表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/170

第37話 戦士達の休息

「あっ、タツヤさん」


 オスカーが森の奥から現れた俺を見つけ声を上げた。

 女魔術師のクロエが心配そうに俺に駆け寄った。


「レベッカはどうなりました?!」

「レベッカとデイヴィッドはちゃんと教会に送り届けた。俺は教会の中には入ってないから、その後の事は分からん」

「本当にフォラントまで行ったのか?」


 重戦士のクロヴィスが疑わしそうな顔で言った。そしてすぐに自分の失態に気が付いた。


「いや、疑ってすまん。助けてもらっておいて言う言葉じゃなかったな。すまん。謝る。この通りだ」

「なに、気にするな。俺だってこんな状況じゃ絶対疑うよ。フォラントの街に戻れば確認できるよ」


 俺が怒ってないとみてクロヴィスは安心した顔になった。

 うーん。ちょっと念押ししておいた方がいいかな。


「だけどこれだけは言っておく。俺がレベッカをフォラントに送った方法については今後一切詮索するな。話題にもするな。こっちも危ない橋を渡ってるんだ。恩を仇で返すような真似はしないでくれ」

「分かった。重ねて謝罪する。一切詮索はしない」


 俺がクロエとテリーを見ると、彼らも同意した。


「分かりました。一切詮索しないとお約束します」

「俺も誓おう。詮索はしない。話題にもしない」

「分かってくれればそれでいい。オスカー達も、この話は他でしないで欲しい」


 俺がオスカーを見ると、オスカーがうんうんと頷いている。


「気にならないと言えば嘘になりますけど、僕らはタツヤさんが困ることはしませんよ。安心して下さい」


 オスカーは大丈夫そうだ。


 だが隣に立つソフィーは俺を見ながら意味ありげに腕輪を撫ぜている。

 あれは口止め料として腕輪を寄越せと言っているのだろうか?

 まあ、最初から腕輪は渡すつもりだったからいいんだけどね……。


「クロヴィスだっけ、あんたはもう身体は大丈夫なのか?」

「ああ、まだ痛みはあるが何とか身体も動くようになってきた」

「テリーはどう?」

「まだ肩は動かせそうにないしかなり痛むが、なんとか歩くぐらいは出来そうだ」

「じゃあ、トロールの素材を剥いで街に帰ろうか。一体分はこっちで貰うけどいいよな?」

「もちろんだ。というか二体とも持って行ってくれ。助けられた俺達にはその権利は無い」

「そんなに持てないから一体分でいいよ。但し魔石だけは二つとも欲しい。いいよな?」

「問題はないが、それで本当にいいのか?」

「ああ、それでいい」


 俺達はトロールから、金になりそうな素材を次々と剥ぎ取っていった。皮膚が厚くて解体に苦労したが、重戦士のクロヴィスの活躍により、何とかやり終えた。


「じゃあ、一緒にフォラントへ戻ろうか」


 フォラントへの帰途、クロヴィスたちから彼らのパーティーの話を聞いた。


 彼らはフォラントの冒険者パーティー「黒獅子」のメンバーで、もともと若手冒険者の間で頭角を現していた戦士デイヴィッドに、重戦士クロヴィスとシーフのテリーが加わり結成したパーティーだそうだ。

