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第11話 初仕事

 俺は少年少女三人組とパーティーを結成した。

 まあ、仮パーティーだけどな。


「さてと、後はどの依頼を受けるかだな。何か受ける依頼は決めてるのか?」

「いえ、まだ決まってません」

「あたしは薬草採集がいい。簡単そうだから」

「私も賛成です。初めてのお仕事は危険の少ないのがいいです」


 ノーラとソフィーは薬草採集か。俺は元々そのつもりだったし。

 そもそもこのメンバーは戦闘経験皆無の素人集団だから、ちゃんとした魔物討伐はまだ無理だ。


「オスカーも薬草採集でいいか?」

「問題ないです」

「じゃあ決まりだ。常時依頼だから受注手続きは不要と。薬草といやし草の採集でいいか? 薬草なら20本。いやし草なら10本で依頼達成だ。だけど四人で依頼を受けるから一人当たりの報酬が少なくなる。採集は持ち帰れる最大量としよう」

「了解です」


「薬草といやし草がどんなのか分かる?」

「薬草は知ってます。いやし草は見た事がないです」

「ギルドの資料室にある植物図鑑にどっちも載ってる。後で三人で見ておいてくれ。文字は読めるね?」

「ソフィーは読み書きできます。僕とノーラは書けないけど読めます」


「薬草といやし草の群生地は知ってるか?」

「知りません」

「受付で聞けば教えてくれる。これも三人で聞くようにしてくれ。俺はもう聞いて知ってるが、この国の常識がないから思い違いがあると怖い。君たちも自分の耳で聞いておいて欲しい。地図は俺が持ってるから無理して買わなくても大丈夫だ」

「はい」

「群生地に出没する魔物の情報も聞いておいてくれ。知らない魔物がいたら、資料室の図鑑で確認だ」

「はい」


 群生地や魔物の情報は、受付嬢のレナから聞いてはいたが、彼らと一般常識の乏しい俺では、同じ情報でも認識に差があるかもしれない。

 俺の気が付かない点を指摘してくれるのならば、パーティーを組む意味は十分ある。


「採集道具は持ってるか?」

「採集道具?」

「薬草を掘り出すスコップとか採集した薬草を入れる袋とか縛る紐とかだ。言っておくが薬草類は葉の部分を取るだけじゃ駄目だそうだ。根を土ごと掘り出して持ってこないと葉の劣化が早くて納品できない場合があるらしい。だから根を傷付けないように掘り出したり、収納する道具類が必要だ」

「…………」

「明日、街を出る前に雑貨屋に寄って買っていこう」

「はい」


「必要な道具の購入代金は俺が出すよ。その代り買った道具は俺がパーティーを抜ける時に持っていくからな」

「はい」


「そんな所かな。他に何かなければ今日のところは解散かな。明日、二の鐘にギルドに集合でいいか?」

「はい」


 オスカーが固い表情をしている。『はい』しか言わなくなってしまった。

 自分たちがどれだけ準備不足のまま依頼を受けようとしていたのか、ここに至って気が付いたようだ。たかが薬草採集と気軽に考えていたのだろう。


 彼らが今後も三人でパーティーを続けるつもりなら、もっと危機感を持たないとまずい。

 俺が付き合うのはFランクの間だけだ。


「オスカー」

「はい」

「君がパーティーのリーダーだ。胸を張れ。誰にでも初めてはある。俺達はみんな初心者だ。知らない事は恥じゃない。これから覚えていけばいい」

「はい」


「明日からは君が俺に指示を出すんだ。君はリーダーで俺はメンバーだ。自分で分からない事は俺やソフィーやノーラに聞くんだ。俺の答えられる事はちゃんと答えるし相談にも乗る。だけど、それを聞いた上で判断を下すのはリーダーの君の仕事だ」

「はい」


 オスカーが弱々しく返事を返した。本当に大丈夫かな?


