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第61話 仮面のメイドロイド

 エデンに屋敷を建てた。


 森に囲まれた泉のほとりで、静かで落ち着いた雰囲気のある場所だ。

 ここは以前、流星号と一緒にカナン島内を見て回った際、家の建築候補地として最初に挙がった場所である。


 屋敷の設計はケルビムが俺の要望を聞いて行った。

 こじんまりした和風の家を注文したのだが、ケルビムからの提案にウンウンと頷いているうち、なぜか三階建ての立派な洋館に変わってしまった。


 完成した屋敷の外観は、この世界でも違和感のないような中世西洋風デザインだが、内部は先進技術満載のハイテク屋敷になっている。


 俺が一人で住む家なのに何故か部屋数が非常に多く、大きなリビングや食堂はもちろん、大浴場や客室まで備えた巨大な屋敷になっていた。


 外から見る屋敷の外観は周囲の森や泉と調和が取れておりとても美しい。


 だがこの屋敷、広すぎて俺には使い勝手が悪いのだ。

 屋敷に移り住んでまだ数日しか経っていないが、早々に音を上げることとなった。


「なあ、ケルビム」

『はい、マスター。なんでしょうか?』

「屋敷が完成して間もないのにこんなこと言うのは何だが……、もっと小さな家に建て直したい」

『何がご不満ですか?』

「屋敷が広すぎる。無駄に広い屋敷に一人でいると無性に孤独感を感じるんだよ。あと屋敷内の設備全般が俺の時代のものより進化し過ぎてて扱い辛い。特にキッチンの器具全般が使えない。この屋敷にいると何かとストレスが溜まるんだよ」

『それは申し訳ありませんでした。一人が寂しいと言うことですが、いつも私が話相手になってるじゃないですか』

「いや、ケルビムもロックも声だけだろ。俺はいつも通信機やマイク越しに話しかけてるけど、これって傍から見たら独りでブツブツ言ってる危ない奴だからな。人間相手じゃなきゃ寂しさは紛らわせないよ」


 俺の言葉が終わると共に、俺の目の前にいかにも『執事です』といった格好の男が出現した。その執事が俺に向かって一礼をした。


『この通り、対面しての会話も出来ますよ』

「いや、それただのホログラムだろ」

『駄目ですか……。全くマスターは我儘ですね』


 ホログラム執事はやれやれと首を振ると消え去った。


『でしたらアンドロイドでもご用意しましょうか?』

「アンドロイドというと、人に似せたロボットのことか?」

『ええ、こんな感じのハウスメイド用アンドロイドなどいかがでしょうか?』


 メイド服姿のすらりとした女性がホログラム投影された。

 その姿は確かに人間の女性型なのだが、そこまで人間に似ているようには見えない。

 それどころか、わざとロボットだと分かるようデザインされている気がする。

 頭のてっぺんに立っているアンテナはネタだろうか?


『掃除、洗濯、炊事など家庭内の作業は何でもこなせますし、会話も可能なので話相手にもなります。屋敷内の設備もアンドロイドに操作を任せてしまえばご自分で操作する必要はありません』

「家政婦としての機能はいいんだけど、もっと人間っぽいのはないの?」

『家庭内で働くアンドロイドは、あまり人間に似せないのがトレンドですよ』

「俺とお前のトレンドは二百五十年くらいズレてるんだよ。俺は人そっくりなタイプがいい」


 ハウスメイド用アンドロイドが消え、代わりに別の女性型アンドロイドが投影された。

 今度のアンドロイドは人にそっくりだ。というより、どこから見ても人間そのものだ。

 なかなかの美人で、屋敷の中にこんなアンドロイドがいたら華やかになりそうだ。


「おおっ、これいいんじゃないか?」

『これはセクサロイドです。人間そっくりのタイプだとこれがお勧めですね』

「ぶっ!」


 思わず吹いてしまった。

 セクサロイドというと、あのセクサロイドのことだろうか?


