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第79話 死闘!サラマンダー

「ホルス軍の全兵士に告ぐ! 直ちに降伏せよ!」


 眼下の平原に俺の拡声された声が響き渡る。


 …………おや、反応が鈍いな。さすがに簡潔すぎたか。

 仕方がない。もっと丁寧に呼び掛けてやるか。


「お前たちの将であるルーベックは、愚かにも我が降伏勧告を拒絶し、あまつさえ我に戦いを挑んだ。ルーベックは我が軍門に降り断頭台の露と消える運命にある。本来であればお前たち兵士も愚かなるルーベックと同様、死を以て償わせるところだが、最後にもう一度だけチャンスをやろう。直ちに降伏せよ。三分だけ時間をやる。降伏の意思ある者は武装解除しその場に平伏せよ。逃亡を図る者、三分経っても平伏せぬ者はこうなる」


 サラマンダーがホルス軍の隊列の周囲へと、何十発もの砲撃を加える。

 間断なく続く爆発。周囲に響き渡る爆音。舞上がり視界を遮る土や砂。

 兵士たちは身動きも出来ないまま悲鳴をあげ続け、一帯は阿鼻叫喚の様相に包まれた。


 砲撃が止んだ。少しずつ砂ぼこりも晴れて視界が広がって来る。

 至近での爆発により騎士の乗る馬の相当数が、半狂乱となって騎士を振り落として逃げ去った。

 歩兵の兵士たちは戦意を喪失し、茫然と周囲を見回している。

 中には早々に剣を投げ捨て平伏している者もいる。


「よく考えることだ。残り時間は後二分だ」


 俺は艦外スピーカーへの接続が切れているのを確認すると、ケルビムに命じた。


「ホルス軍の隊列から百メートル以上離れる者がいたら、逃亡とみなして撃て」

『了解しました』


 眼下のホルス軍の動きが慌ただしい。隊列の中央部付近で大きな動きが見られる。

 見ればローブを被った魔術師らしき五人の男たちが円陣を組んで何かをしている。どうやら一斉に詠唱を行っているようだ。

 しばらくすると、魔術師たちの前に、一つの光る大きな魔法陣が出現した。


「あれは何だ? 何をしている?」


 その時、俺は軽い眩暈を覚えた。

 何だか体が揺れている。……違う、揺れているのは艦だ。


『マスター、サラマンダーの浮遊ユニットに異常発生! 浮遊石の浮遊反応が低下しています。艦の浮力を維持出来ません』


 艦がふらふらと揺れながら、地面に向かって降下していく。


「あの魔術師たちだ! やつらが何か仕掛けてきたんだ!」


 地表近くまで高度を下げていたため、対処する暇もない。


『落ちます! 衝撃に備えてください!』


 艦長席の対衝撃用エアバッグが展開し俺の体を包み込む。


『五……、四……、三……、二……、一……、着底!』


 サラマンダーは地面へと墜落した。


 艦内に大きな衝撃が走る。警報音が鳴り響き照明が赤い非常灯に切り替わる。

 艦底部が地面と擦れ、艦体の軋む嫌な音が艦内に伝わってくる。

 エアバッグに包まれたまま、俺の体は上下左右へと揺さぶり続けられた。


 やがて艦が静止し揺れが収まると、エアバックはしぼんで俺の体を解放した。

 俺は艦長席から立ち上がった。頭は少しクラクラするが体は無傷のようだ。


「被害報告!」

『浮遊石の反応消失。再浮上出来ません。艦の外殻に大きな損傷は認められず。艦底部の一番から八番の砲門は損壊。艦底部の全ハッチ使用不可。艦内電子装備の十五パーセントは使用不可』


 落下距離が短かったのと、浮力の消失が緩やかだったおかげで、墜落と言うより軟着陸といった落ち方で済んだ。

 艦の外殻に大きな損傷が無かったのは幸いだったが、十門ある対地攻撃用の砲門の大部分は失われた。無事な二門も艦を浮上させない限り使用は出来ないだろう。


「くそっ! やってくれたな! ケルビム、艦外の映像は出せるか?」


 艦橋のモニターに外の映像が映し出される。

 艦の周囲を広く映し出した映像の中に、バトルロイドの青い鎧が見えた。


「良かった。艦の下敷きにはならなかったようだな」


 だが安心するのはまだ早かった。

 数十人の兵士たちがルーベック将軍を奪還せんと、バトルロイドの方に押し寄せているのが見える。


 ブルー隊の三機は、行動不能となったブルー3と拘束され身動きの出来ないルーベック将軍を守るように取り囲み、剣を構えて迎え討とうとしている。


 サラマンダーの艦底部のハッチは潰れて使用不能だ。他のハッチは高所にあり、タラップでもないと登れない。現状ではブルー隊とルーベック将軍の回収は難しい。


 俺はブルー隊に指示を出した。


「ブルー隊、将軍の奪還を阻止せよ。歯向かう者はレーザーで倒せ。手加減は無用だ。奪還を阻止できないと判断した場合は、ブルー1、2、4の三機でその場を離脱」

『こちらブルー1。離脱する場合、ブルー3の回収は?』

「……回収は不要。ブルー3は廃棄だ」

『マスター。ご再考を』

「!?」


 まただ。なぜブルー1は俺の指示に従わない?

