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第22話 王都脱出

 夕方、ブライアン商会の一室にクラレンスとブライアン、護衛の紅い疾風のメンバー四人、そして俺が集まっていた。

 クラレンスが商用から戻るとすぐに、ヴァレリーがこのメンバーをかき集めてきたのだ。


 ヴァレリーが皆を前に切り出した。


「帰って来てすぐで申し訳ないが、緊急事態だ」

「何があった?」


 リーダーのフリッツが問うと、ヴァレリーが今日の出来事を皆に聞かせた。

 話を聞いて、皆どう反応していいのか困惑しているようだ。

 真っ先に口を開いたのはクラレンスだった。


「タツヤさん、今の説明に間違いは無いですか?」

「ええ、正確な報告です」

「そうですか……」


 クラレンスが困った顔で考え込む。息子のブライアンがその後を続ける。


「魔石を再生させるなんて事、本当に出来るのですか?」

「いらないクズ魔石あるかな?」


 ブライアンは部屋を出て行き、すぐに魔石をいくつか手にして戻って来た。灰白色のクズ魔石だ。

 俺は魔石を一つ受け取ると手のひらに載せ、皆に見えるように差し出した。


「クズ魔石ですね。見てて下さい」


 魔石を握り締め魔力を流した。そして手を開く。魔石は透明に変わっている。


「おおっ! 透明になってる。本当に再生した……」


 ブライアンに魔石を渡すと、目に近づけて透明度を確かめている。


「すごい! 魔物から取り出した時の状態だ。すごい! すごいよ! タツヤさん、あなた、どれぐらいの数、再生させられるんですか?」

「どれくらい、というのは分からない。そもそも俺の力は魔石を再生させる事ではなく、魔石を破壊するために使ってたんだよ。だから魔石の再生は数回しか試してない」

「魔石を、破壊?」

「ああ、これも見た方が早いな」


 ブライアンからもう一度魔石を受け取り、先程と同じように手の平に乗せ、握り締める。


「いきますよ」


 手の平を開けると、そこには粉末状になった魔石の残骸が乗っていた。


「魔石が粉になったぞ! なんで、魔石を壊そうなんて考えたんですか? 勿体ない」

「俺も一応冒険者なんだけど、剣も魔法も才能が無いと宣告されて悩んでた時に、魔物の魔石を破壊出来れば倒せるんじゃないかと思って試したんだよ。小型の魔物でしか試してないけど、確かに効果はあった」


 俺は粉々になった魔石の残骸を机の上に落とし、手をポンポンとはたいた。


「魔石の再生は、魔石破壊の試行錯誤の過程でできたんだけど、特に使い道も無くて気にしてなかった」

「いや、金になるってのは真っ先に思い付く事でしょうに」

「あはは、お金には困ってなかったから気付かなかったみたいで」

「笑い事じゃないですよ。魔石の再生で商売を始めれば、一財産築けますよ」


 それまで、黙って考え込んでいたクラレンスがブライアンを諫めた。


「ブライアン。落ち着きなさい。今はお金の問題じゃない。タツヤさんの安全の問題だ。ブライアン、その雑貨店の店主がどんなスキル持ちかを調べなさい。至急です。たぶんその店は犯罪組織と繋がってる可能性がある。そこから先は、どう情報が伝わるか分かりません。最悪、国が出てくる事も考えられます」


 クラレンスもヴァレリーと同じ考えのようだ。


「本当にそんなに大事になると?」

「この国は希少なスキル持ちを集める事に腐心しています。タツヤさんの能力が知られれば確実に王城から呼び出しが来るでしょう。一旦召喚に応じてしまえば、もう本人の意思など関係ありません」

「国がそんな事を!?」

「国とはそういうものです。ですので、そうならないように手を打ちます。タツヤさん、王都に来たばかりで申し訳ないのですが、すぐにレマーンの街に戻っていただきます。王都ではあなたを守り切る自信がありません」


 クラレンスは護衛のリーダー、紅い疾風のフリッツを見た。


「フリッツさん、相談ですが別件で依頼を受けていただく気はありますか? 冒険者ギルドを通さない依頼です。その分、依頼料ははずみます」

「依頼内容によりますね」

「今回の商隊の護衛依頼は、本来王都までの往復ですが、現時点で依頼達成として完了とします。王都内の護衛と帰路の護衛は不要です。依頼料は全額受け取っていただいてかまいません」


 フリッツはクラレンスに険しい視線を向けたが、何も言わずに続きを促した。


「それとは別件で、タツヤさんをレマーンまで護衛して送り届けていただきたい。こちらは秘密保持のため冒険者ギルドを通さない依頼となります。明日早朝に王都を出発していただきます。どうでしょうか?」

