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第10話 初心者パーティー結成

 俺は今、冒険者ギルドの掲示板の前に立っている。


 Fランク冒険者は一ヵ月以内に三回依頼を受けないと登録抹消だと脅され、仕方なしに依頼を受けることにしたのだ。

 ソロのFランクは常時依頼の薬草採集がお勧めらしい。


 常時依頼は受注手続は必要はなく、指定された物品を規定数量をギルドに持ち込めば、それで依頼達成となる。

 そのため通常の依頼と違ってランクによる受注制限がない。

 誰でも受注は可能だが、低ランク者にとって貴重な収入源となるので、高ランク者の受注は自粛を求められる。


 俺は掲示板に貼られた依頼を順にチェックしていく。


 初心者向けは「薬草×20」とか「いやし草×10」とかだ。どちらも報酬は小銀貨五枚。

「マンドラゴ×3」なんていうのもあるが、名前からして危険そうで上級者向けだ。

 ところで、薬草とかいやし草とか、どんな植物なんだ?


 受付嬢のレナに聞いてみると、ギルドの資料室が無料で利用できるとのこと。

 Fランク冒険者への新人サポートの一環らしい。

 俺のような何も知らない新人には大いに助けになるな。


 資料室の植物図鑑で薬草といやし草を調べると、説明文と挿絵が載っていた。

 全部は覚えられないので、こっそりスマホで撮影しておく。


 後は薬草といやし草の群生地を調べればいいのだが、資料室には見当たらない。

 受付に戻ってレナに聞くと、机の引き出しからレマーンの街の周辺地図を取り出して群生地を教えてくれた。

 レマーンの街の南にあるミルズという名の森で採集できるとの事だ。

 魔物も小型のものしか出ないので初心者でも比較的安心らしい。


 見せてくれた地図はギルドで販売もしているそうだ。

 地図は小銀貨三枚。大雑把で簡単なメモみたいな地図なのにちょっと高くないか?


 まあ情報は大切だ。お金には不自由してないから、多少高かろうが買っちゃうんだけどね。

 代金を支払い地図を購入し、群生地を書き込んでレナに間違いがないか確認してもらう。


 その後も受付業務の合間を見計らってレナの所に押し掛け、採集作業についての注意点やら疑問点を聞けるだけ聞きまくった。

 レナには迷惑を掛けてしまったが、初心者サポートの一環という事で勘弁してもらおう。


 さて、冒険者ギルドで出来る事はこんなものか。ミルズの森での採集は明日だな。採集道具の準備も明日でいいだろう。

 よし、本日の営業はこれにて終了だ! クラレンス商会に帰るか。


 俺がギルドを後にしようと扉に手を掛けた時、後ろから声を掛けられた。


「あの、すいません。少しお話させてもらえませんか?」


 後ろを振り返ると、先程チンピラ冒険者に絡まれていた少年少女三人組が立っている。

 声を掛けたのは魔術師の少女だ。


「俺? さっきの事ならもう気にしなくていいよ」

「いえ、その事もありますけど……。あの、今日、冒険者登録されたんですよね? どこかのパーティーに入られるんですか?」

「いや、しばらくはソロだな。一人で薬草取りでもしようかと思ってる」

「あの……、私たちとパーティーを組みませんか?」

「は?」


 思わず魔術師の少女の顔を凝視する。少女は顔を赤くして俯いてしまった。

 コミュニケーションが苦手な子なのかな。

 他の二人を見ると、何か悲痛な目でこちらを見てる。状況がよく分からない。


「とりあえず話を聞こうか。向こうの酒場で何か飲みながらでいいか?」

「ありがとうございます。あの、私、ソフィーといいます。こっちはオスカーとノーラです」

「僕はオスカーです。よろしくお願いします」

「あたしはノーラ。よろしくね」

「俺はタツヤ。新米冒険者だ」


 酒場のテーブルに移動し飲み物を注文する。飲み物が来たところで、俺は話を促した。


「それで、いったいどういう訳で俺に声を掛けたんだ?」


 少年戦士のオスカーが口を開いた。


「実は僕たち、冒険者になりたくてタイスの村から出て来たんです。今朝この街に来て冒険者登録は済ませました。僕たちだけでは力不足なので、どこかのパーティーに入れてもらおうと思ったんですけど、どこも入れてくれなくて……」


