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第18話 魔力操作

 俺は魔法講師のバーナードを見た。冗談を言ってるようには見えない。

 バーナードが再度、断定するように言った。


「君には魔力がある」

「いや、無いよ。教会でステータス鑑定してもらったけど、MPは無かった」


 バーナードは目を細めて俺を見ながら言った。


「俺は魔力を感じ取る事が出来るんだ。信じる信じないは君の自由だが、君からは確かに濃密な魔力を感じる」


 そういえば講習を始める前、バーナードが俺をじっと見てたな。あれは俺の魔力を感じ取ってたのか?


「でも、魔法適性も無かったから、何にしても魔法は使えないぞ」

「不思議だな。これだけ魔力があるのに適性が無いなんて」


 俺は何と答えていいのか分からずに、ただバーナードを見ていた。

 バーナードは首を振って言った。


「悪かった。忘れてくれ。確かに魔法適性が無いのならどうにもならん」

「ああ」


 今の意味深な会話、どう捉えればいいんだろう?

 教会では俺に魔力は無いと出た。バーナードは俺に魔力があると言う。どっちが正しい? どっちが間違ってる?


 ゴンザレスが初心者講習会の終了を告げ、ここで解散となった。

 俺達はゾロゾロと練習場からギルドのロビーに歩いていく。歩きながらゴンザレスが俺に聞いてきた。


「そういえばタツヤ。ちょっと聞きたいんだが」

「何だ?」

「先日のアルミラージだが、あいつをどうやって倒した? 倒した後、死体に何かしなかったか?」

「え? 何かってどういう意味だよ」


 何かとがめるような雰囲気を感じ、きつい口調で問い返した。


「すまん。言い方が悪かったな。あれからアルミラージの死体を調べたが、やつの体内の魔石が粉々に砕けてたんだ。魔石が割れる事はままあるんだが、粉々に砕けたのは見た事がない。なぜ砕けたのか理由が全く分からんのだ。何か気付いた事は無いか?」


「正直言って、どうやって倒したかさえよく分かってない。確かに何度か切りつけた。ファイヤーボールを当てた。レイピアで何度も突いて出血させた。けど、どれも致命傷じゃなかったはずなんだ。その後、あいつは勝手に倒れた。倒した後、俺も倒れたから何もしてないぞ。たぶんノーラもソフィーもヤツには触れてないはずだ」


「そうか。分かった。確認しただけだから、気にしないでくれ」


 ゴンザレスが手を振り、ギルドの奥に入って行った。

 俺は、去っていくゴンザレスを見送りながら、考え込んでいた。

 何かが引っかかる。何だろう? 頭の中がムズムズする。痒い所に手が届かずイライラしてる時の気分だ。


 周囲を見渡すと、ノーラとソフィーそれと魔法講習組の少女二人が何やら楽しそうに話をしている。女の子四人で仲良くなったのだろう。そしてオスカーがその四人から少し離れて立っている。女の子どうしの会話に入るのを遠慮しているのだろうか。


「オスカー。ちょっといいか?」

「何でしょうか?」

「君、魔石持ってないか?」

「いえ、持ってませんが、必要なんですか?」

「ああ、どこかで買えないかな?」

「ギルドでも売ってると思いますけど」

「そうか、そっちで聞いてみるよ。ありがとう」


 魔石は魔道具の動力源として使用されている。需要が多いから、ギルドでも扱っているのだろう。


「タツヤさんは、今日は、これからどうするんですか?」

「剣の才能なしって宣告されたから、さっさと帰って泣きながらヤケ酒あおる事にするよ」

「タツヤさん」

「何だい?」

「その、俺が言うのも何ですが……、頑張って下さい!」

「……ああ、心配してくれてありがとう。だけど、俺は冒険者に固執するつもりは無いから、剣の才能が無くても生きていける。大丈夫だよ。オスカー、君は優しいな」


 俺はオスカーと別れ、宿に戻る事にした。



 ◇◇◇



 時は深夜。所は金のしゃちほこ亭、そのとある一室。


 部屋の中は暗い闇に支配されている。

 その壁には灯りの付いた燭台が掛けてあり、暗い室内を仄かに照らしている。

 室内には一人の怪しい男がたたずんでいる。揺らめくローソクの光が男の背後に不気味な影を作り出している。


 部屋の中にあるのはテーブルと一脚の椅子、そしてわずかな家具のみ。

 男はテーブルの上に置かれた、小さな透明の石に手をかざしている。


「むむむむむっ!」


 男は石に何かを送り込むかのように力を込める。が、何も起こる様子はない。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬっ! ぐおおおおおおおおおっ!」