「報酬は?」

「今回の王都往復の護衛料の倍額を出しましょう。危険手当込みとお考え下さい」


 フリッツの顔が、ますます険しい表情になっていく。


「明日のオークションには出ずに、レマーンに戻るのか?」

「帰るのはタツヤさんだけです。私はまだ王都を離れられないので同行しません。別途護衛を雇って帰りますので、私の心配は無用です」

「少し相談させてくれ」


 フリッツはメンバーと何か話し込んでいたが、戻ってきてクラレンスに返事をした。


「依頼を受けよう。帰りの馬車と御者の手配をしてもらえますか」

「御者と荷馬車一台を用意しておきます。帰路の水と食料を積んでも、全員乗れるはずです」

「あと、俺達の動きを隠したいから、今の宿を引き払いたい。この商会で泊まれる部屋を用意して貰えないか。寝られれば物置でもいい」

「部屋は大丈夫です。用意しましょう」


 トラブルは俺の予想を遥かに超える事態になっている。クラレンスとフリッツは、今後の対応を話し合い、何をすべきか決めていくが、俺はただそれを見ているだけで何も出来ない。

 少しはこの世界に馴染んだつもりで増長していたようだ。俺は無力だ。


 クラレンスとフリッツの話が落ち着いた所で、クラレンスに謝った。


「クラレンスさん、迷惑かけて申し訳ありません」

「いえ、タツヤさんの立場では、こういう事態を想定出来なかったのは当然だと思います。ですが今後は十分注意して下さい。この国はあなたの生まれた国に比べて安全な国とは言えないと思います。王都にお誘いしたのは時期尚早でしたね。申し訳ありません」


 クラレンスが深々と頭を下げて謝った。


「クラレンスさん! 止めて下さい。俺が悪いんだ。あなたが謝ることじゃない」

「いえ、私に責任があります。王都にはレマーンのような田舎街にはない闇の部分が多くあります。田舎の生活に慣れてしまって、その事を失念していました」


(俺は剣も魔法も駄目な上にトラブルまで引き起こす、役立たずのトラブルメーカーだな。ああ、情けない……)



 ◇◇◇



 翌朝、俺達は荷馬車に揺られて王都を後にした。

 帰りの一行は、俺と御者のカルロ、紅い疾風の戦士フリッツ、シーフのヴァレリー、魔術師ベアトリス、魔術師ステラ、そして……テレーゼ。


 何故かテレーゼが乗っていた。

 早朝、メンバーが揃って荷馬車に乗り込もうとしたら、既にテレーゼが中で待っていたのだ。


「あれ、テレーゼはクラレンスさんと一緒に戻るんじゃなかった?」

「王都の水が合わないようで体調が悪いんです。なので先に帰らせてもらう事にしました」


 クラレンスを見ると、彼は苦笑いの表情で言った。


「一緒にお連れ下さい。彼女には行きと同様、食事の用意をしてもらいます」


 俺はフリッツを見て言った。


「道中、危険があるかもしれないんでしょ?」


 フリッツは何故か目をそっと逸らしながら答えた。


「大丈夫だろ。一人守るも二人守るも、大して変わらん」


 テレーゼを見た。彼女は俺の目を真っ直ぐ見返して言った。


「何か?」

「いえ、何でもないです」


 こうして、七名の一行がレマーンの街を目指して進んでいく。今回の積み荷は水や食料や毛布などで、商売用の荷物は積んでいない。そのため、七名全員で一台の馬車に乗っている。


「タツヤさん。このラクトの果実、甘くて美味しいですよ。いかがですか?」

「ありがとう。いただくよ」


 俺は隣に座るテレーゼから、皮を剥いて切り分けられた果物を一切れ貰い、口に入れると、それを見ていたベアトリスが即座に反応した。


「あら、いいですわね。ここまで甘ーーい匂いが漂って来ますわ」

「ベアトリスさんもどうぞ」

「あらそう、いただきますわね」


 この女魔術師、俺とテレーゼが並んでいると、やたらと嬉しそうに俺達を見てる。隙あらば遊んでやろうという魂胆が丸見えだ。いつか仕返ししてやる!


