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第128話 髑髏の男

 霧の中から現れた船長姿の骸骨は、ノーラとソフィーの前へと進み出た。

 その他の彼女たちを包囲している影は、霧の中から動く気配はない。


「ソフィー、助けてー! あたし、あたし、アンデッドだけは駄目なのー!」

「私だって苦手です! だいたい、何だってこんな街の近くにスケルトンがいるのよ?!」


 ソフィーは周囲を取り囲む黒い影を見回してから、目の前の骸骨へと視線を戻した。

 この骸骨、見事に船長服を着こなしている。単なるスケルトンとは思えない。


(まさか、リッチ!?)


 リッチは一応Cランクの魔物だが、個体差が大きく中にはBランクの強さを誇るものまでいると聞く。

 目の前の船長服の骸骨もソフィーとノーラの二人掛りでも倒せるかどうか怪しい。

 それに周囲の霧の中には、多数の黒い人影が待ち構えているのだ。


 これは勝てない。ソフィーの勘がそう告げていた。


 骸骨の黒い眼窩がソフィーをじっと見つめている。

 恐怖に体を震わせながらソフィーは声を潜めてノーラに囁いた。


「ノーラ、私が船長服に攻撃したらオスカーを連れて……」


 ソフィーはそこで言い淀むと、地面に横たわり激痛に悶えているオスカーを一瞥した。

 どう見てもオスカーを連れて逃げるのは無理だ。


「いえ、一人で隙を見て逃げて。オスカーとフローラさんは気にしないで。霧の中に何が隠れてるのか分からないけど、何とか逃げのびて」


 そう言うソフィーの前にノーラが立ちはだかった。

 その震える手で銃を構えて骸骨船長に向けている。


「ソフィーの馬鹿! あたしは最後まで諦めない! みんなを置いて逃げるより、みんなで助かる道を選ぶ!」


 実に勇ましいセリフではあったが、そう言いきったノーラの顔はアンデッドに対する恐怖で引きつっており、銃を握る手はガクガクと震えている。

 そんなノーラの言葉に、ソフィーも覚悟を決めた。


「分かったわ。前言撤回。私が一撃入れるから、次の魔法が撃てるようになるまで援護をお願い。私たちでオスカーとフローラさんを守り抜くわよ。もっともアンデッドに私の魔法が通じるかどうか分からないけど、駄目なら私のスーツをオードモードにして戦うわ」


 ソフィーが魔法の詠唱を始めようとした時、目の前の骸骨船長が腰のサーベルを鞘ごと外した。


「ノーラ、来るわよ!」

「いつでもいいよ!」


 骸骨船長が腰から抜いたサーベルを手に持ち…………ポイっとばかりに放り出した。

 そしてそのまま両手を上げた。


「何やら二人で盛り上がっているところ申し訳ないのだが、君たちは勘違いしてる。こんななりをしているが私は君たちの敵ではない。話し合いをしたいだけだ。戦う意図は全くない」

「が、が、骸骨がしゃべった!」


 骸骨船長はソフィーやノーラの驚きを軽く受け流し言葉を続けた。


「もう一度言う。私は君たちと敵対するつもりはない。その上で言わせてもうが、君たちの仲間、早く治療しないと危ないぞ。我々なら彼を治療できる。どうだろう、彼を治療させて貰えないか?」

