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第72話 迎撃準備

「だからホルス王国を降伏させてエデン帝国の属国にするんだよ。心配するな。アルビナとホルスは同じ属国同士となるが、ちゃんとアルビナが上にくるよう序列を付けるから」


 ギルベルト王がいきり立っている。


「帝国がホルス王国を降伏させられるのなら、国境の砦を防衛する必要なんてないじゃないですか! 何の為に砦に兵力を集めていると思っているんですか?!」


 簡単に降伏させられるのなら、力の出し惜しみなどせず最初からやれって顔だな。

 彼の言い分も分かる。無用な戦闘など回避出来るならそれに越したことはない。

 戦争は途方もない資金と多くの人命を浪費する。勝っても負けても失う物が多すぎる。


「最初に言ったはずだよ。これはアルビナ王国の問題だと。これは対応を他者に丸投げしていい問題じゃないだろ。どうしてもと言うなら帝国が前面に出てホルスを退けるが、それだとアルビナ王国という国を存続させている意味がない。アルビナ全土を帝国領として俺が直接支配することになるが、それでもいいか? その場合はアルビナ王国という国はこの大陸から消えるぞ」

「……それは駄目です。分かりました。国を守るなら血を流す覚悟をしろってことですね」


 ちょっときつい言い方だったか。ギルベルト王は肩を落としているが、どうやら俺の言葉を受け入れたようだ。


「それに正直に言うとホルス王国を降伏させる為のうまい手立てがまだ見つかっていないんだよ」

「うちみたいに王城を壊してしまえば、ホルス王国もすぐに降伏しますよ」


 うわっ。何だか言葉がトゲトゲしいな。

 どうやらアルビナの王城をぶっ壊したことを、未だに根に持っているようだ。

 城の再建にけっこうお金かかりそうだからこれは仕方がないか。


「確かにホルスの王城を破壊して戦意を挫き、そこで降伏勧告を行うのが一番なんだが、城から人員を退去させるのが難しい。事前に退去を勧告しても彼らはまともに取り合わないだろうからな」

「アルビナの王城が吹き飛んだ話はホルス王国にも伝わっています。同じ目に遭わすと言えば警告を無視出来ないと思いますが」


 ギルベルト王の意見を宰相のフォルマー公爵が否定した。


「国王陛下、それはあり得ません。こちらの勧告を受け入れると言うのは負けを認めるということです。城からの退去など絶対にしないでしょう」

「……それもそうだな」

「城への攻撃を強行すれば、一緒にホルスの王族や爵位の高い貴族連中を一掃してしまうことになるが、下手にこれをやると後の収拾が付かなくなる。それに戦後の後始末を任せる人材を残しておかないと、後々の復興が大変なんだよ。だから城から人員が退去しない限り王城の破壊は出来ない」

「ではどうやってホルスを降伏させるのですか?」

「それを今考えてる。アルビナと同じように天空の島をホルス王国の王都に浮かべて圧力をかけるか。王都の真上に島を浮かせて『降伏しなければこのまま押し潰す』と脅せば、さすがに降伏するだろう」

「「皇帝陛下!」」


 ギルベルト王とフォルマー宰相が大声を出して椅子から立ち上がった。二人ともかなりお怒りの表情だ。


「落ち着け! あくまで脅しだよ。さすがに天空の島で王都を押し潰すなんて行為は鬼畜すぎるから実際にはやらないぞ」

「やっぱりあの天空の島と陛下は関係があったんですね!」

「皇帝陛下があの島を飛ばしていたんですか?!」

「そっちかよ!」


 俺はアルビナ王国を制圧する際、王都の上空に天空の島を出現させ王都を混乱に陥れた。

 状況から見て俺と天空の島に関連があるのはバレバレなのだが、俺が天空の島との関係を否定していたものだから、それ以上の追及が出来ずにうやむやになっていたのだ。


 しまったな、これは失言だった。今まで天空の島など知らぬ存ぜぬで通してきたのについ漏らしてしまった。やはり俺には隠し事の才能がない。油断するとつい内緒の話を漏らしてしまう。