 俺だって好き好んででそんな指示を出している訳ではない。

 だが大破した機体の回収にこだわり、健在の三機を危険に晒すことは出来ない。


「廃棄だ。それが嫌なら将軍を守り抜け!」

『了解』


(くそっ、ブルー1め! これじゃあ俺が人でなしみたいじゃないか!)


 不安は残るが後はブルー隊に任せよう。


「ケルビム、輸送機を一機呼んでくれ。ブルー隊と将軍を回収したい」

『輸送機ですか? 王都を警護しているアルバトロスを呼んで回収艇を降ろした方が安全に回収出来ますが』


 空挺母艦アルバトロス搭載の回収艇は、戦地に降下しバトルロイドを回収して戻ることを目的として設計された機体である。正に今回のような状況を想定したものだ。

 空と地上を往復するだけで機動力は乏しいが、着地地点に敵を寄せ付けない対地用の武装と、魔法攻撃にも耐えられる強固な装甲を持っている。


 一方、輸送機は物資輸送を目的にした機体なので装甲は薄く武装も貧弱だ。

 戦地での使用など想定していない。


「駄目だ。浮遊石が使えなくなった理由が判明していない以上、ここにアルバトロスを呼ぶ訳にはいかない。輸送機ならもし失ったとしても被害は少ない」

『了解しました。輸送機をこちらに向かわせます』


 俺は再びモニターで艦の周囲をチェックした。

 地に落ちたサラマンダーの周囲では、騎士や兵士が船体を取り囲み大きな歓声を上げている。

 大威張りで降伏を呼びかけていたのに、あっさり沈んでしまったのだ。馬鹿にもされよう。


 ハンマーを手にした男たちが船体を叩いている。艦の内部への侵入口を探しているようだ。

 別の男たちはかぎ爪の付いたロープを手にして艦の周りをうろついている。

 こちらも船体によじ登り、上から侵入口を探すつもりなのだろう。

 そう簡単に艦内には侵入出来ないはずだ。こいつらはとりあえず放置でいい。


 気になるのは五、六人の魔術師らしき男女の集団だ。先程見かけたローブ姿の魔術師とは別の集団である。

 彼らは船体に手をかざし何かの呪文を詠唱している。どうも攻撃魔法の類ではなく、鑑定系の魔法のようだ。艦自体もしくは艦の内部の様子を調べようとしているのだろう。

 何を調べているのか気になるが、こいつらも後回しだ。


「ローブの魔術師たちはどこだ?」


 映像が切り替わり、ローブ姿の五人の魔術師を映し出す。

 魔術師たちは、大きな光る魔法陣を囲んで何か詠唱をしている。


「あれは浮遊石を無効化した魔法か? 五人掛かりとはかなり大規模な魔法だったんだな。……ん? サラマンダーはもう落ちたのに、奴らなぜまだ詠唱を続けている?」


 彼らが一心に詠唱を続けているのを見て気付いた。

 あの魔法は浮遊石の浮遊能力を失わせる魔法ではなく、浮遊反応を抑え込むだけの魔法なのではないか?

 彼らの詠唱を止めれば浮遊石は力を取り戻すかもしれない。


(奴らを潰すにはブルー隊をぶつけるしかない。そうなると身柄を抑えているルーベック将軍は諦めるしかない……)


「ケルビム、ブルー隊の状況はどうなっている」

『膠着状態です。敵兵を十五人ほど倒したところでホルス軍の動きが止まりました。現在はブルー隊を遠巻きに囲んでいるだけで睨み合いの状態です』

「今の状態なら二機のバトルロイドでその場を死守出来そうか?」

『可能です』


 一機だけなら、他に回せそうだ。


「ブルー1単機で敵の隊列の中央部に乗り込み、五人の魔術師を倒すことは可能か?」

『敵兵が多すぎます。バトルロイドの対人レーザーは放熱効率が悪く、連射するとすぐにオーバーヒートします。剣を併用すればなんとかたどり着いて魔術師を倒せそうですが、生還は難しいですね』