 実績を積んで中堅パーティーに成長したところで、槍使いのレベッカと魔術師クロエが加わって今に至っているらしい。

 パーティー名は、いつも黒い鎧を着て暴れ回り「黒獅子」と呼ばれていたデイヴィッドの異名をそのまま使っているそうだ。


 黒獅子か、カッコイイじゃないか。

 流星号のシートで身動きも出来ずに固まっていた男が黒獅子とはね。

 まあ武士の情けだ。その事は内緒にしておいてやろう。


 今日はトロールの討伐依頼を受けてここまで来たが、見つけてみれば相手は二体。

 予想外の強敵で戦闘中にシーフのテリーが肩を負傷し、槍使いのレベッカも全身強打で瀕死の重傷と、窮地に追い込まれたという訳だ。


 敵が事前の情報通りトロール一体だけであれば、それほど手こずる相手じゃなかったはずだ。


「タツヤさん達は何というパーティーなんですか?」


 彼らの話を聞き終わった所で、テリーから逆に俺達の事を聞かれた。

 レベッカをフォラントへ送った方法については詮索するなと強く念押した後なので、かなり慎重に言葉を選んでいるようだ。


「俺の事はタツヤでいいし、そんなに畏まらなくてもいいよ。そっちの方が年上だろ」


 本当は俺は五十のおじさんで、こっちがずっと年上だが、面倒なので人に言うつもりはない。なので、こういう場面では年下として振舞っている。


「俺は冒険者だけどパーティーは組んでない。こっちの三人が『タイスの剣』のオスカー、ノーラ、ソフィーで、俺は彼らの雇い主だよ」


 オスカー、ノーラ、ソフィーの三人が、黒獅子の三人と挨拶を交わしている。


 黒獅子の三人は二十代から三十代。オスカー達三人は全員十六才。

 オスカー達も一年間頑張って来たと思うが、年季の入った黒獅子達の前ではまだまだ子供に見える。


「俺は趣味で魔道具を作ってて、その魔道具のテストをこの三人にしてもらってたんだ。実はトロールを倒したのも魔道具の力だ」


 トロールを倒してからバタバタしていて、質問する機会を失っていたオスカーが、やっとその話題ができると勢い込んで、俺に詰め寄って来た。


「タツヤさん、このベルトは何ですか? 僕、バッタの魔物に変わっちゃったんですけど!」

「だから言ったろ。そいつは君の力を強くする魔道具だって。このベルトを起動させると全身に特殊スーツが装着されて、君は無敵の超人となる」

「確かに強くなってトロールを倒しましたけど、自分の意思とは関係なく勝手に身体が動いてたんですよ!」

「格闘技術のない人でも戦えるよう、自動で戦ってくれる機能も付けてある」


 俺はオスカー肩を掴みその顔を覗き込んだ。


「それよりオスカー。お前、腕輪に力をくれって頼んだだろ」

「ええ、代償を要求されましたけど……。そういえば代償って何だろう?」

「その代償の事だが……、このベルトには問題があってまだ解決策が無いと言ったろ」

「ええ」

「この特殊スーツにオートモードで自動戦闘をさせると、自分の意思とは関係なく体を酷使するから、装着した人間の筋肉に多大なダメージを与えるんだ。今はまだスーツが痛みを抑制して体の動きを補助してるから何も感じないが、このスーツを脱いだとたんに激痛に襲われてのたうち回る事になる。それがベルトを使う代償だ」