 小柄な剣士のノーラが後を続ける。


「あたしとソフィーだけなら入れてくれるってパーティーはあったんだけど、三人一緒じゃないとイヤだって断ったんだ」


 女の子二人だけ取り込もうとは、魂胆が見え見えではないか。それは断って正解だな。


「入れてくれるパーティーが見つからないんで、諦めて僕らだけで依頼を受けようかと思ったんですけど、魔物討伐はした事ないし、薬草採集はどこに行けばいいのかよく分からないし……」

「それで困ってたらさっきの男の人が……。そこへタツヤさんが現れて助けてくれたんです。タツヤさん冒険者登録されてるようでしたし、お一人で依頼受けるみたいでしたし……。だからその……あの……ええっと……」


 ソフィーが俯いて、じもじししながらテーブルの上に人差し指で「の」の字を書き始めた。

 うわぁ、本当にこんなことする人初めて見たな。


 状況は理解した。

 自分達だけではどうしていいか分からず困ってたところに、頼りになりそうなお兄さんが新人冒険者として現れた。

 チンピラから助けてくれたから悪い人ではないだろうし、大男を倒す実力もある。

 同じFランクだから受ける依頼も似たような物だろう。

 薬草の採集に一人で行くみたいだし、誘ったら仲間になってくれないかな?


 ……ってな感じかな。


 初心者でも数を集めれば何とかなると思ってるのだろうか?

 まあ、間違ってるとは言わないが、ちょっと考えが甘すぎないか?


「Fランクの冒険者にはギルドがパーティー加入の斡旋をしてくれるはずだよ。頼んでみたかい?」

「一人ずつ別々のパーティーなら斡旋できるけど、三人一緒はまず無理だって言われました」


 そりゃそうだ。初心者を鍛え上げるには手間暇がかかる。戦力にならない新人を一度に三人も抱え込むなんて物好きなパーティーはないだろう。

 ……まあ、下心があれば話は別だが。


 さてどうする?

 これはパーティーへの勧誘というより、引率者の募集といった感じか。

 俺も初心者だから何が出来るという訳でもないんだが……。


 こちらにメリットがありそうには思えない。というかデメリットしか思いつかない。

 本来なら即座に断る所だが、俺も彼らと行動を共にすることで、この世界の常識をより広く得られるかもしれない。


「いくつか聞かせて欲しい」

「何でしょう?」

「君たち何才?」

「僕たちみんな十五才です。成人してます」


 なんてこった!? 若いとは思ってたけど、十五才だと? 日本なら中学生だよな。

 俺の娘より遥かに若いじゃないか。


「魔物を倒した事は?」

「……ないです」


「オスカー。君は誰に剣を習った?」

「習ってません。この剣は昔、村に流れてきた元冒険者が病気で亡くなる間際に『世話になった礼だ』と言ってくれたものです。剣は毎日振ってますが自己流です」


「ノーラ。君は?」

「あたしは剣なんて使った事ないよ。これは村を出る時に村長が餞別にくれたんで差してるだけだよ」


「ソフィー。君は魔術師だな。どうやって覚えた。どんな魔法が使える?」

「私の村に一人だけ魔術師のおばあさんがいて、そのおばあさんに習いました。使えるのは生活魔法をいくつかと、攻撃魔法のファイヤーボールだけです。ファイヤーボールは一日に三、四回使えます」


 使えそうなのは魔術師のソフィーだけか。

 いや、ファイヤーボールというのがどの程度の威力なのか確認しないことには、判断はできない。

 それに攻撃魔法が三、四回ってのは、多いのか少ないのかどうなんだ?


 戦士のオスカーはともかく、剣士のノーラに至っては剣士でさえなかった。

 お前いったい何が出来るんだ?


