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第47話 暗殺

「ブレンダ。客人たちをリビングに集めてくれ」

「かしこまりました」


 今日は王都の王城に講和条項の協議に行く日だ。今日中に大枠が決まれば数日後には講和条約締結できるだろう。

 そうすれば客人たちにはお帰り願えるので、エデンにまた静寂が戻って来る。


 ギルベルト王子やアレクシア王女たちがリビングに集まって来た。


「タツヤ様。お呼びだそうですが」

「ああ、今夜また城に行ってくる。今夜うまく話がまとまればあと数日で家に帰れるぞ」

「そんなに急いで追い出さなくてもいいだろ。まだ泉の主を釣りあげてないんだよ」


 ライザーの言葉にギルベルトが頷いている。

 彼らもこの数日でずいぶんエデンに慣れ親しんだようだ。

 ギルベルトとライザーは庭園の奥の泉での釣りにはまったようで、昨日は二人で一日中釣竿を持って泉に居座っていた。


 ライザーの言葉にクリスティンも賛意を示した。


「そうですよ。私もスイーツ全種類の制覇が終わらないと帰れません」


 アレクシアとクリスティンは、目新しいスイーツをメイドのセシリアにねだっては、バルコニーで優雅なお茶会を開いているようだ。


 クリスティンなどは、当初の警戒心は何だったのかと言うほどエデンの生活を楽しんでいる。彼女はスイーツの他に大浴場も気に入っているようで、よく王女の世話を放り出して入浴しているらしい。

 彼女は王女の侍女としてここに来ているはずだが……。


「君たち自分の立場を分かってるか? 客人とは言ってるが実際は人質なんだぞ」

「だから人質として大人しくしてるじゃないか。何が不満なんだよ」

「ここはリゾートホテルじゃないんだが……」


 ちょっと人質の待遇を良くし過ぎたか?


「タツヤ様。アレクシア王女もギルベルト王子も、王都の城の中では常に周囲の視線を気にして窮屈な生活を送っているのです。城に戻ればこんなにのんびりと、人目を気にせず自由に振舞う事など二度と出来ないかもしれません。ここにいる間だけでも、今と変わらぬ生活を送らせていただけないでしょうか?」


 驚いた。あのクリスティンが俺に頭を下げて頼み込んでいる。

 確かに王城の生活は息が詰まるのかもしれないな。


「いや、別に今の生活態度が悪いと言ってる訳じゃないんだ。あと数日だが好きなように過ごしてくれ」


 頭を下げて俺から顔を隠しているクリスティンの手がグッと握り締められた。

『よっしゃー!』というクリスティンの心の声が聞こえたような気がした。

 この娘、なかなかの策士だな。


「まあいい。とにかく行ってくるから、協議がうまく行くよう祈っててくれ」

「いってらっしゃいませ」



 ◇◇◇



 今夜も空挺母艦アルバトロスと、護衛の空中フリゲート艦サラマンダーで王城にやってきた。

 今日は夜の訪問なので、こそこそと艦を隠す必要もなく低い高度で城の上空に滞空している。


 上から城の様子をうかがうと、破壊された四つの城門のうち一つは瓦礫が撤去され通行が可能になっているようだ。

 今夜再訪すると通告してあるためか、城の周囲を巡回する衛兵の数が多いような気がする。


「よし! 行け!」


 アルバトロスからバトルロイド空挺部隊が二個小隊、城に向かって降下していく。


「流星号、俺たちも行こうか」

「ラジャー。お任せあれ」


 俺は空挺部隊員ではないので空挺降下など出来ない。

 俺の送迎は流星号のお仕事だ。流星号は流線形の空飛ぶオープンカーで、俺の頼もしい相棒だ。


「なあ、流星号。よく考えたら今回の騒動はお前のせいで起きた紛争なんだよな」

「なんで!?」

「王が欲しがってる浮遊石って、お前に持たせてる浮遊石なんだよ」

「異議あり! 浮遊石なんていくらでもあるだろ。別にどの浮遊石を王に渡しても問題ないじゃん!」

「いや、王は浮遊石がたくさんあるなんて知らないんだ。王が欲しがってるのは、あくまで俺が最初に持ってた浮遊石の事なんだよ。その大切な浮遊石はお前の中にある。ほら見ろ、やっぱりお前が原因だ」

「無茶苦茶な理屈じゃねーか! 俺は無実だ! パワハラだ! エデン労働組合に訴えてやる! バトルロイドたちと抗議デモしてやるから覚悟しろ!」


 流星号はノリがいいので、ついからかいたくなる。人間相手だったら本当にパワハラで訴えられそうだ。


 流星号は城の隅の周囲から死角になっている場所に着陸した。

 先に降下した八機のバトルロイドが整列して俺を待っていた。


「お待たせ。行こうか」


 俺は前後をバトルロイドたちに守られ、城の入口に向かった。

 城の衛兵は突然現れた俺たちに驚いていたが、すぐに上役らしき男が現れた。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 俺たちは城内の会議室風の細長い部屋に通された。