 オスカーの目が真ん丸だ。


「俺も初めて使った時は、まる二日ベッドから起きれなかった」

「…………」

「ちなみにその時は下級ポーションを飲んだんだが、全然効果なかった。ひたすら耐えるしかないみたいだ」

「…………」

「街に戻ったら宿でベッドに横になってからスーツを脱がないと大変な事になるぞ」

「…………」

「俺も付き合ってやるから、二、三日、ゆっくり寝て過ごそうや」

「…………」


 オスカーが返事をしてくれない。まあ、いいか。



 ◇◇◇



 フォラントの街に辿り着いた俺達は、クロヴィスにオスカー達の常宿を教えて、彼らと別れた。

 クロヴィス達は教会のレベッカとデイヴィッドの元に向かうそうだ。


 俺達はいったん冒険者ギルドに行きトロールの素材を売却してから、オスカーの常宿に行き四人部屋を確保した。


「オスカー、準備はいいか」

「覚悟はできました」


 俺とオスカーは、宿の部屋でそれぞれのベッドで横になっており、ノーラとソフィーがそれを見ている。


「変身解除!」


 腰のベルトから眩い光が放たれる。眩しくて何も見えない。そして眩い光が消えると、特殊スーツは消えていた。


「ぐおーーーーーーーっ」

「あだだだだだだだだだ」


 俺達二人は、情けない叫び声をあげてベッドの上でのたうち回った。


 一時間後、少しだけ痛みが収まって口が利けるようになってきた。


「オスカー。俺がこいつを非常用だって言った意味が分かったか」

「十分身に沁みました。確かにいざという時の助けにはなりそうですが、何度も使いたくありません」

「いや、普通は自分の力を二倍、三倍に強化してくれるありがたいスーツなんだ。ただ、オートモードが問題なんだよ。オートモードに頼らず戦えるようになれば実に有用な物なんだよ」

「それはそれとして、あのスーツいきなり体に装着されましたけど、いったいどこから出て来たんですか? ベルトの中ですか? 特にバッタのマスク。あんな大きなのどうやったってベルトの中には入らないでしょ」

「……それは内緒だ」




 俺とオスカーはベッドの中で、ろくに身動きもできずに横になっていた。

 ノーラとソフィーが俺達をかいがいしく看護をしてくれている。

 人に看護されるのってとても心安らぐ。


 そういえば一年前も魔物にやられてベッドで寝てたっけ。

 あの時はテレーゼがつきっきりで看病してくれた。本当は過剰な看護にちょっとだけ迷惑を感じてたが、今は彼女の看護がとても懐かしい。俺って身勝手な男だな。


「なあ、オスカー、退屈だな」

「そうですね。こうなふうにずっと寝てるだけなんて、子供の頃に風邪で寝込んだ時以来です」

「そういえば俺も子供の頃、よく風邪引いて寝てた覚えがあるな。風邪引くとお袋が秘蔵の桃の缶詰を食べさせてくれて、ちょっと嬉しかったんだよな。だけど何で桃缶だったんだろうな。みかんでもパインでも良かったはずなのに病気と言えば桃缶が定番だったな。何でだろ? ……ああ、思い出したら無性に桃缶が食べたくなってきた」

「ももかん?」

「あれ? この辺りには桃って無いのかな?」

「知りませんが」


 俺は腕を口元まで持ち上げようとしたが、うまく腕が上がらなかったので、諦めてそのまま声を出した。


「ケルビム。聞こえてるか?」

『はい、マスター。聞こえています』

「桃缶が食べたい。前にいろいろ作った缶詰、まだ残ってたよな?」

『在庫はまだあります』

「六缶ほど持ってきてくれないか」

『少し時間がかかりますよ』

「いいよ。待ってる」

『了解しました』


 通信を切ると、ベッドの横に座っていたソフィーが俺に聞いてきた。


「タツヤさんがよく口にする『ケルビム』って誰なんですか? 最初は腕輪にケルビムって名前を付けてるのかと思ってたんですけど、違いますよね」

「ああ、前に俺が『人里離れた秘境に籠ってた』って言っただろ。ケルビムは秘境にある俺の家の管理人だ。訳あって人前に出られなくてずっと秘境に籠ってて、通信でも姿は見せないんだけどね。ソフィーもケルビムと話をしてみるといい。彼は博識だから何か困った時には相談に乗ってくれるよ」