(はあ、引率係かと思ってたが、正しくは新人教育係だな)


 俺の職場では毎年新入社員が数名配属され、新人教育はその時期に仕事に余裕のある者が行うのだが、どういう訳か俺に担当が回ってくる事が多かった。


 家で娘に『また新人教育係を押し付けられた』と愚痴をこぼしていたら、『新人にあれこれ命令して、俺は偉いんだぞってふんぞり返ってればいいんでしょ。楽しそうじゃん』とのたまった。


 おい、娘よ! 教育係がそんなお気楽な仕事な訳ないだろ!


 教育となれば、事前に資料や機材を揃えて教育カリキュラムを考える必要があるし、講義や実習なんて、朝から晩まで付きっきりだ。


 おまけに新人の中には、IT企業に就職したにも関わらずパソコンが使えないなどという猛者もさが混じっていた事もあるのだ。

 俺はキーボードの打ち方から教えなきゃいかんのか!?

 あの時は本気で人事部に殴り込みに行こうと思ったものだ。


(はあー、異世界まで来て新人の教育係とは何の因果か。俺が教育されたい方なのに……)


「そんなところかな。じゃあ、明日の朝、ここに集合だ」


 何だか疲れたよ。明日はもっと疲れそうだ。今度こそ営業終了だ。

 早くクラレンス商会に帰って美味しい夕飯を食べさせてもらおう。


 ああ、そうだ。何日か冒険者稼業に精を出す事、クラレンスに伝えておかなければ。



 ◇◇◇



 翌朝、俺が冒険者ギルドに足を踏み入れると、既にロビーで三人組が待っていた。


「おはよう。みんな早いな」

「おはようございます」

「タツヤさん。おはようございます」

「おっはー」


 一人だけ気の抜けた挨拶を返したヤツがいるぞ。まあいいけど。


「パーティー名は決まったかい?」

「みんなで話し合って『タイスの剣』にしました」

「タイスって君たちの村の名前だっけ?」

「ええ、そうです」


 おかしいな。昨日ここで議論してた時は、もっと中二病的パーティー名が飛び交ってたはずだが……。


 確かノーラは『青い彗星』とか『黒い巨星』とか『赤い三連星』とか日本人転生者疑惑を抱かせる名前を強硬に主張していたはずだ。


 対するソフィーは『白百合の乙女』とか『黒薔薇の少女』とか、おとめチックな名前を連呼していた。

 ……なあ、オスカーの存在を無視してやるなよ。


 そしてオスカーはと言えば、魂の抜けたような顔で黙り込んでいた。


 で、結論が『タイスの剣』って。なんか地味だ。たぶんこれ、オスカーの命名だな。


「実は意見がまとまらなくて……。結局、この名前はタツヤさんが抜けるまでの仮パーティー用として付けました。ちゃんとしたパーティー名はもう少し時間を掛けて決めます」

「君らのパーティーだから俺は何でもいいんだけどね」


 嘘です。『白百合の乙女』は止めて欲しいです。


 俺達は受付カウンターで、冒険者パーティー『タイスの剣(仮)』を登録した。


「オスカー。今日の行動予定と何か注意点があれば教えてくれ」

「まずは雑貨屋で採集道具を購入し、そのあと門前の露店で今日の昼食を買おうかと思ってます。準備が終わったら、街の南にあるミルズの森まで徒歩で移動します。だいたい移動は片道二時間弱と見てます」


 おお、オスカー君。なかなかいいぞ。


「ミルズの森には魔物はほとんどいないはずです。出てもスライム、角ウサギ、スモールボア程度です。初心者でも十分倒せるらしいので、遭遇したら倒すも無視するもどちらでもいいと思います。万一手に負えない相手なら逃げましょう。追ってはこないはずです」


 オスカー君。何だか昨日とは違うぞ。本当にどうしたんだ?


