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第66話 魔道具開発秘話(1)

 アンデの沖合いで、シルバーサーペントとアンデの艦船の海戦があった。


 俺はあの戦いで大型の魔物の脅威を見せつけられた。

 それだけではない。アンデの女魔術師が放った高威力の雷魔法。

 あの魔法は俺に取って、魔物以上に無視できない重大な脅威だ。


 俺はエデンの戦力強化の必要性を痛感し、カナン島の造船ドックにて弩級砲艦イフリートの建造を開始した。


 だがこの世界にあんな威力の魔法がゴロゴロあるとしたら、例えイフリートが完成したとしても安心など出来ない。


 魔法の知識を深めよう。そうすれば何らかの対抗策が見えてくるはずだ。




 俺はアンデの街で入手した『魔法入門初級編』の教えに従い、精神を集中させ呪文を唱えた。


「炎よ、紅き炎よ、我が元に集え。ファイヤ! ……こんちくしょう! また駄目だ」


 俺は魔法が使えない。魔法適性が無いからだ。

 それでも諦めきれずにいろいろと試してみたが、やはり魔法は使えないようだ。

 予想通りの結果とは言えやはり落ち込んでしまう。


「はあー」


 俺は大きなため息を付くと、持っていた教本を放り出した。


 気を取り直して今度は『魔道具の作り方』を読んでみた。

 教本の最初に載っていた魔道具は、薄い銅板にファイヤの魔法陣を刻み込み魔力を流すといった単純なものだった。

 俺も実際に作ってみた。出来上がった魔法陣に魔力を流すと、魔法陣の真ん中にポッと小さな火が着いた。


「おおっ、点いた! 火が点いた!」


 火は数秒灯っていたが、ふっと消えてしまった。

 魔法陣を刻んだ銅板は表面が少し焦げている。


 感動である。魔法が使えない俺でも魔法陣を扱うことは出来るようだ。


 魔法陣は銅板でなく紙でも書き込めるようだが、紙だと一度使うと燃えてしまう。銅板でも数回使うと魔法陣が焦げて使用できなくなるようだ。


 次に教本に例示されたウオーターの魔法陣を銅板に刻む。

 魔力を流すと銅板の上にいくらかの水が出現した。成功だ!

 だけどこの水はどこから現れたのだろうか? 空気中の水分を集めているのか?

 謎である。


 他にも土属性の魔法陣、雷属性の魔法陣、風属性の魔法陣を試してみたが、全てうまく動いた。

 魔術師は魔法適性のある魔法しか使えないが、魔道具には適性など無く全ての属性の魔法を発動させられるようだ。


 魔道具はなかなか面白い。

 ケルビムの目の前で実演してやったが、ケルビムにも魔法陣の動作原理は解析できないようだった。

 まあ、ファンタジーは物理法則を超越してるから解析出来なくても仕方ない。


 魔法陣の動作原理は分からなくても、魔法陣の図形の意味は解析出来る気がする。

 大抵こういう魔法陣はプログラムを図式化したものというのが異世界物の常識だ。

 教本に書かれた魔法陣を比較分析すれば、何か見えてくるはずだ。


 ケルビムに任せれば解析は簡単に出来そうだが、それでは面白くない。

 まずは自分で解析だ。


 俺は机の上に各種魔法陣を印刷した紙を並べた。


「ふーむ。こことここが同じだろ。違いは右端と真ん中の二か所か。そうなるとここが火でこっちが水のシンボルだな。土のシンボルは……あれ? 何か違うな。うーん、そうか! この部分は魔法の強さを示してるんだ。ここをいじれば威力が増すが、魔力消費も多くなる。だからあえて制限をかけてるんだな。となると…………」


