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第28話 騎士達の尋問

「おはよう、よく眠れたかい?」


 俺の前に現れたのは、騎士モーリスだ。手に朝食が乗ったトレイを持っている。


「こんな所で眠れると思ってるのか? 毛布に何か虫がいたみたいで、体中が痒くて堪らん」

「それはすまない事をしたな。まあ君の態度次第では、今日はちゃんとした部屋を用意できると思うよ」

「俺の態度次第では、ずっとここから出さないって事だな」

「そうとも言うな」


 彼は俺にトレイを渡すと言った。


「食事が終わったら尋問を始める。聞かれた事には正直に答えた方がいいぞ。ラザール隊長は俺ほど優しくない。痛い目に合う前に素直になる事だ」

「なあ、お前たち、本当に騎士団の人間なのか? どうもそんな感じがしないんだけどな」


 モーリスは意味ありげにニヤリと笑うと、何も答えずに出て行った。

 俺は渡されたトレイを見つめた。


「何だよ、また堅パンかよ」


 ああ、白い柔らかいパンが食べたい。




 ここは昨日の取調室だ。俺の目の前にはあの暴力騎士のラザールが座っており、扉の前にはモーリスが立っている。


 ラザールは鋭い目つきで俺を睨んでいる。


「さてと、取り調べの前に聞いておきたい事があるんだがね」

「何だい?」

「昨夜、貴様何かしたか?」

「何かって何だよ? 俺を牢の中に放り込んだのはお前達だろうが。何も出来る訳ないだろ。それで、何があったんだ?」


 ラザールはその問いに応えず、目を細めて俺を見ている。

 大方、最大出力で魔力波を飛ばした件だろう。もし魔術師がいたとすれば、かなりの衝撃を受けたはずだ。ざまあみろ。


「まあ、いいだろう。では本題に入ろうか。冒険者タツヤ。貴様は四日前、王都のシモン雑貨店の前で、子供と店主の言い争いを見ていたな?」

「ああ」

「その際、お前は子供の持っていた魔石を、何らかの方法で復活させた。間違いないか?」

「知らん」


 ラザールが俺を殴ろうと腕を振り上げた。

 俺にも学習能力はある。何となくそんな予感がしていたので、体を捻って躱そうとした。だが、いつの間にか俺の背後に立っていたモーリスによって、体をガッシリと固定されており、そのままラザールに殴られた。


 痛っ……くない。俺、なんでこんなに打たれ強いんだろう?

 

「これが騎士のやる事か?」

「これが騎士のやり方だよ」


 ラザールが楽しそうに俺を見ている。どうやら、こういう暴力に慣れてる人間のようだ。


「俺は王城に召喚されただけのはずだ。こんな犯罪者扱いをされる謂れはない」

「君がどんな扱いをされようと、誰も気にする者などおらんよ」


 ラザールは机の上に置いた紙束を捲り、それを読み上げる。


「レマーンの教会でステータス鑑定をしているな。魔法適性なし、魔力なし、そして『魔力操作』のスキルあり」


 こいつら、レマーンでの事まで調べ上げたのか。飛燕騎士団の任務が諜報だとは聞いていたが、こんなに短期間でここまで調べ上げるとは驚くべき諜報能力だ。


「そこまで知ってるなら分かるだろ。確かに魔力操作のスキルはあるが、俺には魔力がない。だから意味の無いスキルだ」

「それは、お前が自分から言った事で、教会のシスターはお前のステータスを確認していない。何か隠してるんじゃないかな?」


 ラザールが部屋の隅に置いてあった箱を机の上に乗せた。そして箱から大きな水晶玉を取り出した。奴の笑顔が更に大きくなる。


「さあ、そこで改めてステータスの鑑定だ。ここに手を置いてくれたまえ」


 どう抵抗しようかと思ったが、また殴られるだけだと思い、素直に水晶玉に手を置いた。


 水晶玉にステータスが浮かび上がる。


  名前  :タツヤ

  種族  :人間

  職業  :魔力師

  年齢  :21(49)

  HP  :330/334

  MP  :-/-

  魔法適性:-

  スキル :異世界言語:MAX、魔力操作:3


 前回見た時と少し変わっている。

 職業が無職から魔力師になってる。自称のつもりだったけど、そんな職業本当にあるのか?

 HPが微妙に増えてるな。これはミルズの森で魔物を倒した成果だろう。

 それと魔力操作のレベルが3に上がってる。まあ、これも散々練習したからな。


「確かに魔力操作のスキルがあるな。それにMPが無い。この異世界言語ってのは何だ?」

「俺は放浪者で、生まれた国はここじゃない。こことは言葉が違うんだ。たぶんこの国に転移した時に、会話に困らないように付いたスキルだ」

「ふむ。それはありうる話だな。貴様HPの値が妙に高いな」


 あれ? 俺のHPって人より多いのか? これが俺の打たれ強さの正体か?

