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第12話 薬草採集

 俺たち四人はミルズの森の入口に到着した。


「じゃあ始めましょうか。僕らは薬草は知ってるけど、いやし草は絵でしか見た事ないから、ちゃんと見分けられるか心配ですね」

「最初にそれらしい草を見つけたら、皆で集まっていやし草かどうか判断したらいいんじゃないでしょうか」

「それでいきましょう」

「もし迷子になったり問題が起きたら、笛を吹いて合図だな。じゃあ始めるか」

「おっけーーーーい」


 どうしても一人だけ緊張感のないヤツがいるぞ。まあいいけど。


 俺達は一定の距離を空けて森の中に散っていった。

 薬草を探して常に地面に注意を向けているため、気が付くと周りに誰もいない事がしばしばあった。

 なるべく声を掛け合いながら地面の草木を注意深く調べる。


 薬草は比較的見つけやすく順調に採集が進んでいるが、いやし草がなかなか見つからない。


 たまにスライムに出くわしたが、無視してやりすごした。

 ちなみにスライムは『雑魚の中の雑魚』の称号に相応しく、魔物最弱の存在だ。

 クラゲのような透明でゼリー質の体で、毒や腐食性の粘液を含んでいる。

 気付かずに触ってしまうような場合を除き、被害を被ることはまずない。

 切れば簡単に倒せるが、粘液が飛び散り装備が錆びたり服に穴が空いたりするので、長い棒で突いて倒すのが一般的だ。


 他にもウサギだかネズミだかの姿をした魔物を見かけたが、近寄る前に大きな音を立てて追い払った。今日は薬草採集に専念だ。


 昼頃、採集作業を一休みして昼食を取る。弁当を頬張りながらオスカーが皆に尋ねた。


「みんな。調子はどう?」

「あたしは問題ないな。薬草取りって結構楽しいね。この森キノコが多いみたいだけど、これも取っていかない?」

「ノーラは食べられるキノコと毒キノコの見分け付くの?」

「知らない」

「キノコは怖いからやめておこうね」


「ソフィーは調子はどう?」

「いやし草の見分けが難しいですね。私、かなり見逃してるような気がします」

「確かにこれは僕も難しいよ。まあ、慣れるしかないのかな?」


「タツヤさんはどうですか?」

「今の所問題ない。まあみんな素人だから試行錯誤を繰り返すしかないんだ。今日はこのまま行こう」

「わかりました。じゃあ昼からもこの調子で行きましょう」


 午後になると作業にも慣れてきて、採集ペースが上がってきた。

 特にトラブルもなく撤収の予定時間までには、かなりの量が収穫できた。

 オスカーが薬草の詰まった袋を見ながら俺たちに呼びかけた。


「そろそろ袋もいっぱいですし、これで撤収にしましょうか」

「えー。あたしの袋はまだ入るよ。もう少し探そうよー」

「私もまだ入りそうですけど、今日はここまでにしましょうか」

「俺もリーダーに同意だ。初日だから余裕を持って引き上げよう」


 オスカーが終了を宣言した。


「じゃあ、ここで撤収にします。荷物をまとめて引き揚げましょう」


 俺たちは森を引き上げて、レマーンの街へと帰還の途に就いた。

 簡単な薬草採集とはいえ、素人四人組の初仕事なので、もっと問題が出ると予想していたが、トラブルもなく一安心だ。



 ◇◇◇



 俺達はレマーンの街の冒険者ギルドに戻ってきていた。

 ギルドの買取カウンターに採集した薬草といやし草を並べる。

 買取担当のギルド職員が俺たちの並べた薬草の数を数え、品質をチェックする。

 チェックが終わると担当者は伝票に数量と買取価格を記入し、俺たちに確認を取ってきた。


「薬草は106本、買取不可が10本。買取価格は銀貨二枚と小銀貨四枚だ。いやし草は26本で買取不可が2本。銀貨一枚と小銀貨二枚だな。合わせて銀貨三枚と小銀貨六枚だ」


 買取担当者は、そこでオスカーたちを見てニヤリと笑った。


「お前ら今日が初仕事だろう。特別に色を付けて銀貨四枚にしておいた。これで良ければ伝票にサインして受付に持っていけ。どうする?」


 おお! この世界にはいいヤツが多いな。

 俺は買取担当者の胸に付いているネームプレートを見た。『ゴンザレス』か。厳めしい名前だな。

 この男、まるでプロレスラーのようながっちりした体格をしている。

 ギルド職員より冒険者の方が合ってるんじゃないか?


