第32話 再会
「オスカー、いい依頼あった?」
「うーん、目ぼしい依頼は残って無いね。やっぱり寝坊して出遅れたから、人気の無い依頼しか残ってないよ」
「まあ、たまにはこういう日もあるんじゃないかな? 気にしない気にしない」
「寝坊した人のセリフじゃないわね。ノーラ、ちょっとは反省しなさい!」
ソフィーがノーラの頭を掴み、前後左右に揺すっている。
「きゃー。助けてー。反省してるよー」
ノーラが謝罪のセリフを棒読みしている。全く反省してないようだ。
「その辺で許してやりなよ」
「オスカーはノーラに甘すぎます! もっとビシッと言ってやって下さい」
僕まで怒られた。
僕は冒険者パーティー「タイスの剣」のリーダー、オスカーだ。戦士職をしている。
パーティーの仲間は、魔術師のソフィーとシーフのノーラ。
仮メンバーを加入させた事はあったが、基本はずっとこの三人でパーティーを組んでいる。
僕らが冒険者になって早いものでちょうど一年経った。この一年で僕らはDランクに昇進していた。もう名実共にルーキーは卒業だ。
僕達が冒険者となったレマーンの街は、比較的魔物が少ない地域で、腕に自信のあるパーティーは、魔物が多くてより稼げる地域に移っていくのが普通だ。
御多分に漏れず、僕たちも一ヵ月程前にレマーンの街から、ここフォラントの街に拠点を移したばかりだ。
そしてここはフォラントの街の冒険者ギルド。
何度起こしても眠気まなこのノーラのおかげで、朝一番の優良依頼争奪戦で不戦敗を喫してしまった。
まあ食べていくには、気の進まない依頼を受けないといけない事もある。
今受けれそうな依頼は、ゴブリン討伐かコボルト討伐だ。どちらも労力の割にお金にならない。どうしようか?
僕がどっちにしようかと悩んでいると、背後で何か騒ぎが起きていた。
「おい! お前みたいなガキがこんなとこで何してやがる!」
どこかで聞いた懐かしいフレーズだ。素行の悪い冒険者が新人冒険者をいじめているのだろう。
一年前に僕達が受けた新人いじめの洗礼を思い出した。あの時は何も出来ずにただ怯えていただけだった。そして見かねた新人冒険者に助けてもらった。
「ここは子供の遊び場じゃねえんだ! とっとと家に帰りな!」
またまた懐かしいフレーズだ。冒険者ギルドの規則で、初心者にはこう語り掛けるべし、とルール化されているのだろうか?
あの時はあの人に助けられた。今度は僕が助ける番だ。
僕は後ろを振り返った。僕と同じような歳の少年と少女が、ガラの悪そうなチンピラ冒険者に絡まれていた。男の後ろでは仲間らしき冒険者が二人、ニヤニヤしながら様子を伺っている。
(相手にするとなるとあの三人か。一人ならまだしも、三人となると勝つ見込みはないな。どうしようか……)
僕が躊躇していると、どこからか現れた一人の男が、チンピラ冒険者と少年少女の間に割り込んだ。
奇妙な風体の男だった。首には赤いスカーフを巻き、変わった形の帽子に黒革のベスト、黒い丈夫そうなズボンとブーツを履き、腰には幅広の赤いベルトをはめている。ベルトの左右には剣ではなく、何か金属製の道具を吊るしている。ベルトのバックルは銀の大きな楕円形で、中央には丸いガラスのようなものがはめ込まれている。
とにかく冒険者とは思えない奇妙な格好だ。
「なあ兄さん。初心者冒険者への指導かな? 初心者教育って大変だよな。俺も散々苦労したんだよ。どうだい、一杯奢るから向こうで新人教育について語り合わないか?」
彼が背後に隠した手で二人の男女に『さっさと行け』と合図を送っている。
「おい、てめえ! 関係ねー奴がしゃしゃり出てくるんじゃねえ!」
割り込んだ男にチンピラが殴りかかる。だが男は軽く後ろに下がりパンチを避けると、腰のベルトに差した道具を引き抜き握りしめた。
男が引き抜いたのは、握りの先に金属製の短い筒が付いている奇妙な形の物だった。何かの魔道具だろうか?