「アンデッドが人間の治療を?」

「こちらにはポーションと治癒魔法師の用意がある。自分たちで治すと言うなら余計な口出しはしないが、彼の足は出血したままだ。早く治療した方がいいと思うぞ」


 オスカーの右足の傷は出血が続いており、早急な処置が必要であることは明白だ。


 ソフィーとノーラは顔を見合わせた。

 この骸骨船長は明らかに普通のアンデッドとは違う。向こうがその気になれば、こちらを難なく倒せるだろう。それが敵意はないと武器を投げ捨てて見せた。


 ソフィーとノーラはどちらからともなく頷いた。


「分かったわ。まずは彼の治療をお願い。でももし何かおかしな真似をしたら……」

「心配は無用だ。まあ口で言っても安心出来んだろうが、横で治療を見ているといい」


 骸骨船長が指をパチリと鳴らすと、周囲を取り囲んでいた黒い人影が近づいてきた。

 霧の中から姿を現したのは、海賊衣装に身を包んだ十以上のスケルトンだった。


 その海賊スケルトンの一人が横たわり苦しんでいるオスカーに近づき、身体のチェックを始めた。

 そしてポーションの瓶を取り出すとオスカーの足の傷口に振りかけた。傷口はみるみる塞がり出血も止まった。

 更に海賊スケルトンは呪文を唱え、オスカーの足に手をかざした。


「ヒール!」


 オスカーの足が淡い光に包まれる。どうやら本当に治癒魔法を使っているようだ。

 その海賊スケルトンが髑髏の顔でソフィーを見た。


「右足の刃物による裂傷はポーションと治癒魔法の併用で治しましたが、しばらく安静が必要です。それとは別に肉体を酷使した影響で全身の筋肉組織に損傷が認められます。これはポーションや治癒魔法では治癒は望めず、数日安静にしていれば自然に回復するものです。ただ治癒するまでの間ずっと激痛が続きますので、完治するまで魔法で眠らせておくことをお勧めします。どうします? 眠らせましょうか?」


 ソフィーが驚いた事に、治癒魔法を使ったスケルトンは若い女性の声をしていた。

 そもそもアンデッドが言葉を話す事自体異常なのだが、それが若い女の声となると違和感が半端ない。


(そもそも喉がないのに、どうやって声を出してるのかしら?)


 そんなどうでもいい疑念が浮かぶのを脇に追いやり、オスカーの対処を考える。


「苦痛を取り除けるなら眠らせて欲しいけど、こんな森の中でオスカーを眠らせる訳にも……」


 躊躇するソフィーに骸骨船長が助け船を出した。


「問題ない。我々が彼を希望する場所まで送り届けよう。何なら完治するまでこちらで面倒を見ても良い」


 ソフィーの眉が顰められた。


「なぜそこまで私たちに肩入れするの? あなたの目的は何?」

「彼の治療の代償に君たちが倒した男たちの身柄をこちらに引き渡してもらおうと思ってね。深手を負っている者は多いが、死んだ者はいないようだ」

「何故彼らを?」

「屋敷に捕らわれていた女性とその救出に来た男性。その二名が屋敷内で消えたはずだ。我々は彼らに何が起きたのかを突き止めたい。そのため当事者の尋問をしたいのだよ」

「待って! 消えた二人に何があったか知りたいのは私たちも同じよ」

「では尋問で得られた情報は君たちにも知らせよう。それで、交渉は成立したと受け取って良いのかな?」

「ええ。倒した男たちはそちらに引き渡す。引き換えにオスカーの治療とタツヤさんエルさんの情報の提供。それで了承するわ」


 骸骨船長が配下の海賊スケルトンたちに指示を出す。


「お前たちは倒れている男たちの回収に行け。尋問の前に死なれても困る。最低限の治療はしておけ。船に連行したらすぐに尋問を始めるから尋問官を集めろ」


 先程オスカーの治療に当たっていた女性スケルトンが、フローラの処置を終えて結果を船長に報告している。


「船長。もう一人の女性は麻痺と沈黙の魔法を掛けられていましたので解呪しておきました。しばらくすれば起き上がれるはずです」

「ご苦労だった。二人を医務室に搬入しよう。担架をここへ」


 ソフィーとノーラに向かい骸骨船長は言った。


「オスカー君とフローラ嬢は、私の船に収容し回復するまで面倒をみよう。君たちも一緒に来たまえ」

「船って何のこと?」

「その目でしかと見るがいい」


 深い霧の中から突如として異様な帆船が姿を現した。

 その船は三本マストの帆船なのだが、まるで海の底に沈んでいたかのように酷く朽ち果てている。

 だがその船の異様さは朽ちた船体などではなかった。何とその船は空に浮いていたのだ。

 空飛ぶ帆船の船首近くには黒い旗がはためいている。

 交差する二本の大腿骨に頭蓋骨。いわゆる海賊旗と呼ばれる旗だ。


 骸骨船長が誇らしげに宙に浮く帆船に腕を差し向けた。


「見たまえ。これが我が幽霊海賊船『ウンディーネ』だ」

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