「タツヤ、ちょっといいか?」

「なんです。フリッツさん」

「この先に数時間進むと旧街道への分岐がある、帰路は旧街道を使おうと思ってるんだが、どうだろう」


 どうと言われても、俺には全く判断が付かないのだが……。


「この街道はレマーンまで一本道だから、もし追手が早馬で追いかけてくると見つかる確率が高い。旧街道だと街道脇に深い森や廃村みたいな隠れる場所が多くて、追跡を振り切りやすい。但しレマーンまでの日数が三日から五日に伸びる」


「本当に追手が来ると思いますか? 俺のスキルはバレたかも知れないけど、俺の身元や行先がバレるとは、とても思えないんですけど」


「まだそんな事言ってるのか? 相手が国だった場合、独自の情報網を持ってるはずだ。それにスキル持ちも大勢いるんだ。いつ身元がばれても不思議はない。常に最悪を想定して動かんと取り返しが付かん事になるぞ」


 スキル持ちって反則だよな。どんな不可能と思われる事でも、あっさり実現してしまう。ズルいよなぁ。まあ、俺もそのスキル持ちの一人ではあるんだが……。


「テレーゼはどう思う?」

「フリッツさんは優秀な冒険者です。そのフリッツさんが一番安全だと判断したのなら、それに従うのがいいと思います」


 優等生の答えだな。いや、判断を丸投げしたのか? 俺もそれに倣うとしよう。


「分かりました。護衛リーダーの考えに従います。水も食料も多めに積んであります。カルロさんが問題なければ、旧街道を進みましょう」


 御者のカルロは、報酬は日当で支払われるので、期間が延びるのは大歓迎らしい。なかなか元気なじいさんだ。


 馬車は順調に進み、旧街道との分岐に達した。フリッツが御者台から荷台にいるメンバーに注意を与えた。


「よし、旧街道に入るぞ。ここからは道が荒れていて、馬車が揺れるから注意しろ。それと魔物が多くなるから警戒は怠るな」

「フリッツさん。旧街道って、今でも利用する人は多いの?」

「いや、旧街道沿いの村や街はずっと昔に廃れて、今はほとんど人の住んでいない地域だ。使うのは俺達みたいな訳ありだけだから、少数しかいないはずだ」

「ねえ、フリッツさん。ちょっと試したい事があるんだけど」


 俺は、王都に向かう途中で考案した、魔力レーダーの事を皆に説明する事にした。


「俺には魔力を操る力があって、魔力波を周囲に飛ばしてその反応から魔物の存在を感知する事が出来るんだ。ただ魔力に敏感な人がいると、魔力波を受けた時に驚くから、人のいる所では練習できなかったんだけど、それをここで使ってみたい。いいかな?」


 俺の言った意味がよく分からなかったようで、フリッツが考え込んでいる。

 ふとステラに目をやると、彼女は怖い顔をしてこちらを見ている。


「ねえ、タツヤさん。あなた王都に向かう途中でそれ使いましたか?」

「ああ、一回だけ使ったな」


 何だろう、ベアトリスも一緒に怖い顔をしている。


「何で黙ってたのかしら?」

「あの時初めて使ったんだけど、予想外に大騒動になって言い出し辛くなって………、あっ、痛い、やめて、蹴らないで、痛い、痛い、やめて、ヴァレリー助けて!」

「お前はもっと蹴られて反省しろ!」

「あの時、あんな強烈に魔力浴びせられて、どれだけ怖かったか分かりますか?」


 ステラとベアトリスにさんざん蹴られた。

 あんた達、俺の護衛だよな? 護衛対象を蹴るんじゃない! 俺は女に蹴られて喜ぶ性癖など無いんだよ!


 蹴られている俺を横目で見ながら、フリッツが真顔で聞く。


「その魔力レーダーだが、相手に魔術師がいたら俺達の位置を知らせる事にならないか?」


 ようやくステラとベアトリスからの折檻が止み、息を付きながらフリッツに答える。


「魔力波の存在は感知するかも知れんが、発信位置とか誰が魔力を出してるかとかは、分からないはずだ。前回のステラの反応を思い出してくれれば………あっ、ステラ、やめて、分かったから蹴らないで、フリッツ助けて!」

「よし。その魔力レーダーとやら使っていいぞ。何か見つけたら教えてくれ」

「そんな事よりステラを止めろよ!」


 フリッツの許可が出たので、魔力レーダーの練習を始めることにした。

 前回は、魔力を込め過ぎたので、今回は魔力少な目で始めよう。


 体の中の魔力を集めて密度を高める。そして一気に飛ばす! よし、うまくいった。

 脳裏にレーダー画面が浮かぶ。だが、何も光点が出てこない。ステラやベアトリスの反応もない。放出する魔力が弱すぎたか。


 もう少し強くだな。

 再度、体の中の魔力を集めて密度を高める。溜めて、溜めて、一気に飛ばす!

 脳裏のレーダー画面にいくつか光点が浮かんだ。成功だ。


「「きゃぁ」」


 ステラとベアトリスが叫び声を上げた。そして揃って俺に足を向けた。


「やめて、蹴らないで、だいたいコツが掴めたからもう失敗しないよ。ああっ、やめて、テレーゼ助けて!」


 何度か練習を繰り返し、魔術師を驚かさず、それでいて魔物の反応はしっかり拾うよう、魔力の調整に成功した。

 俺の体に無数の足跡と傷跡を残し、魔力レーダーは実用の域に達した。


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