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第56話 異世界の真実

 翌日、猫耳親父は俺に朝食を振る舞ってくれた上に、昼食用の弁当まで持たせて送り出してくれた。思わず目頭が熱くなった。

 別れ際、俺は店の前で再度猫耳親父に頭を下げ礼を言った。


「親父さん。この恩は一生忘れないよ。今後は大陸中を旅しながらこの店と猫耳とハゲ頭の素晴らしさを世間に布教して回るよ」

「誰がハゲだよ! お前もしつこいな。いい加減ハゲ頭から離れろ」

「仕方が無いから布教は店のことだけにするよ。……そういえばこの店の名前は?」


 俺は店の入り口を見た。扉の上に店の看板が掛かっている。その看板には『猫耳亭』の文字が……。


「親父さん……」

「何だ」

「ひねりが無い!」

「やかましい! 大きなお世話だ!!」


 この猫耳親父、料理の腕は確かだがネーミングセンスは壊滅的だ。


「じゃあ俺は猫耳亭の素晴らしさを世に広めるため旅に出るよ。親父さん、元気でね」

「また腹が減ったらうちに来い。洗い物を用意して待ってる」

「いや、そこは『洗い物』じゃなくて『うまい物』でしょ」

「どっちも一緒だ」


 俺は手を振って猫耳亭を後にした。猫耳親父、いい人だったな。

 ああ、一度でいいから娘さんの猫耳を思いのままに触ってみたかった……。

 無念……。




 その日の午前中は魔物狩りに精を出した。


 街を囲む城壁をこっそりと飛び越え、街から少し離れた所で魔力波を飛ばして魔物の反応を探る。

 大きな反応を返した場所へ空から近づき、魔物の体内にある魔石から魔素を吸い取って昏倒させる。その後は石や丸太で魔物の頭を叩いてとどめを刺す。

 本当は魔石破壊を使えばもっと簡単に魔物を倒せて楽だったのだが、今回は売却が目的なので魔石も大切な売り物だ。なので魔石破壊はなしだ。


 倒した魔物と一緒に空を飛び街に取って返し、身元を隠した上で冒険者ギルドに魔物を持ち込んで売却する。


 これを昼過ぎまで何度も繰り返した結果、合わせて金貨五枚ほどのお金が手に入った。持ち込んだ魔物の中に、希少な魔物が数匹含まれていたのでいい値がついたのだ。


 俺は金貨の詰まった袋をのぞき込み思わず呟いた。


「簡単すぎて怖い……」


 俺の持つ膨大な魔力と魔力操作のスキル。そこに浮遊石の力が加われば、その効果は絶大だ。

 今の俺にとって魔物狩りなどお遊びに等しい。はっきり言って反則級の力だ。

 今更ながら希少なスキル持ちが狙われる理由を痛感した。


 とりあえずお金が手に入ったので、街を回って食料と生活道具を買い込むことにした。

 最初に大きな荷車を購入し、それを引きながら店々を巡って食料や水の樽、野営道具、調理道具、衣類などなど、長期の引き籠り生活に必要な物資を次々と購入して荷車に載せていく。