 こうなっては開き直るしかない。


「ふっふっふっ。ばれてしまっては仕方がない。確かに天空の島は俺の島だ。だがギルベルトよ。お前もかつて天空の島を間近で目にしているはずだ」

「僕が目にしている……。もしかして僕が前に人質として滞在していたエデンという島。あれが天空の島?」

「その通りだ。あの島こそが天空の島。我がエデン帝国の本拠地だ」

「…………」


 ギルベルトも天空の島がエデン帝国に関連する何かだとは思っていたはずだが、エデンと天空の島が同一であるとまでは思っていなかっただろう。


 以前彼を人質としてエデンに滞在させていた間は、食事に海産物を多く出して、エデンを海に浮かぶ孤島であると匂わせておいたし、時々エデンを海上の海面近くまで降ろし、潮風や波の音が屋敷に届くように小細工していたのだ。

 エデンの俺の屋敷は森に囲まれた場所にあり、屋敷やその周辺からは地上を見下ろす事は出来ない。自分が空の上にいるとは全く気付かなかったはずだ。


「言っておくが天空の島がエデン帝国だというのはここだけの秘密だ。絶対に公言はするなよ。まあいつかはばれるだろうが、今はまだ秘密だ」


 フォルマー宰相が小さく呟いた。


「天空の帝国ですか。いやはや何とも……」

「天空の島がある以上予想は付いてるだろうが、帝国には空を自由に飛ぶ技術がある。それについては隠すのが面倒になってきたから、少しずつ世間に公表するつもりだ」


 ギルベルトたちには思わぬところで天空の島の秘密を知られてしまったが、そろそろ彼らにエデンの情報の一部を開示する頃合いなのかもしれない。


「状況の確認はこんなところか。じゃあギルベルトたちは砦の防衛に全力を注いでくれ。俺は俺でホルス王国を落とす方策を練るよ」



 ◇◇◇



 俺はギルベルト王から王宮の広い敷地の一角を借り受け、そこにエデンから輸送機を一機呼び寄せた。

 輸送機と言っても、エデンの標準型輸送機を改造し、人が数名寝泊り出来るような設備を備えたキャンピング仕様の輸送機である。

 完全に俺の趣味で作った機体で、まだ一度も使っていない。今回は俺の移動作戦指令室兼住居として使用するために呼び寄せたのだ。


 俺は輸送機内の作戦室と定めた区画で椅子に座っていた。

 目の前のデスクの上にはアルビナ王国とホルス王国の立体地形図がホログラムで映し出されている。

 地形図の上にはアルビナ・ホルス両国の主要都市や街道が表示されており、それに重ねてアルビナの三つの砦がアイコン表示されている。


「ケルビム、偵察機から送られてきた情報を報告してくれ」

「了解しました。現在、ホルス王国は軍勢を三つに分けてギナンの街に近いクレスト砦、それとヴァルス砦とタムール砦に侵攻中です。総勢は二万五千人」


 ケルビムの言葉に合わせ、ホルス軍の動きが三本の赤い矢印として表示された。


「アルビナの各砦からは既に迎撃部隊がホルス軍に向け進軍を始めています。アルビナ王都から砦に向かった増援の騎士団はまだ砦に到着しておらず、迎撃部隊は各砦の領主軍のみで編成されているようです。現在の進行速度ですと明日の正午頃には戦端が開かれると思います」


 アルビナ軍の動きが青い矢印で表示された。

 砦から伸びる三本の青の矢印が山中のある地点で赤の三本の矢印とぶつかった。

 その三か所に大きなバツ印が描かれた。


「会敵予想地点はこの三か所か。ケルビム、この状況をどう見る?」

「マスター。状況分析ための情報が不足しています。精度の高い分析は出来ませんがよろしいですか?」

「ああ、情報不足は承知の上だ」

「ホルス軍が侵攻中の各街道は山あいの山道ということで、道幅はそれほど広くありません。会敵して戦端が開かれたとしても、実際に戦闘に参加できるのは各軍共に数十名程度です。負傷者が出ても後退させ後続の兵と入れ替えるだけなので、戦闘はすぐに膠着状態に陥るでしょう。山道を抜けて山裾で戦うのであればともかく、山中で戦うのであれば消耗率の低い消耗戦にしかなり得ません。ホルス軍はあえて長期戦を挑んでいるとしか思えません」