 ……すまん、ノーラ。言い過ぎた。

 よく考えたら俺も何も出来ない役立たずだったよ。

 いや、俺の方がひどいな。自称戦士のくせに武器さえ持ってない……。


 まあ、ここまで話を聞いて見捨てるのも後味が悪い。

 俺もさんざんクラレンスに助けてもらったからな。


「分かった。君たちのパーティーに入ってもいい。その前に俺も君たちに伝えておく事がある。それを聞いても考えが変わらなければ加入するよ」


 三人が表情を引き締めて俺を見ている。


「まず、俺はEランク昇格のために依頼を受けるだけだ。だからEランクになったらパーティーは抜けさせてもらう」

「分かりました」


「依頼達成の報酬は四等分。役割によって労働量に差が出るかもしれんが、俺には正確な評価はできん。後で揉めたくないから働きにかかわらず報酬は四等分にしたい」

「問題ないです」


「俺は一応戦士として登録してるが、実際は戦闘なんてした事がない。戦力として過剰な期待はしないでくれ」

「了解です。そこは僕たちも同じですから」


「最後に。俺は放浪者だ。つい先日この国に飛ばされて来た。記憶の大半を失ってるせいで、自分の生まれた国も分からない。俺にはこの国の常識っていうものがない。君たちにとっては当たり前のことが俺には分からない。どこかで足を引っ張るようなことをしでかす可能性を否定できん。今後パーティーを組むのであれば、そこは理解しておいて欲しい」

「…………」


 先ほどまでは、俺の話にうんうんと頷いていたが、放浪者のくだりで頷きが止まった。


「伝えておくことはこれくらいかな。俺は席を外すから、後はそちらで相談して俺を加えるかどうか決めてくれ」


 俺は酒場のテーブルを離れ、ギルドのロビーの椅子に腰を下ろした。

 放浪者の設定は便利だな。何か問題が出ても『放浪者なので』って言えば大体のことは誤魔化せそうだ。


 間もなく三人が連れ立ってやってきた。オスカーが俺の前に立ち手を差し出した。


「タツヤさん。改めてお願いします。僕たちのパーティーに参加してもらえませんか」

「了解した。こちらこそよろしく」


 俺はオスカーの手を握り返し、続けてソフィーとノーラとも握手を交わした。

 俺は改めて三人を見た。


 オスカーは金髪の細身のイケメン君だ。

 日本に連れていったらモテまくりそうな感じだ。

 戦士風の皮鎧の装いをしているが、背中の大剣が大きすぎて不釣り合いだ。

 体より頭の方が得意そうな感じで一応三人のリーダーだ。


 ノーラは赤毛ポニーテールの小柄な女の子だ。

 革の胸当てだけの軽装に、腰にはレイピアを差している。

 見た目が元気いっぱいの女子中学生といった感じで愛嬌がある。

 オスカーとは逆に運動神経はかなり良さそうだが、物事を深く考えないタイプと見た。

 腰のレイピアはお飾りのようだし、何が得意かはまだ分からない。


 ソフィーは金髪セミロングの清楚なお嬢さんタイプか。

 三人の中では一番戦力になりそうな感じだが、人との会話が苦手なようで、いつもオドオドしてる。

 こんな性格でなんで冒険者になろうって思ったんだろうな?


「じゃあ、パーティー登録するか。そういえば君たちのパーティー名は?」

「まだパーティー登録してないので名前は決めてないです」

「名前なしでも登録できるの?」

「……さあ」

「早速だがパーティー名を決めてくれ」


 三人がワイワイと相談を始めるが、なかなか決まらない。

 議論が白熱してだんだんソフィーの声が大きくなってきた。

 何事かとこちらを見ている者がちらほらと。


「パーティー登録は明日にしようか。君達、明日までにパーティー名を決めておいてくれ」


 顔を真っ赤にしたソフィーが両手で顔を隠している。

 大声を出して自分が注目を集めていた事に、今更ながら気付いたのだろう。なかなか面白い子だな。


 初仕事は子供の引率か。

 本当は人の事を気に掛けてる余裕なんて無いんだけどな……。

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