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第34話 実地テスト

 僕は左手首にはめた腕輪に向かって呼びかけた。


「こちらオスカー。みんな、配置についた?」

『ノーラ、配置についたよ』

『ソフィー、配置に付きました』


「よし、再度確認する。カウント後にソフィーがファイヤーボール二連発。その後、僕が突っ込む。ノーラは後方から僕の援護。いいね」

『ノーラ、了解』

『ソフィー、了解』


「カウント、3……、2……、1……、行けっ!!」


 巣穴の前でたむろしていた七、八匹のゴブリンの群れに、ソフィーがファイヤーボールを打ち込んだ。

 ファイヤーボールの着弾により、ゴブリン達が轟音と共に吹き飛んだ。

 続けてもう一発のファイヤーボールが撃ち込まれる。またもや猛烈な爆発が起きた。

 たった二発のファイヤーボールで巣穴の前のゴブリンはほぼ無力化された。

 ものすごい威力だ。以前のファイヤーボールとは桁違いだ。


 僕は隠れていた茂みから飛び出し、爆炎に耐えて立ち上がったゴブリンを切り伏せた。


「グギャーーー」


 別のゴブリンが這いずりながら、逃走を図ろうとしている。


「カン、カン、カン」


 軽い銃声が三回聞こえた。這いずっていたゴブリンの頭と体に三つの穴が開き、血が吹き出している。

 巣穴の前に居たゴブリンは全て倒した。


「ソフィー、ここの守りを頼む。ノーラ、突入できそう?」

『こちらノーラ。すぐにそっちに行くよ』


 外からのゴブリンの増援に備えソフィーを巣穴前に配置し、僕とノーラで巣穴に突入だ。後は巣穴の中に隠れているゴブリンを排除すれば、今回の依頼は完了だ。


 巣穴の中にゴブリンしかいないと分かっていれば、ソフィーのファイヤーボールを巣穴に放り込んで終わりなのだが、ゴブリンは巣穴に人間を連れ込んでいる事がよくあるため、無差別な攻撃は出来ない。


 ノーラが銃を構えながら僕の所に走ってきた。

 僕は巣穴に入り、首から下げた魔道具に手をかざした。強烈な光が巣穴の中を照らし出した。


「この照明の魔道具も、小さいのにすごく明るくて便利だね」

「ほんとだね。これも貰えないかな?」


 ノーラは何でも貰いたがるな。気持ちはわかるけど、何でもかんでもねだるのはちょっとね。


 巣穴の奥で何かが動いた。ゴブリンだ。


「カン、カン、カン」


 僕が剣を構えるより早く、ノーラの銃が敵を捕らえた。ゴブリンの胸に三つの穴が開き、どすんと倒れた。


「狭い場所だと剣より使いやすそうだね」

「うん。もう最高だよ」


 その後も隠れていたゴブリンを順に倒していったが、僕の出番は無く全てノーラの獲物となった。

 巣穴の奥まで辿り着いたが、連れ込まれた人はいなかった。


「捕まった人がいなくて良かったね」

「ああ、本当にそう思うよ。しかし今日は早く終わったな」


 腕輪に向かって声を掛ける。


「こちらオスカー。巣穴の制圧は完了。ソフィー、そっちはどう?」

『こちらソフィー。問題なし。増援の気配はありません』

「了解。討伐証明部位を集めながら戻る」

『了解』


 腕輪の赤い石に指を当て通話を切る。この腕輪の使い方にもだんだん慣れて来た。これ、返したくないな……。


 巣穴から出ると、ソフィーとタツヤさんが待っていた。

 タツヤさんは今回、僕達の受けたゴブリン討伐依頼に関してはノータッチで、緊急時以外は黙って見ているだけだ。


「ご苦労さん。腕輪の調子はどう?」

「こんなに便利な道具、見た事ないですよ」

「そう言って貰えると嬉しいんだけど、テストだから使いにくいとか、使い物にならないとか、その指摘が欲しいんだが」

「便利すぎて、欠点が見つかりません」

「まあ、もう少し続けて使わないと分からないか。ノーラ、銃をこっちに」


 タツヤさんは、ノーラから銃を受け取ると仔細にチェックし始めた。


「特に壊れた所は無さそうだな。カートリッジにも問題はない」


 銃を返しながら、ノーラに質問をしている。


「どこか気になる所とか、使いにくい所はなかった?」

「うーんと、あたしの手が小さいせいかもしれないけど、しっかり握りにくいような気が……」


 タツヤさんが、自分のおでこに手を当てた。


「しまった! そりゃそうだ。この銃は俺用に作ってあるから、握りの大きさが合わないのは当然だ。すまん。真っ先に気付くべき事だった。これは早急に対処するよ。他には?」