『ハウスメイドの機能に加え、夜のお相手もしてくれますよ』

「ごくり」


 俺も男だ。この手のものに興味がないと言えば嘘になる。

 すまん。正直に白状するよ。むっちゃ興味があります。

 特にこんな美女を見せられれば、興味の湧かないはずがない。

 二百五十年も未来の技術で設計された女性型セクサロイドとなれば、どれほどの性能なのか気になるじゃないか。


「そ、そうだね。家政婦は必要だよね。人間タイプはいいよね。ちょっと試しに作ってみようかな」


 さり気なくケルビムに製造の意思を伝える。


『カスタマイズが可能ですが、どうしますか?』

「カスタマイズって何を?」

『人種、肌の色、目の色、髪の色。スリーサイズ。その他諸々自由に選択できます。当然性格もお好みで選択できます』

「ほうほう」


 なんだかんだで、セクサロイドを三体製造することになった。

 三体とも同じ外見にならないよう、カスタマイズで少しずつ設定を変えた。

 髪の色は「金、銀、赤」とか、髪型は「ロング、セミロング、ポニーテール」、胸の大きさは「大、中、小」などなど。

 性格パターンについては、正直に注文を出すとケルビムに俺の性癖を読まれる恐れがあったので単に『メイド風』としておいた。


『ではこのオーダーで製造に入ります。特殊な素材が必要ですので少し時間が掛かりますよ』

「了解だ。楽しみだな。むふふふふ」


 家の建て直しの件は既に忘却の彼方であった。




 数日後、ケルビムからセクサロイド完成の報告を受けた。


『マスター。セクサロイドが完成しました』

「ケルビム、セクサロイドって呼ぶと何だかそっち系の意味が強調されるんだけど、あくまで家政婦なんだからね。ちょっと呼び方を変えようよ」

『ではなんと呼びましょうか?』

「そうだな。家政婦ロイド……は変だな……。じゃあメイドロイド……。うんいいね、メイドロイドにしよう」

『了解しました。ところでメイドロイドに夜伽はさせないのですか?』

「ぶっ! ゲホゲホ……。まあ何と言うか……。気が向いたらね……」


(ケルビムめ。分かってて聞いてきたな。こいつ結構意地悪な性格だな)


『メイドロイドをここに連れてきましょうか?』

「ああ、頼むよ」


 しばらくすると、俺のいるリビングの扉がコンコンとノックされた。


「入ってくれ」


 扉が開きメイド服を着た三人のメイドロイドが部屋に入ってきた。

 三人とも俺の注文通りの容貌だ。物凄い美人でプロポーションも抜群だ。


「うわっ。本当に人にしか見えないな」


 俺はメイドロイドの一人に近づき、顔をじっと覗き込んだ。

 やはり人間そのものだ。とてもロボットとは思えない。

 手を取ってそっと触ってみた。ちゃんと体温もあり肌ざわりも人と変わらない。

 シワやうぶ毛までちゃんと作り込んであり、この中身が機械だとはとても信じられない。


『どうですか。外見からでは人間と見分けがつかないはずです』

「いや、想像以上だよ。びっくりだ」

『お気に召したようで何よりです』

「でも視線が全く動かないな。ずっと前を見つめているだけで俺の方を一度も見ないぞ」

『失礼しました。私が遠隔制御しているせいですね。自立制御に切り替えましょう』


 ケルビムがそう言うと、三人のメイドロイドが妙な動きを始めた。

 首が左右に小刻みに震え、両手の指も五本の指が伸びたり曲がったりを繰り返している。

 目の眼球が上下左右に高速で動いている。


 自立制御時の調整動作を行っているようだが、この光景はちょっとしたホラーだ。


 やがて妙な動きは止まり、三人の視線が一斉に俺に向けられた。

 そして声を揃えて言った。


「「「何か御用はございますでしょうか? ご主人様」」」


 まるで楽器を奏でているかのような澄んだ声だった。


 俺は答えた。


「ぎゃーーーーーーーーーーーーー!」



 ◇◇◇



「ケルビム! あれは何だ! 製造不良なのか調整ミスなのか!」


 三人を隣の部屋に押し込んで待機を命じてから、俺はケルビムに食ってかかった。


『何が問題なのでしょうか?』

「あの気味悪い顔だよ! 俺に笑いかけた瞬間、全身の毛が逆立って背中に氷水を入れられたような悪寒が走ったぞ! 何であんな恐ろしい笑顔をしてるんだよ。あああっ、思い出しただけで震えがくるぞ!」

『気味悪い顔というのがよく分かりませんが……』

「うまく言えないけど、目の動きと口の動きと顔の表情が微妙に合ってないと言うか……、静止してる時は良かったのに動き出したら急に不気味になったと言うか。ううっ、やっぱりうまく表現できん! とにかく気持ち悪い!」

