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第33話 爆散の魔女

 僕達は街の外にやってきていた。辺りに人がいない荒地で岩がゴロゴロしている。荒地ではあるが木もまばらに立っている。


 タツヤさんは周囲を見渡して、人気が無いのを確かめて満足そうに頷いた。


「いい場所だな。じゃあ、君達に使ってもらう魔道具を渡そう」


 彼は背中から大きな袋を降ろすと、中から三つの腕輪を取り出した。

 銀色の腕輪で表面には見事な意匠の文様が刻まれている。そして中央部には赤と青の二つの石が嵌め込まれている。とても高価な品に見える。


「これを腕に付けてくれ。利き腕とは逆の腕がいいな」


 腕輪はかなり幅の広いタイプで、手首にはめると勝手に縮まりぴったりのサイズになった。


「ちゃんと外せるから心配いらないよ。そのまま待ってて」


 タツヤさんが自分の服の袖を少し引くと、僕達がはめたのと同じ腕輪が出て来た。


「ケルビム、三人のブレスレットの使用者登録を頼む」


 タツヤさんが腕輪に呼びかけると、腕輪が応えた。


『了解。ブレスレット002、使用者オスカー。003、使用者ノーラ。004、使用者ソフィー。登録が完了しました』


「タツヤさん! 腕輪がしゃべった!!」

「ああ、俺の魔道具は会話が出来るんだ。すごいだろ」


 驚きすぎて腰が抜けそうになった。


「よし、三人とも使用者登録を済ませたから、もうその腕輪は君達にしか使えない。他人に貸しても動かないからそのつもりで」

「ところでこの腕輪、何なんですか?」

「それを今から説明する。いろいろ機能はあるんだけど……。まずは腕輪のこの部分を見てごらん」


 彼は僕たちに見えるように自分の腕輪を差し出すと、腕輪の一部を指差した。

 僕は自分の腕輪の同じ部分を見た。何か光る文字が見える。


「数字が表示されてるだろ。それが今の時間だ。今は午後一時三十五分だな」


 すごい! こんな時間が分かる魔道具なんて、いったいどれくらいの価値があるか、見当も付かない。


「時間を知る機能はおまけだ。この腕輪の本当の機能は、腕輪の持ち主同士なら離れた場所にいても会話が出来るという機能だ。実際にやってみようか」


 タツヤさんは歩いて僕達から遠ざかり、少し離れた場所で自分の腕輪に話しかけた。


「オスカーに繋げ」


 すると僕の腕輪がブルブルと震え出し、腕輪の表面に淡い光で『タツヤ』の文字が浮かび上がった。


「うわっ」


 僕が驚いていると、タツヤさんが離れた場所から大きな声で僕に呼びかけた。


「オスカー、大丈夫だ。腕輪の青い石に触れてみろ」


 僕が腕輪の青い石に触ると振動が止まり、同時に腕輪の少し上の空間に、小さな光る板が浮かび上がった。その板にはタツヤさんの顔が映し出されている。


 僕があっけに取られていると、光る板のタツヤさんが僕に呼びかけた。


『オスカー、聞こえるか。聞こえたら君も腕輪に話しかけろ』


 慌てて光る板の中のタツヤさんに返事を返す。


「は、はい。聞こえています」

『こいつがどんな物か分かったか?』

「ええ。もうびっくりです。これってどんなに遠くにいる相手でも会話できるんですか?」

『答えにくい質問だな。そうだな、お互いがアルビナ国内にいれば通話できるよ』

「これ、僕らが持ってていい物じゃないと思うんですけど」

『大丈夫、大丈夫。心配するな。じゃあ今度は通話を切ってみよう。腕輪の赤い石に指を触れてごらん』


 僕が腕輪の赤い石を指で押さえると、空中に映し出されていたタツヤさんの顔が消えた。タツヤさんが僕達のところに戻ってきた。


「だいたいの使い方はこれで分かっただろ。特定の相手を呼び出す時は『オスカーに連絡』とか『ノーラに繋いで』とか、相手を名指しで呼び出すんだ。三人で話をしたい時は『ソフィーとノーラに通信』という感じで話したい相手を複数指定すればいい。とにかく実際に使って慣れろ」


 僕達三人はそれぞれ離れた位置に移動し、腕輪を使った会話の方法を覚えて行った。


 使えば使う程分かる。この腕輪はすごすぎる。とんでもない魔道具だ。僕達が持つには過ぎた品のような気がする。テストが終わって返せと言われたら、このまま持って逃げてしまわないか不安だ。