 男は更に気合を入れてうめいているが、やはり何も起こらない。


「どりゃーーーーーーーーー!!」


 男は渾身の力を振り絞り、小石に何かを送り込む。今度は明確な反応があった。


「うるせえ! 静かにしろ! 何時だと思ってやがる!!」

「ごめんなさい!」


 壁の向こうのお隣さんに怒られた。そうだね。夜中に騒いじゃいけないよね。

 俺はテーブルの上に置かれた魔石をつまんで眺める。


「おかしいなぁ、いけると思ったんだけどなぁ」



 俺には魔法適性も魔力もない。しかし魔法講師のバーナードは俺に魔力があると言った。もし本当に俺に魔力があるとすれば、いろいろと事情が変わってくる。


 俺はアルミラージと対峙した時、何故か『俺は魔力が使える』と確信していた。たぶんスキル『魔力操作』の影響だろう。

 俺はそれを『()()が使える』=『()()が使える』と勘違いしてしまい、火魔法ファイヤーボールを放とうとした。


 だが、俺に使えるのは『()()』じゃなく『()()』だ。だから、実際に放たれたのは、『魔法:ファイヤーボール』ではなく、単なる『魔力』だった。

 そして俺から放出された『魔力』は、アルミラージの体内の魔石に作用してこれを粉砕し、死に至らしめたのだろう。


 我ながら推論が飛躍しすぎだと思うが、一度思い付いたこの推論が、どうしても俺の頭を離れなかった。


 そこで実験だ。たぶん存在するであろう俺の魔力を魔石に流し込むのだ。魔石が粉砕されれば、俺の推理の正しさを証明できる。


 大きな魔石は非常に高価だが、米粒大の魔石ならかなり安い。実験に使うため、冒険者ギルドで米粒大から豆粒大までの異なる大きさの魔石を、いくつか買い込んでおいたのだ。


 だが、実験の結果は思わしくない。いくら気合を入れても魔石は砕けない。


「もっと小さいので試すか?」


 いくつか買った魔石の中から一番小さな石を取り出す。そして今度は声を出さずに気合を入れる。


(どりゃーーーーーーー!)


 駄目だった。力み過ぎて頭が痛くなってきたぞ。

 おかしいな。俺には魔力操作のスキルがあるはずなのに……。

 やっぱり俺にはMP無いのかな?


 そういや、魔力操作のスキルってどう使えばいいんだ?

 魔力操作、魔力操作、魔力を操る、魔力を感じて操る。魔力を感じて自由に操る。……これだな。


 俺は椅子に座り目を閉じ瞑想する。心を静めろ。魔力を感じ取れ。


 瞑想を続け、十分ほど体の中に意識を集中していたら、体内に何かもやもやした黒い霧のような存在を感じ取れるようになった。おおっ、これが魔力か? ……本当かな?


 体の中の黒い霧に意識を集中し、その霧を右手に集めるよう念ずる。

 おお、右手に魔力が集まってきた。成功だ!


 今度は左手に集まるよう念ずる。

 右手に集まっていた魔力が左手に移動した。ちゃんと出来るぞ。


 意識の集中を解くと、黒い霧は体全体に散っていった。


 出来たな。この黒い霧が魔力で間違いないだろう。

 俺はテーブルの魔石を握り締め、目を閉じ意識を集中した。そして魔石に黒い霧を流し込むようイメージした。


「パンッ」


 手を広げると魔石は粉々に砕け散っていた。

 俺の推論は今、証明された。


「やったぞ! 俺にはちゃんと魔力があるんだ!」


 その後、買い込んだ残りの魔石全てで実験を行い、その全てを粉砕した。

 もう間違いない。俺には魔力がある。魔法こそ使えないが、魔力の放出は出来るようだ。


 魔法とは、術者の呪文詠唱により空中に魔法陣を構築し、その魔法陣に魔力を注ぐことで属性毎の力を引き出すものだ。

 だが俺の場合はちょっと違う。魔法陣無しに、単に魔力を体の外に放出しているだけだ。魔法陣を使わないから当然呪文も不要だ。


 この能力は使える! 魔物の体内にある魔石を魔力で粉砕してしまえば、強い魔物でも倒せるのではないか?