 魔法陣の解析は結構簡単だった。

 予想通り魔法陣の図形はプログラムを図形化したもののようだ。

 図形の意味さえ分かれば、それを組み替えたり追加削除することで、簡単に違う効果の魔法陣を作り出せる。


 教本に記載された魔法陣の数が少なかったので、まだ未解明の箇所もあるが、魔法陣のサンプル数を増やして解析すれば、いずれ思い通りの魔法陣が作れるはずだ。


 以前アンデの街に買い出しに行かせたお使い用バトルロイドを、また街に行かせて魔法に関する書籍を買い集めさせよう。

 今回はバトルロイドにもこの世界の言語を教えてあるので、俺の支援が無くとも自力で買い物が出来るはずだ。



 ◇◇◇



「おーい、流星号。こっちだこっち」

『マスター。こんなところに呼び出して何のつもりだよ』


 ここはエデン地下工場の一角。俺の隣には汎用工作機械スパイダーが一機控えている。


「いいからここに来い。今日はお前にプレゼントを持ってきた。さあ感謝の言葉を述べるがよい」

『礼は何をくれるか聞いてからだろ』

「仕方がない。見せてやろう。じゃーん!」


 俺は脇のテーブルに掛けられた布を引きはがした。布の下からは円柱状の装置が二つ現れた。


「これは俺の開発した『魔道エンジン』だ。風魔法の魔法陣を極限までチューンナップして高圧力の風を噴射する魔道具を作ったんだ。これをお前の推進器と交換すれば、今とは比較にならん程の速度が出るようになる。さあ、俺と一緒に音速の壁を超えようじゃないか!」

『ちょっと待て! 魔道エンジンなんて代物初めて聞いたぞ。魔道具ってことはケルビムの情報ライブラリから引っ張り出した技術じゃないだろ。そんな怪しげなエンジンを俺に載せようってのか!』

「心配するな。地上試験は済んでる。なかなかいい数値が出てるぞ。後は実際に機体に組み込んでの飛行試験だけだ。ということで君には魔道エンジンを最初に使う栄誉を与えよう」

