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第80話 反撃

 早急に対処が必要な事が二つある。

 ひとつは艦内の侵入者の排除。

 そしてもうひとつは敵に囲まれ孤立しているブルー1と捕えた捕虜の救出だ。


 俺は艦橋のモニターに映し出されている艦内の侵入者たちに目をやった。

 侵入者は全部で十八人。兵士が十三人、魔術師が五人の大所帯だ。


「こいつらは、今どこにいる?」


 モニターに艦内図が表示され、侵入者たちの位置が赤い点で示された。


『侵入者は上部甲板のハッチから侵入。現在はメイン通路の第一区画にいます。通路の隔壁扉をこじ開け艦橋に向かうつもりでしょう』


 メイン通路とは艦中央部から艦首にかけて伸びる長い通路で、隔壁扉によっていくつもの区画に分けられている。

 隔壁扉は通常、人が通る時に自動で開く扉なのだが、今は全ての隔壁が閉鎖されている。

 侵入者が艦橋まで辿り着くには、この隔壁扉を四つほど開けないといけない。


「侵入者の方はまだ時間の余裕がありそうだ。ブルー1の救出を先にしよう」


 艦外を映すモニターにブルー1の姿が表示された。

 単機で敵中央部に突入し群がる敵を撃退。ローブの魔術師たちを倒した上に、捕虜まで確保してみせたブルー1。

 だがその代償は大きかったようだ。


 ブルー1の頭部の兜は無くなっており、内部の機械部分がむき出しだ。

 青い鎧は火魔法を何度も受けたのか黒く焼け焦げている。

 手足を守る装甲が何枚も失われ、内部の骨格やケーブル類が見えている。残っている装甲も傷だらけで大きくへこんでいる。


 満身創痍のブルー1は捕虜にした二名の魔術師を足元に腹ばいに伏せさせ、近づく騎士や兵士を剣で威嚇し接近させないようにしている。

 周囲を取り囲む敵兵は徐々に数を増しているようだ。いずれ一斉に押し寄せてくるだろう。


「ブルー1、今から周囲の敵兵を排除する。敵兵がいなくなったら捕虜を連れてブルー2たちと合流。輸送機の到着を待て」

『了解』


 サラマンダーの対地攻撃用レーザー砲は、墜落時にそのほとんどが損壊してしまった。

 健在なレーザー砲は二門だけだが、二門もあれば援護には十分だ。


「ケルビム、ブルー1がブルー2たちに合流出来るよう移動経路上の敵を排除するぞ」


 サラマンダーの二門の対地レーザー砲が地上に向けられた。


『いつでも発射出来ます』

「撃て!」


 二門の対地レーザー砲が火を噴いた。……はずなのだが、何も起こらない。


『動力伝達系統に異常発生! 九番および十番の対地レーザー砲、使用不能。艦首大型レーザー砲も使用出来ません』


 墜落の影響は結構深刻だった。


 こうなると使える武装は甲板の両舷に三門ずつ配置された魔導対空砲だけだ。

 これは魔石を使った魔道具なので、動力伝達系統に異常があっても使用は可能だ。

 だがこの対空砲は砲身を地上に向けられないため、地上攻撃には使えない。


 他に地上爆撃用の爆弾も積んではあるが、艦底部の投下口が潰れているためこれも使用はできない。


「……まずいな。地上への攻撃手段が無くなった。……いや、無いことも無いか」


 俺は艦長席のシートベルトがしっかりと締まっているのを確認した。


「魔導対空砲を使うぞ。艦を背面浮遊させれば対空砲の砲身を地上に向けられる」

『確かに射角は取れますが、魔導対空砲は射程が短いですから、もっと高度を下げる必要があります。よろしいですか?』


 再浮上を果たしたサラマンダーは、再び地上から魔法攻撃を受けないよう高度を上げている。下手に高度を下げれば、また地上に落とされる危険がある。


「問題ない。サラマンダーを地に落とした魔法は、五人掛かりで行使するような大掛かりな魔法だ。そんな魔法なら大量の魔力を消費するはずだ。俺ならその魔力を感知できるから、見つけ次第潰してしまえば大丈夫だ」

『了解しました。艦を降下させます』


 艦は急速降下しながらくるりと半回転し上下を反転させる。

 上下反転して俺は艦長席で逆さ吊りの状態だ。頭に血が上りそうだ。

 早く片を付けよう。


「撃て!」


 魔導対空砲の氷の銃弾が間断なく地上へと撃ち込まれ、銃撃を受けたホルス兵が次々と倒れていく。


 地上からも反撃は来た。

 反撃といっても弓矢の届かないサラマンダーへの攻撃となれば魔法くらいしかない。


 だが飛び交う魔法はしょぼい初級の攻撃魔法ばかりだ。


 火魔法のファイヤーアローや氷魔法のアイススピアなどは、サラマンダーの船体に炎や氷が当たると派手に飛び散り綺麗なのだが、そんな攻撃ではサラマンダーに傷一つ付けれまい。


 雷魔法のサンダーボルトは、落雷による大きな衝撃音と閃光でビクリとさせられるが、元々艦には落雷対策が施されており、艦内への影響など全くない。


 土魔法のストーンバレットは、たくさんの石つぶてが飛んでくるのだが、分厚い金属装甲の艦に石ころで戦いを挑むとは、いささか無謀ではないのか?


