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第78話 降伏勧告

 グレース平原を北上しアルビナ王都へと向かう軍勢があった。

 ホルス王国がアルビナ王国攻略のために送り込んだ、五千人からなる遠征軍である。


 軍勢の先頭では鎧を纏った一団の騎士たちが、隊列を組んで馬を進めている。

 その一団の中にひときわ目立つ屈強な男がいた。


 ヴィム・ルーベック将軍。ホルス王国ブレストーク砦の司令官である。


 その性格は勇猛かつ粗暴。

 数々の武勲を上げホルス王国では『並ぶもの無し』と言われる勇猛果敢な武将ではあるが、常日頃の素行の悪さから王都では煙たがれ、ブレストーク砦の司令官として辺境の地へと追いやられた人物である。


 今回はホルス王からの直々の命により、アルビナ王都攻略の要として遠征軍第一大隊の指揮を任されている。


「おい、お前! ロジェのじじいにシェルテをどうするのか聞いて来い。攻めるか無視するか、いいかげんはっきりしろってな」

「了解であります。ルーベック将軍」


 指示を出された騎士は馬を操り、軍勢の中央部にいるロジェ将軍の元へと駆けていく。


 この遠征軍の最終目標は、アルビナ王都の王宮を攻略することにある。

 遠征軍はグレース平原にある大きな森から出発し、王都を目指して北上を続けている。

 このまま何時間か進めば、城壁に囲まれた街シェルテが見えてくるだろう。


 遠征軍にとって、このシェルテの街の処遇は悩みの種だ。


 無視して王都に向かえば、街の警備兵に背後を突かれる恐れがある。

 少数の兵といえど、王都攻略中に背後を攻められればその脅威は計り知れない。


 かといって警備兵を潰すためにシェルテの街を攻めるとなれば、王都攻略のための貴重な時間を消費することになる。


 王都攻略は時間との闘いだ。

 こちらの兵力は五千しかない。王都の守備が薄い今だからこそ、この数で戦えるのだ。

 国境に誘い出したアルビナの騎士団が王都の危機を察知して戻ってこれば、遠征軍による王都攻略は失敗に終わるだろう。

 騎士団が戻る前に何としても王都制圧を完了させなければならないのだ。


 ルーベックとしてはシェルテの街を速攻で落とし、後顧の憂いを断ち切ってしまいたいところだが、遠征軍の総大将であるロジェ将軍は、未だにシェルテへの対応を決めあぐねているのだ。


 しばらくして伝令に出た騎士が、ロジェ将軍の回答を携えて戻ってきた。


「ルーベック将軍。ロジェ将軍からの通達です。『シェルテの街を迂回して王都に向かうように』との事です」

「チッ、迂回だと? あのじじい、戦わないにしても街を包囲して脅しつけるぐらいの事はしろってんだよ!」


 ルーベックとてシェルテを攻めるリスクは十分に承知しており、文句を言いながらもロジェ将軍の決定に逆らうことはなかった。


「まあいい。お前たち、シェルテ攻めは無しだ。王都に着いたら思う存分暴れさせてやるからもう少し我慢しろ」

「将軍、王宮を落としたら王都での自由行動を認めるって話は本当ですか?」

「ああ本当だ。但し王宮を制圧して王の身柄を押さえたらの話だぞ」


 周囲の騎士たちの間で歓声が湧き上がる。

 この場合の自由行動とは、王都内での略奪を許可するという意味である。


「アルビナの王都には貴族の屋敷が多いらしい。屋敷を襲えば金目の物が山と手に入るぞ」

「金もいいが俺は女だな。あの森の近くの街には田舎娘しかいなかったからな。王都には美しい女が多いって話だから今度こそ楽しめるはずだ。気に入った女が見つかれば二、三人ホルスに連れ帰ってもいいしな」


