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第42話 王城陥落

 警護兵の槍に囲まれたまま、俺はポーズを取った。


「変身!」


 腰のベルトの風車が回転し、俺の身体に緑のスーツが装着された。

 バッタの魔物の再登場だ。


 このスーツ、外観が不評だったため改良を予定していたのだが、今日の謁見までに間に合いそうになかったので、改良は諦めてそのまま持ってきたのだ。

 今回はオートモードの出番が来ないよう神に祈ろう。


 俺の変身が完了すると共に、謁見の間の壁が大音響を立て吹き飛んだ。

 同時に広間の中にもうもうとした白煙が立ち込め、悲鳴と怒号が巻き起こる。


「何事だ! 衛兵! 衛兵! 何が起こった!」

「誰か! この煙はなんだ! 助けてくれ!」

「出口はどこだ! 何も見えんぞ!」


 参列者の貴族や城の使用人は何が起こっているか分からず、一刻も早く広間から逃げ出そうと入口の扉に向かって押し掛けた。だが扉は押しても引いても開く事は無く、やがて彼らは白煙に包まれて次々に倒れていった。


 爆発で開いた壁の大穴からは、青い鎧を着た騎士の一団が続々と広間に侵入してきていた。それにいち早く気付いた衛兵が大声を上げた。


「侵入者だ! 壁の穴から何者かが侵入しているぞ!」


 そう叫んだ衛兵も白煙に包まれるとその場に倒れ込んでしまった。

 慌てふためく参列者たちを尻目に、近衛兵は即座に王座の周囲を取り囲んでいた。


「王をお守りしろ! 侵入者を近づけさせるな!」


 だが襲撃を警戒し王を取り囲む兵たちも、立ち込める白煙に包まれると次々と倒れていった。


 広間に立ち込める白煙は即効性の催眠ガスだ。もちろん振り撒いたのはこの俺だ。

 煙を吸い込んだ者達はこれから二時間は夢の中だ。


 謁見の間に立ち込めていた白煙が徐々に薄れていく。

 広間にいた八十人以上の人々は皆、床に倒れて眠っている。

 立っているのはバッタ風スーツに身を包んだ俺と、青い鎧と兜で身を固めた巨体の騎士達だけだ。巨体の騎士の総数は二十四。


 俺は謁見の間に整列した騎士達に指示を出していく。


「ブルー隊は謁見の間の外に出て大扉を守れ。誰もこの広間に入れるな。レッド隊は他の出入り口を探して封鎖しろ。残りの隊は眠っている者の武装解除と拘束だ」


 この巨体の騎士の正体は、俺が作った人型戦闘用ロボット『バトルロイド』だ。

 プレートアーマー風の装甲で頭と体を覆ってあり、見た目は全身鎧を着た身長二メートルの重騎士そのものだ。背にはマントを羽織っており、高い身長と相まって更に巨大に見える。人工知能搭載で会話も出来るから、中身が機械だと気付く者はいないはずだ。