「ノーラはこっちに来てくれ。お待ちかねの物だ」


 ノーラが目を輝かせてタツヤさんの所に飛んで行った。

 タツヤさんは、革の大きなベルトをノーラに渡した。


「ガンベルトだ。まずはこれを腰に付けて」


 ノーラがベルトを付け終わると、今度は銃を手渡した。


「俺の銃を一つノーラに貸すよ。これを握って」


 ノーラがおっかなびっくりで銃を握る。

 タツヤさんが腕輪の時と同じように、自分の腕輪に話し掛けた。


「ケルビム。リボルバーの使用者にノーラを追加してくれ」

『リボルバー002、使用者ノーラ。登録が完了しました』

「これでよし。この銃はノーラでも使えるようになった」


 タツヤさんはノーラに銃の使い方の説明をしようとしたみたいだが、ノーラが銃を握り締め目を離さないのを見て苦笑した。


「分かった分かった。まずは使ってみようか」


 タツヤさんはノーラを連れて、僕達から少し前に出た。


「ノーラ、こっちに来て。あの岩を的にしよう。まず引き金から指を外せ。撃つとき以外は引き金に指を掛けてはいけない」


 ノーラの背後から肩や腕に手を添えて姿勢を直していく。


「足を広げてここに立って。銃を構えて、……そうじゃない、腕はこう。的と銃の先端の突起とこの窪みが一直線になるように狙うんだ。引き金を引くと、その先端の突起に向けて魔法弾が発射される。じゃあファイヤーバレットからだ。引き金に指を掛けろ。いいぞ、ゆっくり引き金を引け」


 銃を構えたノーラが、緊張した面持ちでゆっくりと引き金を引く。


「パシュッ」


 銃から小さな炎がすごい勢いで飛んでいき岩に当たった。岩の破片と火花が周囲に飛び散る。


「よしいいぞ、ちゃんと当たってる。続けてあと四回撃て」

「パシュッ、パシュッ、パシュッ、パシュッ」


 続けざまに炎の玉が銃から飛び出し岩に当たる。全てほとんど同じ場所に当たったようだ。


「よし、引き金から指を離せ。いいぞ。全弾命中だ。今度はアイスバレットだ。シリンダーを一つ回転させて、アイスバレットのカートリッジを選択するんだ。よし、狙いを定めろ。引き金に指を掛けて。さあ五発撃ち込め」


 ノーラがシリンダーを回してアイスバレットのカートリッジを選択した。そして銃を構えて撃った。


「カン、カン、カン、カン、カン」


 今度は小さな氷が岩に向かって飛んでいき、岩に当たって岩と氷の破片を撒き散らした。


「よし引き金から指を外せ。これも全弾命中だ。今度はエアバレットだ。エアバレットは空気の塊を飛ばすから目に見えないし、あえて威力を抑えてある。なので標的を変えよう。向こうの木の葉っぱを狙え。シリンダーを一つ回してさっきと同じように撃つんだ」


「バン、バン、バン、バン、バン」


 ノーラが撃つ度に大きな音が響き渡り、木の葉が粉砕されて破片が飛び散る。


「よしそこまで。銃を降ろせ」


 ノーラが銃の引き金から指を外し銃を下に向けた。


「どうだ。使ってみた感想は」

「これ欲しい! これ欲しい! 欲しい、欲しい、欲しい!」

「分かった分かった。貸してやるから騒ぐな」

「貸すだけ? 売ってくれないの?」


 タツヤさんが困った顔でノーラを見ている。


「うーん。意地悪するつもりは無いが、今は売る事は考えてない。問題がいろいろあるんだよ」

「どんな?」


「第一に、この銃は高価な素材をふんだんに使ってるんだ。材料費だけでもノーラには買えないほどの金額になる」

「それは……困ったね」


「第二に、この銃にはちょっと大き目の魔石を組み込んである。だいたい三千発撃ったら交換しないといけない。こいつは金食い虫だぞ」

「それも……困ったね」


「第三に、この銃に入っている魔法陣を刻んだカートリッジは消耗品だ。カートリッジ一本でだいたい百発撃てるが、これは俺にしか作れないし、売るとしたらかなり高額になる」

「とっても……困るね」


「第四に、この銃は故障しても俺にしか直せない。だけど俺は修理屋をするつもりは無い。だから故障したら終わりと覚悟してもらう必要がある」

「ますます……困ったね」


「だから、これで商売をするつもりはないんだ。元々銃は剣も魔法も使えない俺専用の護身用の武器として作った物なんだ」


 ノーラが項垂れてしまった。これだけの性能を見せつけられたのに、手に入らないと知って意気消沈している。


 タツヤさんがノーラの頭に手を置いた。


「商売にするつもりは無いけど、ノーラが銃のテストに協力してくれるなら無期限で貸し出すよ。魔石とカートリッジは無償で提供する。その代わり定期的にレポートを出してもらうぞ」

「タツヤさん大好き! でもあたし字が書けない……」

「口頭の報告でもいい事にするよ」


 ノーラが感激して涙ぐんでいる。


 いいなぁ……。うらやましいなぁ……。

 僕は知らない間に物欲しそうな目でノーラを見つめていたようだ。

 タツヤさんが笑って僕を呼んだ。


「オスカーにはこれを渡しておこう」


 タツヤさんが僕に渡したのは幅広の赤いベルトだった。バックルの部分は銀の大きな楕円形の金属で出来ていて、その中に丸い何かがはまっている。


「これってタツヤさんがはめているのと同じベルトですか?」

「ああ、同じものだ」

「今回、このベルトのテストは行わないかもしれないが、念のため三日間は付けたままでいてくれ」

「了解です」


 このベルトにもお決まりの使用者登録をする事になった。


「ケルビム。変身ベルトの使用者をオスカーで登録」

『変身ベルト002、使用者オスカー。登録が完了しました』


(ちょ、ちょ、ちょっと待って! 今何と言いました?)