 室内は豪華な内装がなされ、中央に何十人も座れそうな細長いテーブルが置かれている。


「こちらにお座り下さい」

「いや、こっちがいいな」


 俺は案内係の指定した席を無視し、長テーブルの中央の上座と思われる立派な椅子に腰を掛けた。座った俺の背後に八人の巨体の騎士がずらりと並ぶ。


 俺を案内した男の顔が恐怖に歪んだ。たぶん俺の座った席は王の席だったのだろう。だが俺にどけとは言えず顔面蒼白になっている。

 かわいそうだが、今日この場で一番偉いのはこの俺だ。退く訳にはいかない。


 やがて部屋の中に宰相のフォルマー公爵を始めとした講和条約策定委員の面々が現れた。

 フォルマー公爵は俺が王の席に陣取っているのを見ると、近くにいた男に何か指示を出した。指示された男は部屋を出て行き、しばらくして豪華そうな椅子を持ってきた。そしてその椅子を俺の正面の席の椅子と交換した。


 俺がどかないから別に王の席を作ったのか。さすが宰相、機転が利くな。


「やあ、宰相。久しぶりだな。元気だったか?」

「元気な訳がない。この三日間、草案の作成にかかりきりで碌に寝ていない。各地の領主と意見の調整に駆け回って、ついさっき草案がまとまったばかりだよ」

「それは悪かった。で、満足のいく案は出来たのか?」

「私としては精いっぱいやった。あとは貴殿が気に入るかどうかだ」

「そりゃそうだ」


 しばらく待つとやっとグスタフ王が第一王子のフェリクスを連れて現れた。王は自分の席が俺に盗られているのを見ると不快そうに俺を睨んだが、宰相に促され即席の王の席につき、第一王子を隣に座らせた。


 宰相が一同を見渡し全員揃っていることを確認した。


「では、これよりタツヤ殿とアルビナ王国との間で取り交わす講和条約の条項を検討する。まずはアルビナ王国にて作成した草案を発表させてもらう」


 さてさて、宰相の三日間の成果を聞こうか。


「第一に、アルビナ王国はこの紛争の賠償金として、金貨十万枚を今後五年間に渡り毎年二万枚ずつ支払う事とする」


 金貨十万枚。日本円で百億円相当という訳だ。まあ、一度には払えないだろうから五年分割は妥当かな。俺の想定より遥かに多い額だ。


「第二に、タツヤ殿をアルビナ王国の侯爵に叙する。但し領地の割譲は行わない。侯爵位は五年を限度とした期限付き爵位とする」


 俺を貴族にだと? まあ、何となく意図は分かるな。


「第三に、タツヤ殿をアルビナ十二騎士団の監察官に任ずる。但し騎士団監察官の役職は五年を限度とし、延長は認めない」


 これは侯爵位と同じ流れだな。ところで監察官って何をする役職なんだ?


「タツヤ殿、これが貴殿への講和案だ。意見を聞かせてもらいたい」

「宰相フォルマー公爵。まず賠償金だがこの額で了承だ」


 宰相の顔に安堵の色が浮かんだ。これだけ巨額の賠償金の支払いなど、王家のみならず国内各地の領主の協力が必要不可欠だろう。よくこんな短期間で根回しが出来たものだ。


 実の所、今の俺はお金など必要としていない。賠償金を要求した理由は講和の条件面で揉めた時に『こちらの要求を呑むのであれば、賠償金を減額してもいいぞ』と交換条件として使うためだ。


「俺を侯爵に叙するという話、もう少し詳しく説明して欲しい」

「貴殿が警戒していたのは、領主や貴族、それに騎士団が貴殿に報復に出る事であろう。貴殿が単なる平民であれば報復に出る諸侯は多かろうが、相手が侯爵となればほとんどの領主や貴族は手を出せなくなる。もし手を出せば事の成否に関係なく領地を召し上げられ爵位を剥奪されるだろう。侯爵の上の爵位となると公爵しかないが、全ての公爵は貴殿の恐ろしさを知っている。手出しはしない」


 俺が正式に高位貴族になれば、おいそれと俺にちょっかいを掛けられなくなるという訳だな。

 侯爵の上の爵位は公爵だけだ。公爵は王に最も近い存在でこの国には数人しかいない。今回の王城での事件の詳細は、公爵なら全員が正確に知っているはずだ。俺の力を知ったうえで馬鹿な真似はしないという事か。