「薬草20本、または、いやし草10本が依頼達成の最低ラインですが、持ち運べる限界まで採集します。今日は野営を想定していないので、採集が規定数に達していなくても街の閉門に間に合うように撤収します」


「了解した。リーダー、素晴らしい」


 俺が称賛するとオスカーの顔に笑みが浮かんだ。ノーラがそっと俺に教えてくれた。


「昨日あれからギルドの資料室に籠って資料読み続けてたんだよ。暗くなってからはギルドの人を捕まえて薬草採集の話を聞いてたみたい」


 オスカーはやればできる子だな。

 よしよし。俺の会社の新人どもよりよほど優秀だ。


「リーダー。準備完了だ。出発前にメンバーへ何か一言」


 オスカーは何を言えばいいかしばらく考えていたが、やがて口を開いた。


「これより『タイスの剣』は薬草採集に出発します。初依頼、頑張りましょう!」

「おう!」

「頑張りましょう!」

「ヒャッハー!!」


 一人だけ妙なノリのヤツがいるぞ。まあいいけど。


 街を出る前に雑貨屋に寄る。先日、テレーゼと来た雑貨屋だ。


「採集に必要な道具を揃えていこう。スコップに袋と紐は必須だな。オスカー、他に何がいる?」

「僕はナイフを一本持ってますが、採集用にもう一本はあったほうがいいです。あとお金があればポーションと毒消しを一本づつ持っていった方がいいですね」

「ノーラ。それ以外に何か足りないものはあるか?」

「うーーーん。閉門に間に合わなかった時に備えて保存食かな」


 確かに想定外への備えは必要だ。買っておこう。


「ソフィーは何かあるか?」

「あの……この笛どうでしょうか? 森ではぐれて迷子になった時のために……」


 あまり自分の意見に自信が持てないのか、声が小さくなっていく。

 正直に言えば笛の必要性がどの程度なのかなんて、俺には判断できなかったが、ソフィーが自主的に提案したのなら買っておこう。


「そうだな。そこは俺も気が付かなかった。さすがソフィーだ。四つ買って各自で持とうか」


 ソフィーにはもっと自信を持って行動して欲しいな。

 今後は頻繁に褒めるようにするか。


 俺は名前の上がった品々を買って、背負い袋に放り込んだ。

 ナイフは結局三本買い足して、全員が一本ずつ持つ事にした。


 俺自身は武器を何も持ってなかったので、鞘付きの鉈を買ってベルトに取り付けた。

 本当は普通に剣でも買った方がいいのだろうが、武器の使い方など知らない素人なので、下手に長い刃物を振り回すのは危険な気がする。

 鉈は森の木の枝や蔦を払う用途だが、スライムやウサギ相手ならこれで十分だろう。


 その後、門前の広場に移動し露店で昼食用の弁当を買った。


 門の守衛にギルドプレートを見せ、街の外に出る。

 ミルズの森までは、歩いて二時間弱だ。


 日帰りであれば、往復に時間が掛かるため、森に滞在できる時間は限られてくる。


 野営するのであれば採集に十分時間を掛けられるが、代わりに重い野営道具を持ち歩く必要があり、採集量が増えても運べる量が減ってしまう。


 馬車を使えば早く移動でき、多くの採集物を運べるが、馬車と御者の借り賃を考えるとよほど大量に収穫しないと割に合わない。

 薬草が想定量まで採集できなかった場合は、赤字になるためリスクが大きい。


 そんな理由で、薬草採集などは徒歩での日帰りが一般的である。


 ミルズの森までの道中、三人が村から出て冒険者になろうとした経緯を聞いた。


 何でもソフィーに魔法を教えた魔術師が、村ではソフィーの才能を伸ばせないと、街へ出て修業する事を勧めたそうだ。

 修行と言ってもこの場合は、誰かに教えを請うのではなく、冒険者として実戦を通して魔法の腕を磨くという意味だ。

 それをオスカーとノーラが聞きつけ同行を申し出たという事だ。


 貧しい村では働き口など碌になく、大人になればいやでも外に働きに出なくてはならない。

 であればいい機会だし、仲良し三人組で一緒に冒険者になろうと村を出てきたという。


 この国では十五才からが大人とされ、冒険者も成人でないと登録できない。

 こんな子供が命を危険に晒す冒険者になるとは、異世界も世知辛い世の中だ。


 たった十五で生まれ育った村から知らない街に出て、頼る者もない中、自力で生きていくなんて……。俺の娘よりも若い子達なんだよ……。

 彼らには俺に出来る範囲で手助けする事にしよう。


 二時間後、俺たちは無事にミルズの森に到着した。

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