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第41話 交渉決裂

 俺は王城の門の前に立ち、城壁の向こうの立派な城を見上げていた。下から見上げる城はとても優美で荘厳で迫力があり、ネズミーランドの城などとは桁違いに雄大だ。


 門の衛兵にアンジェロから渡された書状を見せ用件を伝える。


「レマーンの冒険者タツヤだ。グスタフ王との謁見のために登城した。取り次ぎを頼む」


 衛兵から武器を預かると言われたが、今日は銃を持って来ていないので問題ない。

 この城の衛兵が銃を武器と認識出来るかは疑問だが、取り上げられると後が面倒なので用心して置いてきたのだ。


 門にはあらかじめ迎えが待っていたようで、俺の言葉を聞いて一人の女官が出て来た。


「タツヤ様。お待ちしておりました。ご案内します。こちらへどうぞ」


 俺は女官の後の付いて行き城の中に入った。女官は城内の小さな部屋に俺を案内すると部屋を出て行った。


 ここで王に呼ばれるのを待つのかと思ったら違った。

 役人風の男がやってきて、王との謁見時の決まり事を俺にレクチャーし始めたのだ。

 頭を下げたまま引率係に続いて歩けとか、決められた位置まで進んで片膝をつけとか、王に話し掛けられても直接言葉を返すなとか、なんとかかんとか。


(そんなの全部覚えられるかーーーーー!)


 平民が謁見しない訳だよ。こんな訳の分からんルールを謁見の直前に説明したって分かるか!

 例え間違えても俺の知った事じゃない。こんなの押し付ける方が悪い。


 三十分ほどレクチャーが続き、やっと呼び出しがかかった。

 引率係の後をついて行くと、正面に大きく荘厳な扉のある部屋に辿り着いた。

 大きな扉が音を立てて左右に開けられた。


 謁見の間の中を見て驚いた。想像以上に豪華絢爛な広間だった。

 高い天井に柱が立ち並ぶ巨大な広間に、赤い絨毯が敷かれ正面の王座まで続いている。


(すごいな。これは……)


 正面の王座には二つの椅子が置かれており、一方には豪華な衣装を着て王笏を持った男が鎮座している。

 あれがグスタフ王か。王だけあってなかなか貫禄がある。俺もあんな貫禄が欲しい。


 もう一方の椅子には宝石類をちりばめた豪華なドレスを着た女が座っている。まあ、こっちは王妃だろうな。


 絨毯の両脇には貴族達がずらりと整列している。三十から四十人はいるようだ。

 更に広間の壁際には、煌びやかな鎧に身を固めた警護の兵士たちが二十人以上並んでいる。


 謁見ってこんな大勢の前でするものだったのか? 予想していたより人数が多い。


「頭を下げて」


 引率係が慌てて俺に注意する。俺は頭を下げて謁見の間に足を踏み入れた。

 頭を下げたまま絨毯の上を進み、王の少し手前で片膝を付いた。

 王が言葉を発した。


「そなたがタツヤか。面を上げるがよい」


 確か言葉通り受け取るなと言われたな。王の隣に立っていた男が俺に言う。


「王のお言葉だ。面を上げるがよい」


 今度は大丈夫のはずだ。俺は顔を上げた。


「ほう。黒眼に黒髪。そなたユークの者か?」


 思わず返事をしそうになってぐっと堪えた。まだ返事は駄目のはずだ。


「よい。直答を許す。平民に貴族の作法は求めん」


 俺は王の隣の男に視線を向けた。男は俺に頷きながら言った。


「王にお答えするがよい」


 やっと面倒なやり取りが終わったぞ。


「国王陛下。私は記憶を失ってこの国にやって来た者です。俗に放浪者と呼ばれる者です。ですので故郷の記憶も無く、どこの出身かは自分でも分かりかねます」

「ほう、放浪者とな。実際にそんな者がいるのか。まあ良い」


 あっさり流しやがった。まあ俺の自出などどうでもいい事ではあるな。


「そなた、かの伝説の浮遊石を所持しているというのは本当か?」

「誠に御座います」


 俺の両脇に居並ぶ貴族たちからどよめきが起こった。彼らは謁見の場に並んでいるのに、どんな話がされるのか事前に聞かされてないのだろうか? 王城のしきたりは俺には良く分からん。


「その浮遊石を見せてみよ」

「申し訳ありません。本日は石を持参しておりません。大変貴重な品ですので持ち歩くのは危険と思い、とある場所で厳重に保管しております」

「すぐにその浮遊石をここに持ってまいれ。不安であれば護衛を付けよう。本物であれば報償は思いのままだぞ」


 あれ? 浮遊石を譲る前提で話が進んでないか?

 俺に浮遊石を手放す気などないと騎士団長から話が行ってるはずだが、とぼけて話を進める気だろうか?


