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第127話 奪還(2)

 オスカーが屋敷の正面で敵の注意を引き付けている正にその時、俺とノーラは屋敷の裏手でコソコソと調査活動にいそしんでいた。


「ノーラ、ここだ。二人はこの壁の向こう側にいる。床に座ってるみたいだな」


 スーツに装備された赤外線センサーを使えば、石壁越しでもある程度人の存在や動きを感知できる。そのセンサーが二人の女性の姿を捕えたのだ。


 どうやらエルとフローラは屋敷の一角、窓の無い物置部屋にいるようだ。

 物置部屋は窓こそ無いものの、天井付近には外に通じる通気口が設置されている。

 通気口は頑張れば俺でもギリギリ通れそうなサイズだ。


「二人の他に見張りが一人いるみたいだな。俺は上の通気口から忍び込んで見張りを倒してくる」

「忍び込むなら、小柄な私の方が適任だと思うけど」

「ノーラの銃は音が大きいから、使えばすぐに潜入がばれる」

「うーん。まあ、そうかもね」

「見張りを倒して物置部屋を制圧したら、もう物音を立てても構わない。ノーラは物置部屋の外壁に穴を開けて二人を連れ出してくれ」

「了解」


 朽ち果てたこの屋敷を調査した際、外壁の一部に劣化の進んだ箇所を見つけたのだ。

 石材がボロボロの状態だったから、スーツの力で蹴れば壁に穴を開けられるはずだ。


 開けた穴から二人を脱出させてしまえば、もう手加減は不要だ。

 後はソフィーに屋敷ごと敵を吹き飛ばしてもらえば一件落着だ。


 屋敷の表側ではオスカーが敵を引き付けているはずだ。手早く片付けてしまおう。


 俺は軽くジャンプして高所にある通気口に飛びついた。

 通気口を塞いでいる木蓋を少し開けて室内を覗き込む。


 いた。

 何も物が置かれていない物置部屋の中央に二人の少女がいた。

 間違いない。エルとフローラだ。


 近くには見張りの男が一人立っている。

 手には拳ほどの大きさの玉が握られており、男はその玉に向かって何か小声でブツブツと呟いている。


(あれは独り言か? 何だか気味の悪いヤツだな)


 見張りだというのに、男は周囲に全く注意を払っていない様子だ。

 部屋の中に他に人影はない。これはチャンスだ。


 部屋に侵入しようと通気口の木蓋を外した俺は、そこで思わず動きを止めた。

 エルとフローラの座っている床が仄かに光を発しているのに気づいたからだ。

 光は何かの模様を形作っている。


(あれは……魔法陣?)


 それは大きな魔法陣だった。エルとフローラはその魔法陣の中心に座っている。

 男の小声の呟きは、いつの間にかはっきりとした強い口調へと変わっていた。


「闇に潜みし因果の番人よ。時を歪め空を裂け。光と闇に支配されし理を打ち砕け!」


 見張りの男が手にした玉を頭上に掲げた。

 玉が強い光を発し出し、それと同時に室内に濃密な魔力が満ち溢れた。


(こいつ、魔術師か!)


 魔術師は大量の魔力を必要とする魔法を行使しようとしている。

 エルとフローラは魔法陣の上だ。それがまともな魔法とは思えない。

 あの魔法を発動させてはならない!


 躊躇している暇はなかった。俺は通気口に飛び込むと室内へと躍り出た。

 魔術師の男は目を閉じ呪文の詠唱に集中しており、俺が侵入したことに気付いてさえいない。


 エルたちと魔術師。

 どちらを対処すべきか一瞬だけ迷ったが、考えるより先に体が動いていた。


「せいっ!」


 俺は魔法陣に駆け寄ると、そこにいたフローラの腕を掴み魔法陣の外へと放り出した。

 かなり乱暴に投げ飛ばしてしまったが、そんなことに構っている余裕はなかった。


 続けてエルの腕を掴み放り出そうとしたのだが、少しばかり遅かったようだ。

 足元の魔法陣が急に眩いばかりの光を放ち、その青い光が俺とエルの体を包み込んだのだ。


(くそっ、間に合わなかった!)


 視界が歪む。平衡感覚が失われ耐えがたい吐き気が襲ってきた。

 俺はエルの腕を掴んだまま、思わず目を閉じた。



 ◇◇◇



 屋敷の前ではオスカーと敵のリーダーとの戦闘が繰り広げられていた。


 序盤こそ互角に見えていた戦いも、徐々にオスカーは押され気味となり、とうとう敵の猛攻により手傷を負わされてしまった。


 満身創痍のオスカーは折れそうになる心を奮い立たせるべく、自らに向かって檄を飛ばした。


(負けられない! 僕が負けることは絶対に許されない! 僕が負ければ捕らわれたエルさんやフローラさんは二度と取り戻せない! 手段を選ぶな! 躊躇うな! 己が力で戦えないことを恥るな! 守りたいものを守れないことを恥じろ! 戦う力を掴み取れ!)


