移さない理由はない。


 だが懸念事項がひとつだけあった。

 空飛ぶ船が現れるのはグレース平原である。アルビナ王国の領内だ。

 ホルス軍がアルビナ王国に侵入し軍事行動を起こせば、それはアルビナ王国に対する宣戦布告に等しい。


 そこでホルス王国は決断した。

 だったら最初からアルビナ王国に宣戦布告してしまえと。


 転移魔法で軍勢をアルビナ王国内に送り込み、グレース平原で空飛ぶ船を奪取する。

 その後はアルビナ王都まで攻め込み王都を落とす。


 もし船の奪取に失敗した場合、または予知が外れてグレース平原に空飛ぶ船が現れなかった場合は、遠征軍はそのままアルビナ王都まで攻め込み王都を落とすだけだ。


『おいおい、それじゃ俺の船が戦争の原因だっていうのか?』

「原因のひとつではあるな」

『それってホルスが勝利する事しか考えてないよな。負けた時の事はどうするんだ? 下手すれば国が滅ぶぞ』

「戦うには絶好の機会だったんだよ。今のアルビナ王国には王城は無く、内紛で国防力はガタ落ちだ。国王はまだ若く国内の領主たちを纏めきれていない。それに加えて空飛ぶ船が手に入るとなれば、誰だって開戦に心が傾くというものだ。こんなチャンスは二度とない」


 サラマンダーを建造したのはこの俺だ。アルビナ王国を弱体化させたのもこの俺だ。

 俺は戦争の原因のひとつなんかじゃない。原因の大部分が俺なのだ。

 俺の存在が巡り巡って、あの街に死をもたらしたのか……。


『全くひどい話だな……』


 カーティスからは思っていた以上の情報が引き出せた。


 異質の魔法をホルス王国に伝えた魔術師に、サラマンダーの出現を予知した謎の人物。

 実に興味深い。これは直々にホルス王国へ乗り込む必要があるな。


『聞きたい事はまだあるが、とりあえず今必要な事は聞かせてもらった。協力的で助かったよ。何でそこまで詳しく教える気になったんだ?』

「俺の知っている事は正直に答えた。部下たちには寛大な処置をお願いしたい。彼らは俺の命令に従って動いただけだ。責めは隊長である俺一人が負うべきものだ」

『いいだろう。お前たち十八名の捕虜の命は保証するし、待遇も考慮しよう』

「十八名?」

『穴に落ちた二人はちゃんと生きてるよ。後で会わせてやる。俺は重たい船を空に浮かせられるんだぞ。穴に落ちた人間を宙に浮かすなど造作もない』


 カーティスの尋問を終えて、俺はケルビムに声を掛けた。


「ケルビム、そっちの尋問はどうだった? 俺の知っておくべき話は出て来たか?」


 俺がカーティスの尋問を行っていた間、ケルビムが他の十七名への尋問を同時並行で行っていたのだ。


『いえ、カーティスからの情報以上のものは何もありません』

「彼らの話に不整合はなかったか?」

『口が堅い者は何人かいましたが、聞き出せた話はほとんど同じです。口裏を合わせて偽情報を掴ませようとしている可能性は低いと思います』


 ルーベック将軍と反浮遊魔法を使った二人のローブの魔術師への尋問がまだ済んでいないが、必要な情報はカーティスから引き出し済みだ。

 苦労して生かしたまま捕獲したが、急いで尋問する必要もなさそうだ。

 とりあえず放置でいいか。


「よし、アルバトロスが到着したら一気に片を付けるぞ! いつまでもこんな馬鹿な戦争やってられるか!」

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