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第57話 遺跡再建計画

 総合管理ユニットの情報ライブラリには、工場管理に必要な情報だけではなく、設計製造に関する技術情報や日常生活向けの情報など、多岐に渡る情報が大量に保管されていた。


 そのおかげで人工知能である総合管理ユニットと会話は、人間相手に話をしているのと変わらない感覚だった。


 俺はこの総合管理ユニットに名前を付けた。

 呼びかける度に『なあ、総合管理ユニット』と言うのは長くて呼び辛かったからだ。

 ユニットの型式がROCCK72型だったので、それっぽく『ロック』と呼ぶことにした。

 ひねりが無いのは自覚している。実は俺のネーミングセンスは猫耳亭の猫耳親父と同レベルなのだ。


 俺はロックと対話を続けて欲しい情報を次々と引き出していった。

 その結果、俺にとって重要な情報がかなり手に入った。


 この施設は俺の時代から二百五十年ほど後に作られた軍需工場だった。

 核および細菌・毒ガスにも耐えうるよう地下十数メートルの深さに作られていた。


 ここでは一般の工場では生産出来ないような特殊な装備品や、試作のための少量生産品など、少量多品種の装備品を製造していたようだ。

 この施設内には生産部門以外に研究部門や試作部門も入っており、けっこうな人員が在籍していたようだ。


 この工場は魔石から電力を取り出すという新技術の検証も行っており、工場内の設備には新開発の魔石給電装置が取り付けられている。

 万一外部からの電力供給が絶たれても生産を継続することが可能らしい。


 工場での実証実験も終盤にさしかかった頃、突然総員退避の指示が出され作業員や研究員は急ぎ工場を退去することになった。

 彼らはすぐに戻れると思い着の身着のままで去っていった。だが、その後避難指示が解除される事は無かった。

 一か月後、数人の人員だけが戻って来て、工場内の隔壁を全て閉じ建屋内に劣化防止のための不活性ガスを充填して再度退去していったらしい。


 当時どんな経緯があったのかは分からないが、この工場はその問題を乗り越えその後の千年の時を生き延びたのだ。


「なあロック、事情はかなり分かってきたんだが、腑に落ちないことがまだたくさんあるんだ」

『なんでしょうか?』

「この工場が作られた時代には、魔石って普通に使われていたのか?」

『一般にはほとんど出回っていませんでした。魔石はこの工場ができる十年ほど前に発見された物質で、新世代のエネルギー源として盛んに研究が行われていました。この工場も魔石研究の拠点のひとつです』

「魔石は魔物の体内にできるものだよな。千年前にも魔物はいたのか?」

『はい。野生の動物が突然変異を起こし凶暴化する事例が相次ぎ、凶暴化した動物を調査した結果、体内から魔石が発見されました』


 魔物が出現した理由は何だろう?

 魔物は魔素を取り込んで体内に魔石を作る。

 ということは、その時代に突然魔素が出現したということか。


「この施設内で浮遊石を見つけたんだけど、これも魔石と一緒に見つかったの?」

『いえ、浮遊石はこの工場が休眠に入る一ヵ月ほど前に偶然見つかったもので、研究チームが調査を進めていました。詳細はまだ分かっていません』


 残念。何か分かるかと思ったけど、そうそううまくはいかないな。


「この工場に避難指示が出た理由は何だ? この工場って核攻撃にも耐えられる施設だろ。だったら何が起こってもこの中に籠っていた方が安全じゃないか?」

『避難指示の出された理由は知らされていません。ただ当時は地球全体に大規模な地殻変動が頻発しており、地下工場の危険性が高まったためだと推測されます』


 たとえ核には耐えられようとも、地殻変動で海の底に沈んでしまったりしたら終わりだからな。


「避難の際に工場内に劣化防止の不活性ガスを詰めたっていう話だけど、それって千年も設備の劣化を防止出来るものなの?」

『現に私は千年経っても稼働しています。劣化防止能力が想定以上に高かったということでしょう。仕様上、劣化防止ガスは百年間の劣化防止を保証していますが、これは百年間しか劣化防止出来ないという意味ではありません』