 バトルロイドは四機で一小隊の編成とし、小隊単位で命令を与えるようにしている。数が多いので戦闘時に一機ずつの命令などしていられないのだ。


「ケルビム。聞こえるか?」

『マスター。ケルビムです』

「空挺部隊の第一陣の降下は完了。第二陣の降下を開始しろ。第二陣の指揮は任す」

『了解しました』


 俺は大穴から身を乗り出し上空に目を向けた。城の上空に白い大きな雲が見える。その雲の中から何か小さな物体が次々と落下してくる。

 雲の中に姿を隠している空挺母艦アルバトロスから、空挺部隊の第二陣のバトルロイド二十四機が降下を始めたのだ。


 第二陣はケルビムの指揮の元、城の各所に分散降下して内部を捜索、催眠ガスや捕獲ワイヤーで城内の人間を拘束して無力化するよう指示を出してある。


 広間に目を戻すと、バトルロイド達が眠っている者を次々にチェックし、武器を取り上げ手足を特殊なバンドで拘束して転がしている。実に手際がいい。

 俺が手伝うとかえって邪魔になりそうなので、俺は黙って見ているだけだ。


 バトルロイドが眠っている一人の男を拘束しようと手を伸ばした時、その男がいきなり起き上がり広間の扉に向かって脱兎の如く走り出した。

 どうやら眠らされたフリをして、逃げ出す機会を窺っていたようだ。


 男は謁見の間の入口までたどり着くと、扉を押し開け広間から逃げ出す事に成功した。

 が、世の中そんなに甘くない。扉の外には謁見の間を警護するブルー隊がいる。

 男はブルー隊にあっけなく取り押さえらえ、バンドで手足を拘束されバトルロイドに担がれて戻って来た。


 この男、催眠ガスを無効化または回避する防御系魔法を使ったか、状態異常に対する耐性スキルを持っているのか、まあそんな所だろう。


 この異世界には多種多様な魔法やスキルが存在する。そういった魔法やスキルを使用される事を想定して、事前に対策を練るなど現実問題として不可能だ。

 今回のような想定外の事態には、その都度臨機応変に対応するしかない。実にやっかいだ。


 そうこうしているうちに全員の拘束が終わった。広間にずらりと並んだ手足を縛られた人の列。

 魚市場に並べられたマグロの群れを連想させる、とってもシュールな光景だ。


「ケルビム、状況を報告しろ」

『現在、王城内の五十三パーセントを制圧完了』

「予定よりかなり遅れてるな。謁見の間の制圧は完了した。レッド隊、ブラウン隊、グリーン隊をそっちの増援に回す。引き続き城内の制圧を急げ」

『了解』


 謁見の間は完全に封鎖してあるので、城内各所を警護している兵は現在城内で何が起きているのか気付いていないはずだ。

 もし城内の状況が明らかになれば、警護兵が組織立って反撃を始める恐れがある。そうなれば数に劣るバトルロイド達が劣勢に追い込まれる。


 バトルロイドは戦闘用ロボットと銘打ってはいるものの、実の所はただの汎用人型作業用ロボットに、鎧風の装甲といくつかの武装を持たせてあるだけなのだ。

 確かに疲れ知らずの金属の巨体は人よりは強いが、決して無敵と言う訳ではない。

 警護兵と剣を使って一対一で戦っても負ける事はまず無いが、数で押されたりトラップを仕掛けられると機体を破壊される恐れもある。


 この作戦は時間との闘いだ。警護兵が事態に気付く前に、一刻も早く制圧を進める必要がある。



 謁見の間での爆発が起きたのと同時刻、城の外でも騒ぎは起きていた。

 城を囲む城壁に四つだけ存在する城門が、全て破壊され瓦礫と化したのだ。


 アルビナ王国には十二の騎士団が存在する。各騎士団は城での異変を察知すると、状況把握のため調査隊を城に向かわせた。しかし城に入る城門が全て破壊されていたため、どの騎士団の調査隊も城壁の内側に進入する事は叶わなかった。


 各騎士団は城の中で何が起きているのか把握できず、兵力を集めて城に突入させるべきか否かを延々と議論して時間を浪費する事になる。


 城は完全に外部から孤立した状態に陥っていた。



「ケルビム。城の外の状況は?」

『偵察隊と思われる少人数の集団が破壊された城門付近で活動中。城内への侵入を試みている模様』

「サラマンダーで砲撃して追い払え。誰一人侵入を許すな」

『了解』


 城内に侵入させたバトルロイドは全部で四十八機。広く複雑な構造の城内を完全制圧するには、ただでさえ数が足りていないのだ。

 この状況で外部からの増援など来られたら対処出来なくなる。絶対に侵入を許す訳にはいかない。


 外部の敵の排除はサラマンダーの役目だ。


 サラマンダー。全長百五十メートルの空中フリゲート艦。俺の力の根源だ。

 飛燕騎士団の練兵場や、王城の城門を破壊したのはこの艦だ。

 現在は地上から視認されないよう、高高度の上空に滞空し砲身を城に向けている。


 本来サラマンダーを使えば、王城を粉砕するなど容易い事ではあるが、今回の目的はあくまで王城の制圧だ。サラマンダーの出番は門や壁の破壊と、外部からの増援の排除に限定される。



