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第39話 王都再び

「出ろ!」


 俺は牢から出されて、自警団詰所の外に引き出された。

 そこには揃いの鎧に身を固めて騎乗した十人ほどの騎士達と、囚人護送用の馬車が並んでいた。

 どうやら彼らが俺の護送を担当する黒竜騎士団のようだ。


 飛燕騎士団の鎧は軽鎧で、騎士団という雰囲気があまりなかったが、黒竜騎士団の鎧は実戦向けのプレートアーマーだ。十人も並んでいるとなかなか壮観な眺めだ。


「カッコいいな!」


 思わず出た言葉に、俺の横にいた騎士が応じた。


「お主、なかなか見どころのある奴だな」

「こういう装飾の少ないシンプルな実戦向けの武具ってのは、機能美というか見てて飽きない魅力があって、ロマンを感じるんだよね」

「がっはっは。この鎧の美しさが分かるとは只者ではないな。気に入った!」


 近くでやり取りを聞いていた騎士が口を挟んだ。


「ベルナール隊長、護送対象とあまり親しく話をしないで下さいよ」

「なあエミール。王都までは長いんだ。話をするなというのは無理だろ」

「何言ってるんですか。脱走の前科ありの要注意人物と念押しされてるでしょ。気を許せば逃げ出す隙を作る事になりますよ。飛燕騎士団が俺達に頭を下げてまで頼んで来たんですよ。これで逃がしたら言い訳できませんよ」

「分かった分かった。気を付ける事にしよう」


 これはダメ隊長とその下で苦労する有能部下というやつかな?

 最強の騎士団と聞いてたから、もっと頑強な男たちの集団と思ってたけど、そうでもないようだ。


 隊長のベルナールは俺を馬車に乗せると言った。


「よし、冒険者タツヤ。これよりお主を王都まで護送する。逃げようなどとは考えん事だ。もし少しでもおかしな動きを見せれた、身動き出来んように拘束して王都まで連行する事になる。お互い嫌な思いはしたくないだろ」

「はいはい、分かってるよ。大人しくしてるよ」

「よし、出発だ」


 逃げ出すつもりは更々無いのだが、彼らは一体何を警戒してこんな強固な護送態勢を敷いているのだろうか?


 前みたいに空を飛んで逃げるのを警戒してるのであれば、馬車に閉じ込めて外に出さなければいいはずで、最弱とはいえ飛燕騎士団で十分護送は可能だ。


 何者かが俺の奪還に来ると思ってるのだろうか? それなら最強騎士団に支援を求めるのは確かに意味はあるが、実のところ俺はこの世界に知り合い少ないから、誰も助けに来てくれないんだよな。悲しい……。


 俺を護送する騎馬と馬車の一団は、順調に王都に向かって進んでいる。

 だが、護送される俺にとっては王都までの旅は苦行でしかなかった。

 何もすることが無く退屈だし、馬車に揺られて尻が痛いし、出される食事は不味いし。


 途中、魔物の群れに襲われた事が一回だけあった。十数匹のレッドウルフの群れだったが、さすが王国最強を誇る黒竜騎士団だ。隊列を止める事も無く、先頭にいた四騎がレッドウルフの方に駆けて行くと、瞬く間に一匹残らず蹴散らしてしまった。


 ダメ隊長が率いているとしても彼らの戦闘能力は本物だ。彼らの真価はこんな護送などではなく、戦場でこそ発揮されるものなのだろう。甘くみていると痛い目に合いそうだ。肝に銘じておこう。