 これは実地で魔物相手に効果を確かめる必要があるな。それに俺のMP量も確認しておきたい。教会は当てにならないから、自分で調べる必要がある。


 ああ感無量だ。一度は諦めた魔術師に、俺はなった。

 いや。魔法は使ってないから、正確には「魔術師」ならぬ「魔力師」だな。


 買った魔石は全て実験で粉砕してしまったが、魔石を入れておいた袋には、まだ石がいくつか残っている。灰白色でちょっと大きめの使用済のクズ魔石だ。


 魔石は魔素の結晶体である。魔道具などで魔石から魔素を引き出すと、透明だった色がだんだん濁っていき、最後には灰白色に変わってしまう。灰白色の魔石はもう何の価値も無く、クズ魔石として捨てられる。


 ギルドで魔石を購入する時、たまたまカウンターの上に置いてあった廃棄用のクズ魔石を貰ってきたのだ。特に意味などなく、単にサンプルとして欲しかっただけだ。


 俺はクズ魔石を一つ握りしめると、魔力を注ぎ込んだ。


「ん? 砕けないな」


 魔力を流した時の感触がさっきと違った。魔素のないクズ魔石はただの石ころと同じで破壊出来ないようだ。俺は握りしめた手を開いた。


 灰白色の魔石は、透明に変わっていた。……あれれ?


「そういう事か!!」


 よく考えれば当然だ。魔石から魔素を抜いたらクズ魔石になる。ならクズ魔石に魔力を入れたら魔石になる。うん。これは道理だな。

 そして、通常の透明な魔石に魔力を注ぐと、魔石の魔素容量の限界を超えてしまい、魔石が耐えられなくなって破裂するのだろう。


 ついでに透明な魔石から魔素を抜いてみたら、ちゃんと灰白色のクズ魔石に変わった。俺は魔石に魔素を入れるのも抜くのも自由自在のようだ。


 『魔力操作』って実はすごいスキルだったんだな。

 魔力師(自称)の力を使いこなせれば、戦闘で魔術師と肩を並べられるはずだ。思わず顔がニヤ付いてしまう。


「フフフ、ハハハハ、グハハハハ! 見たかダグラス! 剣の才能など無くとも、俺は戦えるのだ! ぐわっはっは!」

「てめえ! うるせえってんだろうが!! ぶっ殺すぞ!!!」

「ごめんなさーい」


 またお隣さんに怒られた。いい加減にしないと、宿を追い出されるかも知れんな。

 お金はあるんだから、家でも借りた方がいいかな。それとも思い切って家を買っちゃうか? どうしよっかなー。


 金のしゃちほこ亭の夜は深けていく。



 ◇◇◇



 それから二日間、俺は一人でミルズの森に出掛け、薬草採集の傍ら魔力操作の練習を行った。

 ソロというのに少し不安もあったが、ミルズの森へ派遣された調査隊が安全確認をした直後なので、まず問題ないだろうとの判断だ。


 今回は前回と同じ過ちを繰り返さないよう、皮鎧で身を守り、ナイフ、鉈、ショートソードで武装し、ポーション、中級ポーション、毒消しなどを用意し薬草採集に臨んだ。

 森での薬草採集中に出会った魔物達には、魔力操作の実験に協力して貰った。貴重な情報を提供してくれた彼らには感謝しかない。ご冥福をお祈りしておこう。


 実験の結果、いくつか判明した事がある。


 俺の魔法操作の有効範囲はおよそ五メートル。この距離までなら魔物の中の魔石に、魔素を注ぎ込んで破壊する事も、魔石から魔素を抜き取り空にする事も可能だ。


 魔石を破壊されたブラックボアや角ウサギなどの小型の魔物は、しばらく苦しんだあげくやがて死に至る。

 ミルズの森には中型や大型の魔物がいないため、それらの検証は無理だったが、大きな魔物なら、魔石を破壊した時の影響も大きいはずで、即死レベルで倒せるのではないかと睨んでいる。


 そしてもう一つ。魔物は魔石を壊されると死んでしまうが、魔力を抜くだけなら昏倒するだけで死には至らない。単に魔力切れの症状を起こして倒れるだけのようで、しばらく放置しておいたら起き上がった。


 ちなみにこれらの実験の最中、俺の魔力が尽きた事は一度も無い。俺のMPって本当はいくつなんだろうか?


 もう少し手強い魔物のいる森で実験を行いたいがソロでは難しい。何とかならないかな?

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