 HPが最大値から4減ってるのは、さっき殴られた分だろうか。

 だったら二、三十発殴られても十分耐えられそうだな。


「しかし本当にMPが無いとはな……」


 ラザールは、俺がMPを秘匿していると思っていたのだろう。考え込んでしまった。

 それはそうだ。魔石を復活させるのは魔力操作の力だと予想していたのに、肝心の魔力が無いのではその前提が崩れる。


 ラザールは、クズ魔石をいくつか机の上に広げた。


「では、魔石の復活はどうやったんだ? やって見せろ」

「俺にはそんな事出来ないよ。何か勘違いしてるんじゃないか?」

「生意気な口は利くな、と前にも言ったはずだ」


 くそっ。またしても殴られた。しかも七、八発。

 いくら俺が頑丈とはいえ、さすがに何度も殴られ続ければ痛みを感じる。


「そろそろ、貴様の能力を見せる気になったんじゃないか?」


 正直、これ以上殴られる前に魔石の再生を実演してやろうという気持ちに傾きかけたが、俺の心の大部分は『意地でもすっとぼけてやれ』という気持ちで占められている。負けるものか!


 ラザールが俺を殴るのに飽き足らず、蹴り飛ばそうと足を構えた時、ドアがノックされた。


「入れ」


 一人の騎士がドアを開け入ってくると、ラザールに近付き小声で何かを伝えた。

 ラザールの眉間にシワが寄っている。


「モーリス。こいつを牢に戻しておけ。食事は与えるな。水は好きなだけ飲ませてやれ」

「了解しました」


 ラザールはそう言い残すと、急いで部屋を出て行った。

 俺はモーリスに連れられ、牢に戻ってきた。


「ラザール隊長は急用でお出かけだ。君は幸運だったね」

「あれだけ殴られて、どこが幸運だって言うんだ?」

「いつもなら、気を失うまで殴りつけるんだよ。気絶した奴を牢まで戻すんだが、これが大変でな。今日は自分で歩いてくれるから、俺としては大助かりだ」

「俺は罪人じゃないぞ。いつまでここに閉じ込めておくつもりだ?」


 モーリスは残念そうな顔で俺を見た。そして言った。


「君は魔力操作なんて希少スキルの持ち主だ。もう帰れないよ。スキルの事を全て話して俺達に協力するか、それとも人知れず闇に葬られるか。二つに一つだよ」

「お前達、何者だ。やっぱり騎士じゃないだろ。召喚状も偽物だったのか」

「召喚状は本物だし、俺は正真正銘、飛燕騎士団の団員だよ。但し、俺と隊長については、同時にもう一つ所属している組織がある。秘密諜報機関『ふくろう』。希少なスキル持ちを集め、国を裏側から支える影の組織だ」


 異世界にも中二病患者はいるらしい。いい大人が秘密諜報機関ごっことは恥ずかしいにも程がある。

 だがモーリスは大真面目だ。どうやら本当にそんな組織があるようだ。


「今のは聞かなかった事にするから、帰らせてくれないか?」

「君に帰るという選択肢はない。仲間になるか死ぬか。どちらを選ぶ?」



 ◇◇◇



 俺がこの牢に監禁されてから、既に三日が経った。


 最初は過酷な拷問でも加えてくるかと思って身構えていたが、初回の取り調べ以降は放置状態だ。

 人よりHPが高いと判明したせいか、肉体的な暴力に対する恐怖心はそれほど無く『殴りたければ好きなだけ殴れ』という気分だったので、肩すかしの気分だった。


 その代わり奴らが選んだのは兵糧攻めのようだ。水は存分に飲めるが、食事は一日に一回、ほんのわずかな量しか出されない。

 飢えは思いの外、心の抵抗力を奪っていく。正直、もう膝を屈して食べ物を貰おうかと何度思ったか知れない。たぶん俺の抵抗はあと一日も持たないだろう。


 牢に入れられた二日目の夜、俺はステラに向けて魔力波の発信を行っていた。

 魔力波の発信回数は三回。その意味は「手を出すな」だ。


 相手が悪すぎる。国や騎士団相手にちょっかいを掛けようとすれば、ただでは済まないだろう。クラレンスには散々世話になった。これ以上彼を巻き込む訳にはいかない。


 ラザールはあれ以来見ていないが、モーリスは時々俺の様子を見に来て雑談をしていく。


「なあ、そろそろ考えが変わったかい? 別に悪い話じゃないと思うけどな。俺達の仲間になれば、騎士の身分が与えられるし、希少なスキルを使いこなせれば、梟内で結構いい地位まで登れるぞ」

