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第68話 エピローグ

「まあ、そんな感じでフォラントの街に遊びに行ったんだけど、そこで捕まって王都に連行されて、騎士団とケンカして、王様とケンカして、気が付いたらアルビナ王国を制圧してたんだよね。全く、世の中って何が起こるか分からないよね」

「タツヤさん。今、とっても大事なところをサラッと流されたような気がするんですが……」


 俺は特殊スーツ使用後のダメージを癒すため、自室のベッドに横になっていた。

 ベッドの傍らではテレーゼが椅子に座って、俺の語る壮大なるエデンの物語に耳を傾けている。


「王様とケンカしてって……、もしかして王都の王城を壊したのは……」

「ああ、そう言えばそんなこともあったな」


 テレーゼの顔がちょっと強張っている。

 彼女もアルビナ王国の国民だ。国の誇りである王城を壊されたと聞かされて気に障ったのだろうか?


「ごめん。でもあの時は王子に腹を刺されて死ぬ間際まで行ったんだ。余計な犠牲者を出さずにアルビナ王国を降伏に追い込むには、王城を破壊するのが一番の近道だと思ったんだ」


 俺の手をそっと握っていたテレーゼの手が震え出した。


「タツヤさんを刺したですって?!」


 しまった。そこは内緒にしておくつもりだったのに、ポロっと漏らしてしまった。


「大丈夫だったんですか?!」

「ああ、すぐに教会で回復魔法を掛けてもらったから一命は取り留めたけど、さすがにもう穏便な対応は取れなくてね」

「タツヤさんは何も悪くありません。私とタツヤさんの間を引き裂いただけでなく、タツヤさんを亡き者にしようとしたなんて。それじゃあ城を壊されても当然です」


 よし! やっぱりテレーゼは俺の味方だ。


「結局、アルビナ王国の王と第一王子には表舞台から退いてもらい、第二王子を王位に就けた。新王の即位はテレーゼも知ってるよね。新王ギルベルトとはいい関係を築いてるから、アルビナ王国についてはもう何も問題はない」

「何と言えばいいのか。びっくりし過ぎて頭の整理が追い付きません」


 こうやって思い起こすと俺もいろいろやってきたんだな……。


「これが君と別れてから俺のやってきたことの全てだよ」

「タツヤさんがこんな苦労をしていたというのに、私はこの一年めそめそ泣いていただけで自分が恥ずかしいです」


 俺はベッドに横になったまま窓の外に目をやった。外は真っ暗だ。

 話し始めたのは夕方頃だったが、いつの間にか時刻は深夜を過ぎていた。

 俺も話疲れてきた。


「もう時間も遅い。これからは話をする時間はいくらでもある。今夜はもうテレーゼも寝るといい。俺もこのまま寝させてもらうよ」


 そう言ってみたが、テレーゼはベッドの脇から動こうとしない。朝まで動かないつもりだろうか。


「ああ、そうそう。これも言っておかないとね。もう少し先の話になるけど、アルビナ王国はエデン帝国の属国となる予定だ」


 ちらりとテレーゼを見たが何も反応がない。

 国レベルの政治の話は興味がないのかな?