「シリンダーを回してカートリッジを選ぶんだけど、今選択中のカートリッジが何か分からないの。何か確認する方法はないの?」

「やっぱりそうだよな。俺もそこは失敗したと思ってるんだ。カートリッジの種類毎に色を付けて外から色を確認できるようにするか……。対策は考えておくよ。他にはない?」

「今はそれだけかな」


 タツヤさんはノーラの言ったことをメモに記録している。


「タツヤさん。この照明なんですけど」

「ああ、それはどうだった」

「小さくて明るいのはいいんですけど、首から下げてると剣を構えた時に正面に影が出来ます。もっと別の位置に移せませんか?」

「そうだな。元々戦闘を想定したライトじゃないからな。肩に乗せるか、頭に付けるか、どっちかだな。いっそヘルメットを作ってライトはヘルメットに固定させるか。いや待て待て、ヘルメットにするならカメラを仕込んで、通話機能も内蔵させるか?」


 後半は何を言ってるのか良く分からなかったけど、何とかしてくれそうだ。

 僕は腰のベルトに手を当てて聞いた。


「僕のベルトまだ一度も使ってませんけど、これってどんな魔道具なんですか?」

「ああ、それね。それは、何だ……。そうそう、緊急時に使う物だから普段は使わないんだ」


 怪しい。タツヤさんはこれを『変身ベルト』って言ってた。緊急時に変身って何だ?


「それで、どんな魔道具なんですか?」

「えっと……、君の力を強くする魔道具だ」

「そんなすごい魔道具、なんで緊急時しか使わせてくれないんですか?」

「ちょっと問題があって、まだ解決策が見つかってないんだよ。問題はあるものの、効果もすごいから緊急用って事で」

「ノーラは銃。ソフィーは魔法の強化。僕には何もなし……、悲しいなあ……」


 あっ、タツヤさんが逃げた。

 ソフィーのようにうまく泣き落としが出来るようになれば、僕にも何かくれるだろうか?




 予定では二日間でゴブリン討伐の依頼をこなすつもりだったけど、順調に進みすぎて初日で片が付いてしまった。

 急いで戻れば街の閉門時間までに帰れそうだが、タツヤさんに却下された。


「野営道具も持ってきたんだ。これのテストも仕事のうちです」


 今回、僕達三人はタツヤさんに背中に背負う収納袋を渡されていた。中にはいろいろな物が入っているが、タツヤさんから詳しい説明はされていない。


 僕達が普段使っている野営道具は今回持ってきていない。タツヤさんに余分な荷物になるから持ってくるなと厳命されてしまったのだ。実の所、かなり不安だ。


 今夜は小さな小川の脇で野営をすることになった。


「よし、各自の収納袋を開いてこの袋を取り出してくれ」


 タツヤさんが、自分の収納袋の中から丸く平たい袋を取り出した。

 僕たちも、自分の収納袋から同じものを取り出す。


「さあ注目。この袋があっという間にテントに変わります」


 タツヤさんが丸い袋に付いている留め具を外して、そのまま上に放り投げた。

 丸い袋がどんどん膨れ上がり、気が付けばそこにテントが立っていた。


「え? え? え? どういう事?」


 あんな小さな袋からこんな大きなテントが出て来るなんて。


「テントの周りにペグが付いてるから、それを地面に差し込んで完成だ」


 タツヤさんがテントを開けて中を見せてくれた。一人なら十分寝られる広さがある。

 何だこれ!!


「理屈は考えずに、とにかく同じようにやってごらん」


 僕も手に持った袋の留め具を外し放り投げた。一瞬で丸い袋が膨れ上がりテントが出来た。

 ソフィーとノーラも自分達のテントを試している。

 あっという間にテントが四つ出来上がった。何だこれ!!