「スーツよ! 僕に力を貸せ! オートモード!!」


 オスカーの叫びに応えるように、彼の纏う鳥風特殊スーツが淡い光を放ち始めた。


 全身を蝕んでいた痛みが徐々に引いていく。

 これなら傷を負わされた右足も問題なく動きそうだ。


 だが痛みが消えたからと言って傷が癒えた訳ではない。

 これはスーツが装着者の痛覚を麻痺させているに過ぎないのだ。


 この代償はスーツを脱いだ時に一度に支払わされることになるのだが、今はそれを気にしている時ではない。


 スーツの自動戦闘機能が行動を開始した。


 スーツに操られたオスカーが、大剣を両手でしっかりと掴み正眼に構える。


「ほう、その足でまだ戦うか。小僧、名を名乗れ。俺は名はルーカス。お前の名は?」

「人攫いに名乗る名などありません」

「そうか。それは残念だ。勇敢に戦って死んだと墓碑銘に刻んでやろうと思ったんだがな」


 ルーカスは素早い動きでオスカーに駆け寄ると剣を振りかざした。

 オスカーは大剣でルーカスの剣を受け流すと、返す刀で反撃を加える。


 ルーカスの剣とオスカーの大剣が三度四度とぶつかり合う。

 その度に飛び散る火花が、その剣撃の激しさを物語っている。


「さっきまでと動きが全然違うじゃないか。手の内を隠していたのか、それとも手加減してたのか。俺も見くびられたもんだな」


 ルーカスの繰り出す剣が更に勢いを増した。

 剣を打ち合うこと十数合。互いに致命傷を与えられず一進一退の状況だ。


 オスカーが相手と距離を取るべく、後ろへと大きく跳び退いた。

 同時に腰のベルトから数枚の手裏剣を抜き取り、ルーカスに向けて投擲した。


「小癪な!」


 ルーカスは咄嗟に身体を伏せ手裏剣を躱す。そして開いた間合いを詰めようと伏せた状態から一気に突進した。

 逃げるオスカーにそれを追うルーカス。二人の力は均衡しており、互いに有効打を繰り出せない。


(自動戦闘でもこんなに手こずるだなんて……。これで本当にルーカスに勝てるのか?)


 そんなオスカーの思いがスーツに伝わったのか、スーツは思いもよらない行動に出た。

 至近距離でのルーカスとの鍔迫り合いの最中、ヘルメットに内蔵された強力なライトをルーカスの目に照射したのだ。


「ぐおおっ、目が、目が」


 強烈な光を直視し一瞬で視力を奪われたルーカスが、闇雲に剣を振り回す。

 オスカーはルーカスの手元に大剣を叩き込み、彼の剣を遠くへと弾き飛ばした。

 ルーカスが地面に倒れ込む。

 オスカーはそのルーカスの首筋に大剣の刃を当てた。


「終わりです」

「くそっ、卑怯な真似を……」

「人攫いのあなたに、卑怯などと言う資格はありません」


 ルーカスとの戦闘で自分は何もしていない。

 単にスーツの動きに身を任せていただけだ。


 これが戦士と戦士の戦いであれば、自らの力で戦えと罵られても仕方がない。

 だがこれは誘拐犯と奪還者の戦いだ。

 攫われた者たちを取り戻すためなら僕は手段を選ばない。それが僕の選んだ道だ。



 支援のために森に潜んでこちらの様子を見守っていたソフィーを手招きして呼び寄せる。

 森の中からピンク色の鳥風スーツを着たソフィーが現れた。


(やっぱり目立つよなぁ)


 ピンクの鳥は夜の森でも結構目立つ。

 前にタツヤさんにスーツを地味な色に変えて欲しいと頼んだのだが、ロマンがないとか言って拒否されてしまった。やはりもう一度頼んでみる必要がありそうだ。


「ソフィー。この男の拘束を頼むよ。僕は屋敷の制圧に行くよ」


 右足が血で真っ赤に染まったスーツを見て、ソフィーが強い口調で言う。


「屋敷内の制圧は私がやります。オスカーはここで休んでて」

「いや、まだ中に何人残っているか分からない。予定通り僕がやるよ。ソフィーは外からの支援を頼む」

「でも……」


 心配顔のソフィーを残し、オスカーは屋敷内へと侵入した。

 屋敷の玄関から内部を窺うが、誰も潜んでいる様子はない。


(まだ二、三人はいるはずだけど、どこかに隠れてる? それとも逃げられたか?)