 荷車がいっぱいになる頃には魔物狩りで稼いだお金は全て使い果たしていた。


 買う物さえ買ってしまえばもうこの街に用はない。

 追手の事を考えると少しでも早くここを離れたほうがいい。


 俺は街の城壁沿いの目立たない場所へと荷車を引いていった。

 周囲に誰もいないことを確認し、荷車の上に腰をかけ浮遊石に魔力を流す。


 荷車がゆっくりと浮かび上がった。かなり大きな荷車なので飛べるかどうか不安に思っていたのだが、この調子なら何とかなりそうだ。


 一気に空に飛び上がり街の外に出る。向かうは謎の地下施設だ。

 物資を満載した荷車の上で俺は気合を入れた。


「よし、行ってみようか!」



 ◇◇◇



 街を出てから二日。のんびりとした空の旅の末に旧街道の奥の地下施設にたどり着いた。


 地下施設への入口は目印も何もない森の中にあるめ、探し出すのに手間が掛かると思っていたが、意外と簡単に見つけ出すことが出来た。

 地下施設の崩落跡が地上に大きな窪地を作っており、上空から見ると森の一部に人工的な長方形の図形が浮かび上がっていたのだ。


 窪地の周囲を飛びながら詳細に調べていると、俺とテレーゼが地上に這い出した縦穴が見つかった。


 縦穴は荷車ごと降りられるほど大きな穴ではない。

 俺は縦穴の近くに荷車を降ろすと、一人で縦穴に飛び込んだ。


 ゆっくりと降下して穴底に降り立つ。俺の目の前には地下施設の入口の扉があった。

 扉のハンドルを回しそっと扉を押し開く。

 中をのぞき込むと照明が灯り暗かった部屋の内部が照らし出された。

 ロッカールームらしき部屋だ。俺たちがここを出た時のままだ。

 あれから誰かが中に入り込んだということはなさそうだ。


 俺は地上とこのロッカールームを何往復かして、持ってきた物資を全て運び込んだ。

 荷車はサイズ的に持ち込めなかったので、縦穴から少し離れたところに木の枝を被せて隠しておいた。

 縦穴の開口部にも同様に木の枝を被せて見つかりにくくしておいた。


 まあ、こんな人里離れた森の中なんて人は来ないはずだが念のためだ。


「さてと、それじゃあ調査といきますか」


 その日は施設の中をざっと見て回った。


 やはりここは放棄された何かの地下生産工場のようだ。

 内部で見つけた本や書類の内容を見ると、やはり俺のいた時代より二百五十年ほど未来に作られた施設のようだ。


 施設内の半分以上のエリアは生産工場のようだ。だがその大部分は天井が崩れ落ち立ち入ることさえ出来なかった。

 崩落を免れたエリアは開発部門のようで、設計室や工作室と思わしき部屋がいくつも見つかった。

 また工場に隣接する無傷な倉庫区画を新たに発見した。金属素材や化学物質などが保管してあるようだ。


 初日の調査はそこまでで打ち切った。

 ベッドのある医務室を居室に定め、食料や日用品を持ち込んで住みやすいように部屋の配置を変えていく。

 保存食の寂しい食事を取り、ベッドに横になった。

 明日からは本格的な調査を開始する。どんな成果が出るのやら……。




 翌日、俺は施設内の部屋をひとつひとつ丁寧に調査して回った。

 そして俺はある部屋で奇妙な物を見つけた。


 その部屋は用途の分からない工作機械や装置がたくさん置かれた部屋であった。

 その中に俺の注意を引いた物があった。

 冷蔵庫くらいの装置で筐体のパネルが開いており、中には灰白色の石がぎっしりと詰められた透明なカプセルが入っていた。


「魔石? 何でこんな所に魔石が?」


 機械と魔石の組み合わせがしっくりこなくて、しげしげと見つめてしまった。

 本当に魔石だろうか? じっくり見てもやはり魔素の抜けた魔石のように見える。


 少し考えてから俺はその魔石に魔力を注いでみた。

 魔石の色がだんだんと透明に変わっていく。やはりこれは魔石のようだ。

 カプセル内にぎっしり詰まった魔石が全て透明になった時、ブザー音が鳴り出した。


『ピーピーピー』

「うわっ! 何だ!? 動いた?」


 驚いて装置から飛び退り、何が起こったのかと注視して待った。

 やがて装置の前、俺の目の高さの位置に光る板が出現した。


「ホログラム……、なのか?」


 やはりこれは未来技術で作られた装置のようだ。何もないはずの空間に光るディスプレイが現れた。ディスプレイに文字が表示されている。その文字は英語だった。


『Just a moment please』


 どうやらこの装置は魔石を動力源に使用しているようだ。空だった魔石に魔力を注いだので動力が復活し再起動を始めたのだろう。


 しかし機械が魔力で動くというのも変な話だ。どんな仕組みなんだろう?


 指示の通りしばらく待っていると、ホログラムのディスプレイにメニューらしき画面が表示された。


 メニューに表示された文字は英語だ。俺の知らない単語が並んでおり全く意味が分からない。


「勘弁してくれよ。全然読めないぞ」


 思わず愚痴が出た。だがその愚痴は無駄ではなかった。

 俺の言葉に反応したように、メニュー画面が英語から日本語に切り替わった。


「おおっ! すごい!」


 喜んでメニューに目を通すと確かに日本語なのだが、よく分からない言葉が並んでいる。


 以前この施設内で見つけた雑誌のことを思い出した。どの雑誌も日本語の使い方が変だった。未来の日本は言語も変化してしまったのだろう。


 どうしようかと悩んでいると、メニュー画面の隅にヘルプと思われるボタンが表示されているのに気が付いた。

 俺はホログラム画面のヘルプボタンをそっと押した。

 するとどこかから声が聞こえてきた。


『何かお困りしょっか?』


 おおっ、この機械は会話も可能なのか? でもやっぱり日本語が変だ。

 この装置は人工知能を搭載しているようだが、多言語に対応しているのなら多年代も対応してないだろうか?