「アルビナ王国という国はそのまま残るし、国民の生活も今までと何も変わらない。変わるのはアルビナ国王がエデン帝国皇帝の支配下に入るということだけだ」


 テレーゼが恐る恐るといった感じで質問をしてきた。


「ええっと、確かこの空の島の名前がエデンでしたよね。ということはこの島がエデン帝国ということですか?」

「その通り」

「じゃあ、エデン帝国皇帝というのは……」

「何を隠そう、この俺様がエデン帝国の皇帝タツヤ様だ」

「えええっ!」

「帝国って言っても領土はあれど国民はまだ一人もいないし、アルビナ王国の上層部しか帝国の存在を知らないし。まあ今のところ自称皇帝ってところかな」


 テレーゼの目が大きく見開かれている。めったに見れない表情だ。

 びっくりした顔もなかなか魅力的である。


「そんなに驚かれると照れちゃうな」


 冗談めかして言ってみたが、テレーゼの表情はみるみる曇っていく。


「タツヤさんがそんなに偉い人になってしまったら、私なんて……、私なんて……」


 俺には『私なんて……』と呟いた彼女の思いが何となく想像できた。


 この世界には身分制度が深く根付いている。身分の差は超えられない壁として存在しているのだ。

 平民のテレーゼと帝国皇帝のこの俺。どう見ても釣り合わない。だから自分はもう相手にされないと思ってしまったのだろう。


 俺はテレーゼに微笑みかけた。


「『私なんて』何だい? テレーゼ、そういう時はこう言えばいい。『私なんて、エデン帝国の皇妃テレーゼ様だぞ』ってね」


 俺の言った言葉の意味がちゃんと理解出来なかったのだろう。

 テレーゼの顔は沈んだままだ。ちょっと遠まわしな表現だったか。


 もっと時期を見て言おうと思っていたのだが、こうなってはもう後には引けない。


「すまん。本当はベッドで横になって言うべき言葉じゃないんだが……」


 まだ悲鳴を上げ続けている筋肉に鞭打って、何とかベッドの上に上半身を起こした。

 俺はテレーゼの目を見つめて言った。


「テレーゼ、俺には君が必要だ。これから先、俺とずっと一緒にいてくれないか?」



 …………返事がない。


 あれっ! お互い愛情を持っていると思っていたけど、俺の独りよがりだったのか?

 テレーゼとは既に一線を越えてしまっているから、特別な関係だと思っていたのに。

 もしかして『一度寝たくらいで何を勘違いしてるのかしら』っていうパターンなのか?

 ああっ、俺は何て勘違い野郎なんだ!


 テレーゼが椅子から立ち上がった。彼女の瞳から涙がポロポロと零れだした。


「はい。こんな私でよければ、ずっとお傍に置いてください」


 良かった。俺は勘違い野郎ではなかった。


 俺はテレーゼをそっと引き寄せた。

 見つめ合う目と目。テレーゼの瞳がそっと閉じられた。

 俺たちは熱い口づけをかわした。


 俺の心に長い間居座っていた寂寥感が、すっと消えていくのを感じた。

 俺はもう一人じゃない。これからはテレーゼがいる。


 気が付けば部屋の隅に控えていたはずのメイドのセシリアが部屋から消えていた。

 うちのメイドは優秀だ。ご主人様の甘い雰囲気に気を回して、俺が何も指示していないのに席を外したようだ。

 でも残念。いくらテレーゼといい雰囲気だからといって、まだ痛みが残るこの体では、これ以上のムフフな展開にはならないよ。本当に残念だけど。


 その後はテレーゼを俺のベッドに引っ張り込んで、二人で仲良く眠りに付いた。

 いや、だからただ単に眠っただけだ。ムフフな展開ではない。




 翌朝、俺は屋敷の大きなバルコニーでテレーゼと二人、庭園を見下ろしながら朝食を取っていた。

 一晩眠って俺の体調は完全に回復している。


「テレーゼ、今日は屋敷の中や庭園を案内するよ」

「お庭、楽しみです。そういえばここ空の上なんですよね? このお屋敷にいると全然分かりませんね」

「島の先端に地上を見下ろせる展望台があるから、そこも案内するよ」


 俺はテレーゼの後ろに控えていたセシリアに声を掛けた。


「そういえばテレーゼの客室はもう用意した?」

「はい。昨日のうちに部屋を掃除して使えるようにしてあります」

「悪い。客室はもう必要ない。今後テレーゼは俺の部屋で一緒に寝起きするから、俺の部屋にテレーゼ用のドレッサーや衣装タンスを入れておいてくれ。ベッドはダブルサイズだから今のままでいいな。ああ、テレーゼの替えの服の用意も頼む」

「かしこまりました」


 おっと、勝手に部屋のことを決めてしまったが良かっただろうか?

 俺はテレーゼに尋ねた。


「それでいいよね?」


 テレーゼが赤い顔をして横を向いてしまった。どうやら異論は無さそうだ。

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