「百年のつもりが千年有効だったとは、全く恐るべき未来テクノロジーだな」

『ですが千年間機能を保ったこの工場も、あと数年で終焉を迎えることになるでしょう』


 ……ん? 今、何か嫌なセリフが聞こえたような……。


「……どういうこと?」

『今から六か月ほど前、建屋内の工場エリアで天井が崩落しました。それによりこの工場の誇る最新の製造設備群が崩壊に巻き込まれ、その全てが失われました。建屋の崩落を免れた部分にも多大なダメージが加わったようで、建屋内の気密が破られました。内部に充填されていた劣化防止用の不活性ガスが全て流出してしまったため、現在この工場内の設備は急速に劣化が進行しています』

「……」


 千年の時を奇跡的に生き延びた生産施設が今、大半の設備を失い残りの設備も劣化して朽ち果てようとしている。

 俺が来る直前に壊れ始めたってどういうこと? ちょっと間が悪すぎない?


「後どれぐらい持つの?」

『建屋内には多数の設備が存在します。早いもので一年、遅いものでも三年以内には機能停止すると思われます』

「駄目じゃん!」

『これは大雑把な推定値です。劣化速度に関する詳細なデータなど存在しませんので正確な予測は出来ません』


 これはまずい。俺がこの施設に逃げ込んだのは、この施設の設備が使えると思ったからだ。

 ここは過去の文明を今に伝える貴重な古代遺跡だ。このままでは遺跡ではなく廃墟になってしまう。何とか阻止しないと……。


「ロック。この施設内の設備の劣化を止める方法はないか? 劣化防止ガスを再充填できないか?」

『劣化防止ガスの備蓄がありません。あったとしても建屋の気密を回復させないと意味がありません』

「劣化した設備を修理というか、復旧させられないか?」

『修理は不可能です。新しい素材を使って作り直すのが現実的です』


 劣化は抑えられないし修理も無理。どうしたらいいのだろうか?


「……じゃあ新しく作り直そう。出来るのか?」

『工場の工作機は全て失われましたが、幸い開発室の試作工作機が使えます。製造に必要な設計情報や製造情報は揃っていますので条件付きですが製造は可能です』

「条件って?」

『製造には素材が必要です。工場内の倉庫に必要な素材の備蓄があれば製造は可能です。金属素材については特に問題ありませんが、有機素材は劣化が進んでおり原材料として適しません。この素材を使用した場合、製造自体は可能ですが品質面で問題が出ます』


 有機素材と言うと、プラスチックとかゴムみたいな素材のことか。


『時間制限もあります。私も工作機も日々劣化が進んでおり、いずれ機能停止に陥ります。何か製造するのであれば急いだほうがいいでしょう』


 この施設を今後も維持しようと思ったら設備を新しく作り直すしかない。

 だけど製造機械と金属素材はあるが有機素材は劣化したものしかない。

 製造機械もいつ動かなくなるか分からないので、のんびり構えている暇はない。


 俺は頭を抱えた。これは無理ゲーというやつではないだろうか? 