「タツヤさん。これ買います。売ってください!」


 値段も聞かずに思わず言ってしまった。


 野営というのは結構面倒くさい。冒険者用のテントは軽量に作られているが、それでもかなりの大きさと重量で、持ち歩くのに負担となる。おまけに組み立てもなかなか手間が掛かる。

 冒険者の中にはテントの使用を嫌う者も多く、野営と言えば頭から防水布をかぶって眠るだけというのも良く聞く話だ。


 こんなに小さく、軽く、組み立て不要だなんて。これを買わずにいられようか。

 まあ問題は金額なんだが……。


「慌てない。今日持ってきてる道具は、テスト用の試作品だ。まだ売り物じゃない。テストへの貢献次第では、完成品を格安で譲る事も検討するから、しっかりテストしてくれ」


 ああ、タツヤさんと知り合いで良かった。タツヤさんとの再会を神に感謝しよう。

 待てよ、タツヤさんに再会出来たのは、昨日ノーラが寝坊したおかげか。ではノーラにも感謝を捧げるとしよう。


 その後もタツヤさんは、収納袋からいろいろ物を取り出して、僕たちに説明をしていく。

 コンパクトだけど広げると大きくなる寝袋。

 小さく収納できる調理道具一式。

 テントに吊るす魔道ランプ。調理に使える魔道コンロ。魔道虫よけ器。その他諸々。


「タツヤさん。これみんなタツヤさんが考えて作った物ですか?」

「基本は俺の国で使われてた物に手を加えて改良したものだ。中には改良しすぎて全然違う物になってるのもあるけどな。ノーラに渡した銃も、外見は俺の国の銃と同じだけど、中身は全然別物だ」

「この道具、テストなんて必要ないですよ。そのまま売り出すだけで誰もが買っていきますよ」

「うーん。そうかもしれないけど、俺自身が納得してない物を人に使わせたくないんだよ」

「タツヤさんって、職人気質ですね」


 それを聞いてタツヤさんは嬉しそうに笑っていた。



 ノーラが単独で夕食用のマッドボアを仕留めて来た。以前なら一人で倒すなんて考えられなかったのだが、今の彼女には銃がある。

 索敵能力に優れているから魔物をいち早く発見でき、遠方から銃で狙って倒せる。索敵能力と銃。この組み合わせは実に強力だ。


 僕達はマッドボアの料理に取り掛かった。こういう時の料理はいつもソフィーが率先してやっていたのだが、『調理道具のテストは全員で』と言われて、ソフィーの指揮のもと、僕もノーラも調理に参加している。


「オスカー、その肉を小さく切って鍋に入れて下さい。ノーラは魔道コンロで鍋にお湯を沸かしてね」

「この包丁、ものすごくよく切れるよ。素材はなんだろう? 鍋も軽くて薄い金属だ。よくこんなに薄く加工できるよね」

「魔道コンロってすごいね。火も勝手に点くし薪もいらないんだよ。これ欲しいよ。ねえ、ソフィーからタツヤさんに頼んでみてよ。ソフィーならうまくタツヤさんを丸め込めるはずだよ」

「人聞きの悪い事を言わないでください。そんなの私には無理です」


 いや、僕もソフィーが適任だと思う。しかし、料理って楽しいな。三人でやってるからかな? それとも便利な道具がたくさんあるからかな?


 この日の夕食はマッドボアと野菜の煮込みスープと白パンだ。

 野営でこんな手の込んだ料理なんて、今まで一度も作った事がない。


 パンとスープが全員に行き渡り、夕食が始まった。


「うまい! みんな料理上手だな。なんだかこの手作り感がすごくいい。ああ、やっぱりこれこそが料理だよな。ずっと自動調理器から……げふんげふん。あー、いや、何でもない。とにかくうまい。最高だ!」


 良かった。マッドボア料理はタツヤさんのお気に召したようだ。


「だって、これだけ便利な道具を使い放題ですから、いつもよりおいしくて当たり前です」

「後で道具の感想を聞くからよろしく」


 食事が済んでしまえば後は寝るだけだが、交代で見張りをしないといけない。

 今回はタツヤさんも加わってくれるようで、四交代での見張りだ。


 タツヤさんが僕らを呼び寄せ、腕輪の更なる使い方を教えてくれた。

 見張りに付く時に、腕輪にこう言えばいいそうだ。


『二時間半したら教えて。それまでにもし眠ってしまったら起こして』


 交代の時間は教えてくれるし、もし見張りの途中で眠ってしまったら、腕輪が振動して起こしてくれるらしい。


 やっぱりこの腕輪、返したくないな……。


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