「古い年代の日本語は入ってないのかな? 西暦二千年前後の日本語だ」

『設定言語を二千年から二千五十年の日本語に変更しました。何かお困りでしょうか?』


 おお、言ってみるものだな。駄目元で言ってみたのだが、ちゃんと違和感のない日本語に切り替わった。

 会話が出来るのであれば、これが何の装置なのか装置自身に聞けば分かるはずだ。


「お前は何の装置なんだ?」

『私はTEAX9050型の試作工作機です。VOCK制御装置およびグーラスタ型給電ユニットが接続された状態で、毎分五千回の…』

「ストップ、ストップ! そこまで詳細な情報は不要だ。試作工作機って事は何か製造して欲しい物があれば作れるってことか?」

『製造情報を入力することにより、AE5レベルまでの試作品を全自動で製造することが可能です』

「AE5レベルって何?」

『WACCO3規格のAE区分第五条項までを含む…』

「ストップ! そこまででいいよ」


 聞けば答えてくれるが、回答は専門的な技術用語ばかりだ。

 まあ会話が可能と言っても所詮相手は工作機だ。当然会話は技術者相手を想定しているのだから専門的な内容になるのは当たり前だろう。


 俺は改めて部屋の中の機械類を見回した。

 俺が対話している筐体の向こう側には、車の洗車機のような大きなゲート型の機械が設置されている。

 ゲートの内側にはマジックハンド状のアームが何本か付いている。

 どうやらこのゲート型の機械が工作機本体で、俺が対話中の筐体が制御装置といったところか。


 どうしたものかと思案していると、ホログラムのディスプレイが赤く染まり異常を知らせる文字が表示された。


『通信ネットワークからの応答がありません。通信設備の異常、もしくは電源が入っていない可能性があります』


 今現在この施設内で動いている機器はこの装置だけだと思うので、通信異常というより通信相手がいないのだろう。


 この工作機を動かすには他の関連した装置も起動させないといけないようだ。

 製造情報を入力しろと言ってるから、設計図とか製造手順の情報を別の機器から入力する必要があるのだろう。


「通信設備ってどこにあるんだ?」

『その情報は保有していません。総合管理ユニットに問い合わせてください』


 何となく調査の方向性が見えてきた。


 施設内の機器類を管理する『総合管理ユニット』なるものが、この施設内のどこかにあるはずだ。そのユニットを探し出して再起動するのだ。

 こんな末端の試作工作機でさえ人と会話が出来るのだ。総合管理ユニットならもっと高度な会話が可能だろう。きっとこの施設についての詳細な情報が得られるはずだ。



 その後俺は施設内の設備を片っ端から調べ、魔石の入ったカプセルを見つけ出しては魔力を充填し、装置を起動して回った。


 そしてとうとう目的の機器を見つけ出した。

 ある部屋の中で再起動した装置のうち一台が『総合管理ユニット』と名乗ったのだ。


「もう一度言ってくれ。お前は何の機器だ?」

『私はROCCK72型総合管理ユニットです。当実証実験工場内の全ユニットの総合管理をしています』

「実証実験工場? この工場は何を作っている工場なんだ?」

『軍事物資の製造を行っています。製造情報と資材さえあれば戦闘機から銃弾まで、多品種の製造が可能です』


 物騒な単語が混じっている。未来の日本は軍事国家へと変わっていったのだろうか?


「実証実験って何を実験してたんだ?」

『この工場は外部からの電力供給を必要としない魔石給電システムの実用性、および新型工作機による多品種少量生産の効率化を検証するために作られた軍需工場です』


 未来では魔石が普通に使われているのだろう。そしてこの工場は魔石から電力を作り出して使用しているらしい。


 やはりこのユニットは総合管理ユニットだけあって、俺の欲しい情報をたくさん持っているな。


「どうしてこの施設は異世界にあるんだ? 工場ごと転移でもしたのか?」

『異世界とは何でしょうか? 質問の意味が分かりません』


 ここが異世界だとの認識が無いのだろう。質問を変えよう。


「この施設は工場が潰れて放棄されたのか?」

『工場は放棄されていません。当工場は司令部からの総員退避の指示に従い、劣化防止措置を取った上で休眠状態に移行しました』

「総員退避の理由は?」

『知らされていません』

「休眠状態に入ったのはいつだ?」

『西暦2272年8月5日です』


 こう断言されるともう疑いの余地はないな。やはりこの施設は俺の二百五十年後の施設だ。


「……今日の日付は?」

『西暦3270年4月8日です』

「!」


 休眠に入って千年も経っているじゃないか。

 その日付を聞いた瞬間、俺は全てを悟った。


(ここは異世界なんかじゃない! 千二百五十年後の地球だ!)


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