 ◇◇◇



 二日後、黒竜騎士団の護送隊は王都ライランドに到着した。


 俺を乗せた馬車はどこかの敷地に入って止まった。騎士が馬車から俺を降ろす。


「さあ出ろ」


 俺は腰をさすりながら馬車を降り、周囲を見渡した。

 壁に囲まれた大きな敷地に大きな建物が何棟か建っている。馬小屋や広場も見える。


「ここはどこだ?」

「飛燕騎士団の駐屯地だよ」


 振り返るとモーリスが立っていた。


「あれ? 何で? お前、俺達と一緒にいなかったよな?」


 フォラントの街を出てからは、護送隊の中に姿を見掛けなかったので、てっきりフォラントに残ったものと思っていたのだ。


「俺は一足先に王都に戻ってたんだよ。いろいろ準備が必要なんでね」

「で、俺はこれからどうなるんだ? 拷問に掛けるのか? また飢えさせるつもりか? 全く野蛮な連中だね」

「もうそんな事はせんよ。騎士団長のアンジェロ卿が君と話をしたいそうだ」

「騎士団長ね。大物の登場だな。会ってやろうじゃないか」


 騎士団長が会うというので、それなりの部屋に通されると思っていたら、地下牢に放り込まれた。


 牢の中で不貞腐れていると、しばらくして牢の鉄格子の外に三人の男女が現れた。

 一人は老齢と言っていい年齢の男。一人は二十代くらいの痩せた女。最後の一人はモーリスだ。

 老齢の男はしばらく俺をジロジロ見ていたが、おもむろに口を開いた。


「貴公がタツヤか。やっと会う事が出来たな。儂が飛燕騎士団団長のアンジェロじゃ」

「名乗る必要は無さそうだけど、一応名乗っておこうか。俺はタツヤ。それほど熱心に活動してないけど一応冒険者をやってる。本当の所は無職で今後は魔道具商でもしようかと思ってるところだ」

「ほほう。貴公の情報には一通り目を通しているが、魔道具の商売の話は初耳じゃよ」

「店を開いたら買いに来てくれ。お得意様価格として定価の五割増しで売ってやるよ」

「はっはつは。気が向いたら買いに行くと進ぜよう」


 アンジェロは牢番に椅子を持って来させ、牢の前に椅子を置きそこに座った。


「すまんな。歳のせいで腰が疲れやすくてな。さてと、挨拶も済んだことじゃし、早速だが本題に移ろうかの」

「一度ならず二度までも、無辜の一般人を捕まえて牢に閉じ込めた件についての謝罪なら、許す許さんは別にして聞くだけは聞いてやるぞ」


 アンジェロは面白そうな顔をして言った。


「貴公が無辜の一般人であれば謝罪も吝かではないが、浮遊石を隠し持っているとなれは、無辜の一般人とは言えんな」

「もし俺が浮遊石を持ってたとしても、それは俺の物であってあんた達にとやかく言われる筋合いの物じゃない。欲しいならまずは売ってくれと交渉すべきだろ。手配書を回して捕縛とはどういう事だ?」


 アンジェロが厳しい表情で言った。


「一年前、王に浮遊石の存在をお伝えしたところ、いかなる代償を払っても浮遊石を入手せよと我らに命が下った。浮遊石は個人が持ってていいものではない。浮遊石が伝説通りの代物なら、それは国家が管理すべき代物じゃ。貴公が浮遊石を渡してくれるなら、報償は思いのままじゃ。望むなら貴公を貴族に叙する事も可能じゃぞ。儂が頭を下げて済むのなら、これまでの事は真摯に詫びよう。これで浮遊石を譲ってもらえんじゃろうか?」


 アンジェロが俺に頭を下げた。椅子に座ったままなのであまり真剣に謝られている気がしないが、隣で立っている二人が驚愕の表情でアンジェロを見た事から、彼の謝罪が極めて異例の事であると見てとれる。


「断る。あんた達には何度もひどい目にあわされて、最後には殺されそうになった。頭を下げたくらいで水に流せると思うな。それにその事が無かったとしても浮遊石は渡せん。あれは俺の物だ」