 騎士たちがそんな話に興じていると、隊列の先頭を進んでいた騎士が声を張り上げた。


「前方に人影! 四人、いや、五人いる。警戒を怠るな!」



 ◇◇◇



 アルビナ王都に向け進む隊列の進路を塞ぐように、ブルー隊の四機のバトルロイドを横一線に配置した。

 俺はその四機の前に立ち、ホルス軍が近づいて来るのを待つ。


 しばらく待っていると、遠くに人だかりが見え始めた。

 ケルビムから連絡が入る。


『マスター。どうやらこちらに気付いたようです。十騎ほどが近づいてきます』


 進路上に立ち塞がる俺たちの前に、馬に乗った十人ほどの騎士がやってきた。

 騎士の一人が俺に向かって誰何を始める。


「おい、お前たちは何者だ? こんな所で何をしている?」


 俺は冷たい視線で騎士を睨みつけた。


「人に物を尋ねる場合は、自分から先に名乗るのが礼儀じゃないか?」


 騎士が剣の柄に手を掛けた。


「貴様! 素直に答えぬなら斬る!」

「どこの田舎者だ? 品性の無さが滲み出ているぞ。それはそうと人に剣を向けるからには自分も斬られる覚悟はあるんだろうな?」


 騎士が剣を引き抜こうとした。だが隣にいた上官と思われる中年騎士がそれを制した。

 中年騎士は俺を見て呟いた。


「ふむ。青い鎧の重騎士を従えた黒目黒髪の男……」


 中年騎士はちらりと他の騎士たちに目配せをしてから馬を降りた。

 そして俺に軽く頭を下げて言った。


「部下が失礼した。私はホルス王国の遠征軍第一大隊騎士長、マリユス・ヴィトリーだ。貴殿と後ろの騎士の方々の身分と名前をお聞きかせ願いたい」

「断る。宣戦布告して他国に侵入してきた軍隊に名を名乗る謂れはない」

「ほう、我々が宣戦布告したことをよくご存知で。我々はご覧の通り行軍中なので、道を開けてもらえると助かるのだが」

「それも断る。そもそも俺は行軍を邪魔するために立ってるんだからな」


 騎士たちの間に緊迫した空気が流れる。

 何人かの騎士が馬から降り、剣の柄に手を掛ける。


「そっちの頼みを断っておいて何だが、俺もあんたたちに聞きたい事があるんだが」

「何でしょう? 答えられる事ならお答えしますよ」

「南の森の近くに小さな街があるんだが、その街を襲ったのはお前らか?」


 騎士たちが一斉に剣を抜き放った。


「そうか。どうやら間違いなさそうだな。それではお前たちの指揮官をここに呼んで貰おうか」

「それには及ばん」


 立ち並ぶ騎士たちをかき分け、屈強な騎士が前に進み出て来た。


「俺が遠征軍第一大隊の指揮官、ルーベックだ。総大将はロジェってじじいだが、用があるならまず俺が聞こう」


 ルーベック将軍が目の前に立つ俺の姿をジロリと見た。


「三下じゃ駄目だな。その総大将のじじいとやらを呼べ」


 ルーベック将軍は俺の言葉を無視して、ジロジロと俺の顔を見ている。


「しかし本当に現れるとはな……。重騎士を従える黒目黒髪の謎の男タツヤ。自称帝国皇帝様だっけか。もっと年寄りだと思ってたが、結構若いじゃねーか」


 俺は眉をひそめた。


(こいつら、俺がここに現れるのを事前に知っていた? どいいう事だ?)


「何だよ。俺の正体はすっかりバレてるのか。そこまでホルス王国に俺の名が知れ渡っているとは驚きだ。アルビナの上層部でも俺を知る人間は少ないんだけどな」

「うちの諜報部はけっこう優秀なんだぜ。といってもアルビナ王国を影で牛耳っている謎の男ってだけで、その実体はとんと掴めていない。怪しげな話ばかり伝わってくるから存在自体が疑われている。俺も今の今まで与太話だと思ってたけどな」

「俺の事をそれだけ知ってるなら話が早い。さっさと総大将を連れてこい。それともあんたが代表って事で話を進めていいのか?」

「ああ、それでいいぜ。それで何の用だ?」


 俺は人差し指をルーベック将軍に突きつけると、その指を地面へと向けた。


「降伏しろ。さっさと武器を捨てて俺の前に平伏しろ」


 周囲の騎士たちが色めき立った。

 ルーベック将軍はしばらく茫然としていたが、すぐに腹を抱えて笑い始めた。


「ぐはっ、ぐわっはっは。何だよそれ。そのセリフかっこいいじゃねーか。今度俺も使わせてもらうぞ」

「お前に『今度』などない」

「そう言うなよ。ところで降伏しなかったらどうするんだ? お前たちは五人。俺たちは五千。これでどうやってやり合うつもりだ? それとも皇帝様は俺との一騎打ちをご所望かな?」