「あんたは何で梟に入ったんだ? あんたもスキル持ちなのか?」

「俺も君と似たような感じだな。秘匿してたスキルがばれて、組織にスカウトされたんだ。俺は別に脅されて入った訳じゃない」


 モーリスは少し迷っていたようだが、自分の力を俺に打ち明けた。


「実は君の件は、雑貨店の店主から情報が伝わってきたんだ。『魔石を未使用の状態に戻した男がいる』ってね。店主は街に潜む梟の協力者の一人なんだ。そして、俺の出番となった訳だ」


 彼は自分の右目を指差した。


「俺のスキルは『過去視』だ。いろいろ使用制限があって使い勝手が悪いんだが、今回は雑貨店の店主と子供のやり取りは、ちゃんと『視る』ことが出来た。魔石の復元は事実だった。俺が視ている前で灰白色から透明に変わった。誰がやったのか? 怪しいのは君と護衛の二人。だけど店主と同様、俺も君がやったと思った。理由はない。直感ってやつだ」


 何たる事だ。俺はこいつらの直感のせいで、こんな目に合ってるのか。


「とは言え、勘だけで動く訳にもいかないから、君と護衛の二人の似顔絵を作って調査に入ったんだ。そしてレマーンの教会からの報告が届いて確認が取れた。君だ。君が『魔力操作』のスキルで魔石を復元したんだ」


 俺の正体は、すっかりバレてるという訳か。


「あんたらの調査能力には心から感服するよ。だけど俺は仲間にはならんよ」

「何故? と聞いてもいいかい」

「仲間になるか死ぬか、そんな選択を迫る組織なんて信用できるか」

「秘密を守るためだ。仕方がないよ。梟は影に潜む組織だからこそ強力な力を持っている。これが白日の下の晒されれば、あっという間に組織は瓦解する」

「そんな組織とっとと潰れてしまえ!」


 モーリスはため息を付くと「また来るよ」と言って出ていった。



 ◇◇◇



 牢の外が騒がしい。耳を澄ますと騎士達の会話が途切れ途切れに聞こえてきた。

 どうやら、どこかで盗賊の大捕り物があったらしい。二十人近い盗賊たちが捕縛されて、この地下牢に連れて来られるらしい。


 ここには四つの牢があり、現在は俺がその一つに入っているだけで、他に囚人はいない。一気に騒がしくなりそうだ。


「どうする。牢が足りんぞ。三つの牢に二十人は無理だ。今囚人が入ってる牢にも振り分けるか?」

「駄目だ。あの囚人が盗賊共に何かされたら困る。絶対に死なせるなと厳命されてるんだ」

「じゃあどうするんだよ」

「そうだな、あの囚人を外に移そう。そうすれば牢が四つとも使える。それなら何とかなるだろう」

「分かった。囚人は俺が移送させる。盗賊共は任せたぞ」


 どうやら俺はお引越しのようだ。


「おい、牢を変える。出ろ」

「無理言うなよ。腹が減って動けない。何か食べ物をくれ。そうじゃなきゃ背負って連れていけ」

「わかったよ。少しだけだぞ」


 よし。僅かだが食料を手に入れたぞ。

 騎士の持ってきたパンとスープを腹に入れる。少しだけ力が戻ってきた。


 騎士に支えられながら牢を出る。俺達は階段を上り地上に出た。

 ずっと薄暗い地下にいたため、強い日光を浴びて目が痛い。


 周囲を見回して初めて気が付いた。俺がいた地下牢は城か砦の地下だった。俺はその中庭に立っており、周囲は城壁で囲まれている。城壁は所々崩れ落ちている箇所があり、かなり年代物の雰囲気がある。


「ここは昔の砦跡だよ。ずいぶん昔に放棄された砦だが、まだ使える部屋や牢が残ってるから、騎士団の仮監獄として使ってるんだ」


 俺を牢から連れ出した騎士は、俺が尋ねもしないのに教えてくれた。


「で、お前の牢だが、今度は広い個室で日差しも入る素晴らしい牢だぞ」


 何故か笑いながら指を差す。彼の指の先には塔が立っていた。上部が崩れ落ち下半分しか残っていない塔だ。


 崩れた塔へ入り階段を上ると三階部分に金属扉があり、その扉を開けると大きな部屋があった。


 確かに広い部屋だ。但し天井が半分ほど崩落し、開いた穴からは青空がのぞいている。

 塔の上半分が崩壊したせいで、現在はこの部屋が最上階のようだ。


「どうだ、日の当たるいい部屋だろ。小窓もあるから、外も眺められるぞ」

「天井に穴が開いてるじゃないか。雨が降ったらどうするんだよ」

「天井が無いのは半分だけだ。ベッドの置いてある辺りは雨が降っても濡れないはずだ。まあ、ここで頑張ってくれ」


 騎士は笑いながら扉に鍵を掛けて出て行った。


「くそっ! 何だよこの部屋は! テメエら、覚えてやがれよ!」


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