 『変身ベルト』って聞こえたような気がしたけど……。僕は何に変身させられてしまうのだろうか? 何だかすごく嫌な予感がする……。


 いつの間にか、僕とタツヤさんの隣にソフィーが立っていた。

 何も言わずにじっとタツヤさんを上目遣いで見てる。


「ううっ。そんな目で見ないでくれないか。ソフィーに渡せそうな魔道具って、なかなか無いんだよ」


 ソフィーが俯いて涙をぬぐっている。

 でも僕は知っている。あれはウソ泣きだ。最近のソフィーはああいう小芝居をよくする。もう僕は騙されない。


 だけど、タツヤさんには効果てき面だった。彼はソフィーの肩に手を置き必死でなだめようとした。

 でも、ソフィーがウソ泣きを止めないので、今度は話題を変えようと必死に頑張っている。


「そうだ、ソフィー。最近、魔法の腕は上達したか? 魔力は増えてきたか?」

「一年前よりは上達しましたけど、思った程じゃないです。ファイヤーボールは連続で七、八回出せるようになりました。でもその上の魔法はまだ使えません」

「いやいや、一年でそこまで出来れば上出来じゃないか。久しぶりにソフィーのファイヤーボールが見たいなぁ。あの岩に向かって出してみてよ」


 おだてられてソフィーの機嫌が少し直ったみたいだ。嬉々として前方の岩に手を差し出し、呪文を詠唱している。


「ファイヤーボール!」


 炎の玉が飛んでいき岩に当たって弾け飛んだ。いつ見ても見事だ。最近は短時間で連射できるようになってきて、パーティーの強力な火力として活躍している。


 ソフィーはどうだと言わんばかりの顔でタツヤさんの方を見たが、タツヤさんは眉間にシワを寄せて厳しい顔をしている。その顔をみてソフィーが戸惑っている。


「ソフィー、もう一度やってくれ」


 ソフィーは何か言いかけたが、タツヤさんの真剣な眼差しを見て、言葉を飲み込んだ。そして岩に向かってもう一度魔法を放った。


「ファイヤーボール!」


 今度も炎が岩に飛んでいき弾け飛んだ。

 だが、タツヤさんは飛んでいった炎には目もくれず、ずっとソフィーを見つめていた。


「ソフィー、君の体内の魔力の流れがおかしい。そのせいで魔法の発動に悪影響が出てるみたいだ。今まで誰かにそう指摘された事はないか?」

「え? そんな事言われたのは初めてですけど……」

「俺ならたぶん君の体内の魔力の流れを整える事が出来ると思う。魔力がうまく流れるようになれば、もっと威力のある魔法が簡単に出せるようになる……と思う」


 タツヤさんがソフィーの目を見つめた。


「少し体に負担が掛かるかもしれないが、効果はすぐに出るはずだ。どうだ、俺に任せてみないか?」


 ソフィーはしばらく考え込んでいたが、やがてタツヤさんに軽く頭を下げた。


「タツヤさんを信じます。よろしくお願いします」

「分かった。じゃあ、ここに座って」


 タツヤさんは平らな岩にソフィーを座らせ、背後に回って背中に手を当てた。


「少し体が熱くなるかも知れないが問題はない。どうしても我慢できなくなったり、気分が悪くなったらすぐに言ってくれ」

「分かりました」


 タツヤさんが目を閉じ、背中に当てた手を少しずつ動かしている。

 いったい何をしているのか、僕には分からなかったが、ソフィーの様子が変だ。

 ソフィーは何かに耐えるように手をしっかり握り締めてたが、とても苦しそうな表情になってきた。顔から汗がポタポタと流れ落ち始めた。


 見ていられなくなって、止めに入ろうとした時、タツヤさんがソフィーの背中から手を離した。


「終わったぞ。楽にしてくれ」


 ソフィーの体が前のめりに倒れそうになり、ノーラが慌てて支えている。


「はあ、はあ、はあ、はあ……、何だか、体が軽くなったような気がします」

「よく頑張ったな。これで体内の魔力がスムーズに動かせるようになったはずだ。少し休んだらまたファイヤーボールを使ってごらん」



 三十分後、体を休めて体調が回復したソフィーが、標的の岩に向かって腕を差し出した。


「ファイヤーボール!」


 猛烈な炎が岩に向かって飛んでいく。

 炎が標的の岩に当たった瞬間、岩は轟音を上げて爆散した。

 岩のあった場所にはただ大きなクレーターが残っているだけだった。


 僕とノーラとタツヤさん、そして当の本人のソフィーは、揃って大きな口を開けてその無残な光景を眺めていた。


 後に「爆散の魔女」と恐れられる女魔術師誕生の瞬間だった。


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