 俺はため息をついた。


「はぁ。くだらんおしゃべりはもういいだろ。さっさと降伏しろ」

「ロジェのじじいに代わって俺が返答をくれてやるよ。答えはこれだっ!」


 ルーベック将軍が剣を横薙ぎに払う。その素早い動きに俺は全く動けない。

 将軍の剣が俺の腹を切り裂く……。


「!?」


 将軍の顔に戸惑いの色が浮かんだ。

 それはそうだろう。今まさに切り裂こうとした俺の姿が、ふいに消えてしまったのだ。


「残念! ハズレだ!」


 俺は少し離れた位置に姿を表した。それを見たルーベック将軍が吠えた。


「てめえっ、スキル持ちか!? 今のは幻影か!? それとも瞬間移動か!?」


 俺には幻影を出すスキルも瞬間移動のスキルもない。

 これはエデンでごく普通に使われているホログラム技術だ。


 通常のホログラム映像では、映し出された対象物は淡い光を放つ半透明な物体として投影される。

 これを複数のホログラム投射器を使い対象物を多方向から投射すると、本物と区別で出来ないようなリアルな立体映像を映し出せるのだ。


 俺は六台のホログラム投射器を円形状に配置して、事前に地中へと埋め込んでおいた。

 それにより投射器の中央部に俺のリアルな姿が映し出せるという訳だ。

 俺の本体は遥か上空のサラマンダーの艦橋だ。


「降伏はしないという事だな……」


 俺の脳裏にあの惨劇の街の姿が蘇る。

 本当であれば今すぐホルス兵を一人残らず殺してしまいたい。

 彼らはそうされるだけの事をした。


 だが今はまだ駄目だ。奴らから情報を引き出す必要がある。

 あの虐殺は軍の暴走なのか、それとも本国からの指示だったのか。

 その結果によって今後のホルス王国への対応が変わって来る。


「ブルー隊、将軍を生け捕りにしろ! 口さえきければ手足は無くなってもかまわん。他の騎士どもは全て倒せ! 生死は問わない」


 青い鎧と兜に身を包んだ身長二メートルの巨体の騎士たちが、大剣を手にホルス軍の騎士たちへと襲い掛かる。


「俺を生け捕りとは、ずいぶん舐められたもんだな。どれどれ、俺より図体のデカイのが四人か。こいつは歯ごたえがありそうだ。さあ、かかって来やがれ!」


 四機のバトルロイドと十人の騎士による乱戦が始まった。

 ルーベック将軍とブルー3が剣を交えて戦っている。

 さすが将軍だけあって、バトルロイドとも互角の戦いを繰り広げている。

 ブルー隊の残りの三機は群がる騎士たちを着実に倒しているようだ。


『マスター、増援が来ます』


 遠くから俺たちの方を見ていたホルス軍の隊列から、数十人の騎士や兵士が武器を手にして駆け出してくる。

 俺は地上に映し出していたホログラム映像を消すと、艦長席に座った。


「お前たちの相手はこっちだ! ケルビム、やれ!」


 地上に向けられていたサラマンダーの砲身が火を噴いた。

 地上で爆発が起こり人が弾け飛ぶ。数十人いた騎士や兵士は誰も動かなくなった。


 平原に響き渡る爆発音を聞き、小休止状態にあったホルス全軍が慌ただしく戦闘準備を始める。そして次なる数十人の騎士や兵士からなる一団が前へと進み出て来た。


「撃て!」


 サラマンダーの砲撃により増援の第二陣も吹き飛んだ。

 ホルス軍の隊列を見ると、まだ諦めずに第三陣の増援の準備している。


「こいつらは恐れを知らぬ勇者なのか。それとも単なる馬鹿なのか!?」

『どこか近くから魔法で攻撃されたと判断して、数を繰り出して対抗しようとしているのではないでしょうか』


 確かにそうだ。目の前で兵士が吹き飛ばされれば、どこかに近くに爆裂魔法の使い手が潜んでいると思うだろう。まさか遥か彼方の上空から狙われているとは思うまい。

 敵が見えないからその脅威度を判断できないのだろう。


「これじゃキリが無いか……。仕方がない。サラマンダーを地表近くまで降下させよう。奴らに抵抗は無駄だと思い知らせてやれ」

『了解しました。サラマンダー、降下します』


 サラマンダーが急速に地上に向かって降下していく。


「そういえば、将軍はどうなった?」

『戦闘は既に終了しています。ルーベック将軍は捕獲し手足を拘束してあります。両腕の骨が折れたようですが、生命の危険はありません。他の騎士は斬り捨てました」

「いい所を見逃したな。さすがバトルロイド。頼りになるな」

『いえ、こちらにも損害が出ています。将軍との戦闘によりブルー3が大破しました』


 慌てて確認すると、ブルー3は左腕が無くなっており、胸部の装甲にも大きなへこみが出来ているようだ。右足も妙な方向に曲がっており、ボディーの小さな傷は数えきれない。


「ここまでやられたのか。さすが将軍様は伊達じゃないな」

『将軍の戦闘力はバトルロイドを上回っています。最終的に三機で囲んで倒しましたが、一対一なら確実に負けていました。殺傷不可とのことでレーザー兵器の使用を控えたのは失敗でした』

「そうだな。こんなに強いとは思わなかったからな」

『マスター、高度五十メートルまで降下しました』


 ホルス軍の隊列を見ると、ホルス兵がこちらを見上げて大騒ぎしているのが見える。

 まあそうだろう。巨大な空飛ぶ船が頭上に浮いていればさぞ恐ろしかろう。


「よし、艦外スピーカーに繋いでくれ」

『繋ぎました』


 俺は咳払いを一つすると、眼下のホルス軍に向けて声を放った。


「ホルス軍の全兵士に告ぐ! 直ちに降伏せよ!」

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