『製造時のチェックでは問題ありませんでしたが、もう一度確認してみましょうか?』

「ああ、急いでチェックしてくれ。絶対製造不良だ。今度あの顔を見たら俺は卒倒するぞ」


 ケルビムがメイドロイドの点検を実施し、その結果を持ってきた。


『マスター。メイドロイドですが三体とも異常はありません』

「そんなはずはない! どこかに異常があるはずだ!」

『そう言われましても、何度もチェックしましたが異常はありませんでした。これ以上チェックのしようがありません』

「あれで正常だと?」



 まだ俺の娘が小学生の頃、どこかの科学館に娘を連れて遊びに行った事がある。

 その施設の受付ブースには人間の女性を模したロボットが座っていて、展示内容の案内をしていた。

 人間の女性の顔を持つそのロボットは、手や首を振り口をパクパク動かしてしゃべっていた。


 俺はそのロボットから目をそむけた。とても気味が悪かったのだ。

 俺だけではない。一緒に見ていた娘も恐怖に怯え涙目になって俺にしがみ付いていた。

 あれは実に恐ろしい体験であった。


 後から知った。あれは『不気味の谷』と呼ばれる現象だと。

 人間の顔を模したロボットの外見や動作を人間に似せていくと、ある程度までは親近感が増すが、人間にかなり近づいたところで急激に不気味さが増大するらしい。


 あの三人は俺の時代より遥かに進んだ未来技術で作られたアンドロイドだ。

 二百五十年の刻が過ぎても、人類は不気味の谷を超えられなかったということか?

 いや、超えられないどころの話ではない。恐ろしさが百倍くらいに増してるぞ!



「分かった。あれはもう要らない。解体してどっかに穴を掘って埋めてしまえ」

『お待ち下さい。あのメイドロイドの製造には希少な素材を大量に使用しています。破棄するのは勿体ないです』

「いや、だってもうあんな怖い思いしたくないし。あんなのが夜中に屋敷の中をうろついていたら、怖くてトイレに行けなくなる」

『困りましたね。顔が問題なのですか? 体全体が怖いですか?』


 俺は少し考えた。


「体はたぶん大丈夫だ。怖いのはあの顔だ」

『でしたら顔を隠しましょう。それでどうですか?』

「……」


 メイドロイドの一人に、顔の下半分を隠して目だけを出すようベールを着けさせた。

 駄目だった。目と目元の表情が怖い。


 次にベールで顔全体を覆わせた。

 今度は大丈夫だった。顔の表情さえ完全に見えないようにすれば怖くない。


 この結果を見て、ケルビムがメイドロイド用の仮面を製作した。

 顔全体を完全に隠す白い仮面だ。目も覆われているが内側から外は見えるように工夫してある。

 メイドロイドの三人にこの仮面の装着を厳命することで、何とか破棄を思いどどまった。


 俺は三人の仮面のメイドロイドに名前を付けた。

 銀髪のセミロングの「アリス」。

 赤毛のポニーテールの「ブレンダ」。

 金髪のロングの「セシリア」。


 残念ながら彼女たちの名前にはあまり意味はない。

 アルファベットを順に頭文字として使用した命名だ。

 Aで始まるアリス、Bで始まるブレンダ、Cで始まるセシリアである。

 もし増員があればDで始まるデイジーとかドロシーとかにする予定だ。


 元々三人の顔には個性的な特徴を持たせてあり見た目が全く違うのだが、仮面を付けさせたことでその特徴が全て隠れてしまった。

 今は髪の色と髪型、それと胸の大きさくらいでしか三人を区別できない。


 参考までに胸のサイズはアリスはそこそこ、ブレンダは控え目、セシリアはけっこう大き目にしてある。そのため屋敷内では三人のうちセシリアの存在感だけが際立っている。


 彼女たちメイドロイドには屋敷内の管理を全て任せることにした。雑事から解放されたことで俺の生活はかなり楽になった。


 はじめこそ屋敷の中で仕事をする仮面姿のメイドに警戒心を抱いていたが、数日経つと全く気にならなくなった。

 たとえ相手が人間であろうとなかろうと、実体のある話し相手がいるというのは俺の心の寂寥感をいくぶんか和らげてくれる。


 ちなみに彼女たちにはセクサロイドとしての仕事は求めていない。

 当然である。あの不気味な姿を見てしまったら、もう彼女たちに性欲など湧くものか。


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