 俺はオスカーと一緒に、買取を拒否された分を見せてもらった。

 状態が悪く既に葉が変色しているものや、袋の底で押しつぶされて葉や茎が無残な状態のものがある。確かに買取拒否されても文句は言えない。


「確かにダメになってるな。買取の評価は正当だと思うよ。どうする?」

「これで買取をお願いしましょう。受付に持っていきます」


 ゴンザレスから受け取った伝票に、ソフィーがサインをして受付に提出する。

 毎回サインを求められるとなると、字の書けないオスカーとノーラに、サインの練習をさせないといけないな。


 俺か? 俺も文字は三歳児レベルだが、サインだけは真っ先に書けるようにした。

 大丈夫……のはずだ。


「初めての依頼達成ですね。おめでとうございます。これが報酬の銀貨四枚です。薬草採集といやし草採集で依頼達成は二件となります。あと一件の依頼達成でEランク昇格になりますので、頑張ってくださいね」


 よく考えたら薬草を全部出さずに半分残して明日に回せば、Eランクに昇格出来たんじゃないか?


 冒険者ギルドの規約なんて実のところ穴だらけだ。

 薬草20本取ってこれば、パーティー全員に依頼達成の評価が付く。

 四人パーティーなら80本必要な気がするが、実際は全員で20本でいいのだ。


 それに誰かから薬草を買い取って、そのままギルドに持ち込んでも依頼達成となる。

 ギルドも暇ではない。入手元の確認などしやしない。


 うまく立ち回ろうと思えば、いくらでも可能なのだ。


 まあいい。もう一度森に行けばEランクに上がれる。そこまで切羽詰まってる訳じゃない。


 報酬を四人で分配した。ちょうど一人銀貨一枚だ。

 オスカーたちは銀貨を握りしめて嬉しそうだ。貧しい村から来た者には、銀貨でも大金なんだろう。初めて自分で稼いだ報酬となれば尚更か。


 銀貨一枚は約一万円相当だ。かかった経費を考えると一日の稼ぎとしては微妙だな。

 まあ、報酬目当てじゃないので、全く問題はないんだが。

 それよりも、今日の反省会と次の依頼だな。


「感激に浸っているところを申し訳ない。次の依頼を決めておきたいんだが」

「そうですね。じゃあまた酒場にいきますか?」

「そうだな」


 俺たちは酒場に移動し飲み物を注文する。

 三人は何か果汁の入った飲み物を頼んだが、俺は前から気になっていたエールに挑戦だ。

 飲み物が行き渡った所で、俺が音頭をとる事にした。


「俺達四人のパーティー『タイスの剣(仮)』の初仕事が無事完了した。まずは乾杯だ!」

「乾杯!」

「乾杯!」

「かーんぱーーい!」


 誰だ。いつもいつも調和を崩すヤツは。

 ノーラ! お前だよ!


 俺達は手に持った木製ジョッキを掲げ、軽くぶつけ合った。

 俺はジョッキに口を付けぐいっと一口飲んだ。うっぷ。まずい。

 エールはぬるく水っぽい。正直言ってまずい。

 キンキンに冷えたビールに慣れ親しんだ俺には、この世界のエールは飲めそうもない。

 でも、もったいないから今日は我慢して飲もう。


「さてと、今日の初依頼は大成功と言っていいと思う。トラブルもなかったし、採集量も想定以上にあった。幸先のいいスタートだ」


 三人の顔を順に見る。皆いい笑顔だ。


「それでだ、次回の依頼について俺から提案させてもらいたいんだが」

「なんでしょう」

「次回も今日と同じ依頼を受けたい。今日は薬草採集に専念して魔物を見ても無視してたが、だいたい森の魔物の様子は分かった。明日は魔物を見つけ次第倒して討伐経験を積みたい。ミルズの森なら、高度な戦闘技術なんて無くても十分戦えるはずだ」