『待て待て! それって単なる実験台だろ。普通は試験用の機体を作って飛ばすだろうが!』


 文句の多い奴だ。こういううるさい奴は力ずくで言うことを聞かせるまでだ。


「えーい、つべこべ言うな。さっさと体を開け。なーに、痛いのは最初だけだ。すぐに気持ちよくなってくるさ。スパイダー、さっさと突っ込んでしまえ!」

『きゃーー!』


 工作機械のスパイダーが流星号のボンネットを開け、エンジンルームの推進器を取り外した。そして代わりに魔道エンジンを組み付けていく。

 エンジンの交換はすぐに済んだ。


『ううっ、やめてって言ったのに……』

「よし、では早速魔道エンジンのテストをしようじゃないか」

『俺の話を聞けよ……』




 エデンの上空に一筋の飛行機雲が伸びていく。

 俺はそれを地上から見上げながら流星号に呼びかけた。


「どうだ、調子は?」

『ヒャッハー! マスター、このエンジン最高だぜ! どうよ、このスピード! 痺れるー』

「だから言っただろ、すぐに気持ちよくなるって」

『さすが俺のマスターだ。俺は一生マスターに付いていくぜ!』

「現金な奴だな。よし、そろそろ行ってみようか。スピードを上げろ」

『ラジャー!』


 流星号が更に速度を上げる。流星号の機体から三角錐状の雲が発生した。

 音速を超えたようだ。数秒遅れてドーンという衝撃波も飛んできた。


『音速突破! ああっ、俺もう死んでもいい!』

「死ぬ前に旋回試験と高度限界の確認を済ませろ」

『ラジャー!』




『マスター、全試験項目終了だぜ』

「よし、計測データを見る限り問題は無さそうだ。何か気になるところはあるか?」

『加速力がちょっと弱いかな。静止状態から最高速度までもっていくのに時間が掛かり過ぎだぜ。反応が鈍いというか何というか……』

「ああ、そこは魔道具の特性上、仕方がない点ではあるが……そうだなあ。何とかならないかな」


 俺はケルビムに相談を持ち掛けることにした。


「ケルビム。試験結果は見てるよな。加速力が思わしくないんだが、何か対策出来ないか?」

『大型の魔道エンジンなら対策は可能ですが、流星号に組み込んだ小型タイプでは難しいですね。まあ代替案ならありますが』

「と言うと?」

『ロケットブースターを併用しましょう。これを使用すれば数秒で最高速度まで加速可能です。但し一度しか使えない緊急用になりますが』

「採用! さっそく組み込んでくれ」

『了解しました』

「それと建造中のイフリートのエンジン、今から変更は可能か? 出来れば大型の魔道エンジンに変えたいんだが」

『エンジンはまだ製造に取り掛かっていません。まだ間に合いますよ』

「良かった。じゃあエンジンは魔道エンジンに変更してくれ」

『了解しました』


 そうすると今使ってるローター駆動の輸送機も改造したくなってくるな。


「ケルビム。この際だ。輸送機も浮遊石と魔道エンジンを組み込んで改造しようか。浮遊石があれば積載量を多くできるし、ローターが不要になって飛行音も静かになるだろ」

『そこまでの改造となると、設計を見直して新規に作った方が早いですよ』

「そうか、じゃあ新規に作って現行機と入れ替えよう。あ、これは急がないから製造はイフリートの後でいいよ」

『了解しました。準備は進めておきます』



 ◇◇◇



 高威力の魔法に対抗しようと覚え始めた魔道具技術だが、目的を忘れて夢中になり魔道エンジンの開発へと話が変わってしまった。

 まあその結果としてエデンの戦力強化に繋がったので問題はないのだが、本来の魔法研究が進んでいない。困ったものだ。


 俺の魔法と魔道具の教本は、街で買い集めさせた結果十数冊まで増えている。

 前と違う著者の教本なら、何か新しい切り口で魔法の再発見があるかもしれない。

 初心に帰ってもう一度魔法の練習をしてみよう。


 俺は新しく手に入れた魔法教本を読み進め呪文の詠唱を行った。


「炎よ、紅き炎よ、我が元に集え。ファイヤ!」


 何も起こらない。教本を変えても駄目なものは駄目だった。


「くそっ! 泣けてくるな」


 どの教本でも最初は一番簡単なファイヤやウオーターなどの基本の魔法が出てくる。

 この初級の魔法の説明はどの教本でも似たり寄ったりだ。

 これをクリアしないと次の魔法に進めない。


 俺は手にしていた教本を放り出し、別の魔道具教本を読み始めた。

 この本は魔道具の制作方法ではなく動作理論について書かれた本だ。


 書かれている理論がよく理解出来ず、適当に読み飛ばしながら読んでいたのだが、最後の章に目が釘付けになった。


 その章では過去に存在したと言われる魔道具が紹介されていたのだが、その中の一文に「魔力操作」の文字があったのだ。


 詳しく読んでみると、魔力操作のスキルで魔力を極限まで圧縮すれば異空間を作り出す事が可能で、これを魔法陣化して金属板に付与することで異空間に物を収納する魔道具が作れると記されていた。

 都市伝説レベルの情報のため、それ以上の細かな内容は記されていなかった。


 俺には魔力操作のスキルがある。

 だったら俺にも異空間に物を収納する魔道具が作れるんじゃないか?

 製法があいまい過ぎてよく分からないが試す価値はある。


 俺は机の上に銅板を置き、その上で両手をかざして魔力を集めて圧縮してみた。

 魔力をひたすら圧縮し続けると、両手の間に黒い靄が現れた。

 普段は目に見えない魔力が高圧力で圧縮されて可視化されるに至ったのだろう。


 何となくこの魔力の塊の中に異空間が出来ているような気がする。

 俺は魔力の塊を銅板の上にそっと乗せるように動かした。


「ボンッ!」


 破裂音がして魔力の塊は消えてしまった。

 そして銅板の上には見知らぬ魔法陣が描き出されていた。


「えっ、これが異空間収納の魔法陣?」


 俺は近くにあったペンを魔法陣に乗せてみた。だが何も起こらない。

 そこで魔法陣に魔力を流してみた。魔法陣の上のペンが消えた。


「おおっ、成功だ! ……消えたペンはどうやって取り出すんだ?」


 もう一度魔法陣に魔力を流してみた。魔法陣の上にペンが現れた。


「うん、出来たな。何だか簡単に出来ちゃったよ」 


 その後も金属板の材質を変えたり、流す魔力量を変えたりして実験を続けた。

 その結果、異空間収納の魔法陣についてある程度分かって来た。


 収納可能量は魔法陣作成時の魔力の圧縮率に比例する。圧縮率が高いと収容量も大きくなる。俺が最初に作った魔法陣だとダンボール箱一個分くらいの容量だ。

 異空間内では時間が停止している……などというお約束の設定はない。


 この収納魔法陣、一見便利そうだが結構問題が多い。


 異空間への収納は「入れる」か「入れた物を全部出す」しか出来ない。

 既に何か入っている状態で更に入れることは出来ないし、収納物の一部だけ出すことも出来ない。

 硬貨を百枚入れておいて、うち一枚だけ取り出すなんて器用な芸当は出来ないのだ。

 財布代わりに使おうとすれば、毎回大量の硬貨を出し入れする羽目になる。


 もう一つ大きな問題がある。

 物の出し入れは魔力を流せれば誰でも出来てしまう。つまり自分が入れた物を他人が取り出せるということだ。

 何か秘密にしたい品物を隠して運ぶにしても、魔力を注がれると勝手に出てきてしまう。

 これでは安心して収納など出来ない。


 俺は結論を出した。


「使えねー」

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