 奥から物音がした。

 オスカーは注意深く歩みを進め、目当ての部屋を見つけ出した。

 中からは何か呪文を唱えるような声がしている。

 扉を開けようとしたが、鍵が掛かっているのか開く気配がない。


 音を立てないよう鍵を壊すべきか、それともドアを蹴破るべきか。

 オスカーがそう思案していると、部屋の中から人が暴れているような物音が聞こえてきた。


 オスカーは扉を蹴破った。

 部屋に踏み込んだオスカーは、そこで異様な光景を目の当たりにした。


 部屋の中央に光る大きな魔法陣が描かれており、その上にタツヤとエルがいた。

 魔法陣の上の二人は淡い光に包まれている。


 そして次の瞬間、二人の姿は跡形も無く消え失せていた。


「え?」


 何が起きたのか分からず部屋の中を見回す。

 二人の消えた魔法陣を見つめ茫然と立ちすくむ一人の男が目に入った。

 部屋の隅には倒れているフローラもいる。彼女は床に横たわり動く気配がない。


「くそっ、何て事だ! あれは一度しか使えないっていうのに……」


 そう呟く男が不意にオスカーを見た。

 部屋に侵入したオスカーの存在に、今更ながら気付いたようだ。


 男はオスカーから距離を取ると素早く魔法を放ってきた。


「ファイヤーボール!」


 男の放った炎の玉がオスカーに直撃し、オスカーの全身が炎に包まれる。

 オスカーはそんな炎などものともせず、燃える身体で男に踊りかかり大剣を閃かせた。


「ぎゃーーー」


 一撃で勝負はついた。

 ルーカスとの死闘を繰り広げた後では、手応えのない事この上ない。


 幸いオスカーの体を包んだ炎は、スーツの表面で燃えただけですぐに消えた。


 オスカーは部屋の隅で倒れているフローラに駆け寄ると、そっと抱き起こした。

 息はしており死んではいない。軽く肩を揺する。


「フローラさん。しっかりして」


 フローラの目が僅かに開いた。

 唇が微かに動き何かを言おうとしているが、うまく声が出せないようだ。


「無理に話さなくてもいいよ。少し休んでいて下さい」


 タツヤとエルが消えた事に関し、何か知っていないかと聞きたかったのだがこの状態では無理のようだ。

 オスカーはフローラをそっと抱き上げた。


 その時、物置部屋の壁がいきなり吹き飛んだ。

 壁に大きな穴が開き、そこから誰かが入って来た。


(伏兵か! まずい! 今襲われたら……)


 大剣は背中の鞘の中、両手はフローラで塞がれている。

 まさか手を自由にするために、フローラを投げ捨てる訳にもいかない。


「あれ、オスカー? タツヤさんは?」


 侵入者は銃口をこちらに向け銃を構えている黄色い鳥、ノーラだった。


「ノーラか。脅かさないでよ。話は後で。まずはフローラさんを外に出そう。もう敵はいないはずだけど、先導してくれないか」


 フローラを抱かえ、ノーラと一緒に屋敷から外に出る。

 屋敷の外で待機していたソフィーがもろ手を挙げてオスカーたちを迎えた。


「オスカー。やったわね、救出成功! エルさんはまだ中?」


 オスカーはかぶりを振る。


「いや、エルさんとタツヤさんは消えた」

「消えたってどういうことよ?」

「言葉通りだよ。二人は変な魔法陣の上にいたんだけど、突然消えてしまった。何がどうなってるのか全く分からない。中に魔術師が一人倒れてる。あの男が何かしたと思うから、締め上げれば何か分かるかもしれない」


 ソフィーが険しい顔つきになった。普段見た事のないような険のある顔をしている。


「……分かったわ。後は私がやるわ」


 オスカーは抱かえたフローラを立木を背にして座らせると、自分も近くにごろりと横になった。


「ソフィー、ノーラ。すまないが後は任すよ。実はさっきからスーツの警報が鳴りっぱなしなんだ。どこか壊れたみたい。バイザーの内側にあと十秒でスーツを強制解除するって表示が出てる」

「何ですって! ちょっと待って。こんな所でスーツを解除されたら……」


 慌てるソフィーの願いも虚しく、オスカーのスーツが強制解除された。

 鳥風スーツが消え失せ、愛用の軽鎧姿に変わった。


「ぐおおおおおおおーーーーー!」


 一気に押し寄せた痛みにのたうち回るオスカー。

 スーツの止血効果が消失したためか、オスカーの右足の傷から鮮血が滲み出ている。


「ノーラ、オスカーの体を押さえて。急いでポーションを。ああ、どうしよう。こんな深い傷、安物のポーションじゃ治らないわ」

「ソフィー、落ち着いてよ。冷静さを失うなってタツヤさんに怒られたばかりでしょ。見た目は酷いけど、これならまだ大丈夫だよ」

「大丈夫って言ってもどうするの? このままじゃ……」

「ちょっと待って!」


 言い募るソフィーをノーラが制した。


「私たち……囲まれてる!」


 いつの間にか周囲には霧が立ち込めていた。

 屋敷も森の木々も全てが深い霧に覆い隠されてしまっている。


 そんな全く先の見通せない白い霧の中、いくつもの黒い人影がノーラとソフィーを包囲していた。人影の数は十以上。


 影はこちらの様子を窺っているように見える。

 霧の中に潜む影の正体は分からないが、敵の増援という訳ではなさそうだ。


 影の一つが霧の中をゆっくりとノーラとソフィーの前に進み出た。

 影が近づくにつれて、次第にその姿がはっきりしてきた。

 鮮明になったその姿を見て、二人が悲鳴を上げた。


「きゃーー! ア、ア、アンデッド!!」

「お化け退散! お化け退散!」


 二人の前に現れたのは、船長服と船長帽に身を包んだ骸骨だった。

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