「と言っても、あの魔法を潰さないと俺たちに逆転の目はない。悪いがブルー1にやってもらおう」


 俺はブルー1を呼び出した。


「ブルー1、敵の隊列の中央部に乗り込み五人の魔術師を倒せ。可能であれば一人か二人は生かして捕獲して欲しい。かなり危険だが頼めるか?」

『もちろんです。マスター、ご命令を』

「行け! ブルー1!」

『了解』


 ブルー1が指示された地点に向かって走って行く。


(頼むぞ、ブルー1)


「ケルビム、ブルー1が敵の魔術師を倒したら再浮上出来るかもしれん。浮遊石の反応は常に監視してくれ」

『了解しました』


 浮遊石が復活すれば形勢は一気に逆転する。

 ほっと一息ついたところに、大きな衝撃音が響き渡る。


「ドシャーーン!」

「何だ? 何が起こった?」


 どうやら艦に雷が落ちたようだ。だが空は雲一つ無い晴天だ。


『マスター、上部甲板のハッチに損傷発生。ハッチの制御不能』


 急いでカメラを切り替え、甲板を映し出す。

 いつの間にか十数名の兵士が甲板上に登ってきており、ハッチの前に集まっている。

 船体にはロープが何本も掛けられており、それを伝って登って来たようだ。


「さっきの雷はこいつらか! 雷系の魔法を使ったのか!」


 集団の中には鑑定系魔法で艦を調べていた魔術師も数名混じっているようだ。

 一人の女魔術師がハッチの前で何か詠唱している。

 女魔術師が後ろを振り向き頷くと、後ろの兵士が進み出てハッチに手を掛けた。

 ハッチが開かれ兵士たちが艦内へと足を踏み入れてきた。


『ハッチのロックが解除されたようです。敵兵が艦内に侵入します』

「あんな雷撃ごときでハッチを破られたのか?!」


 雷を落とされたぐらいで、ハッチが開くとは考えにくい。

 俺の知らない魔法を使われたか?


「艦内の全隔壁を閉鎖!」

『隔壁は既に閉鎖してあります』


 船体のハッチをいとも簡単に開けられてしまったのだ。

 艦内の隔壁もいつ突破されるか知れたものではない。


 映像を艦内のカメラに切り替えた。

 剣を手にした兵士たちが前を進み、後ろの女魔術師がルートを指示しているようだ。

 艦内で音声も拾えるようになったため、彼らのやり取りが聞こえるようになった。


『この角はどっちだ!』

『少し待って』


 女魔術師は目を閉じ呪文を詠唱している。


『…………左、左です。その先に扉があって、開けると階段があるはずです』

『了解。しかしこの船、内部もすごいな。どこもかしこも金属で出来てるし、何でこんな重たいものが空に浮くんだよ?』

『敵の船の中だぞ。私語は慎め。周囲の警戒を怠るな』

『分かったよ。だけど気味の悪い船だな……』


(あの野郎! 俺のサラマンダーを『気味悪い』とぬかしたな! 貴様は後でいたぶってやるから覚えておけ! ……それまで生きていたらの話だがな)


 彼らはどうやら艦橋を目指して進んでいるようだ。

 しかし魔法で艦内の様子が分かるとは。マッピング魔法だろうか?


(手際が良すぎる……。最初からこの艦に侵入することを想定して準備を進めてきたような感じだな)


 ルーベック将軍も俺の素性や、俺がここに現れることを知っていた。


(サラマンダーでここに来る事は、俺が自分で決めたことだ。予定していた行動じゃないから事前の情報漏洩などありえない。……予知スキル? まさかね……)


 思えば過去視のスキルがあるのだ。未来視のスキルがあってもおかしくはない。

 そうなると奴らの目的は俺か、それともサラマンダーの鹵獲か。


 ああ、情報が欲しい。ホルス軍は何を企んでいる?

 これは艦内の侵入者も何人か生け捕った方がよさそうだ。

 特にあの女魔術師は何としても確保したい。


『マスター、こちらブルー1。魔術師の制圧に成功。二名の魔術師を確保しました。対応を指示願います』

「よくやった、ブルー1! 可能ならその二人を連れてブルー2に合流。無理そうならその場に留まり魔術師を守れ。回収のための輸送機がこちらに向かっている。それまで耐えろ」

『了解』


 魔術師は潰した。さあ、結果はどうだ?


「ケルビム、浮遊石の反応は戻ったか?」

『少しお待ちください。………………浮遊反応あり。浮遊石は励起状態へと移行。浮遊ユニット復旧しました。再浮上に問題なし」

「よし、行け!」

『サラマンダー、浮上します』


 艦は少し身震いをした後、めり込んだ地面からそっと離れ上昇していく。

 船体や甲板に取り付いていた兵たちが、振り払われて地面へと落ちていく。


 空の王者サラマンダーは再び大空に舞い戻った。

 俺は艦長席に座り、眼下の敵を睨みつけた。


「さあ、リベンジといこうか!」

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