 アンジェロが頭を上げて、深くため息を付いた。


「はあ。儂も歳なんで出来れば楽に済ませたかったんじゃがな……。では儂ら『梟』の本来のやり方で行こうか。モーリス、ベルタ、この男から浮遊石の在りかを引き出せ」

「「はっ!」」


 ベルタと呼ばれた痩せた女とモーリスが同時に返事を返す。

 モーリスが俺の前に立った。


「冒険者タツヤ、君に問う。君は浮遊石を持っているな?」

「ああ、持ってるぞ」


 モーリスがベルタを横目で見た。ベルタが軽く頷いた。


「浮遊石はどこにある? フォラントか?」

「ああ、フォラントのとある場所に隠してある」


 ベルタが首を左右に振る。


「浮遊石は王都にあるのか?」

「王都にはない。フォラントだと言ってるだろ」


 ベルタが首をかしげている。それを見てモーリスが質問を繰り返した。


「王都にあるのか?」

「何度もしつこいな。王都にはないよ」


 ベルタが首を左右に振った。それを見てモーリスが驚いている。


「石は王都にあるのか! 既に王都に持ち込まれていたのか? それとも君と一緒に王都に持ち込んだ所持品の中に隠してあるのか?」


 どうもこのベルタって女は相手の嘘を見破れるようだ。たぶん嘘発見器みたいなスキルの持ち主だろう。

 相手の考えてる事をそのまま読み取れるなんてスキルではないはずだ。

 そんな事が出来るなら、最初から黙って俺の頭の中を覗き込めばいい。


 今までの質問の仕方を見ると『はい』か『いいえ』で答えるような単純な質問を投げ掛けて、その答えに嘘があるかどうかを見抜くスキルだろうな。


 だとすればベルタの能力に対抗するのは難しくない。


 心の中で念仏でも唱えて相手の質問など聞き流してしまえばいい。質問をまともに聞かなければ嘘の付きようがない。

 黙秘を貫くのもいいし、質問と全く関係ない答えをするのもいいかもしれない。

 他にも対抗策をいくつか思いついたが、今回はどの対抗策も不採用だ。


 もしベルタの嘘発見スキルが俺に通用しないとなれば、別の尋問用スキルを持った者と交代するだけだろう。その全てのスキルに対抗出来るとは限らない。


 俺はベルタを睨みつけて低い声で言った。


「ベルタ。これは警告だ。これ以上お前のスキルを使うな。今度使ったら後悔する破目になるぞ」


 ベルタは俺の脅しに驚きモーリスを見た。


「ハッタリに惑わされるな。続けるぞ。タツヤ、浮遊石は君の所持品に隠してあるのか?」

「そんな所にはないよ」


 ベルタが軽く頷いた。


(スキルを使ったな。警告はしたぞ)


 この一年で俺の魔力操作のスキルはMAXレベルまで上がっている。

 このスキルのおかげか、俺は一目で他人の体内の魔力量が把握できるようになっていた。

 ベルタは魔術師ではないようだが体内の魔力量が多く、その魔力は俺の意のままに操作が可能だ。


(それっ!)


 俺はベルタの体内の魔力を全部吸い取ってやった。


 ベルタが一歩二歩と前によろめき、床にバタリと倒れ込んだ。

 急激な魔力の喪失で、重度の魔力切れの症状を起こしたのだ。


 モーリスとアンジェロが倒れたベルタに駆け寄った。

 モーリスがベルタを仰向けに寝かす。彼女は口から泡を吹いて痙攣している。

 アンジェロが牢の外に向かって大声を張り上げた。


「誰か! 軍医を呼べ! ベルタが倒れた」


 アンジェロが俺を鋭い視線で睨みつける。


「貴様、ベルタに何をした!」

「何も。彼女、貧血じゃないのか? その身体ちょっと痩せすぎだぞ。ちゃんと食事取ってないんじゃないかな? アンジェロ、上官なら部下の体調管理も仕事の内だぞ」


 アンジェロが鬼のような顔で俺を睨んでいる。

 外が騒がしくなった。ばたばたと足音がして小太りの軍医らしき男が地下牢に駆けこんで来た。


「通してください」


 軍医は倒れているベルタの横に膝を付き、彼女の身体に手をかざした。

 どうやら回復魔法を掛けるつもりのようだ。


(悪く思うな)