 だが諦める訳にはいかない。この施設は絶対に手放せない。


 俺はロックと入念な検討を繰り返し、工場再建計画を練り上げた。

 やりたい事は明確だ。ここの施設が使える間に重要設備を新しい素材を使って作り直し、工場の生産能力を復活させることだ。


 作り直しが必須である重要設備は二つ。


 一つ目は総合管理ユニットと、それに付随する情報ライブラリだ。

 数百万に及ぶ製品の設計製造情報を持つ情報ライブラリと、それを管理する高度な人工知能のユニットは、この施設にとって欠く事の出来ない存在だ。


 二つ目は汎用工作機だ。

 必要なのは多品種の製造が行える万能タイプの工作機だ。元々工場エリアに多数配置されていた設備なのだが、工場崩落によりひとつ残らず潰れてしまった。


 既存の製造施設の劣化が進む前に、この二つさえ作り上げてしまえば後の事は急ぐ必要はない。

 必要に応じていくらでも設備を増やしていける。


 製造すべき対象は決まったが、問題は手元にある有機素材が劣化したものしかないということだ。

 劣化した素材を使って設備を製造しても、早々に動かなくなるのは目に見えている。


 これについての解決策はロックから提示された。

 動物や植物を大量に集めれば、そこから有機素材を抽出することが可能らしい。


 今後の方針は決まった。

 まずは有機素材を抽出する為の設備を、今ある劣化素材を使って製造する。

 抽出設備が出来たら採取した動植物を原料にして有機素材を抽出する。

 抽出した有機素材が一定量溜まったら、総合管理ユニットと汎用工作機を製造する。


 後は実行あるのみだ。



 ◇◇◇



 この日から俺は工場再建に向けて、寝食を忘れて働き続けることになった。

 急いだのはここの設備がいつ使用出来なくなるか分からないためだ。


 まず最初に行ったのは『多脚汎用作業機械』の製造だ。

 軽自動車ほどの大きさの人工知能搭載の作業機械で六本足で軽快に移動できる。また円柱形の胴体に八本の作業腕を収納しており各種の工作や工事が得意だ。

 この多脚汎用作業機械は器用さとパワーを兼ね備えた優れもので、重量物の運搬やその他の力仕事に便利に使える。


「こいつ六本足で蜘蛛みたいだな。じゃあ『スパイダー』と名付けようか」

『多脚汎用作業機械は六本足ですが、蜘蛛は八本足ですよ』

「えっ、そうなの? ……いいんだよ。細かいことは気にするな!」


 次に製造したのは『有機素材抽出機』だ。

 動植物をこの機器に投入すると、対象物を分解し素材として使えるような物質に分離抽出してくれる。


「この投入口に動物や植物を投入すれば、素材になって出てくるのか?」

『はい。投入する動物や植物の種類で、抽出できる素材も変わってきます。最初はたくさんの種類を集めてください』

「そんなに都合よくは出来ないぞ……」


 この二つは劣化した素材を使用して製造したため長くは使用出来ないが、主目的の設備製造が完成するまで保てばいい。


 次の作業は有機素材抽出機に投入する動物や植物を集めてくることだ。


 動物に関しては俺の得意技がある。

 魔物限定ではあるが魔力波による探知、魔石からの魔力吸引、棍棒による撲殺、浮遊石を使った運搬のルーチンワークで、簡単に魔物狩りが出来る。


 植物に関してはスパイダーに任せた。

 スパイダーは森に出向いていろんな種類の植物を採取しては戻って来る。

 八本の作業腕の一つにはチェーンソーが装備されており、太い木だって簡単に切り倒せる。

 人工知能搭載で自己判断で行動できるので手間が掛からず、とても役に立つ頼もしい機械だ。


 最初の一週間は俺とスパイダーとでひたすら動物や植物を集め、抽出機に放り込み有機素材を抽出することに専念した。

 やがて動植物の種類毎にどんな素材が抽出できるかが判明すると、徐々に必要な素材が取れる動植物を狙って集めるようになった。

 そして一か月後。とうとう新設備の製造に必要な素材が全て集まった。


「ロック。やっと必要量の素材が集まったぞ。工場再建計画を進めるぞ」

『素材収集ご苦労様でした。まず先に汎用工作機の製造に取り掛かります。これが完成すれば工作機が二台に増えますから、後続の工程の速度が上がります』

「ああ、製造についてはお前に任せる。ちゃちゃっと作ってくれ」

『ちゃちゃっとは難しいですが、まあお任せ下さい』



 ◇◇◇



 いくつかのトラブルはあったが、当初予定していた設備の製造と設置が完了した。

 工場再建計画をスタートしてから既に二か月の時が経過していた。


「終わった! やっと終わった。これで一息付けるぞ!」

『ご苦労様でした。ここまで来ればもう急ぐ必要はありません、少しずつ新設備への入れ替えを進められます』


 そう、ここまでは最低限必要な設備を作っただけだ。

 まだまだ作らなければいけない設備は山のようにある。


 多脚汎用作業機械のスパイダーと有機素材抽出機は今後も使用していくが、劣化素材で作られているので新しい素材での作り直しが必要だ。


 今回新しく作った汎用工作機は一台だけだが、これの数をもっと増やして製造効率を上げたい。

 そうなるとこれまで以上に素材を集める必要が出てくる。

 俺が行っている魔物狩りの作業を、狩猟機械を作って自動化したい。


 施設内の工場エリアについても崩壊したままだ。瓦礫を撤去して建屋の修復をしたい。


 ああ、やりたい事や作りたい物が山ほどある。

 幸いロックの情報ライブラリには未来テクノロジーで開発された機器の情報が山ほど詰まっており、それを製造できる工作機もある。


 まだのんびりする暇はなさそうだ。


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