 俺は元々危険など冒すつもりはなく、ソロの薬草採取だけでEランクまで上げるつもりだった。

 だが四人でパーティーを組んでるのだからと、考えを変えたのだ。


「それと、もう一つ提案がある。パーティーメンバーの役割分担についてだ」


 今日の薬草採集は、各自で道具を持ち、各自で薬草を探して、各自で採集を行ってきた。

 これが悪いという訳ではないが、作業効率が良くない気がする。

 せっかくパーティーを組んでいるのだ、役割分担を図り効率を高めるようにすべきと思ったのだ。


 とはいえ、どんな役割分担をすれば効率的なのかは、俺も初心者なので分からない。試行錯誤が必要だろう。

 うまく行かなければ、今日と同じやり方に戻すだけだ。失敗しても損失が出る訳でもない。


 俺は役割分担の意味を三人に説明したうえで、具体的に提案を続けた。


「明日の薬草の採集方法の変更を提案したい。今日見て気が付いたことがある。ノーラ、君は目がいいな。薬草やいやし草を見分けるのが、俺たちの中で一番早い」

「えへへっ、そうかなー?」

「そうだよ。その分薬草の採集はちょっと酷い」

「えーーーーっ、そうかなー?」

「そうだよ。後先考えずに引っこ抜いて袋に押し込んでるだろ。今日買取拒否された物の半分はノーラのだぞ」

「…………」


「だから明日は担当を分けたい。ノーラは捜索係だ。森を走り回ってひたすら薬草やいやし草を探すんだ。見つけたら俺達に場所を伝える」

「掘らなくていいの?」

「君の仕事は場所を伝えるまでだ。伝え終わったら次を探しに行け」

「はーい」


「次はソフィー。君は採集係だ。ノーラから薬草の場所を聞いたらそれを丁寧に掘り出せ。掘り出しが終わったものは、俺かオスカーに渡すんだ。自分で運ぶ必要はない」

「はい、わかりました」


「俺とオスカーは梱包と運搬係だ。ソフィーが掘り起こした薬草を一か所に集めて梱包する。今日の買取拒否の一因は梱包と運搬のミスだ。やり方を見直す必要がある」


 俺はそこまで話をしてオスカーを見た。オスカーが答える。


「わかりました」

「いや、オスカー。俺のはあくまで『提案』で『指示』じゃない。提案を受けるも拒否するも、提案内容を修正するも、それはリーダーである君が判断することだ」


 オスカーが考え込んだ。しばらくして口を開く。


「ノーラはさっきの提案どう思った? 出来そう?」

「魔物討伐は必要だよね。あたしまだ自分のレイピア使った事ないから、今日見た魔物なら練習に良いんじゃないかな。薬草の捜索係は出来そうかな。探すだけなら私だけ楽になりそうだけど、本当にいいの?」


「ソフィーはどう?」

「魔物討伐は避けて通れません。あの森なら大丈夫だと思います。薬草の採集係もちゃんとやってみせます」


「そうか。僕も魔物討伐は必要だと思ってるので、確かにあの森なら大丈夫かな。ただ採集の役割分担は、必要性が理解できないんだけど……」


「それでいい。他人の意見を鵜呑みにしないのは大切な事だ。で、君はどうしたい? 明日も今日と同じがいいのかい?」


 オスカーが考え込んでる。

 役割分担には否定的だが、強く反対する理由があるわけでもないといったところか。


「じゃあ、少しだけ俺の案でやってみないか? 駄目そうなら今日と同じ方法に戻すという事で」

「わかりました。明日はタツヤさんの案でやりましょう」

「言っておくが、俺のは素人の思い付きだからな。実際にやってみたら、ここが駄目とか全く駄目とか、絶対に出てくるはずだ。状況を判断して方針を大きく変えるとか、手順を見直すとかは皆で意見を出し合って、臨機応変にやっていこう。最終判断はリーダーの仕事だ」

「わかりました」


 言いたいことはまだまだあるが、初めての依頼達成で歓喜しているのに水を差すのは避けたい。


「じゃあ固い話はここまでだ。今日は初依頼達成のお祝いだ。俺が奢るよ。街へ繰り出さないか?」


 三人の歓声が響いた。

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