「侯爵と言っても領地も無く宮中の役職も無い。実質名誉爵位の扱いだ。貴族としての待遇は受けられるが特に権限はない」


 宰相は俺が何か不満を言うのではないかとこちらの様子を窺っている。

 俺としては爵位などどうでもいいので次の質問に移った。


「分かった。それで騎士団の監察官ってどんな役職?」

「今回、貴殿のため急遽作った役職だ。騎士団の行動を監視し疑義があれば、活動を停止させる権限を持つ。この一点に関しては騎士団長より上位の権限だ。貴殿の制止を聞かず貴殿に害を成そうとする騎士は、命令拒否もしくは国家反逆罪で裁かれる。念のために付け加えると、監察官には騎士団に軍事行動を命ずる権限はない」


 爵位と騎士団の役職で、公的に俺に逆らえなくした訳だ。


 大盤振る舞いだけど、本当にこんな条件を出してしまっていいのだろうか?

 爵位は期限付きとはいえ平民から侯爵だなんて、どう考えても反発しか招かないだろう。

 監察官にしても騎士団の内部情報を全てさらけ出す事になる。俺が言うのも何だが、正気の沙汰とは思えない。


「俺としては問題ない。でも本当にこの内容でいいのか? 周囲の反発が大きすぎないか?」

「飛燕騎士団のアンジェロ元騎士団長から話を聞いた。貴殿はその気になれば貴族も騎士団も、自力で打ち負かす事が出来るのだろう。それを思えば貴族や騎士団の反発などどうとでもなる。それに爵位にしても役職にしても、貴殿に渡して悪用されるとは思えない」

「ずいぶん信用されたものだな」

「貴殿は城の者を一人も害していない。その行動を信じる」


 俺はテーブルを見渡し、ブリュン公爵に目を向けた。


「ブリュン公爵。今の宰相の案で何か意見はあるか?」

「この三日間、意見調整や折衝に駆けずり回った。この条件で了承して貰えないとなると、もう儂にはこれ以上の案は出せん」

「ご苦労様。俺もこの条件で満足している。手直しは不要だ。これを正式文書にしたためてくれ」


 宰相やブリュン公爵がほっとした顔になっている。

 まあ、両人とも俺が駄目出ししたら倒れそうな顔をしてたから、了承が取れて気が抜けたようだ。


「貴族や騎士団の偉いさんを集めて大勢の前で調印といこう。講和成立を大々的に宣伝するんだ。式典の手配を頼むよ。豪華さは不要だけどなるべく早くしたい。どれくらいで準備できる?」

「三日、いや、四日だな。四日後に講和条約の締結という事でいいか?」


 俺は宰相に手を差し出した。宰相が俺の手を握り返す。

 ブリュン公爵とも握手を交わした。


 俺は今日も黙って席に座っている王に近づいた。


「なあ、グスタフ王。もう争いは終わりだ。これまでの事は水に流して、今後は仲良くしてもらえると嬉しいな」


 俺は王に手を差し出した。


 王が俺の差し出した手を見て椅子から立ち上がった。隣に座っていた第一王子のフェリクスも一緒に立ち上がる。


 王が俺の手を握り返した。そしてそのまま俺をしっかりと抱き寄せた。


(何このおっさん! これが噂に聞くツンデレってやつか? 今までツンツンしてたのはこの伏線だったのか! でもツンデレはオッサンじゃなくて女の子がいいんだが……)


 この状況で王を突き放す訳にもいかず、俺も仕方なく王を軽く抱きしめた。

 俺の後ろにいた第一王子のフェリクスまでが、背後から俺に抱き着いてきた。


(こいつもツンデレ王子かよ!)


 その瞬間、俺は脇腹に強烈な痛みを感じた。見ればフェリクス王子がナイフを持ち俺の脇腹に突き立てていた。俺の体から盛大に血が吹き出している。


「アルビナ王国は貴様のような奴の好きにはさせん! 死ねっ!」

「グハッ」


 俺は言葉にならない声を発して崩れ落ちた。


 そこからの事は途切れ途切れにしか覚えていない。

 俺が崩れ落ちるのと同時に大勢の騎士たちが会議室に乱入してきて、護衛のバトルロイドたちへ襲い掛かった。


 数機のバトルロイドが俺のところに駆けつけ、グスタフ王やフェリクス王子を殴り飛ばして俺から引きはがしている。

 他のバトルロイドたちは乱入してきた騎士たちに応戦している。剣ではなくレーザーを使用しての手加減無しの反撃だ。室内に血飛沫が舞い散る。


 細長い会議室の端の部分が轟音を立てて吹き飛び、空いた天井の穴から流星号が飛び込んで来た。バトルロイドたちが俺を流星号に押し込むと、流星号は入って来た天井の穴から外に飛び出した。


(流星号が来てくれた……。もう大丈夫だ……)


 俺が覚えているのはそこまでだった。


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