彼はその筒の先端をチンピラ冒険者に向けた。
「バン! バン! バン!」
大きな音が三度したと思ったら、チンピラがその場に崩れ落ちた。
「安心しろ。峰打ちだ。死にはせん」
(『みねうち』って何だ? それに気絶してるから聞いてないと思うな……)
彼はチンピラの背後の二人の仲間に向かって言った。
「お前たちもやるかい?」
二人は首を左右にブンブンと振ると、倒れた男を引きずってギルドから外に出て行った。
彼は手にした奇妙な道具をベルトに差し込むと、かばった男女二人に向き直った。
「あ、あ、ありがとうございました」
「いや、気にしなくていいよ」
少年と少女は奇妙な風体の男に礼を言うと、慌てた様子で走り去っていった。
男はその二人の後ろ姿を見送りながら呟いた。
「よっぽど怖かったんだな」
僕は思わず突っ込んだ。
「怖かったのは、タツヤさんの変な格好だと思いますよ」
タツヤさんが僕を見た。
「あれ? オスカーじゃないか。久しぶりだな。何でこんな所に?」
「久しぶりじゃないですよ。急にレマーンからいなくなって心配してたんですよ。誰に聞いても行先は知らないって言うし。今まで何やってたんですか?」
「まあいろいろあってレマーンに居られなくなってな。ノーラとソフィーは一緒じゃないのか?」
「あなたの後ろに立ってますよ」
彼が振り返ると、後ろに立っていたノーラとソフィーが彼に抱きついた。
「黙っていなくなるなんて酷いよ。心配したんだよ」
「一体どこで何やってたんですか?」
タツヤさんが、笑いながらノーラとソフィーの頭を撫でている。いいなあ。僕もちょっと混ざろうかな?
「すまんすまん。ちょっと王都でトラブルに巻き込まれて、王都にもレマーンにも居られなくなったんだ。で、最近まで人里離れた秘境に籠ってたんだけど、人恋しくなって街に降りて来た所だ」
「一度、タツヤさんに会いにクラレンス商会に行ったんですよ。そうしたらすごい剣幕で追い返されたんです」
タツヤさんが驚いた顔をしている。そして済まなそうに言った。
「それは俺のせいだ。俺は人に追われて姿を隠してたから、商会の人が君達を追手だと勘違いして追い返したんだろう。すまない。商会の人は悪くないんだ。俺から謝る。すまなかった」
タツヤさんが僕たちに頭を下げた。
「タツヤさん。その事は全然怒ってませんから大丈夫です。それより、その変な格好は何ですか? それにその腰に下げた変な道具は」
「そうだな。話が長くなりそうだから酒場の方に移動しよう。おっと、先に行っててくれ。少しだけ用事がある」
タツヤさんはギルドの買取カウンターに行くと、買取担当の職員にポケットから取り出した袋を差し出し、何やら話をしている。
しばらくして、タツヤさんが戻って来た。
「お待たせ。ずっと人のいない所で生活してたから、お金が無くってね。今日は魔石を売りにギルドに来たんだ。いい値で売れたから今日はお大尽様だ」
僕達は酒場に席を取り、飲み物を注文した。
「タツヤさんは何でそんな変な格好してるの?」
「なあノーラ、これのどこが変だって言うんだ?」
「全部!」
「このウエスタンスタイルが理解できないとは何と情けない。ソフィーはどう思う?」
「変です!」
「ソフィー、お前もか! オスカー、君ならこのカッコよさが分かるよな?」
僕も変だと思うけど、ここは聞こえなかった事にしよう。
「タツヤさんの腰に下げた道具は何なんですか? その道具を使って冒険者を倒したように見えましたが」
タツヤさんが満面の笑みを浮かべた。
「そうか、オスカーはこれに興味があるのか。さすが男の子。これは俺が作った魔道具で『銃』というものだ」
タツヤさんは左右の腰に差していた銃を取り出し、テーブルの上に置いた。
「銃は魔法が使えない人でも、魔法使い並みに戦えるように俺が作った魔道具だ。でもまだ試作品でこの二つしか無いんだ」
彼は銃を持ち上げて、中から小さな円柱状の金属を取り出しソフィーに渡した。
「ソフィー、この金属の円柱『カートリッジ』って言うんだけど、このカートリッジの先端を見てごらん。何が見える?」
「えっと、ものすごく細い線で何か図形が書かれてますね。これは……、これは魔法陣?」
タツヤさんが嬉しそうに頷く。
「正解だ。銃はこのカートリッジに彫り込まれた魔法陣に魔力を注入して、先端の金属筒から魔法を飛ばす魔道具なんだ。例えばこのファイヤーバレットの魔法陣を彫り込んだカートリッジを、こうして銃のシリンダーにセットして引き金を引けば、この先端から火の弾が飛び出す。銃には魔石を組み込んであるから、魔術師じゃなくても扱える」
「そんな小さな魔法陣で、魔法が発動するんですか?」
「そこはいろいろ工夫してある。今のところ使えるカートリッジは、ファイヤーバレットとアイスバレット、それとさっき使った非殺傷弾のエアバレットの三種類だ。銃には最大六本のカートリッジを入れる事が出来て、シリンダーを回転させて使うカートリッジを選ぶんだ」
ソフィーが怪訝そうな顔をしている。