「恐れながら国王陛下に申し上げます。浮遊石は私にとって大切な品。他の方にお譲りするつもりは御座いません」

「何だと。では対価に何を望む? 報償が気に入らねば、貴族に取り立ててやっても良い。何ならこの城の宝物庫から何か選んで下賜しても良いぞ」

「重ねてお願い申し上げます。浮遊石は我が家に代々伝わる家宝。たとえ国王陛下のお言葉でも手放す訳にはまいりません。平にご容赦願います」


 俺は片膝付いて下げていた頭を更に低く下げた。頭を下げ過ぎてちょっと身体が痛い。


「王の命でも聞けんと言うか?」

「平にご容赦の程を」


 俺は更に頭を下げようとしたがもう体勢的に限界だ。まだ足りんと言うなら俺の華麗なる土下座を披露してやろうか。


「タツヤとやら。そなたが浮遊石を手放したくないと言うのは分かった。だが、浮遊石は個人で独占して良い物ではない。国が所持して活用すべき物だ。我が国が浮遊石を所持すれば、軍事、外交、貿易、その他あらゆる面で、諸外国に対し有利な立場に立てる。だが、万一これが他国に持ち去られれば、我が王国への脅威となろう」


 うーん。言ってる事は確かに正しい。

 俺はその浮遊石のおかげで優位な立場に立ってるからな……。


「この件に関しては、儂も引く訳にはいかぬ。どうあっても浮遊石は譲ってもらわねばならん。タツヤよ。浮遊石の対価はそなたの望みの物を与えよう。すぐに浮遊石を持ってまいれ」


 残念だけど、俺だって引く訳にはいかない。


「陛下。申し訳ありません。どんな対価を示されようと浮遊石を手放す事は出来ません。ただ、他国へこれを渡す事だけは絶対にしないとお約束致しますので、どうかご容赦の程を」


 王が立ち上がった。


「アンジェロ!」

「はっ。ここに」


 赤い絨毯の脇に並ぶ貴族たちの後ろから、アンジェロが現れた。

 アンジェロは俺の隣で片膝を付いて頭を下げる。


(アンジェロ、いたのか?)


 まあ、梟だか飛燕騎士団だかが浮遊石探索の任に当たってたのだから、アンジェロがこの場にいるのは当然か。


「この者から浮遊石のありかを聞き出し、儂の前に持ってまいれ」


 アンジェロの顔が真っ青だ。


「陛下。この者は浮遊石を仲間に託しております。無理に浮遊石の在りかを聞き刺そうとすれば、仲間が浮遊石を持って姿を消すと思われます。浮遊石はあくまでこの者との交渉にて入手されるべきかと存じます。時間を掛けて妥協点を見つけるのが宜しいかと」


 アンジェロも王を諫めるのに必死だ。

 俺を怒らせればどうなるか知ってるからな。


「この者は儂の頼みを拒否し浮遊石を手放さぬと言っておる。許せぬ。その者を投獄せよ。罪状は王に対する不敬罪だ」

「陛下!!」

「どうしても浮遊石のありかを明かさぬなら公開処刑に処せ。その者の仲間が浮遊石を持って助命に来るかもしれぬ」


 交渉決裂だな。もうこれ以上茶番には付き合っていられない。

 俺は立ち上がってズボンの埃をパンパンと払った。


 王の隣に立っていた男が、声を張り上げた。


「無礼者! 王の御前だ。控えよ!」

「無礼者? 不敬罪で俺を処刑するんだろ。そんな相手に礼を求めるのか? 意味が分からん」

「衛兵! ただちにこの者を捕えよ!」


 壁際で警備をしていた兵士が一斉に俺の周囲を取り囲み槍を突きつけた。

 俺は隣にいるアンジェロに言った。


「『言う事を聞かなければ殺してしまえ』か。梟も王も言う事は同じだな」

「待て! 儂が王を説得する。少しだけ時間をくれ」

「アンジェロ。俺は約束通り礼を尽くし頭を下げて王に対応したぞ……。まあいい。最後のチャンスだ。説得を頼む」


 アンジェロが王の前に膝を付いた。


「国王陛下! お怒りはごもっともですが、浮遊石はこのアンジェロが必ず手に入れて王の前に持参いたします。どうかこの場はこのアンジェロに免じて…」

「ならん!!」


 王がアンジェロの言葉を遮った。


「騎士団長。お前に浮遊石を手に入れろと命を下してはや一年。やっと見つけた思えば、この者は浮遊石を渡さぬの一点張り。いったいどういう事だ。アンジェロ、お前には失望したぞ!」


 王はアンジェロに王笏を突きつけた。


「アンジェロ。お前の飛燕騎士団長の任を解く。別命あるまで自邸にて謹慎しておれ」


 アンジェロが強張った顔でうなだれる。

 失意の理由は騎士団長を解任されたからか、それともこれから起きる惨事を予想したからか。

 俺はアンジェロの肩に手を置いた。


「アンジェロ。ご苦労さん。あんたは良くやったよ」


 俺は王を見据えて言った。


「王ともあろう者が平民の所有物を取り上げようとして、思うようにならなければ処刑とは。自分のやってる事が恥ずかしくないのか?」

「衛兵! さっさとこやつを連れて行け!」

「グスタフ王。最後にもう一度だけ頼む。浮遊石の事は諦めて俺を解放してくれないか?」

「黙れ!」


 即答だった。


 俺は周囲を取り囲む衛兵たちを見回し、もう一度王に視線を投げた。


「そうか。では戦争だ」


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