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第27話 地下牢

「タツヤ! 無事だったか!」


 廃村まで戻ると、フリッツが駆け寄って来た。後ろからステラとベアトリスも続いてやってきた。彼らの手首には金属製の手枷がはめられている。


「そっちこそ大丈夫か。手荒な事はされてないって聞いてたけど」

「この手枷か。逃げたら他の者の安全は保障出来ないと脅されはしたが、手荒な事はされていない」


 この騎士達の中から目付きの鋭い男が現れた。どうやら騎士達の指揮官のようだ。


「レマーンの冒険者タツヤ。手間を掛けさせてくれたな」

「言い掛かりだろ。あんた達が勝手に追って来ただけで、俺が頼んだ訳じゃない」

「生意気な口を利くな」


 男がいきなり、俺の顔を殴りつけた。


「ぐっ!」


 痛っ……くないな。以前、チンピラ冒険者に殴れた時と同じだ。痛い感覚はあるが、思ったほどの痛みではない。

 だが、平気そうな顔をすればまた殴られそうだ。俺は、倒れそうなそぶりを見せて地面に片膝を付いた。

 しかしこの世界の奴らは、問答無用で殴り掛かる奴が多すぎる。何て野蛮な世界だよ。


「タツヤさん!!」


 テレーゼが悲鳴を上げて俺に駆け寄り体を支えてくれた。

 ヴァレリーも俺と男の間に割り込んで抗議の声を上げた。


「おい! 乱暴はしない約束だぞ!」

「乱暴などしていない。ただの挨拶だ」

「テメエら、覚えてやがれよ」


 ヴァレリーよ。それは負け犬のセリフだ。出来ればもうちょっと気の利いたセリフを返して欲しかったよ。


「よし。王都に戻るぞ。撤収準備を急げ。この男にも魔法封じの手枷を掛けておけ」



 俺達は来た時と同じように荷馬車の乗せられ、王都に向かって引き返し始めた。

 荷馬車は行きと違い騎士の一人が御者を務め、御者のカルロは荷台に乗せられている。

 俺と護衛四人は魔法封じの手枷をはめられたが、テレーゼとカルロは拘束を免れた。


「タツヤ、すまん。俺が甘かった。あの野郎、平気で約束破りやがって」

「ヴァレリー、殴られた事はもう気にしなくていいよ。俺は大丈夫だ」


 ベアトリスが声を小さくして俺に言った。


「前に馬車が追いかけられた時、タツヤさんが敵の魔術師を倒しましたでしょ。あの時に魔術師に巻き込まれて落馬した男を覚えてらっしゃる? さっきの男ですわよ」


 落馬させられた事に腹を立てて、その仕返しだったのか。何とも器の小さい男だな。

 そうなるとこの先、あまりいい待遇を受けられるとは思えない。


「テレーゼ、聞いて欲しい事がある。フリッツ、あんたも一緒に聞いてくれ」


 フリッツがごそごそと俺の前までやってきた。


「この先、俺はどうなるか分からん。下手をするとかなり長期間、解放されない恐れがある。だから、今のうちに言っておきたい事がある。フリッツにはクラレンスさんへの伝言を頼みたい」

「ああいいぞ。護衛は失敗したが、伝言なら大丈夫だ」


 フリッツは護衛任務に失敗したことをかなり苦にしていた。弱みに付け込むようだが、俺の頼みを断れないだろう。


「テレーゼ、よく聞いて。俺がもし一年以内に戻らず連絡もしなかった場合、クラレンス商会に預けてある俺のペットボトルは全てクラレンスさんに譲渡する。それとペットボトル以外の俺の持ち物、お金とカバンだな、これは全てテレーゼに譲る」

「タツヤさん。何言ってるんですか。戻って来ないなんて……、そんな事言わないで!」


 テレーゼはイヤイヤするように首を左右に振っている。


「なあフリッツ、常に最悪の事態を想定しないといけないんだろ。テレーゼに伝えたこの二点、クラレンスさんにしっかり伝えてくれないか」

「了解だ。一年間連絡が無ければ、ペットボトルはクラレンスさんに、その他の物品はテレーゼさんに譲渡。確かに伝える」


 テレーゼが泣いている。その肩にそっと手を沿える。


「あくまで、一年しても戻らなかったらの話だ。それまではしっかり預かっててくれ。三日で戻ったのに財産が消えましたってのは無しだよ」


 場を和ませようとして言った冗談だったが、完全に外した冗談だったようだ。テレーゼが更に大きな声で泣き出した。困った……。


 見ると、ベアトリスが目を吊り上げて怒っている。手は拘束されていて動かせないが、声を出さずに何かを伝えようと、口をパクパクしている。何を言ってるんだろう?