「その何とかバレットって何ですか? 聞いた事のない魔法ですね」
「ファイヤーバレットはファイヤーボールをこの銃で使いやすいように改良した魔法だ。ファイヤーボールに比べると威力は落ちるが、発射速度と命中精度が各段に上がってる」
「……魔法を……改良? そんな事ができるんですか!?」
「ああ可能だ。まあ、興味があれば時間がある時にじっくり教えてやるよ」
ノーラはタツヤさんが銃をテーブルに置いた時から、ずっと銃を見つめている。
「タツヤさん。その銃っての、あたしでも使えるの?」
「ああ使える。だけどこの二つの銃は俺にしか使えないように細工をしてある。ノーラも使ってみたい?」
「うん、使ってみたい! あたしはずっと剣の鍛錬を続けてきたんだけど、ずっと伸び悩んでるんだ。一度は剣じゃなくて弓を使ってみたんだけど、やっぱり筋力が足りないみたいでうまく使えなかったんだ。でも、その銃なら筋力や魔力が無くても使えるんだよね? 遠くからでも魔物を倒せるんだよね?」
「ノーラでも使えるよ。但し、使いこなすには練習は必要だけどね」
ノーラがテーブルにぶつけるように頭を下げた。
「お願いします。あたしにもその銃を使わせて下さい! いくら出せばいいですか? お金は何とか工面します。お願いします! あたしはこれ以上オスカーやソフィーのお荷物にはなりたくないの!」
僕はそれを聞いてショックを受けた。ノーラが剣の腕前について悩んでいたなんて、全然知らなかったのだ。
確かに戦闘力のみで見れば僕やソフィーとは差が出ているが、彼女はいつも斥候として敵の偵察や攪乱などで役立っている。お荷物などと考えた事は一度もない。
タツヤさんは、ノーラの頭を優しく撫でた。
「分かったから頭を上げて。まずは実際に使ってみてノーラに扱えそうか確認してからだ。この銃はまだ試作品でね、実際に使ってみて改良を加える必要がある。君が実地テストに協力してくれるなら貸してあげるよ」
「ありがとう、タツヤさん!」
「そうなると、ノーラに使えるように設定しないとけないな」
それを聞いたソフィーがタツヤさんに詰め寄った。
「ノーラにばっかりずるいです。私には何か便利な魔道具は無いんですか?」
タツヤさんが不思議そうな顔をしてソフィーを見ている。そして僕に視線を移して訊いた。
「ソフィーって、こんなにずけずけ物を言う娘だったかな?」
「僕達も一年間、冒険者としてやってきたんですから、多少神経も太くなってます」
「そうだよなあ、君達十五、いや、十六だっけ? 伸びる時期だからなあ」
「それで、私には何も無いんですか? タツヤさん」
ソフィーがグイグイとタツヤさんに迫っている。
タツヤさんに言われるまで気付かなかったけど、確かにソフィーってずいぶん図太くなったな。村でいつも泣いてた面影は、もうどこにも無いよ。
「俺は魔法が使えないから、魔術師向けの魔道具は持ってないな」
ソフィーが何か言う前に、僕も聞いてみた。
「じゃあ僕に戦士向けの魔道具は何か無いんですか?」
「オスカー、お前もか!?」
別に何かが欲しかった訳じゃなかったんだけど、僕も会話に加わりたくなって言ってみた。
「魔道具は無い訳ではないんだが……。オスカー、君達今のランクは?」
「三人ともDランクです」
「今日の仕事は?」
「まだ決まってません。依頼を物色してたところです」
「今までに野営するような依頼を受けた事はある?」
「何度もやってます」
タツヤさんが何か考え込んでいる。
「じゃあ、今日から三日間、俺に雇われる気はないか?」
「雇われます!」
「まだ仕事の説明も報酬の話もしてないだろ」
「悪い話のはずはありませんから。で、どんな仕事なんですか?」
「俺の作った魔道具の実地テストだ。最近、魔道具造りに凝ってていろいろ作ってはいるんだが、実際に使い物になるのか今一つ自信が無くてね。だから他の人に使ってもらって感想を聞きたいんだ。報酬は三日間で金貨一枚と銀貨五枚。それと渡しても良さそうな魔道具があったら、テスト終了後にいくつか進呈しよう」
僕一人で仕事を決めてしまったが、ノーラとソフィーを見ると嬉しそうにしていたから、問題は無いのだろう。
「じゃあ、今日は準備の日として、明日から二日間は街の外で野営して魔道具のテストだ。という事で、オスカーは二日間で終われるような依頼を何か受けておいてくれ」
「えっ? 仕事はタツヤさんの手伝いですよね?」
「実地で魔道具がちゃんと使えるかどうかの検証だから、正規の依頼をこなしながら確かめたい。もちろん依頼達成の報酬は君達のものだ。依頼に失敗したら罰金は俺が負担するが、パーティーの評価が下がるのは諦めてくれ。それでいいかな?」
「分かりました」
まあ、余程の事が無ければ依頼失敗は無いだろう。
余程タツヤさんの魔道具がポンコツでなければだが。
「じゃあ俺は少し準備が必要だから昼まで自由にしててくれ。そうだな、お昼にまたここに集合しよう。午後は少し街の外に出るからそのつもりで」
またタツヤさんと一緒に仕事ができる。なんだか楽しくなりそうだ。