 ソフィーが自分の腕輪を見つめている。そしておずおずと腕輪に触れて呼びかけた。


「あの、ケルビムさん。聞こえますか?」

『はい、ソフィーさん。私はケルビムと申します。以後、よろしくお願いします。姿を見せられない失礼はお詫びいたします』

「いえ、人にはいろいろ事情があると思いますから、何とも思ってません」

『いつもマスターがご迷惑をお掛けして申し訳ありません。マスターはよく馬鹿な事を言ってきますが、適当にあしらっておけば大丈夫ですから』


 ソフィーが吹き出した。


「タツヤさんと仲が良いんですね」

『とても残念な主人で手を焼いています』


 ソフィーがまた吹き出した。

 今度はオスカーがケルビムに声を掛ける。


「ケルビムさん。僕に『力が欲しいか』って聞いたの、ケルビムさんですよね?」

『その通りです。オスカーさん』

「ありがとうございました。あなたのおかげで僕も黒獅子の人達も命を救われました」

『意外ですね。私はてっきり酷い目に合わされたと非難されると思っていましたが』

「確かに酷い目にあってますけど、あなたのおかげで命を救われた事実に変わりません。ありがとうございました」

『どういたしまして。あなたの助けになれて私も嬉しいです』


 今度はノーラが腕輪に話し掛ける。


「ケルビムさん。私はノーラ。よろしくね」

『はい、ノーラさん。以後よろしくお願いします。ノーラさんに一ついい事をお教えしましょう。あなたが使っている銃は元々護身用の銃で、魔物相手の武器としては少々力不足です。現に今回のトロール戦では全く役立たずでした。マスターにうまくねだれば、もっと高威力であなたに合った銃を作ってくれると思いますよ』

「本当?!」

『そこはマスターとの交渉次第です。幸運を祈ります』


 ノーラがこちらを振り向いた。彼女の瞳が妖しく光っている。


「おい、ケルビム! 何を勝手な事言ってんだよ!」

『マスター。あの銃は『リボルバーは男の浪漫だ!』という、マスターのくだらないこだわりで作られた魔法銃ですよ。ギミックに凝った割に威力は控えめです。小柄なノーラさんには威力を高めた小型軽量のオートマチック銃が最適と思われます』

「そういう事を本人のいる前で言うなよ! 見ろ! もうその気になってるだろ!」


 俺のベッドの横でノーラが不気味な笑顔で俺を見下ろしている。身動きが出来ず生殺与奪の権を握られたこの俺に、拒否など出来ようか。


「分かった分かった。前向きに考えておくよ。だけどすぐには無理だぞ」

「やった! タツヤさん、ケルビムさん、ありがとう!」


 ノーラが部屋中を跳ね回っている。元気な娘だ。


「コン、コン」


 部屋の扉がノックされた。


「ソフィー、開けてやってくれ。頼んだ荷物が届いたみたいだ」


 ソフィーが部屋の扉を開けると、そこには一人の女性が立っていた。

 華麗な青いドレスを着て、頭には華やかな羽根飾りの帽子をかぶっている。

 顔にはベールが掛けられ、その表情を窺うことは出来ない。

 ベールの奥から澄んだ美声が響く。


「失礼いたします。ご注文の品をお持ちしました」


 彼女は一礼すると部屋に入り、テーブルの上に持参したバスケットを置いた。

 俺はドレスの女性に声を掛けた。


「アリス、ご苦労さん。ずいぶん早かったな」

「はい、流星号に街の中まで送ってもらいましたから」

「街の中? 人に見られなかったか」

「そこは抜かりありません」

「帰る前に缶の開け方をソフィーに教えてやってくれ」

「かしこまりました」


 アリスはソフィーに桃缶の開け方を伝授し、四つの器に桃を分け入れると、一礼して部屋を出ていった。


「さあ、桃を食べよう。床に臥せってる時に食べる桃って、何故かすごく美味いんだ。ソフィー、悪いが食べさせてくれないか」


 そんな俺の要望をあっさり無視して、ノーラとソフィーが俺ににじり寄る。


「タツヤさん。今の誰? タツヤさんの恋人?」

「あの方、貴族のご令嬢ですか? 顔は見えなかったですけど、すごく気品溢れててスタイルも良かったですよね。顔を隠してるのは高貴な方だからですか?」

「恋人ではないな。家政婦というか、秘書というか、まあそんな感じだ」


 ノーラとソフィーがきゃあきゃあ言ってる横で、オスカーがボーっとしている。

 どうやらアリスのベールがめくれた拍子に、一瞬だけ顔が見えたようだ。

 オスカーが呟いた。


「女神様……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