(だ、き、し、め、な、さ、い!!)


 いや、俺も手を拘束されてるんだが……。

 それでも、なんとか拘束された手を、彼女の頭の上から後頭部に回し、抱き寄せる事には成功した。

 横目でベアトリスを見ると、ウンウンと頷いている。


 ベアトリス、あんたはお節介ばあさんか。まあ、おかげでテレーゼは落ち着いたみたいだからいいけど。




 その日の夕方、俺達は王都に戻って来た。騎士達の騎馬と荷馬車の一団は、王都の門をくぐり、そのすぐ脇にある衛兵詰所の前で止まった。そこには一台の護送用馬車が止まっていた。


「よし、全員降りろ」


 あの指揮官らしい男が、俺を指差し言った。


「モーリス、この男を移送しておけ。他の者にはもう用は無い。放り出せ」

「了解しました。さあ、こっちへ来い」

「待ってくれ。行く前に少しだけ話をさせてくれ」

「……早く済ませろ」


 俺は四人の護衛の前に立った。


「俺のせいでみんなにも迷惑掛けた。フリッツ、例の話、クラレンスさんにちゃんと伝えてくれ」

「了解だ」

「ベアトリス。すまんがテレーゼを頼む」

「頼まれましてよ」

「ヴァレリー、あんたには一番世話になった。護衛対象が問題児ですまなかったな。……もし今度、例のスラムの子を見掛けたら、少しでいいから気に掛けてやってくれないか」

「人の心配してるんじゃねーよ。でも分かった。任せろ」


 俺はステラに近づき、小声で話しかけた。


「ステラ。例の件、頼んだぞ」

「お任せください。無事をお祈りしています」


 俺はテレーゼに近付き、軽く抱きしめた。


「テレーゼ。心配するな。たぶん二、三日で放免されると思う。自由になったらレマーンに向かうから、先にクラレンスさんと一緒にレマーンに戻って待っててくれ」

「タツヤさん……」


 俺はモーリスと呼ばれた騎士に向き直り言った。


「待たせた。行こうか」



 ◇◇◇



 驚いたことに、俺を乗せた護送用の馬車は、騎士団の駐屯地に向かうのではなく、王都の門から外に出てどこかに走り出した。

 もうすぐ日が暮れようという時間だ。一体どこに行く気なのか。


 王都を出て一時間ほどして、馬車はどこかの森の中の建造物に入って止まった。既に辺りは闇に包まれており、周囲の状況は分からない。


「降りろ。こっちへ来い」


 騎士モーリスの後を付いて行くと、石造りの建物に入り、その中の小さな部屋に通された。

 俺達が部屋に入ると、いつの間にかもう一人騎士が後ろに付いて来ており、扉を塞ぐように立った。部屋の中には机が一つと椅子が二脚あるだけだ。


 モーリスは俺の手枷を外した。


「持ち物を全てここに出せ」


 逃走中に背負っていたザックは、テレーゼに渡してしまったので、俺の荷物などほとんどない。


 ポケットの中からハンカチを出し机に置く。

 首から下げた冒険者ギルドのカードと、地下施設で見つけた小石の袋を首から外し、これも机に置く。


「これだけだよ」


 モーリスは俺の体を検めて何も持っていない事を確認すると、俺に椅子に座るよう指示し、自分も机の反対側の椅子に座った。


 彼はハンカチを広げ、普通のハンカチである事を確かめると俺に返してきた。

 次にギルドカードを手に取り記載を確かめる。


「レマーンのDランク冒険者タツヤ。職種は戦士。歳は二十一。間違いないか?」

「間違いは無いが、戦士ってのは自己申告だ。気にしないでくれ」


 ギルドカードを俺に返し、最後に小石の入った袋を開け、中の小石を取り出した。


「これは何だ?」

「ただの石だよ。お前たちは俺の事を調べたんだろ。だったら俺が放浪者だって知ってるんじゃないのか? 俺は最近、記憶を無くしてこの国に現れた。その時にこの石を握りしめていたんだ。たぶん俺の生まれた国の石だ。故郷に帰る手掛かりはこれしか無いんだ。ただの石ころだが、俺にとっては大切な石だ。返してくれ」