 大きく腕を振りかざし風魔法のエアカッターを放っているらしき魔術師もいたが、見えない空気の刃などでサラマンダーの船体が切り刻めるはずもなく、傍目には変な踊りを踊っている怪しい男にしか見えない。


 サラマンダー相手にそんな豆鉄砲が効く訳なかろうが!

 だんだん腹が立ってきた。俺は怒りに任せて命じた。


「撃て!」


 しょぼい魔法を空に向けて撃っていた魔術師の一団が次々と倒されていく。

 やがてブルー1の周囲から兵士がいなくなった。

 これでしばらく敵兵は寄って来ないだろう。

 ブルー1が捕虜たちを連れてブルー2と合流すべく移動を始めた。

 もうすぐ救出のための輸送機も到着する。ブルー隊はもう大丈夫だろう。


 あとは艦内の侵入者たちの対処だ。


「ケルビム、艦内の侵入者の位置は?」

『まだメイン通路の第一区画のままです。隔壁を開けられずに手間取っているようです』

「さて、どうするかな」


 侵入者は全部で十八名。魔術師らしき男女五名と兵士の男たちが十三名。

 彼らは艦が地上に落ちた際、躊躇いなくロープを伝って甲板まで登ってきた。

 更に魔法を使ってハッチを破り艦内に侵入してきた。


 たぶん彼らはこの艦に侵入することを目的にしたチームなのだろう。

 だとしたら周到な準備をしてきているはずだ。油断は出来ない。

 このまま手をこまねいていれば、いずれ艦橋まで押し寄せてくるだろう。


(どうやって彼らを撃退しようか?)


 艦内にはバトルロイドは一機もいないし、非力な俺では侵入者を相手に戦えない。

 特殊スーツを着ればいくらか戦えるようにはなるが、それでも十数人を一度に相手するのは無理な話だ。

 魔術師に限れば、俺の魔力操作のスキルを使って魔力を吸い取り昏倒させる事は可能だが、その為にはもっと接近しなければいけない。


(あれ? これって結構ピンチ? 何とかなるって気楽に考えてたけど、よく考えたら侵入者を撃退する手段が無い!)


「ケルビム。通路内に睡眠ガスを撒けないか?」

『睡眠ガスなんてこの艦に積んでませんよ。消火用の不活性ガスなら放出できますが』

「じゃあそのガスを放出して窒息させよう」

『残念ながら艦に備えてある消火用不活性ガスは人体に無害です』

「じゃあ水をいっぱいまで流し込んで溺死させるか」

『魅力ある提案ですが、この艦には通路に注水する設備などありません』

「このまま艦橋に攻め込まれたら、冗談抜きに俺殺されるんだけど」

『流星号がこちらに向かっています。いざとなったら艦から脱出してください』


 さすがケルビム。ちゃんと俺の安全を考えてくれているみたいだな。


「流星号とライザーが運んだ赤ん坊はどうなった?」

『クリスティンが手配した王宮の宮廷医師が処置したようです。まだ予断は許しませんが、回復に向かっているみたいです』

「そうか、良かった」


 脱出の目途も立ったし、侵入者対策に本腰を入れるとしよう。

 モニターで侵入者たちの様子を見てみる。


 メイン通路の端の第一区画で女魔術師が隔壁に手をかざし呪文を詠唱している。

 あれは開錠の魔法か? それとも扉の内部構造を調べる鑑定系の魔法だろうか?


 魔法などというファンタジーな代物で、隔壁扉の電子ロックを解除できるというのがどうしても納得できないのだが、現に彼らは船体のハッチを開きこうして内部に侵入している。

 これは先端科学より魔法の方が優れているという事を示しているのだろうか?


 さて困った。

 情報を引き出すためにリーダーは殺さず捕獲したい。

 それに魔術師たちが使っている魔法も非常に興味がある。魔術師も生け捕りたい。

 捕虜は欲しいが、彼らを捕まえるいい方法が見つからない。


 モニターで侵入者を観察していて、妙なことに気が付いた。


「ケルビム。奴ら二人ほど怪我して座り込んでるけど、お前が何かしたのか?」

『先程艦を反転させたせいですよ。床や壁に転がって怪我をしたようです』


 体をシートに固定していた俺と違い、通路に立っていた彼らは艦が上下逆さまになった際、あちこち転げ回ったのだろう。だとすれば怪我くらいするはずだ。


 …………ふむ。侵入者の撃退って実はとても簡単なことではなかろうか。

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