『マスター。ケルビムです。トラブルが発生しました』

「どうした?」

『パープル隊が城内で第一王子の護衛と戦闘に突入。パープル3が中破しました。現在パープル隊は後退し睨み合いの状態になっています』

「何っ! バトルロイドが負けたのか!? 催眠ガスや捕獲ワイヤーは使ったのか?」

『使用しましたが、一人だけガスが効かず、ワイヤーを弾き飛ばす男がおり、この男との剣による戦闘でパープル3が頭部を破壊されました』


 ガスもワイヤーも効かず、剣でバトルロイドに打ち勝つとは化け物だな。

 どうせまた魔法かスキルだろう。


「場所はどこだ?」


 俺の視野の中に半透明の3Dマップが表示された。ケルビムが俺のバッタ風マスクにデータを送って来たのだ。

 パープル隊の位置を確認すると、ここから割と近くだ。


「ブルー隊、広間の警護はもういい。パープル隊の支援に回るから俺と一緒に来い」


 俺はブルー隊を引き連れてパープル隊のいる所まで走った。

 通路の先にパープル隊の四機がいるのが見えたが、そのうち一機には頭部がない。


「パープルリーダー、状況を報告」

『この先の部屋で、第一王子と思われる人物と護衛三名の計四名を発見。部屋の中に催眠ガスを流しましたが、護衛の一人には効果がなく部屋の前の通路にて剣による戦闘に発展。捕獲ワイヤーも使用しましたが躱されました。戦闘によりパープル3が頭部を破壊されたため、戦闘を中止し後退しました。護衛は現在も扉の前で部屋を守っています』