 最近、即興の出まかせが簡単に口から出てくるようになった。この世界で生き抜くのに必要な技術だとは思うが、何だか自己嫌悪してしまい、気分が落ち込む。


 モーリスは小石と袋を注意深く調べていたが、石を袋に戻すと俺に返してきた。


「さてと、正式な尋問は明日行うが、とりあえず簡単に聞いておこうか」


 モーリスが身を乗り出し、俺に顔を近づけた。


「シモンの雑貨店の前で、君は何をした?」

「シモンの雑貨店なんて知らないんだけど」

「君と護衛が図書館からの帰りに立ち寄った雑貨店だよ。子供と口論してた店主がシモンという名だ」


 こいつら俺が図書館に行ってた事まで調べ上げてたのか。どこまで白を切れるか自信が無くなってきたな。


「その雑貨店なら確かに通り掛かって言い争いを見てたけど、それだけだ。手も足も出してないぞ」


 モーリスは俺から顔を遠ざけると、椅子の背にもたれ掛かりニヤリと笑い言った。


「そうか。まあいいだろう。一晩ゆっくり寝れば、いろいろ思い出すんじゃないかな。そうそう、明日の尋問はラザール隊長が担当する。隊長は俺ほど優しくないぞ」

「ラザール?」

「そうか、そう言えばまだちゃんと名乗ってなかったな。失礼した。俺は飛燕騎士団のモーリス。君を殴った男が、俺の上役のラザール隊長だ。君の尋問は俺達二人で行う」

「あんな乱暴者が騎士とは世も末だな」


 モーリスは肩を竦めて見せると、扉の前に立っていた騎士に命じた。


「この男を地下牢に入れておけ」

「待てよ。俺は罪人じゃないぞ。それに俺は王城に召喚されたんじゃなかったのか?」

「尋問が先だ。後で食事を持って行ってやるから、明日まで大人しくしていろ」


 俺は地下に連れていかれて牢に放り込まれた。

 地下牢は四人部屋のようで、粗末な二段ベットが二つに、薄汚れた毛布が各ベッドに一枚づつあった。部屋の隅にはトイレ替わりだろうか、壺が一つ置いてある。当然窓などなく換気は出来ない。


 ベッドの一つに横になった。

 完全に犯罪者扱いだ。牢自体はまだいいが、この不潔そうな毛布と壺は我慢が出来ないな。

 魔法講師をしていたバーナードみたいに、浄化とか洗浄の魔法が使えたら、どんなに良かったか。やっぱり魔術師っていいよな。


 しばらくすると、牢番が食事を運んできた。


「ほら、食事だ」

「なんだよ、堅パンかよ。それに具の無い塩スープ。こんなのを食事とは言わんだろ!」

「嫌なら食べなくてもいいぞ」


 不満を言っても仕方が無い。塩スープに堅パンを浸して食べる。

 わずかな量しかなく、すぐに食事は終わってしまった。


 さてどうするか? 日没から随分と時間が経ってしまったが、まあ大丈夫だろう。


 実は、事前にステラに頼んでおいた事がある。

 日没後一時間以内に、何回か魔力波を飛ばして俺の安否を伝えるから、それをクラレンス商会に伝えて欲しいと。


 一回なら無事、もしくは、苦境にいるがまだ余裕ありの場合。

 二回なら危険な状況なので、出来る範囲で救援が欲しい場合。

 三回なら何もしないで欲しい場合。これは危険な状態にいるが、下手な手出しは危険を招くため一切関わるなという意味だ。


 そして、三日続けて連絡が無かったら、以後の対応は不要とも伝えてある。


 俺の魔力波は三、四キロ先まで届くので、騎士団の拠点からなら王都内のどこに居ても魔力波を感じるはずだった。だが、俺が今いるのは王都の外だ。

 この牢から王都まで、ずいぶん距離があるはずだ。魔力波がステラまで届くかどうか、それが問題だ。


 俺に出来る対処方法は一つしかない。魔力波を最大出力で飛ばすのだ。


「俺の魔力よ。王都まで飛んでいけ!」


 俺は体内の魔素を集め、極限まで圧縮し魔力波を一回だけ放った。


 さすがに最大出力となると、その反応もすごい事になった。

 俺の脳内のレーダー画面は、無数の光点で埋め尽くされもう訳の分からない状態だ。この周囲の森には、かなりの数の魔物がいるようだ。


 魔力がどこまで届いたかは分からなかった。うまく王都まで届いている事を祈ろう。


 何だか牢の外が騒がしくなったようだが、そんなのは俺の知った事ではない。

 さっさと寝るとするか。


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