 ケルビムの判断もギルベルト王や宰相と同じようだ。山中の戦いに大軍を揃えて攻めてきた理由が分からない。

 長期戦になれば補給態勢が万全なアルビナ軍の方が有利だ。ホルス軍が長期戦を挑む意図が掴めない。

 ギルベルト王はホルス軍の動きに何か裏があると心配しているが、そう思うのも当然だ。


「やっぱり、侵攻中の軍勢は陽動かな?」


 ホルス王国は国境に集めた兵力を隠そうとはしていなかった。

 そしてご丁寧に宣戦布告までしてこちらに迎撃の準備をさせている。

 国境の三か所の砦にアルビナの兵力を集めるよう誘導していると見るのが自然だ。

 だとしたら敵の本隊はどこにいる?


「ケルビム。三つの街道以外にホルス王国からアルビナ王国への侵入路はないのか? 例えば海から侵入するとか」

「船を使って兵力をアルビナ王国に兵員を輸送することは可能ですが、ホルス王国の保有する全艦船を動員しても数百人しか輸送出来ないでしょう。王都を攻めるには少なすぎます」

「じゃあ、三つの街道以外に密かに山越えするルートはないか?」

「偵察機の索敵では、街道以外に軍勢の存在は確認されていません」

「まさかホルスも浮遊石を手に入れていて、空から侵入してくるってことはないだろうな?」

「可能性がゼロとは言いませんが、ホルス軍が浮遊艦を建造した兆候は認められません」

「そうか……」


 侵攻中の三つの軍勢は全て囮で、本隊が別ルートで侵攻してくるのかと思ったが、どうやら見込み違いのようだ。


 となるとホルス軍の意図がさっぱり分からない。

 この件はもうギルベルト王に任せよう。彼には軍事に詳しいブレーンが大勢いるはずだ。戦争の素人の俺より的確な判断を下せるだろう。


 俺は俺でエデン帝国皇帝としてホルス王国を降伏させる方法を考えるとしよう。


「やっぱり王城を破壊して抵抗の意思を挫くのが一番だよな。だけど城の人員をどうやって退去させるかが問題なんだよな。何か目に見える形で圧力を掛けられればいいんだけど……。いっそサラマンダーをホルス王城の目の前に降下させて脅すか……」


 チラリとそんな事を考えたが、その考えはすぐに捨てた。


 エデンの主力である空中フリゲート艦サラマンダーは、地上から視認されないような高高度に位置し、地上に向けて砲撃を加えるのが戦闘の基本パターンだ。

 サラマンダーを低空に下ろして人目に晒せば確かに威圧は出来るだろうが、逆にこちらの弱点を探られる恐れがある。

 この世界には俺の知らない高威力の魔法がたくさんあるはずだ。そんな魔法で攻撃されればサラマンダーと言えど沈められる恐れがある。


 やはりサラマンダーを人目に晒すのは無しだ。無用な危険は犯せない。


 俺が悩んでいるとケルビムが案を出した。


「マスター。カナン島の地下倉庫に眠っている()()を使いましょう。敵を威圧するという点では文句無しですし、攻城兵器としての機能も有してます。それに破壊されたとしてもそれほど惜しくありません」

「ケルビム! お前、この機にあれを処分しようって魂胆だな」

「あれはマスターがどうしてもと言うので頑張って建造したのに、結局ろくに使わずにお蔵入りさせたじゃないですか。資源を無駄にした上に地下倉庫を一つ占有していて、はっきり言ってお荷物です。ここで有効に使わなければ本当にゴミですよ」

「くそっ、言いたい放題言いやがって」


 あれは男のロマンの塊なのだ。使わないからと言って捨てていいものではない。

 だがケルビムの言う事にも一理ある。あれは確かに攻城兵器として使えそうだ。

 あれの設計や建造にはけっこう手間暇かけている。けれども実際に作ってみたら想定外の問題が出て使いこなせず、倉庫にしまい込んでしまったのだ。


「分かったよ。カナン島のロックに連絡してあれの整備をさせてくれ」

「了解しました。よかったですね。あれがゴミじゃないと証明するチャンスですよ」

「うるさいわ!」


 まだ名前を付けてないから、いつも『あれ』呼ばわりしてしまうが、いい加減命名する必要があるな。

 何かいい名前はないだろうか……。

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