 軍医からも魔力を全て吸い取った。


 軍医がバタリと倒れた。ベルタの身体の上に。

 小太りの軍医が痩せたベルタの上に……。

 ベルタ、本当にすまない。


 横で見ていたモーリスは、口をパクパクしているが全く声が出ていない。

 どうやらこの異常事態にパニックに陥っているようだ。


「貴様!」


 アンジェロが腰の剣に手を掛けた。牢には鍵が掛かっていて入ってこれないから、今すぐ切られる事は無さそうだが、実の所、背中に冷汗が流れっ放しだ。


 アンジェロは魔術師ではないため魔力量はほとんど無い。ベルタや軍医のようには倒せない。


 今の俺には銃も無ければ変身ベルトも無い。身を守る物が何も無い状態だ。

 いざとなれば腕輪で助けを呼べるが、地下だと助けが来るまでに数分の時間がかかる。

 その間に問答無用で切りつけられたら終わりだ。


(ちょっと煽り過ぎたか? いや、まだだ。もう一押し必要だ)


 俺はいかにも心配そうな顔をして軍医を見た。


「その人は軍医かい。いつまでも女性の上に乗ってるのは問題だぞ。早くどけてやれよ。それにしても今度は太り過ぎかよ。肥満は大病の元だから気を付けないと。飛燕騎士団は団員の健康管理がなってないな」


 俺はアンジェロを見た。彼は鬼の形相で剣の柄に手を掛けたままだ。

 俺をただ睨むだけで何も言葉を発しない。正直無茶苦茶怖い。


「尋問はどうする? 次のスキル保持者を呼ぶか? まあ、体調不良の人間を何人呼んでも同じことの繰り返しと思うがな」


 顔には笑顔を見せているが、いつ切り殺されるかと心臓がバクバク音を立てている。

 小心者の俺にはこれ以上煽るのは無理だ。


「アンジェロ。その二人、このままだと死ぬぞ。俺に危害を加えないと誓うなら、二人を助けてやる」

「やはり貴様の仕業か! 貴様は殺す!」

「止めておけ。俺を殺すというなら、俺は死ぬ前に王都の人間全員を道連れに殺すぞ。はったりだと思うか? 現にその二人は俺が何もしてないのに倒れて苦しんでるぞ。同じことが王都全域で起こらんと何故言える?」


 俺は顔に出していた薄笑いを引っ込め、キリリとした真面目な顔に切り替えた。


「冷静になれ。俺は話し合いがしたくて王都まで来たんだ。あんた達を殺すつもりならとっくにやってるよ」


 俺は倒れている二人を指さした。


「まだ返事は貰ってないが、このままだと二人とも死にそうだから先に治してやるよ」


 倒れている二人に魔力を最大まで注ぎ込んだ。


「うー、うー」

「ごほっ、ごほっ、ごほっ」


 二人とも意識を取り戻したようだ。


 単なる魔力切れなので放っておいても死にはしないが、他の者に見られると魔力切れが原因で倒れたと見破られる恐れがあった。

 そのため恩着せがましく魔力を戻して、魔力切れの証拠を隠滅したのだ。

 俺がどうやって二人を倒したのか分からなければ、それだけハッタリを利かせやすい。


 まあ、また変なスキル持ちが出てくるとバレる恐れもあるが、しばらくは俺に迂闊に手を出そうとはしないだろう。


「他に軍医がいるなら呼んでやれよ。これ以上倒れる者は出ないよ。俺に敵意を向けない限りは、だけどな」

「貴様、何が目的だ!」

「言ったろ。俺は話し合いに来たんだ。仕切り直しといこう。ここは空気が悪い。続きはもっと空気のいい部屋で頼むよ。あと喉が渇いたからお茶とお菓子もお願いね」


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