 俺はT字路状の通路からそっと頭を出し問題の部屋を見てみた。

 通路の先に扉を背に立っている男がいる。警護兵とは違う鎧を着て、大きな剣を構えている。王子の専属護衛だろうか。


 男を見た俺の顔に笑みが浮かんだ。奴はけっこうな魔力持ちだ。

 どうやら魔法を使って肉体強化したり、催眠ガスを回避したのだろう。

 魔力があると言うのならば、最早この男は俺の敵ではない。


 俺は通路を進み出て男の前に姿を見せた。男は俺を見て呟いた。


「化け物め」

「いやいや、化け物はお前だろ。俺のバトルロ……、いや、俺の騎士に打ち勝つなんて、お前何者だ?」

「首を撥ねても死なない不死の騎士の次は、言葉を話すバッタの魔物か。お前達こそ何者だ」


 そうだった。今の俺はバッタの魔物だった。やっぱり魔物に思われてしまうこのスーツは問題が多いな。

 俺はバッタ風マスクを脱いで素顔を晒した。


「俺は別に魔物じゃないよ。ただの王城襲撃犯だよ」

「目的は何だ。王子の暗殺か?」

「えーっと、悪いがあんたの王子に興味は無い。どっちかと言えば君の方が目的だ。本当は君とゆっくり話がしたい所だけど今は時間が無い。すまんが拘束させてもらう」


 俺はこの男の魔力を全て吸い取った。男がバタリと倒れた。

 バトルロイドに勝てるほどの勇者でも、魔力切れには勝てないようだ。

 パープル隊に指示を出す。


「この男を拘束しろ」


 苦しませるのは本意ではないので、拘束後に少しだけ魔力を戻してやった。

 ついでなので、男が守っていた部屋に入り中を確認する。


 いかにも王子様といった華やかな服装の二十くらいの青年と護衛らしきニ名の男が倒れている。

 どうやらガスで眠っているようだ。

 俺と共に室内に入ったパープル隊が三人の拘束を始めた。


「ケルビム」

『はい、マスター』

「王城の制圧が完了したら、王子と王女を探し出して謁見の間に集めろ。確か五、六人いたはずだ」

『王子、王女の情報が不足しています。個人を特定出来ません』

「あれ? こいつは? 何で第一王子って分かったの?」

『パープル隊に自ら名乗りを上げました。他の情報と突き合わせ高確率で第一王子本人であると判断しました』


 侵入者に名を名乗った? たぶん『この俺を第一王子の何々と知っての狼藉か!』とかやったんだろうな。この王子はアホだな。


「じゃあ、その件は後回しでいい。今の制圧状況は?」

『王城内の九十二パーセントを制圧完了』

「よし、ブルー隊も城内制圧に投入だ。完全制圧を急げ」

『了解』


 護衛に引き連れてきたブルー隊も投入し制圧を急がせた。


 パープル3は頭部を切断され戦闘不能ではあったが、歩かせるぐらいは可能だ。

 パープル3に切断された頭部を回収させ、一緒に謁見の間まで戻った。


 戦力外となったパープル3には床に横たわる者達の監視を命じておいた。

 切られた首を腕に抱えて広間を巡回する首なしの騎士。その姿はまるで伝説のデュラハンだ。


 あいつ何だかカッコいいな。不死の騎士デュラハン。今度、損傷機を集めてデュラハン隊でも編成してみるか。姿を見せるだけで敵が逃げまどいそうだ。


 ケルビムから連絡が入った。


『マスター。王城内の制圧が完了しました。城内にて三百九十六名を拘束。こちらの損害はパープル3のみです』


 俺は呼吸を整える、気分を落ち着かせてからケルビムに質問を投げた。

 制圧作戦中には決して聞かないようにしていた質問だ。


「死傷者の数は?」

『負傷者七名、死者ゼロ』

「確かか?」

『負傷者は全てバトルロイドとの戦闘によるものです。手加減しましたので怪我はさせても殺してはいません』


 バトルロイドには俺の命令がない限り、人を殺すなと厳命してある。

 殺す以外に無力化出来そうもない場合は、ただちに撤退せよと指示を出してある。

 俺が心配していたのはそこではない。


「四つの城門には衛兵が何人もいたはずだ。あそこはサラマンダーで砲撃したんだぞ。一人も死者は出なかったのか?」

『なるべく死者を出すなとのご要望でしたので、頑張りました』

「頑張りましたって、どう頑張ったの?」

『最初に城門の外側十メートルの位置を出力を絞って砲撃。五秒後にその少し城門寄りを砲撃。更に五秒後にまた城門寄りを砲撃。これを繰り返して砲撃目標を城門に近づけていくと、衛兵は危機を感じて城に逃げ込みます。無人になったところで城門を完全破壊しました』

「ケルビム。お前最高だよ」

『ありがとうございます』


 一国の王の城を制圧しようと言うのだ。どう転んでも死者は出ると覚悟していた。

 それが死者ゼロで終わった。俺は胸を撫でおろした。


 俺はまだ人殺しではない。今はまだ……。


 今回の王城制圧作戦には、俺がこの一年で作り上げた戦力の大半を投入した。

 どこまで隠蔽できるか、後始末が大変そうだ。


 空中フリゲート艦サラマンダーは高高度で、空挺母艦アルバトロスは雲の中に身を隠していた。この両艦は人目に晒してないから問題ない。


 問題はバトルロイドだ。彼らは思いっきり人前に姿を晒している。

 一応プレートアーマーを着た騎士の格好をさせており、兜も被らせてあるから中に人が入っているのかどうかなんて見た目では分からないはずだ。

 まあ人間でないとバレたらゴーレムとでも言って誤魔化すとしよう。


 そろそろ、謁見の間で眠っている者達も目を覚まし始めるだろう。

 この始末をどう付けたらいいのか、これからの事を考えると頭が痛い。


 ああ、本当に何でこんな事になったんだろうか……。


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